80 / 91
長編
第10話 目覚め
しおりを挟む
「女、まだ一人いるじゃん」
「オネェーちゃんどうしたの? 早く帰らないとそいつらロクな奴らじゃないぞ」
グラスを片手に奥の席から来たのは、40歳前後の男性3人。
すぐ隣の席に座って、俺達に嫌がらせをする気らしい。
「□〇選手って、代打で最近みないな」
「□〇選手は、2軍で調整して来季に向けて準備してるって噂っす」
「野球なんて、女の子はつまらんだろ? オネェーちゃん、俺達と飲まない?」
瀬下を使って会話を遮断していたら、当真くんへ話しかけてきた。
「帰るぞ」
御堂係長が席を立ち、会計に向かう。瀬下と当真くんも後に続こうとするが、男がひとり立ち上がり、通路を塞いだ。
「なんだよーせっかく知り合いになったのに冷てーじゃんか」
「ちょっと通してください」
他のふたりは座ったまま当真くんと瀬下が困っている姿を笑っている。
✜
あー面白れぇ。
都会だったら姉ちゃんのいる店に遊びに行けるのに田舎のホテルに泊まったからつまらなくて屋上で野郎だけで飲んでたら、面のいい連中が女を侍らせてやかましいから、野次を飛ばしたらビビッてやんの。
せっかくだからもっとビビらせてやろうと、連中の隣に座ったら、すぐ帰ろうとしたから、ちょっと意地悪してみた。まあ、これ位の憂さ晴らしなら問題なんてない。
そしたら最後まで座っていたヤツが立ち上がった。
デカいな……体格もいい。なんか〝やっている〟ヤツのオーラ。
「退け」
俺を見下す目が、とても冷たい……。
くそっ、なぜ俺は腰のあたりが、ゾクゾクとしてるんだ? そこまでビビッているわけじゃねー。だが目の前に立っている男の目にやられてカラダが勝手に道を譲ってしまった。仲間から「つまんねえー」と言われたが、そんなのどうでもいい……。
罵られたい…………。
えっ、俺、今何を思った?
まさか、俺って……。
自分の気持ちをよく整理すると、新しい自分と出会ってしまった。
ゾクゾクが止まらなくなった。
──いつかまたアイツと会えるかな?
✜
『ゾクッ』
「先輩、どうしました?」
「いや、なんか今、急にゾクッとして……」
「いやぁー、さすが那珂川さんっす。相手怯んでたっすね」
当真くんが俺を気遣い声をかけてくれて、瀬下はしたり顔で興奮を隠せず先ほどの件に触れる。
別に格闘技なんて習ったことはない。相手が勝手に尻込みしただけ。ああいうのはハッタリも大事だ。最近の熊が人を襲う事故が相次いでいるが、逃げたら襲ってくるが、冷静にしていたら襲われない確率が高い。まあ極端な話ではあるが、ああいう手合いは野生の動物だと思って相手するのがちょうどいいぐらいだ。
それに当真くんや瀬下は、いざとなったら守ってやらなきゃならんが、俺には御堂係長がついている。あの人、俺と体格はそう変わらないから、学生の頃、ゼッタイ〝なにか〟やっていたに違いない。普段、見せる余裕はそこからきていると俺は見ている。
そんなことより、当真くんのことが心配だ。あんな風に絡まれたら誰だって怖いに決まっている。
「当真くんは大丈夫だった?」
「はい? ボクは全然大丈夫でしたよ」
「自分はヤバかったっす。もう少しで胃腸炎になるところだったっす」
当真くんは、何でもなかったかのように不思議そうに俺を見上げる。当真くんに話しかけたのに瀬下が喚くが、コイツは会社が火事で全焼しても「リモートワークは交通費出るっすか?」とか平気でのたまいそうだから、まったく心配などしていない。
「明日は朝食会場に朝7時集合で、それじゃおやすみ……」
やはり御堂係長はクールだ。あんなことがあったのにまったく動じることなく、明日の予定をサラッと伝えて、自分の部屋へと入って行った。
俺も瀬下と当真くんに、おやすみと伝えて自室のドアのカギを開けた。
✜
うは~ッめっちゃビビった~。
膝が笑って、ガクガクになりそうなのを踏ん張って、なんとか小介きゅんや未央きゅんにバレずに部屋へと帰ってこれた。
冷静なフリをしていたが、脳内では、たくさんのちっこい御堂クンが「落ち着けー落ち着け―」と逆に騒がしくてパニックになっていたが、さすが小介きゅん、ひと言で相手を黙らせ道を譲らせた。会計をしていた我輩はそれをみて『キュン♡』となったが、恍惚とした表情なんて見せたら、我輩がヤバい心の持ち主だとバレてしまう……。まあ自分がヤバいというのは自覚しているので、小介きゅんや未央きゅんにバレなければそれでいい。
それにしても、合コン的なノリの飲み会で実にツマらなかったが、我輩をひと目で「異世界の住人」だと見破った女性には驚いたのである。
ふたりで小声で話していたから、小介きゅんや未央きゅんには聞かれていないと思うが、我輩が世を忍んでいる隠れヲタクであることをエサに完全に主導権を握られ、小さい声でネチネチと言葉で嬲られてしまった。ファンタジー世界のS級モンスターならぬ、現実世界のヤバいS系モンスターに遭遇してしまい、挙句に連絡先を女王さまに提出してしまった。これから、なにかにつけてSNSで我輩、文字が咲き乱れて嬲られると思うとゾクゾクするのである。
我輩、もしかして別の道にも目覚めてしまったかも……。
「オネェーちゃんどうしたの? 早く帰らないとそいつらロクな奴らじゃないぞ」
グラスを片手に奥の席から来たのは、40歳前後の男性3人。
すぐ隣の席に座って、俺達に嫌がらせをする気らしい。
「□〇選手って、代打で最近みないな」
「□〇選手は、2軍で調整して来季に向けて準備してるって噂っす」
「野球なんて、女の子はつまらんだろ? オネェーちゃん、俺達と飲まない?」
瀬下を使って会話を遮断していたら、当真くんへ話しかけてきた。
「帰るぞ」
御堂係長が席を立ち、会計に向かう。瀬下と当真くんも後に続こうとするが、男がひとり立ち上がり、通路を塞いだ。
「なんだよーせっかく知り合いになったのに冷てーじゃんか」
「ちょっと通してください」
他のふたりは座ったまま当真くんと瀬下が困っている姿を笑っている。
✜
あー面白れぇ。
都会だったら姉ちゃんのいる店に遊びに行けるのに田舎のホテルに泊まったからつまらなくて屋上で野郎だけで飲んでたら、面のいい連中が女を侍らせてやかましいから、野次を飛ばしたらビビッてやんの。
せっかくだからもっとビビらせてやろうと、連中の隣に座ったら、すぐ帰ろうとしたから、ちょっと意地悪してみた。まあ、これ位の憂さ晴らしなら問題なんてない。
そしたら最後まで座っていたヤツが立ち上がった。
デカいな……体格もいい。なんか〝やっている〟ヤツのオーラ。
「退け」
俺を見下す目が、とても冷たい……。
くそっ、なぜ俺は腰のあたりが、ゾクゾクとしてるんだ? そこまでビビッているわけじゃねー。だが目の前に立っている男の目にやられてカラダが勝手に道を譲ってしまった。仲間から「つまんねえー」と言われたが、そんなのどうでもいい……。
罵られたい…………。
えっ、俺、今何を思った?
まさか、俺って……。
自分の気持ちをよく整理すると、新しい自分と出会ってしまった。
ゾクゾクが止まらなくなった。
──いつかまたアイツと会えるかな?
✜
『ゾクッ』
「先輩、どうしました?」
「いや、なんか今、急にゾクッとして……」
「いやぁー、さすが那珂川さんっす。相手怯んでたっすね」
当真くんが俺を気遣い声をかけてくれて、瀬下はしたり顔で興奮を隠せず先ほどの件に触れる。
別に格闘技なんて習ったことはない。相手が勝手に尻込みしただけ。ああいうのはハッタリも大事だ。最近の熊が人を襲う事故が相次いでいるが、逃げたら襲ってくるが、冷静にしていたら襲われない確率が高い。まあ極端な話ではあるが、ああいう手合いは野生の動物だと思って相手するのがちょうどいいぐらいだ。
それに当真くんや瀬下は、いざとなったら守ってやらなきゃならんが、俺には御堂係長がついている。あの人、俺と体格はそう変わらないから、学生の頃、ゼッタイ〝なにか〟やっていたに違いない。普段、見せる余裕はそこからきていると俺は見ている。
そんなことより、当真くんのことが心配だ。あんな風に絡まれたら誰だって怖いに決まっている。
「当真くんは大丈夫だった?」
「はい? ボクは全然大丈夫でしたよ」
「自分はヤバかったっす。もう少しで胃腸炎になるところだったっす」
当真くんは、何でもなかったかのように不思議そうに俺を見上げる。当真くんに話しかけたのに瀬下が喚くが、コイツは会社が火事で全焼しても「リモートワークは交通費出るっすか?」とか平気でのたまいそうだから、まったく心配などしていない。
「明日は朝食会場に朝7時集合で、それじゃおやすみ……」
やはり御堂係長はクールだ。あんなことがあったのにまったく動じることなく、明日の予定をサラッと伝えて、自分の部屋へと入って行った。
俺も瀬下と当真くんに、おやすみと伝えて自室のドアのカギを開けた。
✜
うは~ッめっちゃビビった~。
膝が笑って、ガクガクになりそうなのを踏ん張って、なんとか小介きゅんや未央きゅんにバレずに部屋へと帰ってこれた。
冷静なフリをしていたが、脳内では、たくさんのちっこい御堂クンが「落ち着けー落ち着け―」と逆に騒がしくてパニックになっていたが、さすが小介きゅん、ひと言で相手を黙らせ道を譲らせた。会計をしていた我輩はそれをみて『キュン♡』となったが、恍惚とした表情なんて見せたら、我輩がヤバい心の持ち主だとバレてしまう……。まあ自分がヤバいというのは自覚しているので、小介きゅんや未央きゅんにバレなければそれでいい。
それにしても、合コン的なノリの飲み会で実にツマらなかったが、我輩をひと目で「異世界の住人」だと見破った女性には驚いたのである。
ふたりで小声で話していたから、小介きゅんや未央きゅんには聞かれていないと思うが、我輩が世を忍んでいる隠れヲタクであることをエサに完全に主導権を握られ、小さい声でネチネチと言葉で嬲られてしまった。ファンタジー世界のS級モンスターならぬ、現実世界のヤバいS系モンスターに遭遇してしまい、挙句に連絡先を女王さまに提出してしまった。これから、なにかにつけてSNSで我輩、文字が咲き乱れて嬲られると思うとゾクゾクするのである。
我輩、もしかして別の道にも目覚めてしまったかも……。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
俺の小学生時代に童貞を奪ったえっちなお兄さんに再会してしまいました
湊戸アサギリ
BL
今年の一月にピクシブにアップしたものを。
男子小学生×隣のエロお兄さんで直接的ではありませんが性描写があります。念の為R15になります。成長してから小学生時代に出会ったお兄さんと再会してしまうところで幕な内容になっています
※成人男性が小学生に手を出しています
2023.6.18
表紙をAIイラストに変更しました
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
【R18】【Bl】R18乙女ゲームの世界に入ってしまいました。全員の好感度をあげて友情エンド目指します。
ペーパーナイフ
BL
僕の世界では異世界に転生、転移することなんてよくあることだった。
でもR18乙女ゲームの世界なんて想定外だ!!しかも登場人物は重いやつばかり…。元の世界に戻るには複数人の好感度を上げて友情エンドを目指さなければならない。え、推しがでてくるなんて聞いてないけど!
監禁、婚約を回避して無事元の世界に戻れるか?!
アホエロストーリーです。攻めは数人でできます。
主人公はクリアのために浮気しまくりクズ。嫌な方は気をつけてください。
ヤンデレ、ワンコ系でてきます。
注意
総受け 総愛され アホエロ ビッチ主人公 妊娠なし リバなし
彼女の浮気現場を目撃した日に学園一の美少女にお持ち帰りされたら修羅場と化しました
マキダ・ノリヤ
恋愛
主人公・旭岡新世は、部活帰りに彼女の椎名莉愛が浮気している現場を目撃してしまう。
莉愛に別れを告げた新世は、その足で数合わせの為に急遽合コンに参加する。
合コン会場には、学園一の美少女と名高い、双葉怜奈がいて──?
青春ハイスクール〜BL短編集〜
綺羅 メキ
BL
高校生というのは青春時代。
高校生男子の恋愛をスポットを当てた話になります。
この話は約15年前に書いた話になります。
昔はサイトに書いてたのですが、それを引っ張って来ました。
って言ってもピュアな話は2作品しかございません。なので直ぐに終わる予定です。
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
男だけど女性Vtuberを演じていたら現実で、メス堕ちしてしまったお話
ボッチなお地蔵さん
BL
中村るいは、今勢いがあるVTuber事務所が2期生を募集しているというツイートを見てすぐに応募をする。無事、合格して気分が上がっている最中に送られてきた自分が使うアバターのイラストを見ると女性のアバターだった。自分は男なのに…
結局、その女性アバターでVTuberを始めるのだが、女性VTuberを演じていたら現実でも影響が出始めて…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる