アルヴニカ戦記 ~斜陽国家のリブート型貴種流離譚~

あ・まん@田中子樹

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死地行軍

第3話

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レベルが上がりました、って誰が言った?
視界の端に文字が浮かぶ。
先ほどの言葉と同じことが書かれている。
笑みを浮かべていた敵兵士の剣が、下から跳ね上がってきた。
それを間一髪かわせたのは、偶然ではない。

左側の目が見えないせいで距離を見誤った。
だが、代わりに手に握っている槍が真っ二つにされた。
やはり手強い。
でも、まずは目の前の相手を倒さないと……。
ふたつにされた槍の片方を正面の男の首へ突き刺した。
血しぶきをあげている男の剣を奪おうと手を伸ばす。

なっ──。

自分の右手がポトリと地面へ落ちた。
笑みの失せた憤怒の形相をした敵兵士が邪魔をしてきた。
下へ振り下ろした剣が、再び跳ね上がるのが見えた。
視界がめちゃくちゃに動いて地面にこめかみがぶつかった。
見覚えのある首のない身体。
膝をつき、倒れていくのを他人事のように眺める。
首を斬られた。そう考えながら休息に意識が失われていく。

12回目以降は膠着した状態が続いた。
正面の兵士と左側の兵士を相手に刺したり斬られたりを繰り返す。

27回目。
笑っている兵士の左目を奪うともう一度、あの声が聞こえた。
レベルが上がった?
それっていったい何?
そんなことは今はどうでもいい。悩んでいる時間なんて今はない。

左手に巻いた布で正面の男の剣を受け止め、体当たりで剣を奪った。
左隣から迫る剣を一度弾いて、正面の男を切り伏せる。
そこから更に右側・・を狙った。
左側のあの笑みを消した逆上している男から遠ざかりたい。

右側は自陣の兵士が切り倒されたところだった。
だが、隣からくるとは思ってもいなかったようだ。
右側の兵士を切り倒し、さらに隣へ移動する。
正面から2列目の敵兵士が迫ってきた。
結局、正面の敵兵に手こずっている間に左側からあの男が追いついてきた。
左目が見えなくても強い。
2回も剣を防げたのは幸運だったかもしれない。
やはり、この男にやられてしまう。

27回、繰り返したことで、わかってきたことがある。
まず、レベルが上がると、すこしだけ腕の力が強くなる。
あと身体の動きも僅かだが、速くなる気がする。
次に生き残りたいなら、笑っているあの男は相手にしないこと。
戦ったら確実に負けてしまう。
ちょっかいも出さない方がいい。
正面の相手をすぐに倒して右側へ移っていくのが賢明だと気づいた。

倒せる。
笑っている男以外は自分の腕が通用する。

右側へどんどん敵兵を倒しながら進む。
1人目か2人目でやられることもしばしばある。
だが、回数を重ねるに従って倒せる人数が徐々に増えていった。

だが……。

どうしても7人から8人目あたりでやられてしまう。

その理由としては、自分以外のまわりの同胞が倒されてしまうから。
どうしても孤立してしまい、袋叩きにされる。
背後に退きながら、戦っても1人多く倒せるかどうかくらい。

レベルはどんどん上がっている。
たぶん20回近くは上がったと思う。

だが、どんなに動きが良くなってもダメだった。
密集している中、「個」がどんなに強かろうが、限界・・がある。

戦闘が始まる前、陣形を確認していて、あることに気が付いた。
自分が立っている位置は左端から6~7番目くらい。
一方、右側はその十倍以上はある。

今まで、わざわざ敵兵の多い中央へ自ら動いていた……。
だが、左に立っている男は交渉にまったく応じてくれない。

それなら、正面の笑っているあの男……アイツを倒さなければ。

101回目。
まともに正面からぶつかったら、やはり格上だった。
どんなにレベルが上がっても、別格の存在。でも……。

最初の頃よりは、差が縮まっている。
問題は武器の差が大きいこと。
木の棒に尖った石をくくりつけただけの槍。
対するは鉄製の剣、武器だけをとっても、ずいぶんと差が大きい。
加えて剣の腕も一流だ。
なぜ最前線の歩兵なんかに紛れているのか、不思議でしょうがない。

それから100回以上は試行錯誤を繰り返した。

213回目。
槍の穂先を地面にすれすれまで下げて、笑っている男を迎え撃つ。
左右はすでに切り結んでいるが、目の前の兵士は足を止めた。

気づかれたか?
いや、異質な構えを見て警戒しているだけだと思う。

すこし様子を見ていたが、強行することに決めたようだ。
穂先を足で踏んで、動かなくしようと左足が動いた。
そうはさせじと穂先を引いて、跳ね上げる。
笑っている男はその動きを見切っていた。
当たり前のように剣を横に薙いで、槍先を切り落とす。
だが、土を目にかけられたのは予想外だったようだ。
視線を下に向けさせてからのある種飛び道具。
うまく目に入ってようで、動きが一瞬止まる。

散々、試行錯誤して生まれた刹那の好機……。
槍の穂先は草で隠して見せていなかった。
実は尖った石を外しておいた。
その石を懐から取り出し、右手で握る。
男が見せた一瞬の隙を衝き、首に尖った石を突き刺し倒した。

ようやく勝てた。
そこから左右の状況を見つつ左方向へと強引に敵兵を倒しながら進む。

──抜けた。

はじめて混戦から抜け出せた。
ひとり抜け出たことに気が付き、余っていた敵兵が数人ほど殺到する。

前後左右に自由に動けるなら余裕。
後ろに退きながら囲まれないようにして一対一の構図を作る。
複数を相手しながらも、戦況を確認する。

これはまずい……今、はっきりと分かった。
戦争にすらなっていない。
眼前で、ただの一方的な蹂躙劇が映し出されている。

この中で生き残ろうとしていたのが、そもそも無理な話だった。
目の前の男達を切り伏せながら、すばやく背後をみる。

あの林の中へ逃げ込めば、助かる。
目の前に群がる兵士をあっさりとは倒さない。
簡単に倒してしまうと悪目立ちする。
そうなると敵兵がより数を揃えてこちらへ来てしまう。

「なっ?」

背中に痛みが走る。
振り向くと無数の矢が自分へ迫っていた。


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