創生神と愛し子の共依存

皇洵璃音

文字の大きさ
上 下
1 / 2

死からの始まり

しおりを挟む
いつも通りの平日の午後。
今日はいつもより早めに仕事を上がらせてもらい、夕方の帰宅になった。
一人暮らしをしているので、お惣菜やおにぎりなどを購入して帰路に着く。
この辺りは、トラックやバスなど大型自動車が多く通る市内になっている。
けれど、歩道は大きく整備されており、子どもたちの集団下校でも安全だ、と言われていた。
しかし、危険というものは意外に向こうから来るものだ。
俺の横を通った男子小学生、おそらく一年生だろう。その子がゆっくり歩道を進んでいると、向かいから大型トラックが突っ込んできた。

「危ない!」

運転手は顔を伏せっており、おそらく気絶している可能性がある。
小学生にぶつかる寸前で、横に突き飛ばして。目の前には大型トラック。
強い衝撃と激痛の後、俺の視界はブラックアウトした。
それから、どのくらいが経過したのだろう。
再び目を開けると、そこは白一面の世界だった。
たぶん、死んだのだろう。だからここは、きっと天国なんだと思う。
悪いこともいいこともした覚えがないけど、地獄行きじゃなくてほっとしている。

「何をそんなに安心してるのですか?」
「おわっ!え……君、誰?」
「ん?ボクは大天使様です。君のナビゲーターを担当しています!」
「自分で大天使様なんて言うかな……え、俺はどうなったの?やっぱり死んだ?」
「はい、しっかりと即死されました!」
「だよねぇ……あのトラックにぶつかったら、それは即死だよなぁ……で、ナビゲーターってどういうこと?」
「善行をしたので、君は創生の神に転生しました!」

途中まではちゃんと理解できた。
しかし、転生したという。しかも、神様に。
服装を確認すると、スーツではなく白い衣装を身に着けている。

「異世界転生はよく聞くけどさ……神様に転生するのって、チートでしょ……?」
「チートがなにか知らないですが、とっても名誉なことです!」
「それで、その……創生の神って何をするのか教えて貰えたりする?」
「もちろんです!新人の神様を案内するのが、ボクらナビゲーターのお役目ですから!」

起き上がると、意外とその大天使ナビゲーターは小柄な少年だ。
背中には確かに羽が付いているので、天使で間違いはなさそう。
その子の話によると、俺がいるこの天界では様々な神々が産まれているのだという。
神は産まれてすぐに活動できるが、指針がなければ動けない者がほとんどだとか。
それでこんな風にナビゲーターがそれぞれ付いて、やるべきことの説明なんかを受ける。
俺のやるべきことは、世界を自分の望む筋書き通りに運営と管理をすること、らしい。
創生の神なんだから、世界を作るところからじゃないかと思ったけど、ゼロから作るのはかなり難しいことらしい。

「なので、今回は以前の神が放棄した世界を守って頂こうと思います!」
「え、神が世界を放棄することってあるの?」
「もちろん、ありますとも!その世界は戦争が絶えない場所でして……悲しみの末に放棄されてしまったんです」
「あぁ……人間の業だなぁ……その世界を覗き見することはできたりする?」
「はい、できますよ!こちらの水鏡をご覧ください!」

元人間だからわかる戦争の原因。でも、そんなに酷く戦争をされまくっていたら、それは神様も放棄したくなるだろう。
相当荒れているだろうな、と思いながら覗き込むと確かにそこは戦争中だった。
その隅の方に、重傷を負った少年が横たわっていた。
俺はその少年を見た瞬間、心臓が飛び跳ねた。
血まみれではあるが、その少年は金髪碧眼でかなりの美形だ。面食いなものだから、イケメンは好みのタイプだったりする。

「ねぇ、あの少年を助けに行ってもいいかな」
「え?!ま、まってください!いきなりこの世界に干渉されるのですか?!」
「この世界は俺が管理するよ。だから、あの子を助けに行く」
「そ、それは確かにそうなんですけどぉ……!もー、創生の神だとバレないようにしてくださいね!」

文句を言いながらも、俺の真横にその世界の扉が現れた。
扉を開き、少年がいたであろう場所へと向かう。
辿り着いたところは、おそらく負傷者を集める救護室なんだろう。
その少年は今にも息絶えそうだった。
やったことはないが、少年の傷口に手を当て「治れ、治れ……」と念じる。
すると光輝き、みるみる少年の傷が塞がった。
救護を担っている子から綺麗な布を借りて、血を拭うとやっぱりとても美形な少年だった。

「あな、た……は……?」
「え?あぁ……えっと……君に一目惚れした社会人です」
「しゃ、かいじん……?って……?」
「一般人ってことかな。あぁ、水か何か飲む?傷は痛くない?」
「いたく、ないです……あなたが、たすけて、くれたんですね……ありがとう、ございま、す……」

喉が枯れている。たぶん、まともに水分をとっていないんだろう。
それでも礼儀正しくお礼を言えるのは、素晴らしいことだ。
そっと持ってきて貰った水差しとコップを受け取り、ゆっくりと水を飲ませる。
それから落ち着いてきたのか、少年は瞳を閉じて眠ってしまった。きっと安心して眠ったのだろう。
安堵する反面、いきなり神としてやってはいけないことをしてしまった気がする。

「でも、放置できなかったんだから……いいよね……」

そんなことを呟きながら、少年の目が覚めるまで傍にいることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

最強魔術師は流浪の将軍に捕獲されました

皇洵璃音
BL
過去に魔王として悪人に利用されていたエルケーニッヒ。 時が過ぎ、両親となってくれた二人はこの世を去った後に、彼は立派な青年になり皇城直属の最強魔術師として名を連ねていた。両親の実の子である長男リュミエール(皇帝陛下)と長女であり二番目の子のアンジェラ(第一皇女)に振り回されて心配しながらも、健やかに成長していく姿を見てほっこりしている。 そんな中、どこからか現れたという剣士は一夜にして三代目将軍の位を授かったという。 流浪の剣士が将軍になるという異例の事態に、エルは単身会いに行くと、まるで殺意なんてないようにほんわかのんびりとした優しい青年がそこにいた。彼から感じる神力は、どこか母と同じ気配がする。只者ではないと判断したエルは、皇帝であるリュミエールに彼の監視役にさせて貰うようお願いをするのだが?

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...