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長編

第1話 ビバ! オキナワ~♪

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「はいさ~い、めんそ~りよ~♪」
「おお、熱帯魚がお出迎えっす」
「かわい~、お魚さん♪」

 到着口を抜けると、見慣れた空港の風景とは違っていた。
 目の前に水槽があり、本土ではみたことのないような色とりどりな魚が泳いでいる。

 当真くんと瀬下が、巨大な水槽に近づいて、目を輝かせるなか、俺と御堂係長は、予約していたレンタカーに乗るため、空港へ迎えに来ているレンタカー会社の案内人へ声をかけた。

「はい、ちょっと待っててくださいね~あとふた組、来ますから」

 飛行機が到着後、トイレに立ち寄ったり、手荷物を預けたりしたのか、俺たちより少し時間が経ってから、他のお客さんが、レンタカー会社のプラカードを目印に近寄ってきた。

 もう10月なのにまだぜんぜん暑い。
 気温は30度近くあって、刺すような陽射しに驚いた。

 外に出て、空港の建物に沿って歩くこと数分で、大型バンの待機場所があり、俺たちが先に車の中に乗り込んだ。

 大型バンで移動すること約10分、レンタカー会社に到着したら、手続きを済ませ、今日、挨拶する回る順番ごとに企業の電話番号で、カーナビに記憶させる。

 いちおう、当真くんや瀬下も運転免許を持っているが、ペーパードライバーなので、俺が運転することにした。

「なんか道路の脇にある植物が南国感出してるっす」
「空ってこんなに青くなるんだ~」

 瀬下と当真くんのテンションが高い。気温は高いが風が吹いていて、そこまで蒸し暑く感じない。それに雲がほとんどない程晴れているので、運転しているだけで気分が晴れ渡っていく。

「浮かれるのはいいが、資料の準備は怠らないように」
「は~い♪」
「はいっす」

 御堂係長がちゃんと注意してくれた。
 それにしても、俺が運転すると決まった時に御堂係長と当真くんが、誰が助手席に乗るかで争っていた。「ちゃんと標識を読めるひとが助手席にいるべき」派と「一緒に座って運転手が眠くならないように会話をできる」派……。結局、ジャンケンして当真くんが俺の隣に座ってニコニコしているが、いつもクールな御堂係長の機嫌がすこし悪く感じるのは気のせいだろうか?

 湾岸に伸びたトンネルと橋を超えると、市街地にぶつかっていて、そこからさらに市街地を通って、目的地に到着した。

 那覇国際通り、沖縄の本土復帰前から沖縄の経済を支えてきた戦後復興のシンボルロード。

 そこで、顧客の店舗に足を運び、商品の説明、新たに追加された機能や、メンテナンス方法などを担当者へ直接伝えた。

 店から出ると、この時期は県外からの修学旅行生でにぎわっており、あちこちに様々な色や形をした学生服姿の子達が歩いている。

「この子かわいい……」

 国際通りの周辺には無数のコインパーキングがあり、レンタカーを駐車したパーキングに戻る傍ら、お店の前に飾っている獅子の形をした置物を眺めている。

 当真くんの発言に『ゾクッ』としたが、平静を装い、当真くんがみつめる置物について、わかっている範囲で説明する。

「それはシーサー(↑↓)という魔除けだそうだ」
「あいッ、ちゅらかーぎー(※1)兄さん、よく知ってるね~」

 店のなかから色んな意味で逞しそうなマダムが出てきて、いろいろと教えてくれた。
 どこの地方でも同じだが、イントネーションを修正させられる。シーサー(↑↓)ではなくシーサー(→→)語尾まで一定の音程だそう。そして、このシーサーは、口が開いている方が雄、閉じている方が雌で、こういった雑貨店で売られているのは「家獅子(※2)」と呼ばれており、家の門や玄関に雄雌をセットで置くと、魔除けや幸運を招きいれるという定番のお土産だそうだ。そういえば俺の実家にもムダに広い玄関の脇に飾られていた気がする。

 そして、当真くんがみつめているシーサーは他のシーサーは魔除けのためなのか怖い顔をしているが、ニコッと笑っているところが、当真くんの乙女心……ではなく、彼の心を鷲掴みにして放さないようだ。

「買うなら早くしなさい」
 
 御堂係長が腕時計で時間をチェックして、当真くんを急かす。まあ、今仕事の移動中なのに時間をあげるところが、御堂係長の優しいところだと思う。





【用語説明】

(※1)ちゅらかーぎー:沖縄の方言で美人と訳す。ただ男性にもイケメンという意味で使われることがある。
(※2)家獅子:家用のシーサーのこと。他に首里城や陵墓など琉球王朝時代の王家に関係する宮獅子や、地方にある村落獅子などがある。
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