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長編
第17話 熊田課長
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「いったい営業5課はどんな体制をしているんだ」
営業部長がカンカンになって怒っている。
理由は、瀬下が、担当しているプロモーション資料のチェック不足が原因。
今日は皆、忙しそうにしていたから、そのまま営業1課に回してしまったんだろう。
だが……。
「出張明けで、多忙な業務で瀬下の業務を把握できていませんでした。申し訳ございません」
「忙しかろうが、課内でチェックして他所に回すのが常識だろうが」
御堂係長が謝るが、部長の機嫌が直ることはない。
「お言葉ですが、営業1課にも回しているはずですが?」
俺の発言に営業1課のエースが答える。
「自分達の不始末を1課のせいにしようっての?」
「そうではありませんが、そちらで気づいてもよい案件ではないでしょうか?」
そう、なぜ営業1課は見逃したんだ……新人が気づかないにしても仮にもウチの会社の精鋭が集まる営業1課がこんな凡ミスに気づかない訳がない。
「まったく、上司や先輩が空気を悪くしているから風通しが悪いことを棚に上げてよくそんなことが言えるね。那珂川くん」
営業1課長……冷徹なイメージがあるが、俺の印象通りの行動と言動を取る。
「やっぱり新人がふたりもいるから、5課さん指導が大変なんじゃないですか?」
営業1課のエースが嘲るように笑う。どういう意味だ?
「まあそういうことだ。そこの君、見込みもあるようだし、営業1課に配属する気はないかね?」
営業1課長が、当真くんに微笑みかける。たしかに当真くんは資質もあるし、仕事へ取り組む姿勢も正しく、日々の仕事の中、自分で考える力も備わっているので、じきに手がかからなくなるだろう。だが……。
「「お断りします!」」
御堂係長とセリフが被ってしまった。たぶん考えていることは一緒だろう。当真くんは1課で揉まれるよりは5課で育てた方が「伸びる」。
「君達には聞いてないんだが? 課長はどうした? どうせ帰ったんだろ?」
くっ、そもそもこの場にウチの熊田課長がいないのが痛い。でも、そもそもなんで時間外に呼出しを受けたんだ?
──まさか⁉
「ほっほっほっ。どうしました皆さん、業務時間はとっくに終わってますよ」
熊田課長? なんでこんな時間にまだ会社にいるんだ?
「課長、すみません」
「いいよ、いいよー」
御堂係長がさっき電話してたのは、熊田課長あてだったのか。でもなんで課長に連絡をしたんだ?
「熊田さん、実は……」
営業部長が、少し困惑したような顔をしながらも、事情を説明する。
へぇ、部長でも熊田課長には、強く出れないんだ……昔、イケイケだったっていう話は本当かもしれないな。
「それで瀬下くんは営業1課に省略するのを頼んだのかい?」
「いえ、早く見て回して欲しいと頼んだっす」
「な、なに言ってるんだ瀬下。口で俺に頼んだろ?」
「いや、言ってないっす」
「本当だね?」
「はいっす」
営業1課の新人が口を挟むが、それを無視して熊田課長は、瀬下にしっかり確認を取り、営業5課も悪かったが、勘違いしてしまった営業1課も過失があるのだから、一方的に責められるのはどうかと思うと話した。
「熊田さん、アンタこそちゃんと部下を指導してないのが原因なんじゃないんですか?」
「ふむ、風通しが悪いのはどっちの課なんでしょうかね?」
「1課になにか問題があるとでも?」
「若造、嘘をつくならもっと上手くやらんとダメだろ?」
「ヒッ……」
こ、怖い……。熊田課長の声がガラリと変わる。部長や営業1課長、俺より4つ上の1課のエースも熊田課長の一言で、完全に委縮した。
「お、おい、本当に5課の新人が省略の話を言ったのか?」
「おまえの聞き違いだろ? はやく謝れ」
営業1課長と1課の新人の先輩が手のひらを返した。新人は完全に血の気の引いた顔で「俺の勘違いでした。すみません」とあやまった。
部長は完全に毒気が抜かれておとなしくなっていて、営業1課長が「じゃあ我々はこの辺で……」と部長室を出ていこうとしたが、熊田課長が呼び止めた。
「上司や先輩は部下や後輩に責任を取らせるものではないことを覚えておきなさい」
「……失礼します」
今のは刺さった。営業1課長や1課のエースは今のことばに唇を噛み締め、部長室を出ていった。部長は「じゃあ瀬下くんも次から気をつけるように」とバツの悪そうな表情で、大事にならずに終わった。
「那珂川くんと当真くんは帰りなさい。御堂くんと瀬下くんは残って資料の修正をしましょう」
俺は3年間、課長のことを誤解していたかもしれない。のびのびと部下が仕事をできる環境をこの人が作っていたんだ。そうとも知らずに俺は……。
営業部長がカンカンになって怒っている。
理由は、瀬下が、担当しているプロモーション資料のチェック不足が原因。
今日は皆、忙しそうにしていたから、そのまま営業1課に回してしまったんだろう。
だが……。
「出張明けで、多忙な業務で瀬下の業務を把握できていませんでした。申し訳ございません」
「忙しかろうが、課内でチェックして他所に回すのが常識だろうが」
御堂係長が謝るが、部長の機嫌が直ることはない。
「お言葉ですが、営業1課にも回しているはずですが?」
俺の発言に営業1課のエースが答える。
「自分達の不始末を1課のせいにしようっての?」
「そうではありませんが、そちらで気づいてもよい案件ではないでしょうか?」
そう、なぜ営業1課は見逃したんだ……新人が気づかないにしても仮にもウチの会社の精鋭が集まる営業1課がこんな凡ミスに気づかない訳がない。
「まったく、上司や先輩が空気を悪くしているから風通しが悪いことを棚に上げてよくそんなことが言えるね。那珂川くん」
営業1課長……冷徹なイメージがあるが、俺の印象通りの行動と言動を取る。
「やっぱり新人がふたりもいるから、5課さん指導が大変なんじゃないですか?」
営業1課のエースが嘲るように笑う。どういう意味だ?
「まあそういうことだ。そこの君、見込みもあるようだし、営業1課に配属する気はないかね?」
営業1課長が、当真くんに微笑みかける。たしかに当真くんは資質もあるし、仕事へ取り組む姿勢も正しく、日々の仕事の中、自分で考える力も備わっているので、じきに手がかからなくなるだろう。だが……。
「「お断りします!」」
御堂係長とセリフが被ってしまった。たぶん考えていることは一緒だろう。当真くんは1課で揉まれるよりは5課で育てた方が「伸びる」。
「君達には聞いてないんだが? 課長はどうした? どうせ帰ったんだろ?」
くっ、そもそもこの場にウチの熊田課長がいないのが痛い。でも、そもそもなんで時間外に呼出しを受けたんだ?
──まさか⁉
「ほっほっほっ。どうしました皆さん、業務時間はとっくに終わってますよ」
熊田課長? なんでこんな時間にまだ会社にいるんだ?
「課長、すみません」
「いいよ、いいよー」
御堂係長がさっき電話してたのは、熊田課長あてだったのか。でもなんで課長に連絡をしたんだ?
「熊田さん、実は……」
営業部長が、少し困惑したような顔をしながらも、事情を説明する。
へぇ、部長でも熊田課長には、強く出れないんだ……昔、イケイケだったっていう話は本当かもしれないな。
「それで瀬下くんは営業1課に省略するのを頼んだのかい?」
「いえ、早く見て回して欲しいと頼んだっす」
「な、なに言ってるんだ瀬下。口で俺に頼んだろ?」
「いや、言ってないっす」
「本当だね?」
「はいっす」
営業1課の新人が口を挟むが、それを無視して熊田課長は、瀬下にしっかり確認を取り、営業5課も悪かったが、勘違いしてしまった営業1課も過失があるのだから、一方的に責められるのはどうかと思うと話した。
「熊田さん、アンタこそちゃんと部下を指導してないのが原因なんじゃないんですか?」
「ふむ、風通しが悪いのはどっちの課なんでしょうかね?」
「1課になにか問題があるとでも?」
「若造、嘘をつくならもっと上手くやらんとダメだろ?」
「ヒッ……」
こ、怖い……。熊田課長の声がガラリと変わる。部長や営業1課長、俺より4つ上の1課のエースも熊田課長の一言で、完全に委縮した。
「お、おい、本当に5課の新人が省略の話を言ったのか?」
「おまえの聞き違いだろ? はやく謝れ」
営業1課長と1課の新人の先輩が手のひらを返した。新人は完全に血の気の引いた顔で「俺の勘違いでした。すみません」とあやまった。
部長は完全に毒気が抜かれておとなしくなっていて、営業1課長が「じゃあ我々はこの辺で……」と部長室を出ていこうとしたが、熊田課長が呼び止めた。
「上司や先輩は部下や後輩に責任を取らせるものではないことを覚えておきなさい」
「……失礼します」
今のは刺さった。営業1課長や1課のエースは今のことばに唇を噛み締め、部長室を出ていった。部長は「じゃあ瀬下くんも次から気をつけるように」とバツの悪そうな表情で、大事にならずに終わった。
「那珂川くんと当真くんは帰りなさい。御堂くんと瀬下くんは残って資料の修正をしましょう」
俺は3年間、課長のことを誤解していたかもしれない。のびのびと部下が仕事をできる環境をこの人が作っていたんだ。そうとも知らずに俺は……。
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