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魔人族ヴァン、ロレウ編

Chapter 033 とあるメンドくさがり王子の心変わり

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 ミラーの人柄を知っているものは目を丸くしている。より詳しい者は目を見張って彼の様子を窺う。
 面倒臭がり、人任せ、やる気なし、無責任……成績も八番目と飛び抜けて優秀というほどでもない。

 ──それなのになぜか頼もしい。

 そんな彼が他のものの視線にお構いなく、率先して周囲に声を掛ける。
 普段こういった声出しは、ローズの役目のはずだ……ローズ自身もそう信じてやまない。
 ローズが口を開こうとしたところ、プリンスやドクターが彼女に視線を送り、止めるなと首を横に振って合図してきた。

 もう一度、彼……ミラーをみると、ノビリスがミラーの傍で片膝をつき頭を垂れて拝塵はいじんしている。

 ノビリスロレウは、主の変化に気づいたうえで問いかける。

「……もうよろしいのですか?」
「あぁ、もういい……〝ごっこ〟は終わりだ……この世界のために〝その気〟が今、必要になったよ……」

 向こうではマイネが超絶的な戦闘力で三体の特別な守護者と互角に渡り合っているが、もし敗れたら、一体でも討ち漏らしてしまったなら……。
 恐らく解き放たれてしまった守護者はこの世界の住民を根絶やしにしようと動くだろう。
 この世界にはそんな〝化け物〟と戦える英雄がいる。
 ただ、今、この場にはいない……。

 狂った守護者と英雄達がまみえるまでに、いったいどれほどの被害が出るだろうか?
 この場で踏みとどまり食い止めなければならない。
 それができるのは……。

「皆、戦いながらでいい、聞いてくれ!」

 ミラーが発する初めて聞く意志の籠った大きな声だった。

「俺はこの試練を無事、乗り越えられたら退学で構わない……俺はオルズベク皇国女王『蛍火カルノア』の子、ヴァン・オルズベクだ!」

「このままだと、数の差で向こうで戦っているマイネがいずれ潰されてしまう……俺の指示に従ってくれ」

 ヴァンの話を聞いて皆一様に驚いている。
 まさかとは思っていたが、よもやあの大国オルズベク皇国の第三王子だったとは……。

「つべこべ言ってないで、さっさと僕たちに指示をくれ兄弟!!」
「そうだ!!お前の指示が遅れて、すべて手遅れになったらどうする? 噂で聞いたことあるぞ〝顔のない王子〟!」

 プリンスはどうすべきか指示を仰ぎ、ドクターは問い掛けるように言葉を合わせてくる。

 〝顔のない王子〟……それは、オルズベク皇国の末弟。
 大国オルズベク皇国女王「カルノア」の三人の子供たち。
 小さい頃から国民のみならず、諸国においても関心が高く常に噂される存在だ。

 色々と噂をされる三人の王子達だが、なぜか第三王子だけは特徴がなく、容姿、性格等一切、伝え聞かない。 
 あるいは王女なのでは?というデマも一時期拡がったこともあった。
 今でも本当に存在するのかと疑う程、何も出てこない存在。

 そんな彼のことをいつしか「顔のない王子」と世間では揶揄されるようになった。

「王族として、この場をどうにかしたいということ!?」
 ローズはまなじりを吊り上げ、質問を浴びせる。

 ローズからしたら、この場は王族だろうと関係ない……。
 彼が王族としてしゃしゃり出るのであればローズは全力で彼が統率することを反対する。

「いや……不浄の存在に世界を汚されることを俺は断じて許さない……。でも、それは王族の地位とかそんなの関係ない……俺が為すべきことを『』だ!?」

 ヴァンがその言葉を口にした瞬間、彼の右手の甲が光を帯び始める。
 その光に呼応するように彼にひざまずいているノビリスの右手の甲にも光が宿り始める。

 すると、周囲に声が響き渡り始めた。

「皆さん、聞こえまして? 私は〝天使エッダ〟魔族担当の天使ですわ……。ではこれより〝啓示〟を始めます……オホン!」
「条件を達成しました。英雄の器として『天使エッダ』の名において〝ヴァン〟及び〝ロレウ〟を承認しました。両名はこの世界を救うため、ある者を探してください……。ある者とは……」

 これは天からの『啓示』なのだろう……天使エッダとは、この世界で二番目に信仰者数の多い偉大な天使!?

「あと、ヴァンとロレウ……、『マナ』の担当の人族の子には絶対負けないでください……さもないと……あっ、アラネル! 何をなさるの……ちょっと待っ…、ブツッ……」

 何だ! 最後のは……まあいい……。

 俺はこの『啓示』を受けながらも既に行動に移していた。
 一時しのぎだが、分身を十体作って、一番前に出して持ち堪える。
 先ほどの手の甲が光った後から体が嘘のように軽く力がみなぎる。
 分身にもその力が伝わっており、先ほどの四凶戦の時よりはるかにパワーアップしている。だがそれでも守護者の数が多すぎる…。
 ロレウは恐ろしくキレが鋭く一撃も重くなっている。時間を掛ければ、いずれこの場は優勢に傾いてくるだろうが、奥が保たない……。

 こいつらが、一体一体が脅威であることは、もちろん分かってる……でもそうじゃない……。
 今まさしくマイネが、闘い繰り広げてる三体があまりにも常軌を逸している。
 一体でもここからがしたら、世界レベルの危機になり得る怪物と渡り合っているマイネって一体何者なんだ!?

 考えてみたら、半年前の入学式からいたのか、いなかったのかもそれすら、よく覚えていない……。
 そもそもクラスメイトだったか、自問するがその記憶すらも本当かどうか分からなくなってくる。

 その超越した権能でさえ、目の前の世界の理から外れた異常な存在に苦戦を強いられている。
 速やかに目の前の連中を排除し、早々にマイネを支援することが、この戦いの勝敗の分かれ目だ。

 俺は分身を用い目の前の敵への抗戦の構えを示しつつ、スキル【思考加速】により、いくつかの策を頭の中で高速に練っていく……。

 これだ……!?

「ロレウ! 今から言うことをマイネと後ろの巨人族に念話で伝えてくれ!! 他の皆は一緒に聞いてくれ」

 俺はロレウ達にある作戦を伝える。

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