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第2章 シリカ大峡谷
第65話 救出
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恐ろしく速くて重い攻撃を受けて一撃で両手剣が悲鳴をあげて、折れてしまった。すぐに背中に背負っていた予備の少し小さい同型の両手剣を引き抜き構えるが、同じ運命を辿るのは必然といえる。
さらにボクの背筋を冷たくする存在が通路から部屋を覗いている。
鋼蟻が2体……。
それを見たボクは、この狭い部屋の中で、唯一残された手段を躊躇せず選んだ。
この魔蟻の巣で禁じ手としていた砲士を2体を喚び出し、
自分達もろとも爆破した……。
✟
「マーファさんとムンク司祭は飛騎で町までお連れします。カノさん申し訳ないですが、ボクと急ぎここから脱出してください」
皆に有無を言わさず、お願いする。本当はカノさんまで、飛騎で運べたらいいが、1体につきひとりまでしか飛んで運べないため、シリカ大峡谷の地理に詳しいカノさんがボクと一緒に貧乏くじを引くことになった。
撤退する前にマーファさんに予備の両手剣を2本貰って、背中に一本と手に3本で計4本持って走る。
カノさんには、申し訳ないけど兵士1体に指示して彼女を背負って入り組んだ地形を疾駆する。
──ダメか。
追いつかれた。そのあまりにも速い動きに最後尾で守らせていた兵士1体が一撃で犠牲になった。
兵士や騎士が次々にやられていき、ボクの持っている4本の両手剣も次々に変形し、壊れていく。
もし、ボクにあのとてつもない硬さの鋼蟻に負けない武器を持っていたら、戦況を覆せるはずなのに……。
頼みの2体の砲士が放った火矢による爆撃は、1発は外れたが2発目は命中した、が効果はあきらかに薄い……。すぐにこれまでとあまり変わらない速度でボクと【指し手】の兵士たちを蹂躙していく。
「キュルッキュルキュルキュ‼」
「よせッやめろ!」
カノがなにかを叫んだ。すると、鋼蟻は口から糸を出して、彼女を白い包むと、ボクには、目もくれずカノを連れ去った。
「くそッ、うッ……」
カラダが動かない。あと一撃でも攻撃をもらっていたら、また先ほどの魔蟻の巣の前から始まるところだった。でもその方が良かったかもしれない。カノさんが犠牲になってしまった。
どれくらい気を失ったのか。
ボクはマーファさんとムンク司祭を谷上の町まで送り届けて戻ってきた飛騎2体に両脇を肩で支えられて、シリカ大峡谷上空を飛んでいた。
「はやく戻らないと……」
(ダメだ。夜中の配信を見てた連中から聞いた。今は無理だ)
プレイヤさま……。もしプレイヤさまがあの時、ボクを操ってくれたとしても状況は変わらなかったのだろうか?
あの時、カノさんはたしかに鋼蟻になにかを伝えた……この状況はあの時にそっくりだからわかる。ボクを見逃す代わりに自分を犠牲にしたんだ……。
キュアに続いてカノさんまでもボクの為に……。
(まあ、そう焦んな。コイツに説明ヨロシク)
<猿トピ佐スケ>
:承知したでござる。セル殿、実は……
神プレイヤに説明を求められ、猿トピさまが代わってボクにある可能性を教えてくれた。
カノさんがまだ生きている可能性が高い。
これまで何度も、魔蟻の巣に突入したが、捕まえたエサを保管する部屋があったが、繭のなかでまだ生きていた人間がたしかに数人いた。
生きていた人間は、皆、屈強な戦士や魔術師で、魔蟻に対して激しく抵抗したもの程、「活き」がいいと判断されて、なるべく新鮮さを保つために殺さず捕獲するのではないかと、猿トピさまは分析していたそうだ。
ならば、カノさんが捕まる前にボクは少なくとも他の冒険者よりはずっと抵抗はできたはずだ。一緒にいたカノさんが殺されずに繭の中に保管されている可能性はたしかにある。
ただ、時間が経過すると生存確率がどんどん減っていくのが、問題で早く戻った方がいいが、ボクにはあの鋼蟻に勝てるイメージがまったく浮かばない……。
(あーそこは大丈夫、オレの言う通りにすれば)
声だけしか聞こえないのに神プレイヤが、ニヤリと笑った気がした。
✟
──その日の夜、ボクは飛騎に脇を抱えられて、シリカ大峡谷の最奥にある魔蟻の巣の上空で待機していた。
すでに谷底では、陽動役として兵士8体を降ろしていて、巣から出てきた兵隊蟻と戦闘が始まっている。このままなら間もなく巣から出てきた魔蟻は全部、兵士たちが駆逐してくれるだろう。
小さく動く影を上空から眺めていると、巣のなかから何かが飛び出してきた。
あれは……見覚えのある魔法──白い吹雪が、外にいた魔蟻たちを凍らせている。
──出た⁉
ボクが狙っている相手、魔蟻の最強種である鋼蟻……ボクは飛騎に真下に向かって勢いをつけてもらって高速で落下する。
そして手に持っている巨大な剣で鋼蟻を真っ二つにした。
「ゴメンね、遅くなっちゃって」
この場には、カノさんを始め、失踪していた3人組まで一緒にいる。他のひとも何人か魔蟻の巣から出てきたが、犠牲になってしまったようだ。
「すまんの、セル殿」
「助かりました」
「まぁ~~た、オマエかよ!」
岩人族のゴンゾさんと女子兎人のルナさんが続けて礼を伝えてくるなか、ペッチさんが渋い顔をする。そして……。
「ちょっ、カノさん?」
ボクの胸にカノさんが突撃してきた。顔をボクの胸にうずめて、肩を縦に揺らしている。
神さま達からは「つまらん、寝る」とか「よし、顎をクイっと持ち上げて~イケッ、セルならデキる」などと色んなコメントが飛び交っている。
さらにボクの背筋を冷たくする存在が通路から部屋を覗いている。
鋼蟻が2体……。
それを見たボクは、この狭い部屋の中で、唯一残された手段を躊躇せず選んだ。
この魔蟻の巣で禁じ手としていた砲士を2体を喚び出し、
自分達もろとも爆破した……。
✟
「マーファさんとムンク司祭は飛騎で町までお連れします。カノさん申し訳ないですが、ボクと急ぎここから脱出してください」
皆に有無を言わさず、お願いする。本当はカノさんまで、飛騎で運べたらいいが、1体につきひとりまでしか飛んで運べないため、シリカ大峡谷の地理に詳しいカノさんがボクと一緒に貧乏くじを引くことになった。
撤退する前にマーファさんに予備の両手剣を2本貰って、背中に一本と手に3本で計4本持って走る。
カノさんには、申し訳ないけど兵士1体に指示して彼女を背負って入り組んだ地形を疾駆する。
──ダメか。
追いつかれた。そのあまりにも速い動きに最後尾で守らせていた兵士1体が一撃で犠牲になった。
兵士や騎士が次々にやられていき、ボクの持っている4本の両手剣も次々に変形し、壊れていく。
もし、ボクにあのとてつもない硬さの鋼蟻に負けない武器を持っていたら、戦況を覆せるはずなのに……。
頼みの2体の砲士が放った火矢による爆撃は、1発は外れたが2発目は命中した、が効果はあきらかに薄い……。すぐにこれまでとあまり変わらない速度でボクと【指し手】の兵士たちを蹂躙していく。
「キュルッキュルキュルキュ‼」
「よせッやめろ!」
カノがなにかを叫んだ。すると、鋼蟻は口から糸を出して、彼女を白い包むと、ボクには、目もくれずカノを連れ去った。
「くそッ、うッ……」
カラダが動かない。あと一撃でも攻撃をもらっていたら、また先ほどの魔蟻の巣の前から始まるところだった。でもその方が良かったかもしれない。カノさんが犠牲になってしまった。
どれくらい気を失ったのか。
ボクはマーファさんとムンク司祭を谷上の町まで送り届けて戻ってきた飛騎2体に両脇を肩で支えられて、シリカ大峡谷上空を飛んでいた。
「はやく戻らないと……」
(ダメだ。夜中の配信を見てた連中から聞いた。今は無理だ)
プレイヤさま……。もしプレイヤさまがあの時、ボクを操ってくれたとしても状況は変わらなかったのだろうか?
あの時、カノさんはたしかに鋼蟻になにかを伝えた……この状況はあの時にそっくりだからわかる。ボクを見逃す代わりに自分を犠牲にしたんだ……。
キュアに続いてカノさんまでもボクの為に……。
(まあ、そう焦んな。コイツに説明ヨロシク)
<猿トピ佐スケ>
:承知したでござる。セル殿、実は……
神プレイヤに説明を求められ、猿トピさまが代わってボクにある可能性を教えてくれた。
カノさんがまだ生きている可能性が高い。
これまで何度も、魔蟻の巣に突入したが、捕まえたエサを保管する部屋があったが、繭のなかでまだ生きていた人間がたしかに数人いた。
生きていた人間は、皆、屈強な戦士や魔術師で、魔蟻に対して激しく抵抗したもの程、「活き」がいいと判断されて、なるべく新鮮さを保つために殺さず捕獲するのではないかと、猿トピさまは分析していたそうだ。
ならば、カノさんが捕まる前にボクは少なくとも他の冒険者よりはずっと抵抗はできたはずだ。一緒にいたカノさんが殺されずに繭の中に保管されている可能性はたしかにある。
ただ、時間が経過すると生存確率がどんどん減っていくのが、問題で早く戻った方がいいが、ボクにはあの鋼蟻に勝てるイメージがまったく浮かばない……。
(あーそこは大丈夫、オレの言う通りにすれば)
声だけしか聞こえないのに神プレイヤが、ニヤリと笑った気がした。
✟
──その日の夜、ボクは飛騎に脇を抱えられて、シリカ大峡谷の最奥にある魔蟻の巣の上空で待機していた。
すでに谷底では、陽動役として兵士8体を降ろしていて、巣から出てきた兵隊蟻と戦闘が始まっている。このままなら間もなく巣から出てきた魔蟻は全部、兵士たちが駆逐してくれるだろう。
小さく動く影を上空から眺めていると、巣のなかから何かが飛び出してきた。
あれは……見覚えのある魔法──白い吹雪が、外にいた魔蟻たちを凍らせている。
──出た⁉
ボクが狙っている相手、魔蟻の最強種である鋼蟻……ボクは飛騎に真下に向かって勢いをつけてもらって高速で落下する。
そして手に持っている巨大な剣で鋼蟻を真っ二つにした。
「ゴメンね、遅くなっちゃって」
この場には、カノさんを始め、失踪していた3人組まで一緒にいる。他のひとも何人か魔蟻の巣から出てきたが、犠牲になってしまったようだ。
「すまんの、セル殿」
「助かりました」
「まぁ~~た、オマエかよ!」
岩人族のゴンゾさんと女子兎人のルナさんが続けて礼を伝えてくるなか、ペッチさんが渋い顔をする。そして……。
「ちょっ、カノさん?」
ボクの胸にカノさんが突撃してきた。顔をボクの胸にうずめて、肩を縦に揺らしている。
神さま達からは「つまらん、寝る」とか「よし、顎をクイっと持ち上げて~イケッ、セルならデキる」などと色んなコメントが飛び交っている。
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