小説版【リーチ・ザ・サミットフィルム】デスパ転生者、命懸けで塔を登頂る！？

１９ 暗闇の住人

「あれは？」

しばらく黙々と歩いていると、かなり遠いが右手の方にフワフワと白く輝く光の玉のようなものが浮いていることに気付き、その方向を指差してニカたちに知らせる。

「あれってなに？　なにも見えないけど？」

ニカが不思議そうに自分へ訊き返す。

どうやら皆、あの白い玉が見えないらしい。

白いフワフワと浮いている玉のことを説明すると、賢者としての性さがなのか知的欲求を刺激されたオルマンが興味を示す。

「よし、その白い玉のところに案内せい」

ニカとプーケはやれやれと、賢者であり、生涯探究者でもある年長者の発言にしぶしぶ了解した。

フワフワと飛んでいる白い玉を追いかけるべく方向を変える。

白い玉は自分たちから逃げるようにゆっくりと飛んで行く。

途中で、小規模の屍鬼の群れが現れ、戦闘になったが離れたところでその場所に留まってフワフワと浮いて静止していた。

──まるで自分たちをどこかに誘おうとしているようにも見える。

そのことをオルマンに説明したが、探究心が勝っているオルマンは耳を貸さない。

追跡を再開させるとしばらく進んだところで、この六十一階層に来てはじめて小高い丘が姿を見せた。

白い光の玉はその丘を登っていき、頂上の不思議な円形に囲まれた列石群の中心でピタリと静止した。

そのことをオルマンに伝えると「よしワシが行こう」と列石群の中に入ろうとすると「あいたっ」と、なにかに顔をぶつけたのか痛がっている。

「みえない壁……のようなものがあるね」

ニカがそう言いながらオルマンが顔をぶつけた辺りに手を出し、触れて確認する。

自分もその目にみえない壁を触ろうとすると「なにもない」。

そのことを告げると、プーケも手を出し、確認を取る。

「私もみえない壁を触れます……テルマさんしか中に入れないのでは？」

確かに白く光る玉は自分にしかみえない。その可能性は十分高い。

「よし、小僧。その白い玉を取ってくるのじゃ」

オルマンは手に持っている杖でコンコンと、みえない壁を小突きながら自分にそう命じてくる。

ニカはうーんと腕組みして悩んでいるようで、危険なものなのか判断がつかないらしい。

プーケは、神聖魔法【邪意感知】を掛けて確認するが何も反応しないことを自分に伝えてくれた。

「はようせい」とオルマンにもう一度急かされ、しょうがなく真ん中の白い玉に近づいていく。

その白く輝く玉から特に危険を感じない。

淡く輝く白い玉にゆっくり近づきそっと掬い上げるように手を伸ばす。

白い玉に触れた瞬間、列石群の円形内部の地面が全て白く輝き始める。

やがて目を開けられない程の強い光が襲い、腕で目を庇かばう。

目を開けると、周囲は薄暗い森の中で、違う場所だが同様の列石群の真ん中にひとり立っていて、ニカたちの姿が見えない。

ポォっと、例の白い光の玉が少し離れたところに浮かんでいて「ついてこい」と言っているようにみえる。

カラダが勝手に動く。無意識に白い玉を追いかけて森の中へ入っていく。

しばらく白い玉の後を追っていると、白い玉が急に動きを止め、急に激しく明滅を繰り返す。不思議に思い、周囲をみると目の端にこちらに突進してくる黒い影を捉えた。

すかさず回避行動に移るものの、胸の辺りを鉤爪で真横に斬りつけられたが、ロタ鋼でできたチェインメイルがそれを弾き、衝撃だけがカラダに届く。

黒い影は一度、通り過ぎたが方向転換し、もう一度襲い掛かってくる。

先ほどは不意打ちを喰らってしまったが、今は正面にその影をしっかり押さえている。

黒い影と自分がぶつかる瞬間、白い玉が眩しく光を放つ。

コイツは……吸血鬼＝ヴァンパイア──。今回、登頂の主目的としてイラストをみせてもらっていた。

吸血鬼は白い玉が放った光に目をやられたのかその場で立ち止まり両手で目を押さえている。その隙を逃す手はない。すぐさま近づき白銀の剣を下から上に走らせ、吸血鬼を斬り上げた。

吸血鬼は断末魔とともに魔石と二本の牙を残して霧散する。

それらを拾い上げ、ポシェットに収納しながら白い玉をみると、また元の状態に戻り、淡い光に覆われ自分を待つようにフワフワと浮いているのがみえた。