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第四章 王都

第二十六話 王城と王

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 王城の目の前に転移した。外から見る限り、戦闘用の砦ではなさそうだ。

 大きな門の前に門番が立っている。

 「止まれ! 身分証を提示せよ」

 大きな槍を構えながら、門番が言ってくる。

 「あぁ」

 隊長さんはそう言って、紋章のようなものを出す。

 「【光よ示せ】」

 唱えた瞬間、紋章から燐光が漏れる。燐光は青白く、何やら文字のようなものをかたどった。俺でも読めるということは恐らく聖王国語だろう。


 『聖王国第五代王、フィブ・アレスト・キングの名の下に』


 空間にはそう描かれた。

 それを確認した門番は槍を下げ、柔和な笑顔で言った。

 「確認しました。本物の隊長ですね。それとその方は連れですか?」
 「彼は王の客人だ」
 「ふむ。そうですか。なら一応、初回ですので、宣誓をお願いします」

 門番はどこからか、一枚の羊皮紙を取り出した。

 「これは魔力が込められた宣誓書です。一度使うと、効果は半永久的に続きます。発動には詠唱が必要なので、『我、ここに宣誓す』とお願いします」

 俺はそう言われたので、一言一句、間違えないように言う。

 「【我、ここに宣誓す】」

 すると、宣誓書は空気中で雲散した。そして、淡い燐光となり、俺を包んだ。

 「どうぞ、お通りください」
 「では、行こうか」

 親衛隊は歩き出した。俺は急いで後を追う。


 坂を登ると、手入れの行き届いた庭園のような場所に出た。薔薇のような花が咲き乱れ、鳥が歌っていた。噴水が中央に配置されていて、その周囲で少し休めるようになっている。

 「ここは何に使ってるんですか?」

 試しに訊ねてみる。

 「そうだな。パーティに来た貴族令嬢や第一王女が頻繁に使っているらしい。王国各地から集められた美しい花々が使われている」

 確かにカラフルな花々が植えられている。

 だが、俺たちはすぐに庭園を抜ける。

 王宮の中に入った。内部に入って、まず目を引いたのは巨大な絵画だった。天井に半球状に設置されている。そして、廊下の横には金色の彫刻が置いてあった。天使を模しているのだろう。

 メイドが何人か歩いているのが見えた。軽く会釈しておこう。

 「そろそろ玉座の間に着く」

 歩きながら、隊長は言った。

 そこからは赤色を基調とした部屋を幾つか抜ける。そうすると、一際大きな空間に出た。



 「こちらで王がお待ちになっています。ここからは私とあなたしか入ってはいけないので」

 そう言って、彼は部下を解散させた。

 部下が散ったことを確認した隊長は扉に手をかける。

 「さぁ、どうぞ」

 色とりどりの宝石が埋め込まれた扉が開く。

 玉座の間は豪華絢爛で広かった。室内は豪華なシャンデリアに赤いカーペット。廊下の随所に置かれている装飾品。その全てが一級品だろう。
 玉座と俺たちの間には絶対的な空間があった。静謐的で荘厳なその空間に、俺は思わず緊張してしまう。

 玉座に座っていたのは、若い青年。俺と隊長、そして、王とアルの四人しかいない空間。ひと時、静寂が場を包んだ。

 そんな静寂を打ち破るようにして、王が言った。

 「やぁ、君が天野翔君か。待っていたよ」

 青年は微笑んだ。

 「僕が聖王国五代目、フィブ・アレスト・キングだ。気軽にフィブと読んでくれればいい」
 「ですが、王。さすがにそれは……」

 即座に隊長が止めにかかる。当たり前だ。王を気安く名前で呼ぶなんて無礼極まりない。

 「君、僕が良いって言ってるんだから、良いに決まってんだろ。口出しをするな」

 王は少し怒気に籠った声で言う。

 「……わかりました」
 「ならいい。アルから話は聞いている。転生者らしいね。しかも、【異界勇者】の卵かもしれないと」

 王は柔らかな口調で告げる。取りあえず、頷く。

 うん。まぁ、そうらしい。本人全く、自覚してないけど。

 「緊張しなくていい。【異界勇者】の卵なら聖王国は全力で補助をする予定だから」
 「なぜですか? 僕が【異界勇者】になれるかもしれないということはアルから聞きましたが……」
 「隣の隣の国、まぁ、つまり帝国がこないだ【異界勇者】の卵を見つけたことを発表した。現在、アルという【異界勇者】がいるが、帝国に新たな【異界勇者】を獲得されると危険だ。ただでさえ、帝国は強い。軍も所有している冒険者も格違いだ」

 そう言って、王は溜息を吐く。

 「この大陸を支配している大国は三つ。その中でも、我が国と帝国が二大国家として君臨している。しかし、軍事、経済などで見ると、帝国の方が優れている。今回の【異界勇者】を帝国が獲得してしまったら、それこそ帝国一強になってしまう。それだけは避けたいのだ」

 理に適っている。帝国一強になってしまえば、帝国の発言力なども上がるだろうし、帝国に都合のいいようにされてしまう。そうすると、この国は危なくなるだろう。即座に潰されることはないだろうが、それでも聖王国の繁栄は無くなるだろう。

 後から聞いた話だが、【異界勇者】はとんでもなく強力な戦力だ。それだけで各国の情勢が大きく変わってしまう。元々、聖王国と帝国は犬猿の仲だった。帝国は軍事国家として優れていて、聖王国をボコボコに滅ぼすつもりだったらしい。だが、戦争が起きる寸前のところで、初代の【異界勇者】が聖王国に現れ、両国が均一の関係となったらしい。

 ちなみにアルは二代目だ。アルは小国に生まれたらしいが、聖王国に付いたらしい。

 「まぁ、だからね。どうだろう。色々な補助などはする。聖王国側についてくれないだろうか」

 王はこちらに頭を下げた。

 「なっ!? 王!?」

 さて、どうしようか。
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