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皇族との朝食とご挨拶

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今までで一番いい雰囲気にはなったけど、結婚前だから、ということもあって大事にしてもらえた。
僕が起きると、そこにはレイナード皇子の姿はなかった。
サイドテーブルの上に、置手紙があり読んでみると「朝の鍛練に行ってくる。朝食は一緒に食べような」と書かれていた。
どんな時でも鍛練を欠かさないんだろう。小さく笑みを零す。
ふと、扉の方からノックが聞こえた。どうぞ、と返すとメイド長が来てくれた。
そのままの恰好で眠ってしまったので、替えの服を用意してくれたらしい。

「あっ、昨日はすみません……そのまま眠ってしまったので……」
「謝らなくても良いのですよ。お二人が仲睦まじくて、こちらも嬉しい限りです」
「ところで、その大量の衣装箱は?」
「大量、でしょうか……こちらは全てアレクセイ様用のお洋服でございます」
「絶対多いと思いますよ?!」
「皇帝陛下、妃様、第一皇子、第二皇子……あら、皇族の皆様ですわね。それぞれでご用意されたようです」

どさどさと積み上げられていく衣装箱は、もう天井につきそうになっている。
恐ろしい。まさか、こんなに大量に用意してもらえるなんて予想外すぎた。
衣装箱の多さに呆然としていると、メイド長が手を叩く。
すると、後ろから他のメイドたちが現れる。
いつの間に来ていたんだろう。全然わからなかった。

「では、アレクセイ様。本日のお召し物を決めるため、試着会を行います」
「しちゃく、かい……?」
「なるべく短時間で済むよう、巻いていきます。では、皆さんお願いします」

メイド長の号令の元、それぞれのメイドたちがテキパキと箱を開封して、服を取り出していく。
今の季節に合うもので、着心地がいいものを選んでくれているようだ。
厳選したものを次から次へと着せられていく。

「あわわ……あの、これどう見ても夜会用のドレスだと思うんですが?!」
「うーん、肌が見えるのは男性陣を煽ってしまうのでやめておきましょう」
「僕は男ですよ?!」
「アレクセイ様は男性であっても、同性から大人気ですからね」
「そ、それは喜んでいいことなのかな……」

疑問符が沢山沸く中、メイドさんたちは手早く条件に合うものを選んでいく。
その中で、一番まともかな、と思った修道女のような服装を着ることになった。
本来は中のベスト部分は黒いのだが、これは深い赤になっている。
とても厳かな恰好だけど、他のドレスなどに比べるとまともな方だ。

「さて、次は装飾品、それから薄くお化粧をしましょう。衣装箱たちは、別室に移動させて下さい」
「僕の性別のことを忘れている気が……」
「今は男性であっても、お化粧をしているのですよ。それに少しだけでも装飾品があった方が、悪い虫に言い寄られる心配はございませんので」
「わ、悪い、虫?虫さんって、キラキラしたものが苦手でしたっけ?」
「レイナード皇子からの贈り物の中で、小ぶりな装飾品をお出ししましょう」
「人物を限定する必要があるのですか……?よ、よくわからなくなってきました……」
「我々にお任せ下さいまし。さぁ、朝食までに済ませてしまいましょう」

メイドさんたちがテキパキと行っていき、小ぶりなイヤリングを付けてもらった。
それから指示通りに目を閉じたり、顔の位置を変えたりしていくと、あっという間に準備が終わった。
鏡を見ると、昨日も変貌ぶりが凄かったが今はもっと美しい少女に見える。

「アレクセイ様は元がいいので、それほどお化粧を施しておりません。まさに逸材ですわ……」
「美人すぎてお手伝いさせて頂いた私たちが、ドキドキしてしまいますー!」
「きっとレイナード殿下もドキドキしてしまいますわ!」
「レイナード様はいつもドキドキされています。さて、そろそろ食事会場へと向かいましょうか」

メイド長に強烈なツッコミを受けて、騒いでいた若いメイドさんたちが静かになる。
メイドさんたちにお礼も兼ねて「ありがとう」という言葉と、一礼をする。
部屋を出た後、室内に黄色い悲鳴が上がったような気がするけど、知らないフリをしておいた。
食事会場に着くと、先にレイナード皇子とライザード皇子がおしゃべりをしていた。

「レイナード様、お待たせ致しました」
「あぁ、アレクセイ……ひょあ……!ま、またすごく美人に……!」
「おやおや、本当にとても美しいね。あれ、もしかしてあのイヤリングはレイが贈ったものじゃない?」
「はい、レイナード様から素敵なイヤリングを頂きました。ありがとうございます」
「そ、そうか……俺からの贈り物を……海に向かって叫びたいくらい嬉しすぎる」
「迷惑だからやめようね、レイ。席はレイの隣に座るといいよ。メイド長、お願い」

メイド長に手伝ってもらい、レイナード皇子の横に座る。
最近テーブルマナーについて教わったけど、ちゃんとできるのか不安だ。
その様子に気が付いたのか、レイナード皇子が身体を乗り出して、僕の頬にキスをする。

「緊張しなくていいって。メイド長から、マナーは完璧だって聞いているから」
「あ、あの……!すみません、顔に出ていましたか……」
「まぁ、そういうところがとても可愛いからね、アレクセイは」
「こーら、レイ。お行儀が悪いよ。そろそろ父上たちも来るから、姿勢を戻して」
「はいはい、わかりましたよ。お兄様ー?」
「うわ、嫌みっぽい言い方。あ、いらっしゃった。おはようございます、父上、母上」

後から現れた皇帝陛下と皇妃様が、ゆったりと朝の挨拶をしてくれる。
皇帝陛下は一度会ったことがあるので知っているが、皇妃様にお会いするのは初めてだ。
食事の前に、レイナード皇子にお願いして挨拶をさせてもらえないか相談してみた。

「父上、母上、アレクセイがお二人にご挨拶をしたいとのことですが、先にいいでしょうか?」
「おや、そうだな。皇妃とは初対面だろうから……許可する」
「初お目にかかります。ノクターン王国の第三王子だったアレクセイ・A・ノクターンと申します……あ、今はアレクセイ・A・プレリュードですよね。失礼しました……!」

思わず前の名前で名乗ってしまい、慌てて訂正する。
レイナード皇子は挨拶が終わった後に、僕の頭を撫でてくれた。
大丈夫だからな、と小声で言ってくれる。本当にこの人は優しい。

「ご挨拶をありがとう、アレクセイ。私は皇妃のエレオノーラ・R・プレリュードと言いますわ。気楽にエレ母様とでも呼んでね」
「エレよ……さすがにいきなり母様とは呼べないとは思うが……?」
「あら、そうかしら?ふふ、私は仲良くしたいと思っていますのよ。そういえば、アレクセイは男の子なのね?とても綺麗な子じゃないの」
「そうだろう、そうだろう。しかもノクターンの王子とは思えないくらい謙虚で優しい子だぞ」

とても好印象のようでほっとした。
そういえば、皇帝陛下のお名前を知らないことに気が付く。
もしかしたら近いうちに始まる帝国学で知ることができるかもしれない。
食事前の挨拶としてお祈りを捧げた後、目の前に用意された食事を食べていく。
お野菜、お肉、スープと様々なものが出て幸せだ。朝からこんなに沢山食べていいのか心配だけど。

「ぷは、アレクセイはとても美味しそうに食べるんだね」
「んむぅみ……!」
「おいおい、兄さん……急に話しかけるなって。アレクセイ、ちゃんと食べてからでいいからな?」

僕は何度か頷いてから、もぐもぐと一生懸命噛んで食べる。
ちゃんと食べ終わった後に、レイナード皇子に声をかけた。

「ぼ、僕ってそんな顔をしていましたか……?」
「あれ?無意識だったのか?そうだよ、すごーく美味しそうに食べてるからな。給仕を担当する面々もニコニコしているんだぞ」

壁側にいる給仕する人たちに視線を向けると、確かにすごくニコニコしている。
なんだろう、すごくがっついているように見られたのかと思うと少し恥ずかしい。
だって今までこんなに美味しいご飯を食べたことがなかったんだもの。帝国のご飯がすごく美味しいんだもの。
ひとりでアタフタしていると、レイナード皇子が僕の口元を親指で拭う。
それから口に含んでいた。たぶん、僕が付けちゃったソースだと思うんだけど、口に入れている。

「ソースが付いていたぞ……って、どうした?おーい?」
「な、なにからなにまで……す、すみませ……」
「レイも無意識だよね」
「レイナードは天然だと思うが」
「レイちゃんはそういうところあるわよね」
「え?え?あ、えっと、謝らなくていいからな?ほら、食事を続けよう?な?」

心臓が高鳴るし、頬はたぶん真っ赤だと思う。
初めての皇族としての朝食は、緊張はしたけど歓迎ムードだったからとても良かった。
レイナード皇子の無自覚行動には、今後もドキドキしてしまうのだろう。
こんなドキドキしっぱなしで、僕は無事に皇子のお嫁さんになれるんだろうか。
そんなことを考えながら、午前から始まるお勉強を頑張ることに力を入れた。
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