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人族イーアス編
Chapter 145 ござる!
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「兄者……これはちょっとキツイでござる」
「そう? こう『ボーッ』としながら倒せるようにならないと……」
拙者の名は「サイオン」──今、東大陸の南にあるドォナント領の蜘蛛の巣よりさらに南端にある魔境と言われている森の中で武者修行をしている。
拙者が兄者と呼ぶ人物は鬼人族四派の中で、今もっとも波に乗っているレキオ衆の頭領シュンテイで、あの五年前のこの惑星を守る戦いで女神アリア様に選ばれた七星のひとりでござる。
ちなみに拙者は、三年前までビルドア帝国のロンメル高等技術学院という学び舎におったが、一年生の頃の同級生に二人同じ『七星』がいたのには本当にびっくりしたでござる。やはり当時からあの二人もどこか他の者とは違っていたのは肌身で感じていたでござる。
兄者と拙者の父である頭領が引退し、シュンテイ兄者がレキオ衆の頭領となってからは拙者が若頭になったのだが、兄者が「鍛え方が足りないから少し行こうか?」とちょっとそこまで散歩しよう的な言い方に騙されて、うっかり海を渡り、こんな魑魅魍魎とした魔物の巣窟でひたすら魔物を根絶させようという勢いで終わることの無い闘争を繰り広げているでござる。
拙者だけではなく、拙者の補佐として、ブーテン殿とトルネ殿も連れてこられている。
「シュンテイ、もう三日くらい寝てないけどどうなってるのこれ?」
そう質問したのはブーテン殿。
兄者の幼馴染で拙者も小さい頃から随分と世話なっている人で長鬼棍棒という彼の独自武器で目の前の中鬼とやり合っている。
「うん、これはキズナオールとイメージビタミンVという薬が『どこかの誰か』が作った薬で眠らなくて済むんだよー」
拙者は知っている……。
ロンメル高等技術学院一年の頃に突然、拙者達の前に現れた三英雄譚に出てくる大賢者、初代学院長でもあるザ・ナート様がしこたま拙者達に渡して一週間、二十四時間ひたすら修羅の道を歩まされた時に使われた禁断の秘薬……。
ブイリの森の大樹での戦いの後、ドクターがずっとその複製を試みたが結局、在学中はその成果が出なかった。
「頭領、これはいつまで続けるのでしょうか?」
もうひとりの若頭補佐トルネ殿も兄者に質問する。彼女は、想力スキル特殊系の【三色団子】という三体の小人人形を展開して戦っている。最近では遠距離放出スキルもいくつか覚えたようで、今も【水弾】と呼ばれるスキルで中鬼に撃ち込み怯んだところを小人人形で取り囲んでトドメに持っていこうとしている。
拙者は、刀の剣術での戦闘と勁力系スキル【火箭】を使いこなし、中鬼一体と左右にいる緑小鬼二体を同時に相手にし、これを討ち取る。
補佐の二人よりは拙者の方が、腕が立つでござる。なんと言ってもあのブイリの森の特別強化合宿を乗り切ったのでその前後では拙者自身も実力も恐ろしく成長したことを自覚している。
そういえば、ロンメル高等技術学院の学友たちはどうしているでござるかな?
研究課程に進んだドクター殿とローズ殿以外は皆、二学年の卒業式の時に初めて互いに素性を知ったでござるが、皆、意外な出生だったり聞いたことのある有名人もいたりして大変面白かったでござる。
そんな拙者であるが、兄者には全く歯が立たない……。昔から兄者は天賦の才の片鱗はあったが今の兄者は強さが異常で何かの冗談みたいで笑えてくるでござる。いったい、五年前の惑星を守る戦いで一体何が起きたというのか……。
やはり他の七星に数えられる英雄達も兄者と恐らく化け物揃いであろう。それを考えると自信を失いそうになるでござるが、されど他の三衆「ジャーポ」「ナンワ」「トオサ」の若頭と比べると拙者の方がどうやら頭一個分飛び抜けているのは何となくわかるでござる。ゆえに拙者が決して弱い訳ではなく、ただ兄者が「異常」なだけなのだと常日頃から自分に言い聞かせていないとやってられなくなるでござる。
そんなことを拙者が考えていると、どうやらこの魔の森の主といえる魔物が木々を押し倒してその大きな体が拙者達の前に現れる。
上位恐竜──。竜種だが炎は吐かない。しかし竜よりも体躯が大きく、その発達した強靭な顎で噛みつかれたら、たちまちのうちに全身の骨は砕かれ、身に着けている胴鎧ごと咀嚼されてしまうだろう……。
鬼人族の住むナラク領には冒険者ギルドは存在しないのだが、拙者はロンメル高等技術学院で魔物生態学を受講したので、上位恐竜は通常、冒険者ギルドの脅威度という物差しで計ると『S等級』に分類されるこの世界の最強級の脅威度であることを知っている。
そんな上位恐竜に、兄者はなんの警戒もせずにごく自然に歩み寄っていく……。
『バクッ』──喰われた。ように見えた。
もの凄く素早い上位恐竜の頸部から先の動きに一瞬目が追いきれないほどの速さをみせ、兄者を噛み千切ろうとしたが、その瞬間、兄者の姿が消えたようにもみえた。その後、上位恐竜は自分が何をされたのか理解できないまま頭部がすっと、紅い線が浮き出て噴き出し、ズルっと斜め横に落ちた。
「あっ、ついつい斬っちゃった……サイオンに任せようと思ったのに」
いつの間にか、上位恐竜の背後に立っているシュンテイがしまったと片手で頭を搔き毟る。
いやいや、兄者。これは流石に相手が悪いでござる。拙者ひとりで、はたして勝てたかどうか……。
「うーん、あと十日くらい修行したら『ボーッ』としてても倒せるようになるかも」
「「「ひぃぃぃー」」」
拙者、ブーテン、トルネは三人とも両手を頬にあて悲鳴を上げた。
この荒行をあと十日もやる……。
たった三日でもう勁力は残っているが気力が残っていない。
そんなのを、あと十日もぶっ通しで続けたら、体力や勁力が残っていても、なんか別の意味で倒れてしまいそうである。
まあ、どんなに恐ろしい魔物が現れてもいざとなったら、この世界一頼れる兄者が何とかしてくれるでござる……。ここは期待に応えて全力で頑張るでござるか。
まだ、頬に両手をやり硬直しているブーテンとトルネの二人に拙者は「大丈夫、死ななければ十日経つでござる」と励ましているのかよく分からない声を掛け、とりあえずあまり先のことを考えないようにすることを伝える。
そう……今は拙者たちは「伸びしろ」があるのでここで更に飛躍して、この時代の英雄となった兄者を少しでも支えられる男になるでござる……。
前の方で魔物を無表情で狩っている兄者をみるとやはりいつもと変わらず「ボーッ」としているが、少なくとも、昔のように優柔不断ではなくなった……。
何が兄者を変えたんだろう……。
きっと、答えは兄者についていけばわかるかもしれない……でござる。
「そう? こう『ボーッ』としながら倒せるようにならないと……」
拙者の名は「サイオン」──今、東大陸の南にあるドォナント領の蜘蛛の巣よりさらに南端にある魔境と言われている森の中で武者修行をしている。
拙者が兄者と呼ぶ人物は鬼人族四派の中で、今もっとも波に乗っているレキオ衆の頭領シュンテイで、あの五年前のこの惑星を守る戦いで女神アリア様に選ばれた七星のひとりでござる。
ちなみに拙者は、三年前までビルドア帝国のロンメル高等技術学院という学び舎におったが、一年生の頃の同級生に二人同じ『七星』がいたのには本当にびっくりしたでござる。やはり当時からあの二人もどこか他の者とは違っていたのは肌身で感じていたでござる。
兄者と拙者の父である頭領が引退し、シュンテイ兄者がレキオ衆の頭領となってからは拙者が若頭になったのだが、兄者が「鍛え方が足りないから少し行こうか?」とちょっとそこまで散歩しよう的な言い方に騙されて、うっかり海を渡り、こんな魑魅魍魎とした魔物の巣窟でひたすら魔物を根絶させようという勢いで終わることの無い闘争を繰り広げているでござる。
拙者だけではなく、拙者の補佐として、ブーテン殿とトルネ殿も連れてこられている。
「シュンテイ、もう三日くらい寝てないけどどうなってるのこれ?」
そう質問したのはブーテン殿。
兄者の幼馴染で拙者も小さい頃から随分と世話なっている人で長鬼棍棒という彼の独自武器で目の前の中鬼とやり合っている。
「うん、これはキズナオールとイメージビタミンVという薬が『どこかの誰か』が作った薬で眠らなくて済むんだよー」
拙者は知っている……。
ロンメル高等技術学院一年の頃に突然、拙者達の前に現れた三英雄譚に出てくる大賢者、初代学院長でもあるザ・ナート様がしこたま拙者達に渡して一週間、二十四時間ひたすら修羅の道を歩まされた時に使われた禁断の秘薬……。
ブイリの森の大樹での戦いの後、ドクターがずっとその複製を試みたが結局、在学中はその成果が出なかった。
「頭領、これはいつまで続けるのでしょうか?」
もうひとりの若頭補佐トルネ殿も兄者に質問する。彼女は、想力スキル特殊系の【三色団子】という三体の小人人形を展開して戦っている。最近では遠距離放出スキルもいくつか覚えたようで、今も【水弾】と呼ばれるスキルで中鬼に撃ち込み怯んだところを小人人形で取り囲んでトドメに持っていこうとしている。
拙者は、刀の剣術での戦闘と勁力系スキル【火箭】を使いこなし、中鬼一体と左右にいる緑小鬼二体を同時に相手にし、これを討ち取る。
補佐の二人よりは拙者の方が、腕が立つでござる。なんと言ってもあのブイリの森の特別強化合宿を乗り切ったのでその前後では拙者自身も実力も恐ろしく成長したことを自覚している。
そういえば、ロンメル高等技術学院の学友たちはどうしているでござるかな?
研究課程に進んだドクター殿とローズ殿以外は皆、二学年の卒業式の時に初めて互いに素性を知ったでござるが、皆、意外な出生だったり聞いたことのある有名人もいたりして大変面白かったでござる。
そんな拙者であるが、兄者には全く歯が立たない……。昔から兄者は天賦の才の片鱗はあったが今の兄者は強さが異常で何かの冗談みたいで笑えてくるでござる。いったい、五年前の惑星を守る戦いで一体何が起きたというのか……。
やはり他の七星に数えられる英雄達も兄者と恐らく化け物揃いであろう。それを考えると自信を失いそうになるでござるが、されど他の三衆「ジャーポ」「ナンワ」「トオサ」の若頭と比べると拙者の方がどうやら頭一個分飛び抜けているのは何となくわかるでござる。ゆえに拙者が決して弱い訳ではなく、ただ兄者が「異常」なだけなのだと常日頃から自分に言い聞かせていないとやってられなくなるでござる。
そんなことを拙者が考えていると、どうやらこの魔の森の主といえる魔物が木々を押し倒してその大きな体が拙者達の前に現れる。
上位恐竜──。竜種だが炎は吐かない。しかし竜よりも体躯が大きく、その発達した強靭な顎で噛みつかれたら、たちまちのうちに全身の骨は砕かれ、身に着けている胴鎧ごと咀嚼されてしまうだろう……。
鬼人族の住むナラク領には冒険者ギルドは存在しないのだが、拙者はロンメル高等技術学院で魔物生態学を受講したので、上位恐竜は通常、冒険者ギルドの脅威度という物差しで計ると『S等級』に分類されるこの世界の最強級の脅威度であることを知っている。
そんな上位恐竜に、兄者はなんの警戒もせずにごく自然に歩み寄っていく……。
『バクッ』──喰われた。ように見えた。
もの凄く素早い上位恐竜の頸部から先の動きに一瞬目が追いきれないほどの速さをみせ、兄者を噛み千切ろうとしたが、その瞬間、兄者の姿が消えたようにもみえた。その後、上位恐竜は自分が何をされたのか理解できないまま頭部がすっと、紅い線が浮き出て噴き出し、ズルっと斜め横に落ちた。
「あっ、ついつい斬っちゃった……サイオンに任せようと思ったのに」
いつの間にか、上位恐竜の背後に立っているシュンテイがしまったと片手で頭を搔き毟る。
いやいや、兄者。これは流石に相手が悪いでござる。拙者ひとりで、はたして勝てたかどうか……。
「うーん、あと十日くらい修行したら『ボーッ』としてても倒せるようになるかも」
「「「ひぃぃぃー」」」
拙者、ブーテン、トルネは三人とも両手を頬にあて悲鳴を上げた。
この荒行をあと十日もやる……。
たった三日でもう勁力は残っているが気力が残っていない。
そんなのを、あと十日もぶっ通しで続けたら、体力や勁力が残っていても、なんか別の意味で倒れてしまいそうである。
まあ、どんなに恐ろしい魔物が現れてもいざとなったら、この世界一頼れる兄者が何とかしてくれるでござる……。ここは期待に応えて全力で頑張るでござるか。
まだ、頬に両手をやり硬直しているブーテンとトルネの二人に拙者は「大丈夫、死ななければ十日経つでござる」と励ましているのかよく分からない声を掛け、とりあえずあまり先のことを考えないようにすることを伝える。
そう……今は拙者たちは「伸びしろ」があるのでここで更に飛躍して、この時代の英雄となった兄者を少しでも支えられる男になるでござる……。
前の方で魔物を無表情で狩っている兄者をみるとやはりいつもと変わらず「ボーッ」としているが、少なくとも、昔のように優柔不断ではなくなった……。
何が兄者を変えたんだろう……。
きっと、答えは兄者についていけばわかるかもしれない……でござる。
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