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人族イーアス編
Chapter 123 最強の証
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─西大陸ナラク、レキオ領─
戦うこと丸一日、あれほど溢れかえっていた周囲の黒い魔物も姿が見えなくなった。
「先に進むぞ!」
金剛ジンの合図により、止まっていた足を先に進める。空の黒い雲から漏斗状の雲が下に伸びている場所に……。その場所に近づくにつれ、漏斗状の黒い雲が雷を帯び、雲の中を稲光が明滅しているのが鮮明に見えてくる。雲の尾の真下に『無明』の一人が、宙に浮いたまま、両手を広げ、目を瞑って祈りを捧げている。
「おーい、そこのヤツ、もうお前ひとりになったぞー!」
鬼人族は、義を尊び重んじる。不意打ちなど恥じるべき行為は行うはずもないが、シュンテイは過去に一度、トオサのシマツのしでかしたことを目撃しているので、正しき鬼人族の誇りとその在り方を、目の前の英雄から学ばせてもらっている。
『無明』の一人が薄く目を開き、こちらに語りはじめた。
「思ったより早かったな、お前……見たことがある……確か鬼人族の『暴れん坊ジン』だったか」
「ははっ、これは随分と懐かしい呼び名を言ってくれる……。いかにも鬼人族のジンだ……」
金剛ジンは一歩前に進み出て、構える。
「降りて来いよ?」
「我の名は、無明が一翼、ベネトナシュ、主のお力により、我は『超越なる存在』となった……人の子など、もはや取るに足らぬ……」
ベネトナシュはゆっくり静かに、地に降り立つ。それはまるで、空の上にいる天使様が降臨したかのように……。
「【金剛杵】」
金剛ジンの星泳力スキル……金属の杵を発現し、エネルギー状の金色の光の刃を両側から伸ばし双頭の槍となる。
「おおおおお!」
金剛ジンが雄叫びを上げ、ベネトナシュに突撃する。
「【百車光輪】」
「【舜火鷲刀】」
蛍火カルノアと、シュンテイのスキルが、金剛ジンを左右から追い越してベネトナシュに迫る。
『ゴオオオ!』──蛍火カルノアの地を高速で駆けていく光の車輪と、シュンテイの火焔の鷲が曲線を描きベネトナシュに到達し大爆発を起こす。
金剛ジンは勢いをそのままに煙の中に飛び込んでいくと、爆煙の中で、火花が散り始める。
煙が霧散し、姿が見え始めるとジンと、ベネトナシュが激しく刃を交えていた。
ベネトナシュの手には、片手剣が握られており、ジンの軌跡を描いて光る高速の槍を難なく受け止めている。
「こんなものか……、ではそろそろ、終わらせてやろう」
ジンの槍を大きく跳ね上げ、片手剣で胸部を刺し貫こうとする。しかし、ベネトナシュの片手剣を、シュンテイが横から己の刀で軌道を逸らしたことによって、ジンは大事を免れた。
二人掛かりで、ベネトナシュに次々と刃を撃ち込んでいく……。
嘘でしょ……、自分とジン様の二人掛かりでも倒しきれない……。
既に、英雄スキル【黒刀】を使っている……、なのに斬れない。
『ザシュ』──ベネトナシュの大振りの横薙ぎにシュンテイは、間一髪、躱し難を逃れたが、金剛ジンがその剣の刃に補足された。
片手が宙を舞い、右腕から紅い鮮血が噴出してジンが片膝をつく……。
殺らせたまるかっ!?
ジンの前に立ちはだかり、壁となる。強烈な剣圧に、腕ごと刀が持っていかれそうになるのを必死に堪える。その直後、かなり離れたところで光の柱が天に昇り始める。その数、五つ……。
地面が白く光り、同時にベネトナシュに異変が起きる。
「ぐっ、おのれ! 女神の『使い』め!!」
今だ! 極端に動きの鈍ったベネトナシュに持てる力すべてを使い、切り刻んでいく……。
「ぐはっ、……やりおるな、若き『器』よ……、だが、我の為すべきことは終えた……、もう一度冥府に舞い戻り、主らの絶望に歪む顔を見届けようぞ!」
ベネトナシュはそう言い残すと黒い煙となって、上空に昇って行った。先ほどの光は、あの獅子の面がやったのかな? 金剛ジンに丸薬を飲ませ、すぐに止血を行っていると、ザ・ナートから【念話】が入った。
「え? そんな……」
★
「ギル君、ちょっと踏ん張っといてー」
「あまり保たないので、早めにお願いします。ザ・ナート様」
「【炎龍刻印】」
炎龍ギルと呼ばれる所以である星泳力スキルを発動すると身体中に炎の鎧を纏う。
彼が惑星最強であることを示す代名詞……。
「無明」のミザールとの戦闘が始まるとザ・ナートはすぐに、ギルに前衛を託し、超高等スキルの準備に取り掛かる。
互いの攻撃で、その一発一発が爆発したように轟音と周囲の空気が震える。クルトは一人、この凄まじい戦いをただ、見守っている。ギルに加勢するなどとんでもない、あの戦闘範囲に入ったら、一撃で消し飛ばされる……。
すごい……、自分の親父の本気を初めて見たが、この惑星最強であることを十二分にわかった……いや、『理解らさせられた』。
「……準備完了、お疲れギル君、離れていいよー」
ザ・ナートの準備が整ったようだ、ギルに合図を送る。
「【煉獄黒滅釜】」
深紅の鎖がミザールの体に幾条も伸びていくが、それを脅威とみて、ミザールは必死に深紅の鎖をよけ続けるが、背後に回り込んだギルの蹴りを受け動きが乱れた瞬間、鎖がミザールを捉えた。そして、そのまま下にある巨大な釜に引きずり込んでいく。
それで、終わった……。巨大な釜の中の岩漿のように煮えたっている中に浸かると程なくしてミザールは黒煙と変り果て、空に昇って行った。
一見、簡単に見えるが、大賢者と最強龍人だからこそ成し得ることで、他の班の人たちはこんなに簡単には行かないだろう……。
「いっちょあがりー、ふむ……『下位天使級』といったところか、これは何組か荷が重いかもね……」
「ザ・ナート様、他の者たちは大丈夫ですかな?」
「うん、じゃあちょっと他のところ見てみるねー」
ザ・ナートがそういうと、人形のように動きが止まった。……大丈夫なのか、これ?
「『視て』きたよー、大丈夫かな……まあとりあえず船に戻ろうか?」
再びザ・ナートが動き出し、俺らにスキル【空間転移】を発動した。
戦うこと丸一日、あれほど溢れかえっていた周囲の黒い魔物も姿が見えなくなった。
「先に進むぞ!」
金剛ジンの合図により、止まっていた足を先に進める。空の黒い雲から漏斗状の雲が下に伸びている場所に……。その場所に近づくにつれ、漏斗状の黒い雲が雷を帯び、雲の中を稲光が明滅しているのが鮮明に見えてくる。雲の尾の真下に『無明』の一人が、宙に浮いたまま、両手を広げ、目を瞑って祈りを捧げている。
「おーい、そこのヤツ、もうお前ひとりになったぞー!」
鬼人族は、義を尊び重んじる。不意打ちなど恥じるべき行為は行うはずもないが、シュンテイは過去に一度、トオサのシマツのしでかしたことを目撃しているので、正しき鬼人族の誇りとその在り方を、目の前の英雄から学ばせてもらっている。
『無明』の一人が薄く目を開き、こちらに語りはじめた。
「思ったより早かったな、お前……見たことがある……確か鬼人族の『暴れん坊ジン』だったか」
「ははっ、これは随分と懐かしい呼び名を言ってくれる……。いかにも鬼人族のジンだ……」
金剛ジンは一歩前に進み出て、構える。
「降りて来いよ?」
「我の名は、無明が一翼、ベネトナシュ、主のお力により、我は『超越なる存在』となった……人の子など、もはや取るに足らぬ……」
ベネトナシュはゆっくり静かに、地に降り立つ。それはまるで、空の上にいる天使様が降臨したかのように……。
「【金剛杵】」
金剛ジンの星泳力スキル……金属の杵を発現し、エネルギー状の金色の光の刃を両側から伸ばし双頭の槍となる。
「おおおおお!」
金剛ジンが雄叫びを上げ、ベネトナシュに突撃する。
「【百車光輪】」
「【舜火鷲刀】」
蛍火カルノアと、シュンテイのスキルが、金剛ジンを左右から追い越してベネトナシュに迫る。
『ゴオオオ!』──蛍火カルノアの地を高速で駆けていく光の車輪と、シュンテイの火焔の鷲が曲線を描きベネトナシュに到達し大爆発を起こす。
金剛ジンは勢いをそのままに煙の中に飛び込んでいくと、爆煙の中で、火花が散り始める。
煙が霧散し、姿が見え始めるとジンと、ベネトナシュが激しく刃を交えていた。
ベネトナシュの手には、片手剣が握られており、ジンの軌跡を描いて光る高速の槍を難なく受け止めている。
「こんなものか……、ではそろそろ、終わらせてやろう」
ジンの槍を大きく跳ね上げ、片手剣で胸部を刺し貫こうとする。しかし、ベネトナシュの片手剣を、シュンテイが横から己の刀で軌道を逸らしたことによって、ジンは大事を免れた。
二人掛かりで、ベネトナシュに次々と刃を撃ち込んでいく……。
嘘でしょ……、自分とジン様の二人掛かりでも倒しきれない……。
既に、英雄スキル【黒刀】を使っている……、なのに斬れない。
『ザシュ』──ベネトナシュの大振りの横薙ぎにシュンテイは、間一髪、躱し難を逃れたが、金剛ジンがその剣の刃に補足された。
片手が宙を舞い、右腕から紅い鮮血が噴出してジンが片膝をつく……。
殺らせたまるかっ!?
ジンの前に立ちはだかり、壁となる。強烈な剣圧に、腕ごと刀が持っていかれそうになるのを必死に堪える。その直後、かなり離れたところで光の柱が天に昇り始める。その数、五つ……。
地面が白く光り、同時にベネトナシュに異変が起きる。
「ぐっ、おのれ! 女神の『使い』め!!」
今だ! 極端に動きの鈍ったベネトナシュに持てる力すべてを使い、切り刻んでいく……。
「ぐはっ、……やりおるな、若き『器』よ……、だが、我の為すべきことは終えた……、もう一度冥府に舞い戻り、主らの絶望に歪む顔を見届けようぞ!」
ベネトナシュはそう言い残すと黒い煙となって、上空に昇って行った。先ほどの光は、あの獅子の面がやったのかな? 金剛ジンに丸薬を飲ませ、すぐに止血を行っていると、ザ・ナートから【念話】が入った。
「え? そんな……」
★
「ギル君、ちょっと踏ん張っといてー」
「あまり保たないので、早めにお願いします。ザ・ナート様」
「【炎龍刻印】」
炎龍ギルと呼ばれる所以である星泳力スキルを発動すると身体中に炎の鎧を纏う。
彼が惑星最強であることを示す代名詞……。
「無明」のミザールとの戦闘が始まるとザ・ナートはすぐに、ギルに前衛を託し、超高等スキルの準備に取り掛かる。
互いの攻撃で、その一発一発が爆発したように轟音と周囲の空気が震える。クルトは一人、この凄まじい戦いをただ、見守っている。ギルに加勢するなどとんでもない、あの戦闘範囲に入ったら、一撃で消し飛ばされる……。
すごい……、自分の親父の本気を初めて見たが、この惑星最強であることを十二分にわかった……いや、『理解らさせられた』。
「……準備完了、お疲れギル君、離れていいよー」
ザ・ナートの準備が整ったようだ、ギルに合図を送る。
「【煉獄黒滅釜】」
深紅の鎖がミザールの体に幾条も伸びていくが、それを脅威とみて、ミザールは必死に深紅の鎖をよけ続けるが、背後に回り込んだギルの蹴りを受け動きが乱れた瞬間、鎖がミザールを捉えた。そして、そのまま下にある巨大な釜に引きずり込んでいく。
それで、終わった……。巨大な釜の中の岩漿のように煮えたっている中に浸かると程なくしてミザールは黒煙と変り果て、空に昇って行った。
一見、簡単に見えるが、大賢者と最強龍人だからこそ成し得ることで、他の班の人たちはこんなに簡単には行かないだろう……。
「いっちょあがりー、ふむ……『下位天使級』といったところか、これは何組か荷が重いかもね……」
「ザ・ナート様、他の者たちは大丈夫ですかな?」
「うん、じゃあちょっと他のところ見てみるねー」
ザ・ナートがそういうと、人形のように動きが止まった。……大丈夫なのか、これ?
「『視て』きたよー、大丈夫かな……まあとりあえず船に戻ろうか?」
再びザ・ナートが動き出し、俺らにスキル【空間転移】を発動した。
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