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出会いと求婚

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僕が、僕自身を自覚した時からこの国は僕にとって敵だった。
五歳の誕生日を迎えた時、母は流行り病に倒れて他界してしまった。
居場所がなくなってしまった僕は、どうしようかと悩んでいた時に王国兵に連行されてしまった。
離れの塔に連れ込まれて、暗い一室に押し込められた。

「なんで?!なんで、ぼくは、とじめられたの?!」
「国王陛下のご命令だ。処刑されないだけ、良いと思え。この悪魔王子が」

冷笑が混じるその言葉に、僕の心は大きく傷ついた。
今まで散々、戦いに疲れた兵士たちを癒してきたのは僕なのに。
どうして、恩人に対してそんなことが言えるのか理解できない。
大声で泣き叫んでも、誰も来ない。
母も、この世にいないのだ。
そうしている内に、僕は全てを諦めてしまった。
定期的に貸してもらえる本を読んで過ごす日々。
今日借りた歴史の本には、この国は魔法使いを忌み嫌っているそうだ。
とても昔、とある魔法使いが国を滅ぼしかけたことが理由らしい。

「……ぼくのようしのせいじゃ、ないんだな……」

僕の容姿は変わっている。
母親譲りの銀の長髪、前髪で隠れてしまっているが血のように赤い瞳。
僕の瞳を見た人物が「悪魔の瞳をしている」と言っていたらしいから、悪魔と呼ばれたのかと思っていた。
赤い瞳が不気味だというのは、なんとなくわかる。
でも、この歴史の本ではそうではない。
ところどころが虫食いがあって、解読しづらいが「破滅の魔法使い」と呼ばれた存在を怒らせたことによる滅亡の危機だったようだ。

「……あれ、ぼくのいるくにのおうさまたちって……けっこう、ばか?」

僕は慌てて口を塞ぐ。
外の見張りに聞かれていないか、扉に耳を当てると眠そうにあくびをしている声が聞こえた。
うたたねをしているんだろう。この塔の見張り兵たちは、だいたいこんな感じだ。
僕が特に危険というわけではないから、暇なんだろう。見回りくらいすればいいのに。
兵士に聞かれていないことに安堵した後、歴史の本を読み続ける。
結局のところ、僕はこの本を一体何度読んだだろうか。いっぱい読みすぎて、中身を全部暗記してしまった。
そんな日々を過ごして13年が経過した。
本を読むだけでは、暇すぎるので僕自身の治癒魔法の応用が何かできないかと研究していた。
こっそり貰った双葉の生えた鉢植えに、治癒魔法を注いで実験をした直後。外から爆音が鳴り響いた。
急に外が慌ただしくなる。一体、何があったのだろうかと鉄格子の窓から外を見ると、城全てが炎に包まれていた。
延焼が酷すぎる。あれでは、消火するには何週間とかかるだろう。

「し、侵略、されている……!こわい……!」

その恐ろしい光景から目を背け、毛布に包まる。
しばらく縮こまっていると、急に辺りが静かになった。
毛布の中で顔を上げた瞬間、塔の扉が蹴破られた。

「ここにいるのか?!」
「あっ、レイナード殿下!そこにいます!その毛布です!」
「……確かに毛布が丸くなっているな……?」
「隠れているんですって!ほら、めくったらいましたよ!たぶんこの方が第三王子だと思います!」

レイナード殿下、と呼ばれた人は驚いた顔をしている。
勢いよく毛布を取ったのは、後ろに控えていたらしき副官の人だろう。
なんだろう、たぶんこの副官さんは僕と同じ苦労人な雰囲気がある。

「あ、あの……?」
「おぉ、ちゃんと喋ることができるんだな!良かった良かった!」
「え?えっと、その……王国は、どうなったんでしょうか……?」
「ん?あぁ、俺たちが滅ぼしたな」

とても元気のいい笑顔で、祖国を滅ぼされたことを告げられた。
その報告を聞いて、ふらりとなる。こんなとっても天然で元気がいい王子様に滅ぼされるなんて。
ふらついたところを見かねてなのか、レイナード殿下が僕を抱きしめてくれた。
太陽のふわふわほかほかとした暖かな香りがする。
戦いの後のはずなのに、この人は血しぶきひとつかかっていない。
ふと、ひとりとても有名な皇子様がいることを思い出した。

「あの……間違いでしたら、すみません……レイナード皇子って……戦神と呼ばれていらっしゃいますか……?」
「あぁ、戦場で武勲を立てすぎたせいで、生きた戦神と言われるな」
「ひぇ……本物だった……」

祖国は、相手が悪すぎた。
たった一人で、10万の兵と対等に戦ったことがあると言われるほど強い人物。
まさか、生きた戦神と呼ばれる人物が相手なら、こんな王国はひとたまりもなかっただろう。
現に滅んじゃったわけだし。
おそらく、僕のこともわかっていたようだし、きっとこのまま殺されてしまうだろう。

「レイナード殿下、どうされますか?このまま第三王子を殺しますか?」
「帝国を怒らせた低俗な国の王子なんですから、殺しましょう!」

後ろにいる配下らしき兵たちは、みな口揃えて殺せ、と言う。
僕自身も、敵側の存在がいるのなら殺すべきだと思う。
まさかこんな形で生涯を終えることになるとは思わなかった。でも、こんなに暖かい人に抱きしめられただけでも嬉しい。
諦めの表情で、レイナード皇子を見上げると、すごく僕のことを見ている。
しばらく見つめられたと思ったら、前髪をそっと上げられた。

「あれ……?あの……?レイナード皇子……?」
「うん。よし、こいつは俺の報酬として貰い受ける!」
「はぁああ?!ちょっと、なにを言っているんですかこの馬鹿殿下!敵国の王子ですよ?!」
「俺が気に入ったんだからいいだろ。ちょっと抱きあげるな……え、マジかよ、すっごい軽……」

同意もなく、軽々と横抱きされてしまった。
ガリガリに痩せている自覚はあるけど、同性で同じ王子からこうも軽々と抱っこされてしまうと複雑な気持ちになる。
ふと、レイナード皇子の後ろに控えていた副官さんの頬の辺りに切り傷が見えた。

「あの、副官さん……その頬の傷って……」
「え?あぁ、私のことですね。これは殿下がひとりで暴走しているせいで、不意打ちを食らってしまったんですよ」
「すまん……どうにも、突っ走ってしまうものだから……」
「レイナード皇子、お願いが……あるのですか……」
「ん?どうした?」
「副官さんの、傷を魔法で治療したいのです……手当をする許可を、頂けませんか……?」

傷ついている人を見ると、どうにも治療してあげたくなってしまう。
きっと感謝されることなんてないとは思うけど、大事な人のために傷ついた人を放置することはできない。

「……わかった。ルギウス、こちらに」
「え……あ、はい……」

副官さんがおずおずと僕に近寄ってくれた。
頬に手のひらを当て、治癒魔法を施す。手のひらを外した後、そこには元から傷がなかったかのように綺麗になった。

「……す、すごい……!治癒魔法を使えるなんて……!」
「……良かった。これでもう、痛くない、ですよね?」
「えぇえ?!確かに痛くない……!ありがとうございます!」

副官さんから感謝の言葉を告げられて、びっくりした顔になる。
まさか怪我を治した程度でお礼を言われるのは、初めての経験だ。
僕がそんな表情を見せたせいか、副官さんは気まずそうに咳払いをした。
そのまま僕は抱っこされて、隣の大国であるプレリュード帝国へと連行された。
途中から別の兵士に引き渡されて、今は牢屋の中にいる。
どうやら明日、処刑場で殺されるらしい。
当たり前の運命だと思う。敵国の王子をそのままにするわけがない。
それから三日後に、綺麗にしてもらった束ねた銀の髪を靡かせながら、処刑場へと歩いていく。
処刑台の中央には、おそらくこの国の皇帝とレイナード皇子が佇んでいた。

「貴殿が、ノクターン王国の第三王子、アレクセイで間違いないか?」
「はい、そうです」
「貴殿には、二つの選択肢がある。聞いてみるか?」
「え?え、えっと……はい……」
「ひとつは、このまま処刑されること」

これはこの状況からみても、そうなるのだろう。
あれ、でももうひとつってなんだろう。

「もうひとつは、第二皇子レイナードの花嫁になること。どちらを選ぶ?」
「……はい?」

たぶん後ろに控えている処刑人のお二人も同じように首を傾げている。
最初はわかるけど、どうしてもうひとつの選択肢に花嫁が出てくるんだろう。
そもそも本人に話が通っているのかわからない。

「あ、あの……皇帝陛下……質問をしても、よろしいでしょうか?」
「うむ、許す」
「二番目の件は、レイナード皇子には了承を得ているのでしょうか……?」
「むしろ、本人からの提案だ」

僕と視線があったレイナード皇子は、とってもいい笑顔を向けている。
どうして男であり、敵国の王子である僕を娶ろうと思ったのか理解できない。
困惑していると、レイナード皇子が僕の前まで近づき、跪かれた。

「え、あの……!レイナード皇子、僕は……!」
「一目見た時から惚れたんだ!どうか、俺の花嫁になってくれ!」
「とっても正直すぎる……!あの、だから、僕は男で……」
「性別がどうであれ、好きになったのだから一緒になりたい!」

いいお返事を待っている飼い犬のような眼差しに、僕は小さくため息を吐く。
これほどまでに切望されたのは初めてだ。

「うっ……えっと、あなたがそこまで求めるのでしたら……おねがい、します……うわっ!」
「やったぁあああ!花嫁を手に入れたぞー!」

ものすごく嬉しそうにするレイナード皇子の声を聞いて、見学に来ていた民衆たちが沸き上がった。
色々と置いて行かれてしまった僕は、こうやって第二皇子であり、生きた戦神のレイナードの花嫁になったのだ。
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