54 / 60
第五章 叛逆
第五十三話 対ラー戦 中編
しおりを挟む
俺は距離を取る。
危険な魔術。または強力な剣撃。恐らく、そのどちらか。
「……またはその両方……」
俺はその両方ともを警戒しつつ、剣を構える。
「警戒心が高いようですね。僕を相当高く評価しているようだ」
ラーが語りかける。
手には、漆黒の剣。召喚したのか。それとも魔術で創ったのか。定かではないが、嫌な予感がする。
漆黒の剣はオーラのようなものを放出しつつ、獲物を待ち望んでいる。
俺は息を吐く。
「お前こそ、俺をそんなに高く評価しているだろ。人間だぞ、俺」
彼は俺の返答に律義に答える。
「人間だからっていうのもありますけどね。結局、なんだかんだ言って、世界中の英雄は人間が多い。弱い種族だが、時折現れる強者が絶大です。数百年前の魔王討伐だって、人間の勇者でした」
俺は更に口を開く。
「でも、お前はまだ本気を出してない。第二ラウンドはもう始まってるんだろ? 攻撃してこいよ」
「僕が手札を切るときは本当に必要なときだけです」
まるで俺に切り札は必要ないという口ぶりだ。
なめられている。いや、当然か。
彼は口でこそ、あぁ言っているものの、底流では人間のことを見下している。
途端に感覚が、「攻撃」が来たと告げる。
空中から氷柱が落ちる。
「……! 上か!」
横に一っ飛び。受け身のようにして、衝撃を殺しつつ、俺は一応のために防御魔術を張る。
「【氷剣乱舞】」
空中に浮かび上がったラーが無数の氷の剣を飛ばす。飛ばすと言ってもただ飛来するだけではない。それは自動照準のように俺を追尾した。
「チッ【飛行】!」
同じく空中に浮かびあがり、全力で迎撃する。
「【獄炎】!」
炎を呼び出し、敵の氷を一斉に燃やしつくす。
だが、曲線を描くようにして飛来する剣や、変則的な動きをするものには当たらない。それを弾くようにして、剣をふるった。
無数の氷剣が更に生成される。
このままだとジリ貧だ。しかも、この程度の攻撃で倒せるなど、ラーも思っていないだろう。つまり、これは時間稼ぎの可能性が高い。
「布石?」
小さく、呟いた俺の声に応えるはずのない声が答えた。
「――その通りです。本命への布石のための時間稼ぎです」
――横を向く。
肉薄したラーがいた。
「なっ!?」
「一旦、気絶してもらいます。では、どうぞ【絶断】」
俺の眼の前には、漆黒の剣と蒼白い氷が迫っていた。
迎撃に集中しすぎて、ラーを見失っていた。その間に、俺に近づいたラー。奇襲として成立していた攻撃を、回避できない。
瞬間的に俺は空間魔術を行使する。
「【転移】!」
視界が明滅し、上空に放り出される。
「【重力場】!」
ラーが先ほどの俺と同じ魔術を行使した。
空中落下中に、強力な重力が発生したので、俺は勿論そちらに引かれていく。
重力の発生点。
そこは、漆黒の剣だった。
酷くゆったりとした時間の流れ。俺の思考だけは無駄に加速していく。
「【無重りょ――」
「【術式破壊】」
俺が反転術式を唱えようとした瞬間、ラーが魔術を壊した。魔術に使おうとした俺の魔力は暴発を起こした。
空気が頬を撫でる。
「僕を甘く見ましたね」
してやったり。そういった表情で二ヤリと笑うラーを見た。
全ての攻撃を防ぐ【美徳】。だが、そんなもの関係なしと巡りめぐらされた幾重の付与魔術。
恐らく、俺を貫くだろう。
「【次元跳躍】!」
俺は切り札を発動した。
「これは読めてた?」
挑発的な態度で俺は言った。無論、俺は転移しているので、声が聞こえるはずもないが……
【次元跳躍】は【転移】の更に上位互換。一切のタイムラグ無く、俺は更に遥か上空に転移した。
――だが、違和感に気付く。
そう。後ろから……視線を感じる。
俺は振り向く。
二対の蒼眼。
「読めてた? 答えるなら――勿論です【氷剣】」
一つの巨大な氷の剣。巨大すぎて剣と呼ぶのははばかるような代物は、俺を上から押しつぶしにかかった。
「【次元封鎖】」
最後の最後に念入りにと、転移禁止魔術を使った。
――俺は剣先へ落下する。
「ガハッ!」
大量の血を吐きだす。
――貫かれた。
そう認識した時、全身に灼熱感が走りだす。末端の神経まで痺れ、動かない。
「グゥ【―」
回復魔術を使おうとするも、全く口が動かない。
頭も凍りついたように動かない。
――俺は死んだ。
そして、眼の前に写ったのは、ラーだった。
「第三ラウンドです」
危険な魔術。または強力な剣撃。恐らく、そのどちらか。
「……またはその両方……」
俺はその両方ともを警戒しつつ、剣を構える。
「警戒心が高いようですね。僕を相当高く評価しているようだ」
ラーが語りかける。
手には、漆黒の剣。召喚したのか。それとも魔術で創ったのか。定かではないが、嫌な予感がする。
漆黒の剣はオーラのようなものを放出しつつ、獲物を待ち望んでいる。
俺は息を吐く。
「お前こそ、俺をそんなに高く評価しているだろ。人間だぞ、俺」
彼は俺の返答に律義に答える。
「人間だからっていうのもありますけどね。結局、なんだかんだ言って、世界中の英雄は人間が多い。弱い種族だが、時折現れる強者が絶大です。数百年前の魔王討伐だって、人間の勇者でした」
俺は更に口を開く。
「でも、お前はまだ本気を出してない。第二ラウンドはもう始まってるんだろ? 攻撃してこいよ」
「僕が手札を切るときは本当に必要なときだけです」
まるで俺に切り札は必要ないという口ぶりだ。
なめられている。いや、当然か。
彼は口でこそ、あぁ言っているものの、底流では人間のことを見下している。
途端に感覚が、「攻撃」が来たと告げる。
空中から氷柱が落ちる。
「……! 上か!」
横に一っ飛び。受け身のようにして、衝撃を殺しつつ、俺は一応のために防御魔術を張る。
「【氷剣乱舞】」
空中に浮かび上がったラーが無数の氷の剣を飛ばす。飛ばすと言ってもただ飛来するだけではない。それは自動照準のように俺を追尾した。
「チッ【飛行】!」
同じく空中に浮かびあがり、全力で迎撃する。
「【獄炎】!」
炎を呼び出し、敵の氷を一斉に燃やしつくす。
だが、曲線を描くようにして飛来する剣や、変則的な動きをするものには当たらない。それを弾くようにして、剣をふるった。
無数の氷剣が更に生成される。
このままだとジリ貧だ。しかも、この程度の攻撃で倒せるなど、ラーも思っていないだろう。つまり、これは時間稼ぎの可能性が高い。
「布石?」
小さく、呟いた俺の声に応えるはずのない声が答えた。
「――その通りです。本命への布石のための時間稼ぎです」
――横を向く。
肉薄したラーがいた。
「なっ!?」
「一旦、気絶してもらいます。では、どうぞ【絶断】」
俺の眼の前には、漆黒の剣と蒼白い氷が迫っていた。
迎撃に集中しすぎて、ラーを見失っていた。その間に、俺に近づいたラー。奇襲として成立していた攻撃を、回避できない。
瞬間的に俺は空間魔術を行使する。
「【転移】!」
視界が明滅し、上空に放り出される。
「【重力場】!」
ラーが先ほどの俺と同じ魔術を行使した。
空中落下中に、強力な重力が発生したので、俺は勿論そちらに引かれていく。
重力の発生点。
そこは、漆黒の剣だった。
酷くゆったりとした時間の流れ。俺の思考だけは無駄に加速していく。
「【無重りょ――」
「【術式破壊】」
俺が反転術式を唱えようとした瞬間、ラーが魔術を壊した。魔術に使おうとした俺の魔力は暴発を起こした。
空気が頬を撫でる。
「僕を甘く見ましたね」
してやったり。そういった表情で二ヤリと笑うラーを見た。
全ての攻撃を防ぐ【美徳】。だが、そんなもの関係なしと巡りめぐらされた幾重の付与魔術。
恐らく、俺を貫くだろう。
「【次元跳躍】!」
俺は切り札を発動した。
「これは読めてた?」
挑発的な態度で俺は言った。無論、俺は転移しているので、声が聞こえるはずもないが……
【次元跳躍】は【転移】の更に上位互換。一切のタイムラグ無く、俺は更に遥か上空に転移した。
――だが、違和感に気付く。
そう。後ろから……視線を感じる。
俺は振り向く。
二対の蒼眼。
「読めてた? 答えるなら――勿論です【氷剣】」
一つの巨大な氷の剣。巨大すぎて剣と呼ぶのははばかるような代物は、俺を上から押しつぶしにかかった。
「【次元封鎖】」
最後の最後に念入りにと、転移禁止魔術を使った。
――俺は剣先へ落下する。
「ガハッ!」
大量の血を吐きだす。
――貫かれた。
そう認識した時、全身に灼熱感が走りだす。末端の神経まで痺れ、動かない。
「グゥ【―」
回復魔術を使おうとするも、全く口が動かない。
頭も凍りついたように動かない。
――俺は死んだ。
そして、眼の前に写ったのは、ラーだった。
「第三ラウンドです」
2
お気に入りに追加
1,847
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)
丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】
深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。
前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。
そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに……
異世界に転生しても働くのをやめられない!
剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。
■カクヨムでも連載中です■
本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。
中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。
いつもありがとうございます。
◆
書籍化に伴いタイトルが変更となりました。
剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~
↓
転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる