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10 死の太守(アーク・リッチ)

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炎の豪球が紫色の塊を襲う。だが手前に魔法円が現れ、炎が吸い込まれて消えた。

魔法無効化マジックキャンセル……魔法構文が独特じゃの」

バロアがキャムを下がらせ前に立ち、攻撃に備える。

「ふたりの面倒はワシが見る。シリカ〝水三界アクアフォール〟は張れるな?」
「はい」

紫色の煙の塊が膨張して爆発するように白い霧から紫色の煙のなかに包まれた。その前にバロアがキャムとサラサを結界魔法で守り、定員オーバーであるため、私は得意な水属性の結界魔法をすばやく唱えた。

「……み……ら……」

結界の外は紫色の煙に完全に覆われ、なにも見えなくなった。声が聞こえてきたが、声がちいさくて何を言っているのか聞き取れない。

「……この恨みをどうやって晴らすべきか?」

はっきり聞こえた。でも、できれば聞きたくなかったかなー……って思っちゃった。

「そこの幼き少女よ、私の声が聞こえてますね?」

いやぁどうでしょう? 私の空耳じゃないかな、きっと……。

「聞・こ・え・て・ま・す・よ・ね?」
「はい、すみません聞こえてます」

私の水魔法で張った透明な結界に顔をべったりとくっつけて私に語りかけてきたので思わず返事をしてしまった。

「そんなに怯えないでください。私は悪い霊ではありませんから♪ 実はですね、これには深い事情がありまして……」

霊なんだ……。そして聞いてもいないのに身の上話を勝手にしだした。

見た目は日本の幽霊のイメージにピッタリ。上半身がやや透けていて下半身がない男性。オレンジ色の長髪で後ろで無造作にまとめて結った髪は生前、あまり見た目には執着していなかったのだと見てとれた。

彼の名前は〝アールグレイ〟──生前せいぜんはこの周辺を治める領主の息子で、国内でも1、2を争うとても優秀な魔法使いだったそう。

そんな彼は聖女を騙る性悪な女性に騙されて、山の奥から300年に1度目覚める大蛇と戦い、命を落としたそうだ。

なぜ騙されたのかがわかったかというと、彼は自分に〝反・六道輪廻〟アンチ・リインカーネーションを掛けて、星幽体アストラルボディとなる〝死の太守アーク・リッチ〟の魔法が成功した矢先に偽聖女が彼の遺体に火をつけて高笑いしていたそうだ。

彼はたぶん街中の魔法具店の老婆から聞いた賢者アールグレイそのひとだと思う。だけど老婆から聞いた話と本人から聞いた話では食い違いがある。

老婆の話では聖女と恋仲で彼女を守ろうとして命を落としたとされていたが、本人の話だとその聖女どころか悪女に騙されたという……。老婆と本人? の情報を突き合わせてみた結果、死人に口なし、美化された話を偽聖女が後世に残した、と整理したら合点がいった。

その後、彼は偽聖女に恨みを晴らそうとしたら、いきなり何者かに封印魔法をかけられて気が付いたら、数日前に近くの洞窟の奥で目が覚めたという。彼は自分がどれだけ眠っていたのか知らなかったので王国歴705年であると伝えると驚いていた。

まあそれは置いといて……悪いひと(霊?)ではなさそうだから、私は紫色の煙に包まれたこの状況を何とかして欲しいと頼んだら、ひとつお願いごとをされた。

このブリキ人形を自分の憑代よりしろにしたいと?

別にいいけど……ちなみになぜブリキ人形に入りたいのか聞いても、「いつかわかります」と質問をはぐらかされた。

あと、この話はふたりだけの秘密にしてほしいと頼まれた。いろいろと謎も多いけど、まあいいかな。

そこまで約束したところでようやく周囲を覆っていた紫色の煙ばかりか白い霧まで嘘のように晴れた。太陽が木々の間を縫って光が差し込む緑豊かな森のなかへとその姿を変える。

「ふむ、シリカよ、無事でなにより」

バロアは私のことを心配してくれてたみたい。私の顔をみてホッとした表情を見せた。

「まったく、調査だと言うたろうに勝手な真似をしおって」
「あははっすみませーん」

キャムが叱られている。魔獣ではなく結局賢者アールグレイだったからいいものの、狂暴で危険な魔獣ならパーティー全体を危険にさらす行為だった。まだ5歳だから判断力が単に低いのかそれとも……。

バサバサバサっと急に森のなか全体かと思えるほどの規模で鳥が空へと飛びたった。



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