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序章 唐突な死

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 昼寝がしたいと思いつつ授業を受ける俺、天野翔あまのかけるは普通の高校生、どこにでもいるようなやつだ。
 明星高校に通い始め、早くも三カ月。俺は暇だな~と思いつつ、迫る眠気に耐えながら定期テストに備え、いつも通り授業を聞いていた。

 「じゃあ、次の問題を……滝中やってみろ」
 「はい!」

 そう言って、滝中桜たきなかさくらは勢いよく立った。

 「えーと、1/3ですか?」
 「正解だ。よろしい。座りなさい」

 俺の隣の席の滝中桜は幼馴染で、頭がいい。とてもいい。この県内でも超優秀な部類に入る高校で、学年一位を獲っている。昔、彼女になんでそんなに頭がいいのか聞いたら、本人曰く、なんとなくらしい。一応、家での予習、復習もやってるみたいだから、そのお陰なのかな、なんて思ってる。まぁ、普通に天才ってやつなんだろう。

 「では、教科書の四十ページを開いて……」

 と先生が言った時、キンコーンカーンコーンとチャイムがなった。

 「じゃあ、今日の授業はここまで、この問題を各自で解いてくること」

 無事に今日も学校が終わった。しかも、今日は部活がない。早く帰れる。誰か一緒に遊んでくれるやついないかな?

 俺はそう思いながら、友達に声をかける。

 「おーい、宏樹、今日遊べる?」

 だけど、彼――宏樹は残念そうに言った。

 「いや、今日部活あるんだ」
 「そっか。残念だな」

 まぁ、俺ぐらいか、今日部活がないのって。仕方ないので、俺はささっと片づけ、家に帰った。


 ▼


 さて、数学の宿題も終わらせたし、お菓子でも買いに行くか。

 俺は家から出て、近くにあるコンビニに向かった。

 「いらっしゃいませ~」

 俺はチョコが大好きなので、チョコを買った。いつものやつだ。ミニサイズで食べやすく、中に苺の粒が入ってる。

 「これください」
 「はい。二百円です」

 俺は財布から千円札を出し、店員さんに手渡す。

 「はい。千円ですね。お釣りは八百円になります」

 俺はお釣りをもらって、コンビニから出た。家への帰り道を歩いていると、学校から帰ってくる桜を見つけた。

 「おーい、桜」

 俺は彼女に声をかけた。部活の後なのだろうか? 汗をかいている。

 「あっ、翔。どうしたの」
 「いや、見かけたから呼んでみただけ」
 「えー、なにそれ」

 桜は笑いながら言った。

 「今日、部活あったの?」
 「もちろん。もうすぐ大会があるからね。がんばらなくちゃ」
 「へぇ、テニス部は大変だね」
 「そっちは?」
 「俺らはこないだ大会があったから、あと何日か部活がないんだ」

 明星高校には謎のルールがあって、大会後は数日間部活をするなってものがある。部活が無い間は勉強に集中しろだって。もっと部活の時間を増やしてほしい。

 「ふーん。こっちも大会が終わったら、勉強か~」
 「いやでも、お前頭いいじゃんか」
 「そんなことないよ~」

 桜は手をパタパタ振りながら言った。

 「でもさでもさ、翔だって頭いいじゃんか」
 「そんなことないよ」
 「絶対いいって」

 そんな下らないことを話しながら、俺らは会話しながら道を歩いていた。

 暫くすると、彼女はスマホを見て時間を見た。

 「やばい! もう帰らなきゃ」

 そう言って彼女は走りだした。

 「じゃあね~」

 走りだした先は交差点だった。車もガンガン走るそこで彼女はこちらを見ながら走っている。いつもなら、「じゃあね」が言えたかもしれない。だけど……


 今日の信号は真っ赤に染まっていた。


 轟音が聞こえてきて、見るとトラックが迫ってきていた。

 最悪な未来が一歩手前に見えて――


 ――俺は走った。







 「危ない!!!」






 俺は叫んだ。

 桜の顔は一瞬驚いたような顔をして、身に迫った恐怖に気付いたのか、恐れ慄くような顔に変わった。でも、もうトラックはそこまで迫っていた。
 本当に最悪の未来もすぐそこに来ていた。

 俺の脳裏には、死神が漆黒の鎌を持って嗤ってる姿が浮かんだ。



 火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか。俺は奇跡的に桜に追いつき、桜を押し飛ばした。




 桜は驚いたような顔をした後、何か叫んだ。

 だけど、俺はもうトラックにぶつかっていた。

 ガッシャーンと音が聞こえてくる。

 あぁ、死ぬのかと直感的に思った。


 なんか、身体が猛烈に痛い。節々が痛いって悲鳴をあげてる。


 そして、俺は宙を舞ってる感覚がした。



 そこで一瞬桜が見えた。



 俺の頬を伝ってるのは何なんだろう。汗なのかな。


 いや、そんなことよりも桜が助かってよかった。俺なんかよりも桜が助かったほうがいい。


  ――なんか死ぬのは早い気がするけど

   ――最後に人の命を救えたのかな

    ――なんか、苦しい。

     ――意識も朦朧としてきた。

 その時、俺は美しい女神を見た気がする。そして彼女の手から光が零れた。光は俺の身体を優しく包み込んだ。女神は溶けるように消えた。

 でも、そんなものは幻影だろう。俺は思わず笑ってしまった。

 ――あぁ、死んだ。


 プツッと俺の中で何かが途切れた。



 そして、俺は真っ白な場所に立っていた。
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