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戦火再演

第42話

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「それでは準備次第、出発します」
「待ってください!」

トネルダ隊長の発言に待ったをかける。

「赤い光を放つ巨大な筒に心当たりはありますか?」
「魔導砲アルね、ホン皇国の魔導兵器のひとつアル」

あれが魔導兵器……。
途方もない威力。
あれは人が太刀打ちできるような代物ではない。

ヤオヤオ皇女に訊ねたが、メイメイが返事をした。

「もし、船にその大砲がついていたら……」
「なぜ、それをあなたが知っているのかしら~?」
「……昨日、夢で見ました」

今度はヤオヤオ皇女が返事をした。
だが、目にうっすらと猜疑の光が宿る。
かなり苦しい言い訳だけど、この場ではっきりさせておいた方が良い。

「たぶん、パイチーのヤツが盗まれた船あるね」
「メイメイ~?」
「大丈夫アル、こんなことで揺らぐようなホン皇国ではないアル」

それだけ自分達の国力に自信があるのだろう。
堂々と兵器の正体を教えてくれた。

船の名前は「緋雷零式」。
両舷を鋼板で補強し、舳先近くに魔導砲という大砲を搭載した海上兵器。
研究の資金繰りに困ったメイメイが、借金の形に取り上げられた魔導船の設計図。
取り上げたのは、異母にあたるメイメイより2歳年上の第8皇子。
きょうだいの中でもっとも嫌われていて、悪い噂の絶えない奸智に長けた人物。
そのパイチ―皇子が、魔導船を造ったと発表したのが半年前。
メイメイが設計した話は公表しておらず、すべて自分の手柄にしたそうだ。
だが、皇王から皇都に献上するよう言われると翌日には盗まれたと報告したそうだ。

「本当に盗まれたかも怪しいものですわ~」
「それを海賊が持っている夢を見たアルか?」
「うん、まあ……」

正直、前回は海賊は出てこなかったが、繋がりはあるのだろう。
もし、海賊が魔導船を所有しているなら、近づくのは危ない。

「それが本当なら、島の裏側に回るのは危険だと思います」

トネルダ中隊長から同様の意見が出た。
忌まわしげに話しているので、代替案には納得していなさそう。
島の裏側には回らず、正面から小舟で上陸する。
船に積載できる小舟は2艘。
1艘に4人までしか乗れないので1度に8人しか上陸できない。

何往復もすれば、兵士たちを大勢、送り込むことは可能、
だが、当然、監視の目があるはず。
必要な人数を上陸させられるかが怪しい。






「最初の舟に乗せてください」
「正直、俺はお前を疑っている」

トネルダ中隊長の代替案はその後、第2皇女に承認された。
骸骨島に近づいてきたので、トネルダ中隊長の下へ訪れた。
島への上陸する最初の面子に加えて欲しいと頼んだがダメだった。
夢で見たからという理由で作戦を捻じ曲げた余所者に不快感を露わにしている。

「これ以上、根拠のない意見は受け入れられない」

先発はとても危険だ。
敵が大勢出てきた時に彼らだけで、乗り切れるだろうか?

「ですが……」
「サオン君、待つアル」

食い下がろうとしたが、メイメイに肩を叩かれ、首を横に振られた。
彼らに任せろってことか。

しばらくして準備が整ったようだ。
トネルダ中隊長率いる兵士の中から特に腕の立つものが集められ、小舟に乗船する。

「先ほどサオン君が言ったのは、たぶん当たっているアル」
「なら、どうして?」
「彼らにも矜持があるネ!」

皇国を自分達の手で守っているという誇りと自負。
他国の者が易々とそれを踏みにじってはならないのだと……。

小舟が砂浜に着くと膝下くらいまで浸かったまま、上陸した。

──やっぱり。

森の中に敵が潜んでいた。
少数だとわかり、森から飛び出し、トネルダ中隊長たちを襲い始めた。
小舟は6人を砂浜に残し、引き返し始めたが、数が違い過ぎる。

しかも敵はただの海賊ではない。
訓練された者の動き。
遠目からでも分が悪いのは明らか。

「サオン君、さっきの話の続きアル」
「え?」

なにかを背負わされた。
カチャカチャと工具の音が聞こえる。
メイメイが自分の背中の方で何か作業をしながら話を続ける。

「信頼というのは、言葉だけでは、なかなか得難いものアルヨ」

それはまあそうだと思う。
口だけでは何とでも言えるから。

「だから行動で示して勝ち得ることをお勧めするアル」

とても良い言葉を聞けた。
まさしくその通りだと思う。

しかし……。

「それで、これは?」
「人間噴射推進器……人間ロケットと名付けようと思うアル」

いや、名前の話なんて聞いてないんだけど?

「この操縦桿を握るアル」

金属の棒が左右にあり、右が方向、左が上下に移動するためのものだそう。

「その突起を押すアル」

言われるがままに押した。
背後でぶしゅーっと音を立てると身体が宙に浮いた。

「1分しか持たないから、早く行くアル」

右の操縦桿を前に倒すと前進した。
そのまま、島へとゆらゆらと覚束ない飛行のまま辿り着く。

自分が砂浜に着地した頃には、トネルダ中隊長以外は全員やられていた。

「よせ! 降りてくるな、お前まで死ぬぞ!?」

空からやってきた自分に正体不明の敵が殺到する。
トネルダ隊長が声を振り絞るが、燃料が切れたので引き返すこともできない。

だけど、トネルダ中隊長の発言には、ひとつ重大な誤りがある。

「ぐべぇ!」

聞こえたのは、正体不明の男達の断末魔。
どんなに訓練された者達だろうが、今の自分の相手は務まらない。

遅い、鈍い、緩い……。

5人同時に自分へ向かって剣を振るうが、話にもならない。
剣の速さは、手ではたき落とせるくらい遅い。
こちらが動き始めてから、ようやく反応する鈍さ。
そして、自分を囲い込むにはあまりにも包囲網が緩すぎた。

直剣グラディウスで剣を1本叩き折って、その隣の男を斬り捨てる。
背後から迫る男の背中に身体を捻りながら回り込み、背中を斬りつける。
斬りつけた男の背中を押して、向かってくる者にぶつけて倒す。
その間に近づいてきた男を剣を交わすまでもなく喉を貫き通す。
そして、絶命した者を横に押しのけようと藻掻いている男の首を狩り終えた。

最初に剣を折られた男が背を向けているので、「黒腕」を試す。
左手人差し指に金属の玉を乗せ、親指で弾く。
火花が走ったが、背を向けている男の隣にある木に穴が開いた。



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