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人族イーアス編

Chapter 089 再戦(リベンジマッチ)

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「ふーん、分身体がね……」
「すごく助かったよ、一号と一号と名乗ってたけど……」
「ウーンまあ俺が二人いたら、いかにも言い出しそうではある」
「分身体の記憶は覚えてないの?」

「イヤ、普通は吸収される時に記憶も一緒の本体に入ってくるんだけど、あの時、距離ができて精神接続コネクションが切れちゃってたから、記憶も取り込めないまま消えちゃったみたいだな」

(そんな……後で会おうって言ってたのに……一号、二号の嘘つき)

「でも、また分身体を作ったら、きっと『また同じこと』をするぜっ……だって俺だもん?」

 現在、地下迷宮を出口に向かって引き返しているが途中、大鬼オーガ中鬼ホブゴブリンと遭遇し戦闘しているが、ロレウの隣でだいぶ魔物の捌き方に慣れたのか、ヴァンとおしゃべりしながら大鬼の棍棒を受け止め、はじき返す。

「んで〝竜殺し〟ドラゴンスレイヤーか……とんでもない見習い騎士もいたもんだ!」

「あれは、ヴァンの分身体達の作戦とこの子達三匹の幻獣がいたから……ボクは最期にただ弱点の喉に斧を振るっただけだし」

「いやいや、ドラゴンが相手なんだから足が竦んで飛び込めないでしょ普通?」

 やはりロレウには全く歯が立たないものの、大鬼と中鬼の数体は自分の方で倒すことができた……。
 幾分かはマシになった気がする。

「にしても、二匹そいつらっていったい何なんだろうな?」

 ヴァンはキューコンをみて不思議そうにぼやく。

「この達は『星獣』といって、きっと幻獣の仲間ですよ」

 ヴァンのつぶやきにチャイチャイが返事をする──。
 星獣という名前を初めて聞いた。

 そうか、チャイチャイさんってスキル【鑑定】を持ってたんだった。

「で? 星獣って何なのチャイチャイさん」
「さて、それは私も分かり兼ねます……ステータスはブロックされていて、種別名のところだけしか見れませんから」

 ヴァンが「ふーん」と鼻を鳴らし、もうひとつ質問する。

「ちゃんとした名前ってあるの? コイツら」
「ええ、まず『白猫きなこ』と『黒猫みたらし』は〝ケット・シー〟」

「狐のコンが〝フー・シェン〟鳥のキューが〝フレスベルグ〟」

 うわぁ……この子達って皆、スゴイかっこいい名前の生き物だったんだねー。

「なんか……たぶん『アレ』だな?」
「ええ、おそらく『アレ』でしょう……」

 え、なに……「アレ」とは?
 イーアスが、混乱しているとロレウが話しかけてきた。

「今は、気にされない方がいいですよ」
「そうなんだ。ありがとうロレウ」

 びっくりしたー。普段、喋らないのでちょっと非現実的な美形な女性ひとだから最近、動く人形に見えてたんだよなー。

「……それより黒い煙ってのを、もう少し詳しく教えてくれ」

 自分とロレウが、短いやり取りをしている間にヴァンとチャイチャイの話は例の黒い煙の話になっていた。

「俺《ヴァン》たちが、来る少し前に単眼鬼サイクロプスを一撃で串刺しにして食ったんだったっけ?」
「うん……見てるだけで身体が震えそうになるのを必死に堪えてたよ……そういえば星獣達が凄く毛を逆立ててたよ」

「ふーん、星獣がねぇ……ダメだ、さっぱり分からん。ザ・ナートだったらわかるかもなー」
「ザ・ナート様って、あの?」
「そう、あの伝説の人物さ……俺も最初は嘘くせーって思ったけど、実力は本物だった」

「でもなー、意外と秘密主義で大事なところは何も教えてくれないんだよなー。あと人格がおかしい。ありゃ中身はお爺ちゃんじゃないぞ? きっと」

 へー、どんな人物なんだろう? ヴァンの話す『ザ・ナート様』と歴史書に登場する三人の英雄のひとりでは随分と捉える印象が違う。

 そんなことを話していると、自分が落下した岩橋のところまで戻ってきた。

 あれ? 橋が元に戻っている⁉

「いったい、何なんだろうな? 地下迷宮ダンジョンって『そもそも』誰がこんなの作ったんだ?」

 ヴァンがぼやきを聞いて、はっと気が付く。言われてみればそう……『何のために』、『誰のために』作られたんだろう? 岩橋を渡り切ったところで、先の通路から無数の眼が光るのが見えた。

「皆、お願い僕にやらせて」

 イーアスがそう言うと、ロレウは構えを解き、チャイチャイもスキルの発動を中止キャンセルする。

 橋が落ちて、危うく命を落としそうになった因縁深い相手……。銀狼シルバーウルフが、通路の幅いっぱいに広がり、徐々に距離を詰めてくる。

 僕と銀狼達は、ある程度距離が縮まると互いに地面を蹴った。

「うぉぉぉぉ」橋が落ちる前に対峙した時は、一匹も捉えられなかった銀狼が、僕が繰り出す戦斧に面白いように捕捉され切り刻まれる。

 銀狼を骨ごと砕いたり岩橋から叩き落としたりと、その数を減らしていると奥で何かが光った。 本能的に斧を盾代わりに防御の姿勢を取る。岩橋を一撃で壊した強力な石礫、スキル【石礫弾ストーンショット】が全身に直撃し、後方に吹き飛ばされた。

 くっ。

 身体全身が悲鳴をあげている……痛い……。身体中から血が出て、腕の骨も折れた。何とか起き上がって構えを取るが、満身創痍で満足に戦えないことは自分でも百も承知だ……。

 でも……諦めない。

「おーい、イーアス」
「何? 今取り込み中なんだけど……んぐぅっ!?」

 ふと後方で待機してるヴァンがのんびりとした声で呼びかけてきた。後にしてくれと返事をしようと振り返った瞬間、口に何かを投げ込まれた。

 驚いた……。身体中の傷がみるみる消え、使い果たした体力も元に戻る。回復薬を無理やり飲ませたのは、僕が断るかもと気を利かしたのだろう……。さすがあの分身体達の『本体』だけのことはある。

 力を取り戻した僕はもう一度、敵戦力を確認する。リーダーの他にまだ十頭くらいは残っている。素早く銀狼達に襲い掛かる。後ろの銀狼のリーダーはもう一度行動不能に追い込もうと【礫弾ストーンショット】発射のためにエネルギーをため込んでいる。

再投射充填中リキャストタイムの間に決着ケリをつける……)

「おぉぉぉぉぉ!」──次々と飛び掛かってくる銀狼を先ほどよりも更に鋭く戦斧を振るい、蹴散らしながら銀狼の長を間がけて突撃していく。
 銀狼の長は、先にこちらの攻撃が己に届くことを察知した。スキルの充填を中止し、後ろへ飛び退こうとする。

 遅いっ! 後ろに逃げようとした銀狼の長の胴体を僕の戦斧が捉え、真っ二つにした。ハァハァと肩を揺らし息をしていると、パチパチッとヴァンが手を叩き、賞賛してくる。

「いいねぇ……だんだんとサマになってきた。これはもう『近い』かもな」

 なにが近いんだろう? 
 秘密が多いよな。この人達……。
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