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人族イーアス編

Chapter 102 星人(ほしびと)

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 アレンを失い、ひどく落ち込んでいるイーアスのために気を持ち直してもらうためにザ・ナートが他のことに当たるよう指示した。

 各国から集まった部隊は地下迷宮の魔物がマイネの封印により、外に出てこない事実を受け、当面の脅威が去ったことから、半数ほど自国に帰還した。その中には七雄の三人の面々も含まれている。

 各国とも少なからず、物資の消耗や負傷者を出している。しかし今回の大規模戦闘での最大の損失は赤星アレンというこの世界を事実上、けん引していた偉大人物の消失であった。自由国オルオにとって、これほど類を見ない損害は他に無い……。

 イーアスらは、地下迷宮討伐後もザ・ナート様の配下に置かれ現在、ヴァンとロレウの三人でビルドア帝国の北西に位置するブイリの森に来ている。

 ブイリの森は、自由国オルオ北東に位置する辺境の村「アンク」にもほど近く、地下迷宮ダンジョンから一日半程度で来れた。

 特に冒険者ギルドの依頼という訳ではない。ブイリの森の巨人族の住むところに行けばわかるとザ・ナート様から言われている。チャイチャイさんとモンテールはザ・ナート様から違う任務で行動を別にしている。

 森の奥に進んで行くと、巨大な家が数軒建っているところに辿りついた。僕らが立ち止まって様子をみていると、建物の一つから巨人族の女性が出てきた。まるで僕らがやってくるのを知っていたかのように何食わぬ顔で手招きされた。そのまま建物のあるところを抜け、大きな洞窟の前まで案内した。

「ここは時を司る天使様にまつわる聖なる場所……『神の粒選り』の皆さんどうぞ中へ」

 短い説明で中に入るようにと言われ、そのまま洞窟の中に入っていく。洞窟の中なのに鉱石に蛍光石が含まれているのか、ほんのりと明るさを保っており、松明無しでも前に進んでいける。

 しばらく歩くと、広い空間で湖のある場所に出る。湖の真ん中に小さな島があり、島の上には見たことのない建築様式の建物が建てられている。その島に渡るための橋が手前から伸びており、木でできた通路部が弓なりに曲がった不思議な橋を渡っていく……。

 島に渡り建物の前まで来ると、中から扉を開けて入ってくるようにと声がした。扉を開け中を覗くと、これまた見たことのない全身を白衣で身を包んでいる女性が、奥で足を畳んで座り静かにこちらを見ている。中へ進み、近づいていくと手前でヴァンとロレウが同じように足を畳んで座ったので、それに倣う。

「ようこそ、おいでになられました。私は天使トイトー様と縁のある『星人ほしびと』と呼ばれるものです」

 星人……。初めて聞く名だ。

「人の子でありながらトイトー様を信奉する貴方に一つ見せたいものがあります」

 そういうと、白衣の女性と僕たちの真横の何の変哲もない空間に四角の透明な板のようなものが浮き出る。その中に例の地下迷宮の中が映し出されていた。西側諸国の合同軍により、あれほど魔物を殲滅したのにまた魔物で溢れかえっている。中の観ている場所が変わっていき、僕たちの知らない場所が映し出された。

 これは十階層……⁉ どんどん奥の方に視点が進んで行き、奥の方の巨大な空間が映し出され、奥にとんでもない大きさの何かが座っている。

 これって……確か……。

「なんか、アンク村を防衛してた時に一体だけ『とんでもないの』がいたけどソイツに似てるな……」

 ヴァンが、思い出したことを口にした。そう……ロレウとほぼ互角に戦いを演じたあの謎の生き物……。

「これは “悪魔” と呼ばれる魔物。本来この惑星にはいないものなんですが『色々・・』あって、ここに現れてしまったようです」

 悪魔……。この世界の生物とは違う異質の存在……。僕は映し出されている『あるもの』を見つけた瞬間、がばっと立ち上がり、四角く平たいものを両手で触れようとするが、手が突き抜けてしまった。

「イーアス、俺達が見えないから大人しく座って見ろ!」

 ヴァンに怒られ、おとなしく座るものの興奮して、じっとしていられない。

 生きている? 
 アレンが……。

 アレンは十階層のあの巨大な悪魔の脇にある鉄格子が嵌められている牢屋の様なところに手足を拘束されて座らされている。急に四角い板の映っていたものが黒くなって何も見えなくなった。

「こちらにられていることに気付いたようですね……貴方にみせたかったのは“希望”です……そしてあなた自身も皆の希望となるのです」

 白衣の女性は目を少し細めて、横に置いてあった扇子を手にとり、口元を隠して言葉を続ける。

「あなたは本来、私達の未来視では、あの地下迷宮の竜の間で死ぬこと運命にあったのですが、さる方の『お戯れ』で私たちの視ていたものと現実に相違点が生じました」

「……」

「このことが今後、どう影響を与えていくのか誰にもわかりませんが、貴方は『生かされた』以上、その生を全うし、自分のやるべきことを見つけてください」

 僕は黙って、話を聞いていた。死ぬ運命にあったものを誰かが救ってくれた⁉ 薄々は感じている……恐らく天使様のどなたかが僕の運命を変えてくれた。

 僕に〝標〟を与えてくださったのも、僕がまだやるべきことがあるから『そうされた』のだ! でも、その前にまず僕のためだけではなく皆の……この世界の〝希望〟を救いに行かないと!?

 僕は礼を伝え、ヴァン達と出て行こうとすると白衣の女性が呼び止める。

「どうやら、貴方たちをお迎えに来たもの達がいるようですね……外に出てみなさい」

 白衣の女性にそう言われ、洞窟の外に出てみると僕らの上空に船が浮かんでいる……。

 ──なにこれ?
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