アルヴニカ戦記 ~斜陽国家のリブート型貴種流離譚~

あ・まん@田中子樹

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二律背反

第19話

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「これは見事に効いてるな」
「でしょ? もっと褒めていいよ!」
「おー偉いなー、敵大将の首を取ってきたら、もっと偉いけどなー」
「それは無理」
「ちっ、残念!」

翌朝、帝国兵が本格的に丘を獲りに来ているが、動きに精彩がない。
数は向こうが倍以上はいる。
地の利のお陰もあるが、ハイレゾ達が盛った毒が完全に効いている。
命を落とすようなものでもないらしい。
だが、高熱が出て下痢が止まらなくなるらしい。
あの精強で知られる帝国軍が弱くさえ感じる。

ジェイドとハイレゾが冗談を言い合っている。

「それで、帝国の大将って誰なんだ?」
「『ペリシテの巨人』って呼ばれている有名人」
「カぺルマンっていやぁ、シンバ将軍並みの大物じゃねーか」
「たぶん今、この丘の下に来てると思うよ」
「噂では巨象人トゥスカーよりデカいって聞いたが?」
「噂通りだよ、遠くからしか見てないけど、あれはヤバそうだった」

ペリシテの巨人──カぺルマン。たしかにとても有名な人物だ。
出身はキューロビア連邦の国境近くにある村ペリシテ。

その村での武勇伝が特に有名だ。
まだ子どもの頃、キューロビア連邦兵による村の襲撃事件があったそうだ。
村を襲った連邦兵を全員返り討ちにしたそうだが、問題はそこじゃない。
連邦兵の撃退を「ひとりで・・・・」成し遂げたそうだ。
眉唾みたいな話だが、まことしやかに民草の中で今でも囁かれている。

「た、大変です『ペリシテの巨人』が!?」

昨日から斥候隊と新規に加わった傭兵隊と行動をともにしている。
傭兵隊は隊長ハイレゾを始め、腕利き揃い。
サオン小隊と傭兵隊で協力し、遊撃的な働きをする斥候隊を支援している。
丘の中腹にある前線基地に所属している斥候隊の隊員が駆け込んできた。

遠くで悲鳴が聞こえる。
徐々に近づいてきているのか?

「状況は?」
「6の2から6の3へと侵攻中で現在、別小隊が交戦しています」
「わかった、6の5で食い止める」

ジェイドが椅子から立ち上がり、両手で合図を送る。
それを見た各方角の先にいる数人が動き始めた。
ジェイドの合図をさらに手信号で次の者へと情報を伝達していく。

それから程なくして、大物を仕留めるべく待機場所で息を潜める。
岩壁が両側にそそり立ち、幅が狭く、ふたり並ぶには窮屈な道である。

ジェイドが奇襲に選んだのは腰より少し高い草が生えている広がった場所。
先の窮屈な道から出てくるものを弓矢でいくらでも狙い撃てる。

──来た!?

狭い道の崖によじ登って隠れていた見張りの兵から合図を受けた。
すると少し遅れて2Mメトル超えの大男が広場に躍り出た。

「撃て!」

ジェイドの合図で、一斉に無数の矢を浴びせる。
大男に続いて出てきた帝国兵が倒れていく。
だが、大男は矢の雨を物ともせず、弓兵へ突撃してきた。

「ぅぁああああっ、がはっ!」

全身が分厚い皮鎧に覆われていて、矢が身体まで届いていない。
特注だろう巨大な戦棍メイスの一振りでふたりの兵士が犠牲になった。

正真正銘の怪物。
こんな規格外な化け物だなんて想像していなかった。

「サオン、大将の首が目の前にぶら下がってるじゃん!」

ハイレゾが巨人カぺルマンの反対側へ回り込みながら、大声を出した。
その呼び掛けに応えて、挟み込むように巨人へ接近する。
現実離れした質量を誇る巨大な戦棍メイスが自分の頭上を通過していく。

潜り込めた!?

脇の下、わずかな隙間へ剣を滑りこませるように突き刺す。
反対側では、傭兵隊長が大男の左腕を斬り落としているところだった。

そこからふたりとも一度、後ろへ下がって相手が弱るのを待った。

いくら化け物とはいえ、血をたくさん失えば動けなくなる。
その間、油断していいのを貰わないよう気をつける。
戦い続けること数分。
ようやく、ペリシテの巨人の異名を持つ化け物の膝をつかせた。

「ぃえ~~いッ、帝国の生ける伝説をこの手で仕留めちゃったぜ!」
「おおおおおおぉっ!?」

最後はハイレゾの曲刀が巨人の首をはねた。
同時にこれまで聞いた事のないくらいの爆発するような喚声が沸き上がる。




「……ぇら」

いつからそこに立っていた?

人よりも大きな剣を肩に乗せた真っ白な髪の男。
騒いでいる兵達の横に立って、ボソボソと何かをつぶやいた。

「おい! アンタはだ……」

誰だ、と最後まで台詞を吐けないまま、ジェイドが真っ二つにされた。

「き、貴様ぁぁぁぁ!」

一瞬、その場にいる全員が固まってしまった。
だが、真っ先に気を取り直した傭兵隊のひとりが男に斬りかかった。

「あ……」

小さなうめき声を残して、傭兵隊員は持っている剣ごと切り裂かれた。

「よくも俺様の可愛い下僕を殺ってくれたな?」

とてつもなく巨大な剣。
それなのに常人が木の棒を振るより断然速い。
その場で動けず、棒立ちになっている近くの者から順に肉片へと成り下がる。

「ちなみにどちら様で?」
「カぺルマンだ。このクソったれ!」

この人がカぺルマン?
背は自分よりも低い。
目測で150CMセルチメトルくらい。
かなり小柄な方に入る。
ハイレゾは冗談ぶって問い質しているが、目はいっさい笑っていない。
カぺルマンの射程に入ったものは一瞬で、剣の嵐に巻き込まれる。

「サオン……コイツはヤベー。本陣へ知らせてくれ!」

ハイレゾがそう言い、カぺルマンに突撃する。
だが、数回斬り結んだだけでやられてしまった。
ハイレゾはダンヴィル指揮官補佐に引けを取らない強者。
それをいとも簡単に切り裂くだなんて……。

「尿をチビっても逃がさねーぞ、バカヤロー!」
「逃げないよ……アンタを倒す!」

ブロードソードをちいさな巨人に向けて言い放った。


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