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第五章 迷宮都市

第四十四話 絶望 後編 

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 「暴風之龍王テュポーン! 行け!」
 「了解」

 短く会話を交わすと、すぐに暴風之龍王テュポーンは飛翔した。

 俺の眼前に広がるのはその巨体。立ちはだかるのは大きな大きな壁。

 だが、越えられる。

 俺はそう自分に言い聞かせる。

 「いくぞ!」
 「こい! 雑魚」

 俺は突撃と共に剣を振るう。

 カキンッと弾かれる。

 「【幻想境界】!」

 途端、世界が変わる。俺は宇宙のような場所を想像して作った。

 辺りは真っ暗という言葉が正しい。遠方には無数の星が煌めいている。

 「下らん芸だな」

 龍がその圧倒的魔力を空間にぶつける。勿論、【幻想境界】は破壊される。だが、それは読んでいる。高らかな声で次の魔術の起動を叫ぶ。

 「起動!」

 俺は魔力に反応して発動する型の魔術を仕込んでいた。龍の圧倒的な魔力は逆に攻撃に利用される。強烈なカウンター。激しい爆発が起こる。

 やったか?

 俺は攻撃に揺らめきながら、落ちていく龍に向かって思った。だが、甘かった。

 龍は再び、飛翔する。

 まだ、終わらない。龍が完璧に飛翔しきる前に、俺の魔術が先に完成する。


 【魔力の手マジックハンド】【付与エンチャント超最少化スーパーミニマムド


 さてさて、ここ最近、俺が使ってこなかった特殊技能ユニークスキル。【技能奪取】……相手に十秒触れることが条件だ。俺はそれを見ていて思った。

 「死ねぇええ!」

 小悪党のようなことを口走りながら、俺は千、万の小さな小さな手を伸ばしていく。

 魔力で作られた手は半透明で、俺の背から伸びていく様子はまるで阿修羅のようだ。自分でいうのもなんだか、結構、様になっていると思う。

 そして、魔力で作られた俺の手は確かに龍の力を模倣し、確実に奪っていく。


 確かに、一つの手で奪える能力は三つまで限界だろう。

 だが、幾千、幾万の、俺の手は確実に相手の力……技能を奪いとる!!!


 いくら、龍が強いといっても、幾億の技能を持っているわけではなかろう。




 だからこそ――

 ――――死ぬ気で稼ぐ十秒。




 「塵の雑魚の技など吹き飛ばす……【龍之息吹ドラゴンブレス】!」

 龍が吐く息吹ブレスに吹き飛ばされそうになる身体を抑え、十秒間を必死に稼ぐ。

 「【常闇外套ナイトマント】」

 俺は闇魔術で創り出した隠蔽作用のある外套を羽織り、隠れる。こんなので一秒すら効果があるか怪しいが、俺は無詠唱で大量の防御魔術をかける。

 「死ね!!!」

 龍が空中で手を振るう。暴風が巻きおこり、俺は吹き飛ばされる。幾重にかけられた防護魔術のお陰で俺は死ななかったが、まだ危うい。

 もしかしたら、身体が壊れたかもしれない。肋骨辺りがやれれたかもしれない。


 だが、次の攻撃に備え、魔術を練り直す。

 「【竜巻】!」

 龍の連続攻撃だ。だが、まだ上級魔術にも似たようなものもある。避けられる。

 俺はそう確信し、一歩を踏み出した。


 かなり際どいが、俺は避ける。残りは五秒と言ったところか……

 「【瞬間停止】!」

 俺は時間を一瞬だけ超越し、先に動く。

 「【炎氷双撃デュアルショック】」

 炎と氷という相反する属性の攻撃。

 俺はもう魔力が尽きかけていた。だが、まだまだ時間はあるはずだ。

 残りの貴重な魔力を使って、俺は防護魔術を張る。

 三秒。

 「風よ、切り裂け! 【暴風龍刃】!」

 二秒。

 見えない斬撃といって過言ではない。というか、唸りを上げて、こちらに向かってくるそれを俺は避けた。しかし、完全ではなかったらしい。頬から血が流れる。

 「ハァア!」

 もはや魔術すら使わない。魔力を単純に放つシンプルな技。だが、龍の魔力は強大。そして、殺気が質量を帯びたような魔力は明確な殺意から途轍もない威力を感じる。当てられたら、恐らく死ぬだろう。一切の防護魔術など紙のように貫いて殺すだろう。


 思考が加速し、時間が極限まで引き伸ばされる。走馬燈を見ているようだ。


 俺は死ぬものか。と最後の一秒まで諦めなかった。

 残りは0.01秒と言った所か。

 迫りくる暴風の力は俺を即死させるだろう。

 俺は迫りくる力に死の恐怖を覚えた。

 怖い! 怖い! と本能が泣き叫ぶ。

 
































 だが、刹那、強奪が終わる。

 膨大な量の技能獲得のメッセージが流れ込む。









 「さぁ、戦いを始めよう」


 俺は圧倒的力を纏う。先程とは逆転した上下関係。

 強者として……否、絶対的な捕食者として龍に語りかけた。
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