上 下
1 / 1

珍しく体調不良で倒れた皇子様

しおりを挟む
ある日、俺は訓練の途中で倒れた。
原因はわからないが、視界はあやふやで頭が痛い。呼吸も辛いので、たぶん病気にかかったんだと思う。
誰かに担がれて、ベッドに寝かされてメイドや執事たちが大騒ぎになっているのがわかる。
それもそうだ。俺は病気知らずと言われるくらいの健康児だったから。
けほけほ、と咳き込みながらたぶん医師から診察を受けている。

「レイ……どうして……」

アレクセイの声が聞こえる。あぁ、この優しくて不安そうな声は間違いなくそうだ。
別に死ぬわけではないけど、何度も死線を超えてきた俺のことを知っていることもあって、とても不安なのだろう。
ほんの少しだけ甘く、温かい水と一緒に苦い何かも飲まされた。

「まず……なんだこれ……」
「咳止めのお薬だよ。ちゃんと飲めてえらいね、レイ」

小さめの手のひらが俺の頭を撫でている。
なんだか幼少期に戻ったような感覚だ。
優しくまたベッドに寝かされると、額に冷たいタオルを当てられる。
ふと、アレクセイがどこかへ行ってしまうような気がした。
無意識にアレクセイの手首をつかんでしまう。

「あっ、レイ……コップをメイドさんに渡しに行くだけだよ?」
「……後で。いまは、そばにいてくれ……」
「えっ……レイ、もしかして……寂しい、の?」
「アレクセイに甘えたい……から……ダメなのか……?」
「ううん、嬉しいよ。わかった。レイが眠れるまで、ここにいるから」

ウトウトと眠気に襲われながらも、アレクセイの手は握り続ける。
添えられた手は小さいのに、とても暖かい。
瞼が落ち始める頃に、かすかに優しい歌声が聞こえた。
聞いたことのない言葉での、優しく愛しい者を想うような、そんな歌。
優しい声に包まれて、眠りへと落ちていった。

翌朝。
あっという間に病気が治ったようで、元気になった。
あの時、アレクセイは何を唄っていたのか、と聞くと恥ずかしそうに顔を赤らめて教えてくれた。

「あ、あれはね……その……神語の……愛の唄なんだって……」
「やっぱりそうだったんだな!すごくアレクセイの愛を感じたから、そうだと思った!」
「わ、わかっているなら聞かないでもいいじゃないの……!」
「なぁなぁ、あの歌詞の意味は?意味はなんなのかわかるのか?」
「も、もぉー!タイトルのままだってばー!」

俺たちはまだ夫婦になって日が浅い。
それでも、こうして追いかけっこをしてしまうくらいには、仲良しだ。
そんな俺たちの、愛し合う日々の一幕。

(終)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

猫の黒たんは騎士団長!?

ミクリ21
BL
ある日、青年はボロボロの黒猫を拾いました。 青年は猫に黒たんと名付け、可愛がりました。 だけどその猫は、実は………!?

【幼馴染DK】至って、普通。

りつ
BL
天才型×平凡くん。「別れよっか、僕達」――才能溢れる幼馴染みに、平凡な自分では釣り合わない。そう思って別れを切り出したのだけれど……?ハッピーバカップルラブコメ短編です。

創生神と愛し子の共依存

皇洵璃音
BL
ごく平凡な社会人男性がトラックに跳ねられそうになった子を助けて即死する。目を覚ますと創生の神に転生していた。さっそく世界のひとつを紹介されるが、そこには好みのタイプの少年が瀕死。少年を助け神の祝福を授けた後に再会した時、彼は英雄になっていたのだが……?

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

処理中です...