【完結】後輩の当真くんが、やけに可愛いんだが？

長編

第２０話 当真くんがやけに可愛いんだが？ 【完結】

「ボク、先輩のことが好きになっちゃいました」
「当真くん、いや……未央」
「先輩はボクのことどう思っていますか？」

　俺の懐に飛び込んできた当真くん。上目遣いで俺を見上げる。俺はしっかりと当真くんを抱きしめ、こう伝える。

「未央、俺はおまえのことが……」
「せーんぱい♪　せーんぱい♪」

　うん？　当真くんが俺をなぜ連呼しているんだ？

　──そうか、これは。

　目が覚めた。
　ベッドの横にあるドッキングステーションに置かれているカレクサというAIアシスタントスピーカーに目覚まし用としてセットした音声が鳴っている。その音声とは当真くんの「せんぱい♪」という通話中に録音した声を無断で使っているが、毎朝、起床時に幸福感に包まれた気持ちで目覚めることができる神の声として重宝している。

　──いや、わかっている。俺がどんだけヤバいことをしているかは。でも、当真くんの声を毎日聞かないと俺は……。

　それにしても、今朝方の夢はいったい。
　やっぱり、俺ってそうなのか？
　当真くんが〝男〟だから？
　それとも当真くんが可愛いから無意識に女性として見ている？

　もし前者であれば、俺が自分の気持ちがに素直になればいい。それだけで心のモヤモヤがなくなる。
　でも、もし後者であれば……。

　それは俺と当真くんの間で不幸な結末しか迎えない。
　だから俺は自分のこの心の中でくすぶっている何かを見極めなければならない。じゃないと当真くんを傷つけてしまいそうだから……。

　✜

「先輩、おはようございま～す♪」
「当真くん、おはよう」

　どうしよう？　朝一でそれも出勤途中の電車の中で当真くんと同じ車両になってしまった。

　そもそも当真くんが普通の男性で、俺が当真くんの想像していないような質問をしたら気持ち悪いだろうか？

　当真くんの笑顔と明るい声が聞けなくなったらどうする？　もし、もう「先輩」って言ってくれなくなったら……。

　でも……それでも俺は腰が抜けそうになるのを踏みとどまり、太ももに目いっぱい力を込めると、弱気になっている自分を立ち直らせることに成功した。

「当真くん……」
「はい？」

　言葉が続かない。喉がきゅうと締まって、声が出ないどころか、息がしづらい気がする。
　電車の中は、座席はすべて埋まってはいるが、立っている人たちがパーソナルスペースを保てるぐらいには空いている。

「当真くんは男性で、俺も男だけど」

　隣で手を挙げて吊り革を掴む当真くんは、女性のように小さくて細い。守ってあげたくなる。

　当真くんは右手、俺は左手が互いのそばにある。見比べてもゴツゴツとして血管の浮き上がった俺の手と、当真くんの白くて細い綺麗な手……。何度その手を握り締めたくなる衝動に駆られ、それを抑えたことか。

　行け、那珂川小介。男だろ？　
　今、聞かないと二度と口にできない気がする。
　
「当真くん、俺、当真くんのことが……」
『ゾクッ』

　当真くんの白い右手の人差し指と中指が俺の口に当てられた。

「先輩」
「なに？」

　当真くんが、見上げながら俺にこう伝えた。

「あせらないで、じっくり考えましょう？」

　焦っていた。俺が？
　いつもと変わらず当真くんが、やけに可愛くみえる。

　当真くんはニコリと微笑んで、到着した職場がある駅のホームへ出ながら、俺に告げた。





「ボクはいつまでも待ってます♪」