上 下
65 / 68

65 人質奪還作戦

しおりを挟む
「はいーーーッ、なんですってぇぇぇーーーッ!?」

テイラー国から一方的な戦争終結宣言が書面で送られてきた。領地についてはベルルクの街を含むエブラハイムの国土の3分の1をテイラー国が領地として治め、戦後の補償などはいっさいしないと書かれている。

またこちらから今後、攻撃を仕掛ける場合は、リストに載っている人物をひとりずつ処刑していくと脅迫めいたことが書かれていた。

レオナード皇子の妹、サラサのお姉ちゃん、そして私の家族……。

ひと通り目を通したあと、レオナード皇子が溜息をつきながら承諾のサインをすると来た時と同じように自分で勝手に折り紙のように折って蝶々のカタチになって飛んでいこうとしたのを私が魔法で撃ち落とした。

「シリカ! なんてことを!?」

レオナード皇子は自分の家族もそうだが、私やサラサの家族のことまで心配してくれている。それは承知しているのだが。

──あの親子は許さないと決めている。思えば5歳の頃に会った時からキャムの父親はクズ野郎だった。

「人質を救出する作戦?」
「うん、もう準備は始めているからあと数時間で作戦を始められそう」

レオナード皇子にそう返事をして、私は雷霆ケラウノスをぶっ放す天空に浮かぶあるモノ・・走査スキャンしていたベルルクの街を土魔法を使い3Dプリンターで出力するようにジオラマ模型を完成させた。

その数時間後、今度は複数の人物の位置を特定し、ジオラマ模型に投影する。

「皆、聞いて、これより人質奪還作戦を決行します」

 ✜

「これはキャムさま、いかがされましたか?」
「ああ、人質全員を親父のところへ連れて行く……。出せ」
「は、はい、ただいま!」

人質として窓を完全に鉄格子で閉ざした屋敷を見張っている衛兵は夜中にやってきた幻獣殺し、テイラー国の英雄が護衛をひとりもつけずにやってきたことに疑念を抱いた。だが、気性がとても激しく、気に入らない兵がいたらすぐ首を刎ねることで有名なので、恐ろしくて逆らえずすぐに人質を叩き起こしに屋敷のなかへ入った。6人を並べて魔法の縄で縛り、急いでキャム殿下の前に引っ立てた。

「同行いたします」
「要らん。俺を舐めてんのか? 殺すぞ?」
「大変失礼しました。お気をつけて」

恐ろしい。余計な世話を焼いて危うく殺されるところだった。

それにしても先ほどから霧が出てきて月が隠れ、風が強くなってきた。暗い夜道を英雄は人質6人を引っ張り、建物の角を曲がり消えていった。

朝になっても人質を連れて行ったっきり戻ってこないので兵士のひとりが、城へ確認に行くと人質を連れたキャム殿下は城へ来なかったそうだ。


「なんだと? 人質をキャムが連れ去っただと、そんなバカな!?」

キャムの父親は執務室へ報告にやってきた兵士に机にあったペン立てを罵声とともに投げつけた。

キャムは2日前に前線へ戻ったはずだ。それに息子へ人質を連れてこいなんてひと言も命じていない。

夜直やちょくした者たちの首を刎ねておけ……それと捜索隊をすぐに編成しろ」
「は、はい」

人質をどこへやったキャム……。ケーナの花で前線へ連絡し、通信係から代わりキャムが出た。

「はぁ? 俺は昨夜ずっと前線の陣地から一歩も出てないぜ?」

なんだと? 嘘を言っている様子はない。じゃあいったい誰が?

「やられたな親父、それはたぶんシリカ・ランバートの仕業だ」

その昔、研究機関の年寄りと一緒にやってきた童女がいた。なんの冗談かと思っていたが、その幼女がランバート皇子を支えていると最近になって知った。一流の魔法の使い手で学生の域を超えるどころか国内でも並ぶものがいるかどうか怪しいくらいだという情報が入っている。

まさか、こんな敵陣の奥深くへ6人の人質を取り返しに来た?

ふざけるな……たとえ変装して忍び込んだとしても、6人も連れている。そう遠くまで逃げおおせるものではない。

早く人質を連れ戻さないと計画が大いに狂ってしまう。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...