上 下
7 / 159
女神アリア編

Chapter 004 新たな厄災の兆し

しおりを挟む
  
 天使アラネルから説明を受けたアリアは、なんかこう……沸々とあのすごく懐かしい抽選会当日の惑星が当たった瞬間のあの歓喜に打ち震えた感動が再び蘇ってきた気がする。

「みんな! 今日まで、本当によく頑張ってくれたねっ、ありがとう」

 少し笑顔を取り戻した女神アリアを見て、天使アラネルも口を開く。

「いえ、主の地球でのお噂は、私どもも聞き及んでおりました。その事故はおそらく冤罪なのではと……そのうえで今まで大変なご苦労をなされて、私どもの些末な苦労など到底及びもつきません……」

 どうやら、各惑星に向かって出立していたアラネル達にも地球帰宅後のアリアの動向が多少とはいえ入っていたらしく、その上で無実だと考えてくれていることや労りの気持ちを伝えてくれたことに、素直に喜びを感じる。

 アリアは画面モニター上の惑星を見る限り、かつて見たあの魔物がいたるところに蔓延はびこり、暗鬱あんうつとした光景を目の当たりにしたが、今では、緑あふれる大地に海は鮮やかに青く輝き、本来の惑星「メラ」に備わっていた性能パフォーマンスを取り戻していた。

 多少、魔物が多く住む地域、海域等存在するが、惑星メラに移住してくれた種族達の手によって、この二百数十年で、魔物を駆逐しつつ、文明の領域を拡げ、開拓を進めてくれたお陰で、他の惑星とそこまで遜色がないと感じるくらいになっている。

 うん? 
 
 ところで魔物が多く住むところにある、どう見ても惑星メラに相応しくない──明らかに「時代錯誤オーパーツ」な三階建ての建物くらいの大きな黒いた筐体きょうたいのようなものが世界中に何個かある。

 なにこれ?

「あの黒いバカでかいはこってなに?」

 すでに監視室内の各持ち場で監視や、通信、恩恵等の業務を始めた天使達に質問したら返事はすぐに返ってきた。

 天使たちが二百数十年前に他惑星の知的生命体とともに、惑星メラに到着した時にはすでにそこに存在していて、真っ黒で質量感がどこかおかしく、外見上、モニターで確認しても出入りのような開口部どころか一切の凹凸等もなく、一体、どういった目的を持った建物か憶測もつかず、明らかにこの惑星にとっては異物の存在だ。

 さらに天使たちの話では、これまで、この「黒い函」に纏まつわる特別な事象は起きておらず、最初は気にしていた天使達もやがて、月日が経つにつれて、気にならなくなったそうだ。

 神の箱庭こちら側での直接的な調査はしておらず、たまに各種族の冒険者や探索者等が発見するものの、物理的な衝撃や魔法のようなエネルギーを放って照射してもそのすべてが「無かった」ことになるらしく、各種族も何もさせてもらえないまま現在に至っているとのこと。

 うーん、なんか嫌な予感。

 だとすると、黒い函これって明らかに高次元の「何か」だよなぁ……。

 契約書にも特にうたわれている条項も無かったし、どうしよう? 
 私は直接は手を出せないし、天使ちゃん達ももう気にしてないみたいだし、そもそもアレが何なのか 私も見たことも聞いたこともない……。

 アレが周囲の魔物を活性化していることは、点在している「黒い函」の周囲の魔物の状況を見ても限りなく「黒」なんだよなぁ?
「黒い函」だけあって……ぷぷっ! 
 あっ私、今、ギャグが神懸った? 「神だけに……」
 くぅぅ! 面白っ!!

 憂いのある表情から怪訝そうな顔、突然、忍び笑いを漏らしはじめたりと、目まぐるしく変わる女神の様子を天使の何人かが気づき「まだ少し病んでるのかな?」と心配そうな視線をちらちらと向けている。

 でも、まぁ惑星に住んでいる各種族に今のところ、大きな影響も無いようだし、あとで、天界通信網ネットで調べたりするけど、しばらくはこのままでいいかな?

 しばらく考えた後、アリアは一旦保留することに決めた。

 ★

 アリアが地球を離れてしばらく経った頃、地球のとある神域でまた例の四柱の神々が内談している。

「あの例の小娘、我々の仕掛けた悪戯から開放されて、やっと地球を離れたようだぞ」
「あら? そんなことあったかしら?」
「おいおい……さすがにそれはないと思うぞ?」

 男神がアリアの話題を会話に上げると女神は打ち忘れているような台詞でとぼける。

「まぁ、もうよいじゃろうて? 儂はもう充分に気が晴れたわい!」

「いえ、まだよ……『もっと』『もっと』『もっと』いたぶりつくして、絶望を味わわせてないとダメよっ!!」

「おぬし、相当な嗜虐者サディスティックじゃな──どこまでやっても気が晴れぬじゃろう……というか、なんか別の違う感情が芽生えてはせぬか?」

「まあ、気にいらない神は徹底的に叩きのめさないと気が済まないから、お爺ちゃんの皮肉なんて一切気にならないわ!」

「誰が糞爺くそじじいじゃ!!怒るぞワシ?」

 老男神と気の強い女神改め「Sッ気女神」が、嚙み合わない言い合いをしていると、計画首謀者の女神がそれとなく口をはさむ。

「そういえば、三百年近く前、頼んだもの置いてきてくれたかしら?」

「あぁ……あの良くわからない黒い函なら、魔物を撒いた後に、しばらくして例の業者に頼んで運びこんだぞ……そういえば黒い函あれは何だったんだ?」

「ふふっ、さぁ? 何だったかしら?」

 先ほどは覚えていないと言っていたはずの女神はなぜかしっかり覚えていて、こちらが質問しても碌な返答もせずに魔性の笑みを浮かべて物思いに耽けり始めた。もう声は届かなさそうだ。

 男神は、この何を考えているのか分からない女神の気まぐれに付き合ってずいぶん長いので、やれやれと両手の掌を上に向け軽く肘の高さまで上げてみせた。

 他の二柱も、黙りこんだ女神のことは気に留めることなく他の雑談に移っていった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ハルフェン戦記 -異世界の魔人と女神の戦士たち-

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:11

Venus And The SAKURA

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:5

転移魔法に失敗したら大変な事に巻き込まれたようです。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:51

追放された令嬢は塔を目指す

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:93

まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:6

勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,517

生活魔法は万能です

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:356pt お気に入り:725

厄災の申し子と聖女の迷宮 (旧題:厄災の迷宮 ~神の虫籠~)

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:507

ダンジョンのコンサルタント

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:14

処理中です...