上 下
40 / 60
第五章 迷宮都市

第三十九話 迷宮用備品

しおりを挟む
 俺たちは組合《ギルド》を出た後、街へ繰り出した。

 街は喧噪感が漂っている。辺り一面でがなる声が聞こえてくる。特に商店が立ち並ぶ商売区の辺りまでいくと、それは顕著になっていた。自分の店に一人でも多く取り込もうとしてるのがわかるほど激しい声が聞こえてくる。
 閑静な迷宮内と喧噪な商売区。まるで氷と炎のように全く違う。同じ街の中とは思えない。

 俺たちは比較的高級な店に入る。さすがに店の中で怒声は聞こえない。

 カウンターに何人かの店員がいる。恐らく注文すれば持ってきてくれる仕組みだろう。

 「いらっしゃいませ。何をお求めでしょうか」

 丁寧な口調で話しかけてくる。

 「迷宮用のテント、それ用の結界護石。後は【流水】の魔術が刻まれた水筒を二つ。保存食も三日分」
 「かしこまりました」

 迷宮用のテントは普通のテントとは違う。魔獣の危険性がより高い迷宮内では、より強靭で、より単純な仕組みのテントが重宝される。

 結界護石は勿論の通り、ある程度の範囲に結界系統の魔術が刻印されている石だ。これを使うことで結界をすぐ張れる。

 水筒と保存食は言うまでもない。

 注文すると店員は逡巡した。恐らく、俺たちを見定めているのだろう。そして、すぐに流暢に説明を始めた。

 「まず、迷宮用テントです。こちらには、飛竜《ワイバーン》の皮が一部に織り込まれており、高い物理耐久性と魔術耐久性を持ちます。さらに付与として、【軽量化】がかけられており、持ち運びも楽になっています。金貨四十七枚です」

 正直、【軽量化】の付与《エンチャント》はいらない。【虚空庫之指輪《リング・オブ・アイテムボックス》】があるから重量関係無く、物を運べる。

 王女様もそれを思ったのか、声をかけてくる。

 「もうちょっと耐久性があるテントの方がいいのではないでしょうか」
 「そうだね」

 俺は店員を向いて訊ねた。

 「耐久性に優れているテントはありませんか?」

 店の在庫を考えているのだろう。少し考えこんでいる。

 「耐久性に特化させた、岩飛竜《ストーンワイバーン》の皮で作ったものがあります。付与《エンチャント》として、【耐熱】【耐寒】がかけられています。先ほどより高くなりますが耐久性は一級です。金貨五十五枚です」

 【耐熱】【耐寒】の付与は正直、微妙だ。別にこの迷宮は特別な環境変化があるわけではない。そう考えると、これも微妙か……

 俺は店員にそう伝えた。

 「そうですね。では、この店の中で一番、耐久力のあるテントでいかがでしょうか。巨岩緋龍《レッドジャイアント》の皮で作られた逸品です。付与は何もかけられておりません。ですが、それでも金貨七十五枚です。どうでしょうか」

 先ほどより高くなったが、王からのお金で大丈夫だろう。

 「それでお願いします」
 「では、次は結界護石です。【風結界】の金貨三枚のものでよろしかったですか。」

 結界護石は基本的に値が高い方がより強力なものとなっている。金貨クラスは相当な性能だから、十五階層までは魔物は近づくことさえ憚るだろう。二十階層でも大丈夫だろう。

 「はい。それでよろしくお願いします」
 「わかりました。では、次は水筒ですね。こちらは二つで金貨二枚です。保存食は三日分で金貨一枚です。合計で金貨六十一枚です」
 「これで」

 俺は【虚空庫之指輪《リング・オブ・アイテムボックス》】から金貨を出す。さすがに金貨八十一枚にもなると、金色に鈍く光る小さな山となった。

 「かしこまりました」

 店員は見事な手つきで金貨十枚の山をどんどんと作っていた。八つの山と一枚の金貨に分けられた。代金の確認が済んだ店員は紙を手に取った。

 「では、商品をとって参ります」

 そう言って、店の奥に消えた。

 しばらくして、大きめなバックパックに商品を詰めて現れた。俺らは商品の確認をしっかりとする。

 「バックパックはサービスでお付けさせて頂きます。またのご利用をお待ちしています」

 店員は笑顔で俺たちを見送った。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...