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獣人族(羊人)チャイチャイ編
Chapter 043 輪舞の狂騒
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銀閃ジオ……。
マルボロ国王弟にして世界に数人しかいない〝二つ名〟を冠している一人。
この世界では稀に〝黒い煙〟から現れる謎の魔物が過去に何度か大きな被害をもたらしている。
その脅威度は、〝複数国家単位〟で緊急招集レベルはコード・ワールド……。
世界の各種族、王などの代表者の半数以上が賛成した場合に発動される世界規模の使命。
各種族では黒い煙にまつわる事件が発生する度に各国から選りすぐりの代表を送るが、約二十年近く前に発動したコード・ワールドでは海人族の代表としてマルボロからジオ・アルマニが参戦・活躍しその後、英雄の一人として、称えられるようになった。
そんな英雄の一人として数えられるものが放った蹴りは、チャイチャイにとって、これまでみたことの無い異次元の領域の威力を誇っていた……。
噂で伝え聞く、彼の代名詞といえるスキル【震脚】……。
震動の波を起こし前方に強力な衝撃を与える技で、超高速震動時に銀色に発光することから彼が『銀閃』と呼ばれる所以となった。
さて……と、私達もしっかり働かないといけませんね。
辺り一面動くものがなかったが、その背後から新手の黒人形の姿が見え始めた。
すぐに双子が前方に駆け出したので、彼らとは少し方向をずらしてチャイチャイとフロスも前方へ出る。
黒人形は、人族とほぼ同じ大きさでぎこちない動き……。
突然、鋭い拳か蹴りを繰りだしてくるので注意は必要である。
しかしチャイチャイにとってはどれも単発で、連撃もなく来ることさえ分かっていれば、避けるのも捌くのも容易い。
外殻が硬く、先の曲がったククリナイフで斬りつけても火花が飛び、刃が通らない。
すぐに継目に狙いを変えてみたら継目は脆く、あっさり各部位を切断することができた。
弱点をフロスや双子と情報を共有した後は、片づける速度が大幅にアップした。
増援が来なくなるまで、ひたすら壊し続けること数刻、四人とも多少のダメージとかなり息があがっている。
「ご苦労、これを飲んでくれ」
ジオより手渡されたのは豆粒くらいの大きさの薄い皮膜に包まれた二種類の丸薬。
体力は黄色の丸薬。想力は青色の丸薬となっており、服用するだけで絶大な回復効果があるとのこと。
初めてみる薬なので疑っているわけではないが、スキル【鑑定】を掛けてみたところ、〝鑑定不能〟と出てしまった。
ラックとダミューが先に飲んで大丈夫なのを確認して、フロスと二人、それぞれ一錠ずつ服用してみた。
その効果は絶大で、おそらく完全に回復したように感じる。力が溢れてきそうな錯覚さえある。
こんな回復薬が存在するなんて聞いたこともない。もしこんなものが世に出回れば、恐らく人族が暴走し、世界の均衡がきっと崩れてしまう。
丸薬について質問してみたが、この丸薬の存在は、世界でもごく一部のものしか知らないし、そもそも誰も製造できないので安心するようにとのことだった。ではいったい誰がこれを作ったのでしょう?
その質問には、普段、明朗快活で二心など持たぬ英雄ジオだが「それは言えない」と言葉を濁す。
先ほどの丸薬を小分けし袋に入れ全員が受け取ったところで、前進を再開する。
☆
しばらく進むと、真ん中に噴水のある広場に出た。二階建ての建物に囲まれており、正面と左右にそれぞれ道が延びている。
全員が広場に入ったところで、広場全体を覆い包み込むように床に円陣の紋様が浮かび上がり、紋様が回転しはじめ、円陣の内部が眩しい光に包まれる。チャイチャイは咄嗟にモンテールを庇うように彼女を抱きかかえた。
景色が変わった。先ほどの広場と同じ大きさの円形の中にいる。円形の外側は灰色でその先は見通せない……。円形の外縁を触ると見えない壁のようなものがある。
出口はどこにも無いように見える。周囲にはモンテール以外の人がいない。憶測となるが、接触していなかったものは別々に飛ばされたかもしれない……。
転移陣? 罠?
どちらにせよ、危険な状態だと思われる。
しばらく様子を観察していると、立っている向かい側の見えない壁の向こうから、溶けるように通り抜けた形のおぼろげな二つの塊が徐々に姿を現した。
それは自分とモンテールの姿に変わった。形だけそっくりだが、色はなぜか灰色だった。
灰色チャイチャイが、こちらに向かって手をかざし、チャイチャイの十八番【七色変化】を放ってきた。
得意な技であるがゆえ、発動前の独特の動作でスキルの模倣がされることを察知したチャイチャイは被せるように【七色変化】を放った。
威力は……まったくの互角。両者の間で綺麗に相殺される。
【氷刃】
【炎槍】
【水蛇】
【雷帯】
【泥岩】
【颶風】
【鉄弾】
数々のスキルを次々と繰りだすものの埒があかない……。
「まわりまわるクルクルと、火軍と雷公による輪舞の狂騒……【焔雷円月輪】」
空中で雷を帯びた焔の輪がひと際、激しく衝突したあと、相殺し消失した。
奥の手まで全く同じだ……。灰色チャイチャイとは差がないが押され始める。灰色モンテールが積極的に戦闘に参加してきて、吹き矢を連射してくる。
本物の方をチャイチャイが庇いながら戦っているので、やや分が悪い。
劣勢になりながらも一つ気づいた点がある。チャイチャイは戦いながら相手のパターンを分析し、対策を講じているが、相手は学習をしている気配がない。また、こちらと同様に相手も多少疲弊しているように見える。
これはどうです?
隙を見て、チャイチャイは先ほど、〝銀閃ジオ〟からもらった回復薬を一錠ずつ口に放り込む。たちまちのうちに傷が癒え、疲弊しきった体が嘘のように軽くなり、想力も回復した。敵を分析して得た仮の評価としては、相手の疲労はそのままで、〝学習〟も〝成長〟もしない。
劣勢だった状況を持ち直し、また拮抗した状態に戻る……。やはりアイテムまでは模倣できなかったようだ。これなら時間を掛ければ逆転できる。少し時間が掛かったが、二回、薬を服用したところで勝負がついた。
「ふぅ──!」
倒した後、大きく深呼吸をする。
体の緊張を解いた直後に再び、身体に力がこもる。
「⁉ ──嘘ッ!」
向かい側の見えない壁の向こうから、また、先ほど同じく、おぼろげな塊が生まれ出て、また灰色のチャイチャイとモンテールに化ける。
灰色のチャイチャイは、今度は手にしたククリを構えている。
チャイチャイは覚悟を決めて、相手の望む白兵戦にその身を投じた。
マルボロ国王弟にして世界に数人しかいない〝二つ名〟を冠している一人。
この世界では稀に〝黒い煙〟から現れる謎の魔物が過去に何度か大きな被害をもたらしている。
その脅威度は、〝複数国家単位〟で緊急招集レベルはコード・ワールド……。
世界の各種族、王などの代表者の半数以上が賛成した場合に発動される世界規模の使命。
各種族では黒い煙にまつわる事件が発生する度に各国から選りすぐりの代表を送るが、約二十年近く前に発動したコード・ワールドでは海人族の代表としてマルボロからジオ・アルマニが参戦・活躍しその後、英雄の一人として、称えられるようになった。
そんな英雄の一人として数えられるものが放った蹴りは、チャイチャイにとって、これまでみたことの無い異次元の領域の威力を誇っていた……。
噂で伝え聞く、彼の代名詞といえるスキル【震脚】……。
震動の波を起こし前方に強力な衝撃を与える技で、超高速震動時に銀色に発光することから彼が『銀閃』と呼ばれる所以となった。
さて……と、私達もしっかり働かないといけませんね。
辺り一面動くものがなかったが、その背後から新手の黒人形の姿が見え始めた。
すぐに双子が前方に駆け出したので、彼らとは少し方向をずらしてチャイチャイとフロスも前方へ出る。
黒人形は、人族とほぼ同じ大きさでぎこちない動き……。
突然、鋭い拳か蹴りを繰りだしてくるので注意は必要である。
しかしチャイチャイにとってはどれも単発で、連撃もなく来ることさえ分かっていれば、避けるのも捌くのも容易い。
外殻が硬く、先の曲がったククリナイフで斬りつけても火花が飛び、刃が通らない。
すぐに継目に狙いを変えてみたら継目は脆く、あっさり各部位を切断することができた。
弱点をフロスや双子と情報を共有した後は、片づける速度が大幅にアップした。
増援が来なくなるまで、ひたすら壊し続けること数刻、四人とも多少のダメージとかなり息があがっている。
「ご苦労、これを飲んでくれ」
ジオより手渡されたのは豆粒くらいの大きさの薄い皮膜に包まれた二種類の丸薬。
体力は黄色の丸薬。想力は青色の丸薬となっており、服用するだけで絶大な回復効果があるとのこと。
初めてみる薬なので疑っているわけではないが、スキル【鑑定】を掛けてみたところ、〝鑑定不能〟と出てしまった。
ラックとダミューが先に飲んで大丈夫なのを確認して、フロスと二人、それぞれ一錠ずつ服用してみた。
その効果は絶大で、おそらく完全に回復したように感じる。力が溢れてきそうな錯覚さえある。
こんな回復薬が存在するなんて聞いたこともない。もしこんなものが世に出回れば、恐らく人族が暴走し、世界の均衡がきっと崩れてしまう。
丸薬について質問してみたが、この丸薬の存在は、世界でもごく一部のものしか知らないし、そもそも誰も製造できないので安心するようにとのことだった。ではいったい誰がこれを作ったのでしょう?
その質問には、普段、明朗快活で二心など持たぬ英雄ジオだが「それは言えない」と言葉を濁す。
先ほどの丸薬を小分けし袋に入れ全員が受け取ったところで、前進を再開する。
☆
しばらく進むと、真ん中に噴水のある広場に出た。二階建ての建物に囲まれており、正面と左右にそれぞれ道が延びている。
全員が広場に入ったところで、広場全体を覆い包み込むように床に円陣の紋様が浮かび上がり、紋様が回転しはじめ、円陣の内部が眩しい光に包まれる。チャイチャイは咄嗟にモンテールを庇うように彼女を抱きかかえた。
景色が変わった。先ほどの広場と同じ大きさの円形の中にいる。円形の外側は灰色でその先は見通せない……。円形の外縁を触ると見えない壁のようなものがある。
出口はどこにも無いように見える。周囲にはモンテール以外の人がいない。憶測となるが、接触していなかったものは別々に飛ばされたかもしれない……。
転移陣? 罠?
どちらにせよ、危険な状態だと思われる。
しばらく様子を観察していると、立っている向かい側の見えない壁の向こうから、溶けるように通り抜けた形のおぼろげな二つの塊が徐々に姿を現した。
それは自分とモンテールの姿に変わった。形だけそっくりだが、色はなぜか灰色だった。
灰色チャイチャイが、こちらに向かって手をかざし、チャイチャイの十八番【七色変化】を放ってきた。
得意な技であるがゆえ、発動前の独特の動作でスキルの模倣がされることを察知したチャイチャイは被せるように【七色変化】を放った。
威力は……まったくの互角。両者の間で綺麗に相殺される。
【氷刃】
【炎槍】
【水蛇】
【雷帯】
【泥岩】
【颶風】
【鉄弾】
数々のスキルを次々と繰りだすものの埒があかない……。
「まわりまわるクルクルと、火軍と雷公による輪舞の狂騒……【焔雷円月輪】」
空中で雷を帯びた焔の輪がひと際、激しく衝突したあと、相殺し消失した。
奥の手まで全く同じだ……。灰色チャイチャイとは差がないが押され始める。灰色モンテールが積極的に戦闘に参加してきて、吹き矢を連射してくる。
本物の方をチャイチャイが庇いながら戦っているので、やや分が悪い。
劣勢になりながらも一つ気づいた点がある。チャイチャイは戦いながら相手のパターンを分析し、対策を講じているが、相手は学習をしている気配がない。また、こちらと同様に相手も多少疲弊しているように見える。
これはどうです?
隙を見て、チャイチャイは先ほど、〝銀閃ジオ〟からもらった回復薬を一錠ずつ口に放り込む。たちまちのうちに傷が癒え、疲弊しきった体が嘘のように軽くなり、想力も回復した。敵を分析して得た仮の評価としては、相手の疲労はそのままで、〝学習〟も〝成長〟もしない。
劣勢だった状況を持ち直し、また拮抗した状態に戻る……。やはりアイテムまでは模倣できなかったようだ。これなら時間を掛ければ逆転できる。少し時間が掛かったが、二回、薬を服用したところで勝負がついた。
「ふぅ──!」
倒した後、大きく深呼吸をする。
体の緊張を解いた直後に再び、身体に力がこもる。
「⁉ ──嘘ッ!」
向かい側の見えない壁の向こうから、また、先ほど同じく、おぼろげな塊が生まれ出て、また灰色のチャイチャイとモンテールに化ける。
灰色のチャイチャイは、今度は手にしたククリを構えている。
チャイチャイは覚悟を決めて、相手の望む白兵戦にその身を投じた。
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