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長編
第4話 クレーム処理
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あれ? どうしたんだろう?
御堂係長と瀬下が雑貨店の前で、なにか立ち話をしている。
「どうしました?」
「那珂川さん、実はっすね……」
瀬下によると、ふたりが担当しているお店のひとが、クレーム対応していて中に入れずに困っていたとのこと。
そういえば、さっきから店の中から大きな声が、外まで漏れ出ている。
「ですから、払い戻しのできない商品なんです」
「レシートがあるんだから、お金を返しなさいよ」
返品トラブルか……。
どうやら夏物処分のために大幅に値引きされた商品なので、払い戻しができないと説明しているが、50代くらいのマダムはそんな答えを求めちゃいないといった顔で憮然とした顔で20代くらいの女性スタッフに詰め寄っている。
金を返せ、返せないで、20分以上揉めていて、他の客はおらず、ふたりで不毛な話を延々と繰り返している。
まあ、Web通販とは違って、返品を必ず応じなければならないなんて法律はなく、あくまで店側のサービスで返品に応じる場合があるだけ。なので当然のようにそれを求めるマダムにその点をきちんと説明しなければ、わかってもらえないだろう。
もう次の目的に向かう時間が迫っているので、お店の方には申し訳ないが、明日、あらためてお邪魔するしかない。
「あの……」
「なによ?」
あ、当真くんが突撃してしまった。
「それは本当に動かないんですか?」
当真くんが指差したのは、かわいいイルカの形をしたハンディファン。
「私が嘘を言っているとでも言うの?」
「いえ、そんなことは。少しみせてもらっても大丈夫ですか?」
当真くんは、ハンディファンを裏返して電池口を開ける。やっぱり、透明な絶縁シートがある。
それを引っこ抜いてスイッチボタンを押すとハンディファンの羽が回り始めた。
「これで動きましたね~」
「だったらなによ?」
「動かないから返品に来られたんですよね?」
「そうよ、でも返品を断る店員が気に入らないのよ」
──ちょっとマダムの言っている意味がわからない。
当真くんは「はははっ」と笑うしかない。マダムは店員に土下座するよう要求を始めた。
しょうがない。
「あの、少しよろしいですか?」
「次から次へとなんなの?」
俺が間に割って入った。
「返品はお店側の判断なのはご存知ですか?」
「そんなこと知らないわ、でも返金するのはどこのお店でもやっているじゃない」
「これから季節が変わって冷えてくるので、割引されたものは在庫管理上、返金に応じられないお店が多いんです」
「そんなこと知っちゃこっちゃないわ。客には関係ないことよ」
「それはお店側も一緒なんですよ。販売した商品が故障もしていないのに返品不可の商品を返品しようとしてくる。迷惑になってるんです。販売する時、返品が不可の商品の場合は店員がその説明も念のためしているはずです……説明はしましたか?」
俺は店員の女性に振り返ると首を縦に振った。
「あなたに何の関係があるのよ?」
自分の気が晴れないと、道理を無視して人を不快にさせることを厭わない人間が世の中にはたくさんいる。そして、目の前の女性もやはり典型的なパターンといえる。セオリー通りにヒステリックになり、大声を出し始める女性。
「では、あなたは営業中のお店に不当な理由で、クレームを言い、大声をあげて、お店の中にお客が入りづらい雰囲気を作っていることに対して責任は取れますか?」
責任という言葉にマダムはあからさまに反応した。
「威力業務妨害罪って、暴力だけではないんですよね。ましてや先ほどから録音してますし」
威力業務妨害の場合は民事訴訟で、損害賠償請求行為も可能であることを淡々と説明しているとマダムの顔がどんどん蒼ざめていって「もういいわっ」と捨て台詞を吐いて、カウンターに置かれていたハンディファンを乱暴に取り上げ、足早に店を出ていった。
「せんぱい、すごくカッコいい……」
当真くんが俺のことを瞳孔が開いたまま、俺を見つめ続ける。
『ゾクッ』
御堂係長と瀬下が雑貨店の前で、なにか立ち話をしている。
「どうしました?」
「那珂川さん、実はっすね……」
瀬下によると、ふたりが担当しているお店のひとが、クレーム対応していて中に入れずに困っていたとのこと。
そういえば、さっきから店の中から大きな声が、外まで漏れ出ている。
「ですから、払い戻しのできない商品なんです」
「レシートがあるんだから、お金を返しなさいよ」
返品トラブルか……。
どうやら夏物処分のために大幅に値引きされた商品なので、払い戻しができないと説明しているが、50代くらいのマダムはそんな答えを求めちゃいないといった顔で憮然とした顔で20代くらいの女性スタッフに詰め寄っている。
金を返せ、返せないで、20分以上揉めていて、他の客はおらず、ふたりで不毛な話を延々と繰り返している。
まあ、Web通販とは違って、返品を必ず応じなければならないなんて法律はなく、あくまで店側のサービスで返品に応じる場合があるだけ。なので当然のようにそれを求めるマダムにその点をきちんと説明しなければ、わかってもらえないだろう。
もう次の目的に向かう時間が迫っているので、お店の方には申し訳ないが、明日、あらためてお邪魔するしかない。
「あの……」
「なによ?」
あ、当真くんが突撃してしまった。
「それは本当に動かないんですか?」
当真くんが指差したのは、かわいいイルカの形をしたハンディファン。
「私が嘘を言っているとでも言うの?」
「いえ、そんなことは。少しみせてもらっても大丈夫ですか?」
当真くんは、ハンディファンを裏返して電池口を開ける。やっぱり、透明な絶縁シートがある。
それを引っこ抜いてスイッチボタンを押すとハンディファンの羽が回り始めた。
「これで動きましたね~」
「だったらなによ?」
「動かないから返品に来られたんですよね?」
「そうよ、でも返品を断る店員が気に入らないのよ」
──ちょっとマダムの言っている意味がわからない。
当真くんは「はははっ」と笑うしかない。マダムは店員に土下座するよう要求を始めた。
しょうがない。
「あの、少しよろしいですか?」
「次から次へとなんなの?」
俺が間に割って入った。
「返品はお店側の判断なのはご存知ですか?」
「そんなこと知らないわ、でも返金するのはどこのお店でもやっているじゃない」
「これから季節が変わって冷えてくるので、割引されたものは在庫管理上、返金に応じられないお店が多いんです」
「そんなこと知っちゃこっちゃないわ。客には関係ないことよ」
「それはお店側も一緒なんですよ。販売した商品が故障もしていないのに返品不可の商品を返品しようとしてくる。迷惑になってるんです。販売する時、返品が不可の商品の場合は店員がその説明も念のためしているはずです……説明はしましたか?」
俺は店員の女性に振り返ると首を縦に振った。
「あなたに何の関係があるのよ?」
自分の気が晴れないと、道理を無視して人を不快にさせることを厭わない人間が世の中にはたくさんいる。そして、目の前の女性もやはり典型的なパターンといえる。セオリー通りにヒステリックになり、大声を出し始める女性。
「では、あなたは営業中のお店に不当な理由で、クレームを言い、大声をあげて、お店の中にお客が入りづらい雰囲気を作っていることに対して責任は取れますか?」
責任という言葉にマダムはあからさまに反応した。
「威力業務妨害罪って、暴力だけではないんですよね。ましてや先ほどから録音してますし」
威力業務妨害の場合は民事訴訟で、損害賠償請求行為も可能であることを淡々と説明しているとマダムの顔がどんどん蒼ざめていって「もういいわっ」と捨て台詞を吐いて、カウンターに置かれていたハンディファンを乱暴に取り上げ、足早に店を出ていった。
「せんぱい、すごくカッコいい……」
当真くんが俺のことを瞳孔が開いたまま、俺を見つめ続ける。
『ゾクッ』
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