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07 魔物豪雨
しおりを挟むようやく目的地に到着した。
ここに来るまでに、ポーター、ナーテル、アンカーにはずいぶんとヒドイ目に遭わされた。
途中、もうここまでくると、依頼達成して冒険者ギルドに戻っても、ちゃんと報酬を分けてくれるか怪しくなってきた。
だだっ広い何もない「草原」──そこに生えている薬草「メディック」が今回の目的。
メディックはこの草原の中で他の野草と同色、似たようなかたちで、紛らわしい。四つ葉のクローバーを三つ葉の中から見つけ出す行為に近いかもしれない。おまけに十本採集が今回の依頼内容……。
根気のいる作業だ……最初、依頼内容を教えてもらった時は、メディックが自生している場所に辿りつけさえすれば、簡単な依頼だろうと思っていたが、前言撤回……これは骨が折れる……。
「おまえ、なんでこのメディック探しって人気がないか知っているか?」
黙々と草を見分ける作業に飽きたのか、ポーターが訊いてきたので首を横に振る。
「やっぱりなにも知らないんだな……見分ける労力がえらく掛かるのも原因だが、もういっこ、別の理由がある」
そう言うと、ポーターが上を指差す。
言われて初めて気づいたが、天井の一部が暗くなっていて先の見えない大きな穴が開いている。
「この穴はずっと、上の方に繋がってるって話だ……。たまにあるらしいんだ『魔物豪雨』が……」
ならなるべく急がないと危険なのではと考え、メディック探しに集中しているとポーターから余計なひと言が加わった。
「まあそうなればおまえを生贄にしている間にオレらはズラかるがな」
たぶんこの男、本気で言っている。
正直、この連中と一緒に行動をするのは百害あって一利なし。どうしようか悩み始めていると、「テルマ……ちょっといい?」とメレーザが誰にも聞こえないくらいの小さな声で話しかけてきた。
「彼らとはここでパーティーを解散した方がいいと思うの……」
たしかに……でも途中で依頼を放棄したらペナルティがあると冒険者ギルドで説明を受けた記憶がある。
「なんかイヤな予感がするの……私は抜けるけど、テルマはどうする?」
彼女はメディック探しに躍起になっている他のメンバーをチラリと見て、決断を促してくる。
「わかった。離脱しよう」
正直、冒険者として彼ら五番目と六番目の黄票と橙票よりも上の赤票を持っている彼女が一緒ならふたりで十階層まで辿り着けるだろうし、逆に足を引っ張られなくて済む。
離脱の話をすると、案の定、ポーターたちは怒りだした。
塔の登頂中での一方的なパーティー契約の破棄は報酬なしのうえ、後日違約金を取りにいくと通告してきたので、メレーザはその条件を呑むことにしたが、自分は所持金が少ないので返済するあてがないので、メディック探しまで協力して離脱するから違約金は勘弁してくれと頼んだらポーターがニヤリと笑い「それで勘弁してやる」と返事をもらった。
「私は先に九階層に行ってるわ」
メレーザは違約金覚悟で先に行くと告げてきた。彼女が先ほどからソワソワしているのは見てわかる。なんでそんなに急いでいるのだろう? 疑問に思いつつも九階層のところまではイヤだがポーターたちとともに向かえばいいので、待っててくれる彼女に感謝しながら了承した。
「無責任な女だ……帰ったらギルドに報告しないとな」
他のメンバーも先に離脱したメレーザを非難するべく、顔を険しくしている。
「まあ、どうせ臨時のメンバーだ。取り分が増えるし違約金も貰えるから別に構わないがな」
ポーターは赤票の冒険者がいなくなり、いよいよお荷物となった自分に聞こえるように意地悪そうな声音で呟いた。
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