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人族イーアス編
Chapter 143 ぐぼぉぁっ!
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山林国ケルウッドの首都「カプラル」
冒険者ギルドは今日も満員御礼、ひしめく人々の群れに熱気が漂い、喧騒が絶えない。
「ギルド長、どうされました?」
仕切り台の後ろで冒険者達を眺めている俺に受付の女性の一人が声を掛けてくる。
「んーいや……俺が現役の冒険者の頃のことを思い出してちょっと懐かしくなってな……」
ギルド長は口元を綻ばせながらも目だけは少し寂しげで、今日はどこに行こうかと楽しそうに話している冒険者たちを静かに見守っている。
あれから五年……アイツは元気にやっているかな……。
『ドカァッ』──ギルド長が昔のことで物思いに耽けていると、冒険者ギルドの入口近くで何やら剣呑な物音と怒声が聞こえる。
「てめぇ……俺らに盾突くのか、あー?」
みると、昔からこの冒険者ギルドを根城にしている評判の悪い三人組だ……。いい加減大人になるか、いっそ冒険者をやめてくれないかな……。
相手は小人族のまだあどけなさが残る少女で、背中に弓を背負っている……狩人かな? 床に両手をついたまま振り返り、怯えた目で三人組の男達を見上げている。
このギルドでは見たことのない子だ……新米の冒険者かな? 受付の女性は俺の仲裁を期待してこちらを見ている。やれやれ……。
俺は仕切り台の固定具のついた回転台から、出て入口の方に歩いていく。
「おじさん達、まだ人をいじめてるの~、だめだよ?」
え? この声は……。
「おじさんなんだから、もっと大人にならないと?」
俺は目の前にいる冒険者の人の群れを掻き分けて急いで前の方に進み出た。
「テメェ久しぶりじゃねぇか……クソガキ! テメェからぶっ飛ばされてぇのか?」
「前から言おうとしてたけど、おじさん達じゃ僕には敵わないよ~~痛いのはイヤでしょ?」
三人組はそれぞれ自分の得物を抜き放つ。周囲の冒険者たちは、この騒動を取り囲む輪の中に入ってきたギルド長の俺が喧嘩を止めずにただ見守っているのに違和感を覚えているようだ。
『バシッ、バシッ、バシッ』──ちょうどきっかり三発、三人組の槍や剣を掻いくぐって、頬に平手打ちして三人組を壁の所まで吹き飛ばす。みると三人組は壁にぶつかり仲良く気絶している。
「大丈夫~、立てる?」
「あっ、はい〝糸聖マカロニ〟様」
同族である小人族の女の子に手を差し出し、彼女の体を引っ張り起こしてあげる。
糸聖マカロニ──、五年前、この惑星の種の生存を掛けた惑星全体の使命〝コード・プラネット〟でこの世界を守った英雄「七星」のひとり。
「おい……マカロニ……俺だ、俺だよ」
感極まって、俺は小さき英雄の名を呼ぶとマカロニはこちらに振り向く。
「あ~テラフ。元気だった~? ん~テラフなんか老けたねー、すっかりおじさんだね~」
「うるせー! 人は苦労すると老けるのが早いんだよ、って俺はまだおじさんじゃねー!」
久しぶりに味わうこのツッコミの高揚感。生きてて良かった……。
よく見るとマカロニの後ろに想具品【変身帯革】で小人族に成りすましているペンネも立っていた。
★
俺たちは場所を変えて冒険者ギルドの二階にあるギルド長室の中に移動してきた。手前の椅子に腰かけてもらい、俺はギルド長席に腰を落とす。
「あれ? テラフここの責任者になったの~?」
「ああ、そうだぜ、お前らが他の国の依頼に行くって言った後、俺とヒルメイはここのギルド長と副ギルド長になったんだ」
「ふ~ん、それでヒルメイさんは?」
「……んー、いや、その何つーか……実はヒルメイ俺の子どもを身ごもっていて今、家で産休中なんだ」
「そうだろうね~、ヒルメイさんテラフの事好きだったからね~」
「え? そうなの?」
「うん、知らなかったの? やっぱりテラフだね~」
「おいおい、また普通《ナチュラル》に俺を馬鹿にしているな……そうなんだ知らんかった……」
「俺はてっきり女性の敵だと思われてて、いつか背中を刺されやしないかとビクビクしてたのに……」
そうか……そうだったのか。いつもヒルメイから感じる視線は監視イコール殺意だと思っていたが違っていたのか。
「ところでお前ら二人はどこで何やってたんだ?」
俺は二階の事務担当の女性が入れてくれた温かい飲み物を口に運びながら、こいつらチビっ子が五年間どこで何をしてたのか聞いてみることにした。
「うん、僕たちねー【空間転移】使えるようになったから、衛星アリアに〝跳んで〟アリアに会って来たよ~」
「ぶぼぉっ! ゲホゲホっ、おえっ」
俺はど派手に口に含んだ飲み物を吹き出しつつ、器官に入った液体のせいで激しく咳き込みつつ、お昼に食べたチキンを吐きそうになった。
「おっ、お前……まさか女神アリア様に失礼なこと言ってないだろうなぁ?」
「ううん大丈夫だったよ~、なんか天使の女の人達に囲まれて『キャー可愛い』って言われたよー、でもね、フラウって天使がね~僕を見る目が気持ち悪かったよ~」
くっ、お前……ちくしょー。俺も天使様達にチヤホヤされてぇぇぇーーー。
「アリアはね、僕が来ることを知ってたよ『あっやっぱり来たねマカロニ君』って言ってた」
ほう……。俺は事務担当の女性に白い目で見られながらも机を拭いてもらい、もう一度淹れなおしてもらった飲み物に口につける。
「それでね『星を渡る力』を身に着けたから、どっか行く? ってアリアに聞かれたから惑星ピークビットに行きたいって言ったら連れて行ってもらったよ」
『ぐぼぉぁっ!! ぶほぶほっ』
もう一度、口から液体がド派手に噴き出す。俺は慌てて、殺気を漂わせている事務の女性から布巾をお借りして、ぶちまけた己の液体を自分で綺麗にふきふきする。
「そこで、ペンネ君と色々冒険したんだ~、あそこにも冒険者ギルドがあったから僕たち『森の散歩者』って名前で活動したんだよー』」
そうか……そんな遠く離れた惑星でも俺達の一行名を広めてくれるなんてなんていいやつだ。
(デモ、マカロニ君ガ、ハッキリ物ヲ言イ過ギテ、向コウノ国王様ヲ怒ラセテ指名手配サレマシタ『森ノ散歩者』トイウ名前デ)
まじか……お前、よそ様の惑星でもヤラかしちゃったのか……。
「それで帰ってきたの~。そういえば斥候のラキはどうしたの?」
「あー、兎人の斥候か……アイツはあの事件のあと『やっぱり貴方たちにはこれ以上ついていけないっす』て言って、すぐ辞めちまったよ、なんでかなー?」
「ふーん、やっぱりテラフについていけなかったのかなー?」
「そりゃどういう意味だ……ところでそこの小人族の子はどうするんだ?」
俺はマカロニとペンネの傍に、おどおどして座っている先ほど三人組に絡まれていた小人族の少女を見た。
「うん、この子と僕たちの三人で組んでこのカプラルで新生『森の散歩者』をやるって、さっき決めたんだ~」
え? そうなの? まあ俺やヒルメイ、ラキはもうその名前を名乗っていないから名前を継ぐというなら異存はない……が。
「お前……『く・れ・ぐ・れ・も』その一行名で余計なことをするなよ?」
俺は改めて三人を客観的な目で見てみる。
元魔物──。
おどおどした新人──。
何しでかすか未だにわからないヤバい奴──。
──うん、ダメだなこりゃ。
「じゃあ、そろそろ僕たち行くねー」
「……おう、気をつけろよ」
マカロニとペンネと新人の小人族の女の子三人はピョイっと椅子から降りて部屋を出ていった。小さいな……トリプルミニスターとかの名前の方が売れるんじゃないか? でもアイツが選んだんだ「森の散歩者」を継ぐって……。
思えば問題発生機のせいで色々大変だったし、ひどい目にも遭わされた。でも悪いことばかりでもない。いいことだってちゃんとあった。しかしミルミウ山で崖から飛び降りたのは今でも根に持っていたりするが、それを口にしたら以前ヒルメイにああしなかったらマカロニは生き残れても俺とヒルメイは助からなかったと語ったことがあった……。
──まあ、なんだ……俺は色々とコイツの事を文句言うが、実は大好きだ……。
あっ、変な意味じゃないよ?
このことはウチのもんには、くれぐれも内密に……。
冒険者ギルドは今日も満員御礼、ひしめく人々の群れに熱気が漂い、喧騒が絶えない。
「ギルド長、どうされました?」
仕切り台の後ろで冒険者達を眺めている俺に受付の女性の一人が声を掛けてくる。
「んーいや……俺が現役の冒険者の頃のことを思い出してちょっと懐かしくなってな……」
ギルド長は口元を綻ばせながらも目だけは少し寂しげで、今日はどこに行こうかと楽しそうに話している冒険者たちを静かに見守っている。
あれから五年……アイツは元気にやっているかな……。
『ドカァッ』──ギルド長が昔のことで物思いに耽けていると、冒険者ギルドの入口近くで何やら剣呑な物音と怒声が聞こえる。
「てめぇ……俺らに盾突くのか、あー?」
みると、昔からこの冒険者ギルドを根城にしている評判の悪い三人組だ……。いい加減大人になるか、いっそ冒険者をやめてくれないかな……。
相手は小人族のまだあどけなさが残る少女で、背中に弓を背負っている……狩人かな? 床に両手をついたまま振り返り、怯えた目で三人組の男達を見上げている。
このギルドでは見たことのない子だ……新米の冒険者かな? 受付の女性は俺の仲裁を期待してこちらを見ている。やれやれ……。
俺は仕切り台の固定具のついた回転台から、出て入口の方に歩いていく。
「おじさん達、まだ人をいじめてるの~、だめだよ?」
え? この声は……。
「おじさんなんだから、もっと大人にならないと?」
俺は目の前にいる冒険者の人の群れを掻き分けて急いで前の方に進み出た。
「テメェ久しぶりじゃねぇか……クソガキ! テメェからぶっ飛ばされてぇのか?」
「前から言おうとしてたけど、おじさん達じゃ僕には敵わないよ~~痛いのはイヤでしょ?」
三人組はそれぞれ自分の得物を抜き放つ。周囲の冒険者たちは、この騒動を取り囲む輪の中に入ってきたギルド長の俺が喧嘩を止めずにただ見守っているのに違和感を覚えているようだ。
『バシッ、バシッ、バシッ』──ちょうどきっかり三発、三人組の槍や剣を掻いくぐって、頬に平手打ちして三人組を壁の所まで吹き飛ばす。みると三人組は壁にぶつかり仲良く気絶している。
「大丈夫~、立てる?」
「あっ、はい〝糸聖マカロニ〟様」
同族である小人族の女の子に手を差し出し、彼女の体を引っ張り起こしてあげる。
糸聖マカロニ──、五年前、この惑星の種の生存を掛けた惑星全体の使命〝コード・プラネット〟でこの世界を守った英雄「七星」のひとり。
「おい……マカロニ……俺だ、俺だよ」
感極まって、俺は小さき英雄の名を呼ぶとマカロニはこちらに振り向く。
「あ~テラフ。元気だった~? ん~テラフなんか老けたねー、すっかりおじさんだね~」
「うるせー! 人は苦労すると老けるのが早いんだよ、って俺はまだおじさんじゃねー!」
久しぶりに味わうこのツッコミの高揚感。生きてて良かった……。
よく見るとマカロニの後ろに想具品【変身帯革】で小人族に成りすましているペンネも立っていた。
★
俺たちは場所を変えて冒険者ギルドの二階にあるギルド長室の中に移動してきた。手前の椅子に腰かけてもらい、俺はギルド長席に腰を落とす。
「あれ? テラフここの責任者になったの~?」
「ああ、そうだぜ、お前らが他の国の依頼に行くって言った後、俺とヒルメイはここのギルド長と副ギルド長になったんだ」
「ふ~ん、それでヒルメイさんは?」
「……んー、いや、その何つーか……実はヒルメイ俺の子どもを身ごもっていて今、家で産休中なんだ」
「そうだろうね~、ヒルメイさんテラフの事好きだったからね~」
「え? そうなの?」
「うん、知らなかったの? やっぱりテラフだね~」
「おいおい、また普通《ナチュラル》に俺を馬鹿にしているな……そうなんだ知らんかった……」
「俺はてっきり女性の敵だと思われてて、いつか背中を刺されやしないかとビクビクしてたのに……」
そうか……そうだったのか。いつもヒルメイから感じる視線は監視イコール殺意だと思っていたが違っていたのか。
「ところでお前ら二人はどこで何やってたんだ?」
俺は二階の事務担当の女性が入れてくれた温かい飲み物を口に運びながら、こいつらチビっ子が五年間どこで何をしてたのか聞いてみることにした。
「うん、僕たちねー【空間転移】使えるようになったから、衛星アリアに〝跳んで〟アリアに会って来たよ~」
「ぶぼぉっ! ゲホゲホっ、おえっ」
俺はど派手に口に含んだ飲み物を吹き出しつつ、器官に入った液体のせいで激しく咳き込みつつ、お昼に食べたチキンを吐きそうになった。
「おっ、お前……まさか女神アリア様に失礼なこと言ってないだろうなぁ?」
「ううん大丈夫だったよ~、なんか天使の女の人達に囲まれて『キャー可愛い』って言われたよー、でもね、フラウって天使がね~僕を見る目が気持ち悪かったよ~」
くっ、お前……ちくしょー。俺も天使様達にチヤホヤされてぇぇぇーーー。
「アリアはね、僕が来ることを知ってたよ『あっやっぱり来たねマカロニ君』って言ってた」
ほう……。俺は事務担当の女性に白い目で見られながらも机を拭いてもらい、もう一度淹れなおしてもらった飲み物に口につける。
「それでね『星を渡る力』を身に着けたから、どっか行く? ってアリアに聞かれたから惑星ピークビットに行きたいって言ったら連れて行ってもらったよ」
『ぐぼぉぁっ!! ぶほぶほっ』
もう一度、口から液体がド派手に噴き出す。俺は慌てて、殺気を漂わせている事務の女性から布巾をお借りして、ぶちまけた己の液体を自分で綺麗にふきふきする。
「そこで、ペンネ君と色々冒険したんだ~、あそこにも冒険者ギルドがあったから僕たち『森の散歩者』って名前で活動したんだよー』」
そうか……そんな遠く離れた惑星でも俺達の一行名を広めてくれるなんてなんていいやつだ。
(デモ、マカロニ君ガ、ハッキリ物ヲ言イ過ギテ、向コウノ国王様ヲ怒ラセテ指名手配サレマシタ『森ノ散歩者』トイウ名前デ)
まじか……お前、よそ様の惑星でもヤラかしちゃったのか……。
「それで帰ってきたの~。そういえば斥候のラキはどうしたの?」
「あー、兎人の斥候か……アイツはあの事件のあと『やっぱり貴方たちにはこれ以上ついていけないっす』て言って、すぐ辞めちまったよ、なんでかなー?」
「ふーん、やっぱりテラフについていけなかったのかなー?」
「そりゃどういう意味だ……ところでそこの小人族の子はどうするんだ?」
俺はマカロニとペンネの傍に、おどおどして座っている先ほど三人組に絡まれていた小人族の少女を見た。
「うん、この子と僕たちの三人で組んでこのカプラルで新生『森の散歩者』をやるって、さっき決めたんだ~」
え? そうなの? まあ俺やヒルメイ、ラキはもうその名前を名乗っていないから名前を継ぐというなら異存はない……が。
「お前……『く・れ・ぐ・れ・も』その一行名で余計なことをするなよ?」
俺は改めて三人を客観的な目で見てみる。
元魔物──。
おどおどした新人──。
何しでかすか未だにわからないヤバい奴──。
──うん、ダメだなこりゃ。
「じゃあ、そろそろ僕たち行くねー」
「……おう、気をつけろよ」
マカロニとペンネと新人の小人族の女の子三人はピョイっと椅子から降りて部屋を出ていった。小さいな……トリプルミニスターとかの名前の方が売れるんじゃないか? でもアイツが選んだんだ「森の散歩者」を継ぐって……。
思えば問題発生機のせいで色々大変だったし、ひどい目にも遭わされた。でも悪いことばかりでもない。いいことだってちゃんとあった。しかしミルミウ山で崖から飛び降りたのは今でも根に持っていたりするが、それを口にしたら以前ヒルメイにああしなかったらマカロニは生き残れても俺とヒルメイは助からなかったと語ったことがあった……。
──まあ、なんだ……俺は色々とコイツの事を文句言うが、実は大好きだ……。
あっ、変な意味じゃないよ?
このことはウチのもんには、くれぐれも内密に……。
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