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第五章 叛逆

第五十三話 対ラー戦 中編

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 俺は距離を取る。

 危険な魔術。または強力な剣撃。恐らく、そのどちらか。

 「……またはその両方……」

 俺はその両方ともを警戒しつつ、剣を構える。

 「警戒心が高いようですね。僕を相当高く評価しているようだ」

 ラーが語りかける。

 手には、漆黒の剣。召喚したのか。それとも魔術で創ったのか。定かではないが、嫌な予感がする。

 漆黒の剣はオーラのようなものを放出しつつ、獲物を待ち望んでいる。

 俺は息を吐く。

 「お前こそ、俺をそんなに高く評価しているだろ。人間だぞ、俺」

 彼は俺の返答に律義に答える。

 「人間だからっていうのもありますけどね。結局、なんだかんだ言って、世界中の英雄は人間が多い。弱い種族だが、時折現れる強者が絶大です。数百年前の魔王討伐だって、人間の勇者でした」

 俺は更に口を開く。

 「でも、お前はまだ本気を出してない。第二ラウンドはもう始まってるんだろ? 攻撃してこいよ」
 「僕が手札を切るときは本当に必要なときだけです」

 まるで俺に切り札は必要ないという口ぶりだ。

 なめられている。いや、当然か。

 彼は口でこそ、あぁ言っているものの、底流では人間のことを見下している。


 途端に感覚が、「攻撃」が来たと告げる。

 空中から氷柱が落ちる。

 「……! 上か!」

 横に一っ飛び。受け身のようにして、衝撃を殺しつつ、俺は一応のために防御魔術を張る。

 「【氷剣乱舞】」

 空中に浮かび上がったラーが無数の氷の剣を飛ばす。飛ばすと言ってもただ飛来するだけではない。それは自動照準のように俺を追尾した。

 「チッ【飛行】!」

 同じく空中に浮かびあがり、全力で迎撃する。

 「【獄炎】!」

 炎を呼び出し、敵の氷を一斉に燃やしつくす。

 だが、曲線を描くようにして飛来する剣や、変則的な動きをするものには当たらない。それを弾くようにして、剣をふるった。

 無数の氷剣が更に生成される。

 このままだとジリ貧だ。しかも、この程度の攻撃で倒せるなど、ラーも思っていないだろう。つまり、これは時間稼ぎの可能性が高い。

 「布石?」

 小さく、呟いた俺の声に応えるはずのない声が答えた。

 「――その通りです。本命への布石のための時間稼ぎです」

 ――横を向く。

 肉薄したラーがいた。

 「なっ!?」
 「一旦、気絶してもらいます。では、どうぞ【絶断】」

 俺の眼の前には、漆黒の剣と蒼白い氷が迫っていた。

 迎撃に集中しすぎて、ラーを見失っていた。その間に、俺に近づいたラー。奇襲として成立していた攻撃を、回避できない。

 瞬間的に俺は空間魔術を行使する。

 「【転移】!」

 視界が明滅し、上空に放り出される。

 「【重力場】!」

 ラーが先ほどの俺と同じ魔術を行使した。

 空中落下中に、強力な重力が発生したので、俺は勿論そちらに引かれていく。

 重力の発生点。

 そこは、漆黒の剣だった。

 酷くゆったりとした時間の流れ。俺の思考だけは無駄に加速していく。

 「【無重りょ――」
 「【術式破壊】」

 俺が反転術式を唱えようとした瞬間、ラーが魔術を壊した。魔術に使おうとした俺の魔力は暴発を起こした。

 空気が頬を撫でる。

 「僕を甘く見ましたね」

 してやったり。そういった表情で二ヤリと笑うラーを見た。

 全ての攻撃を防ぐ【美徳】。だが、そんなもの関係なしと巡りめぐらされた幾重の付与魔術。

 恐らく、俺を貫くだろう。

 「【次元跳躍】!」

 俺は切り札を発動した。

 「これは読めてた?」

 挑発的な態度で俺は言った。無論、俺は転移しているので、声が聞こえるはずもないが……

 【次元跳躍】は【転移】の更に上位互換。一切のタイムラグ無く、俺は更に遥か上空に転移した。

 ――だが、違和感に気付く。

 そう。後ろから……視線を感じる。

 俺は振り向く。

 二対の蒼眼。

 「読めてた? 答えるなら――勿論です【氷剣】」

 一つの巨大な氷の剣。巨大すぎて剣と呼ぶのははばかるような代物は、俺を上から押しつぶしにかかった。

 「【次元封鎖】」

 最後の最後に念入りにと、転移禁止魔術を使った。






 ――俺は剣先へ落下する。

 「ガハッ!」

 大量の血を吐きだす。

 ――貫かれた。

 そう認識した時、全身に灼熱感が走りだす。末端の神経まで痺れ、動かない。

 「グゥ【―」

 回復魔術を使おうとするも、全く口が動かない。

 頭も凍りついたように動かない。

 ――俺は死んだ。

 そして、眼の前に写ったのは、ラーだった。

 「第三ラウンドです」
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