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第2章 シリカ大峡谷
第59話 魔蟻の巣(コロニー)殲滅
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「周囲にはいないようです」
魔蟻は移動している時に『ギリギリッ』と関節が擦れる音が出るため分かりやすく、また止まっていても『キュキュッツ』と人間には聞き取れないアリ語を話しているので、不意を衝かれることはまずない。
魔蟻の最大の特徴であり、いちばん恐るべきところは、純粋に数が多いこと。
ほどなくして、兵隊蟻と遭遇すると、腹の部分を地面に叩きつけて仲間を呼び始めた。すぐさまセルがグレートソードで吹き飛ばした。
「やっぱり軽いな~。倍以上は重くないとしっくりこない」
並の人間では両手で振り回すのも大変な両手剣を片手で軽々と振り回しつぶやいている。
キュッキュと言葉を発しながら、壁を背にして半円状に囲まれた。数は30体以上はいる。そして口々に「侵入者を●せ、女王を守れ」と口走っている。
やはり夜にこの場所へ来るべきではなかった。心の底から後悔しはじめた。
しかし、こんな窮地にあって、司祭は慌てているものの、セルと水人族の女性は落ち着き払っていた。
「行きます! 【指し手】」
セルの能力が発動する。これまで見たことも聞いたこともない不思議な能力。
彼の背後に無数のひと型の兵士や騎士の恰好をしたものが現れた。よく見ると人間ではなく、動く人形のようなもの。会話はできないのか黙って、主の指示に従い、魔蟻の包囲網に対し、半円の円陣を組んで、身近にいる兵隊蟻を打ち倒していく。
一体一体が恐ろしく手練れで、兵隊蟻の数など、ものともせず数十秒で包囲網を食い散らかした。
「すごい。十倍以上の戦闘を経験したみたい」
「スゴいですなぁ。さすが神プレイヤさまの恩恵」
司祭となにを話しているのか会話の内容が、いまいち読めないが、どうやら新しいチカラを魂の神プレイヤから授かったらしく、そのチカラに浮かれているようだ。
それでもここは〝魔蟻の巣〟──過去に何百人、何千人と冒険者たちが命を落とし、その中には英雄と呼ばれるような人物も何人か含まれている。
浮かれた彼らに蟻の巣窟は容赦しない。次々と仲間を喚び、黒い大波となって獲物を呑み込もうとする。
しかし、絶対的な捕食者である〝魔蟻〟は目の前の獲物であるはずの生き物が、圧倒的なチカラを見せつけ、自分達が狩られる側の立場であることに驚愕を感じたであろう。
1時間近くかけてようやく周囲に動くものがいなくなった。
「近くの巣の7~8割くらいは倒したと思います」
魔蟻の法則で、巣の外に出てくるのは最大で8割くらい。残りの2~3割は巣の中で女王蟻を守る習性がある。
「じゃあ飛騎2体と兵士を4体残して、ボクだけ見てくるので、ここはお願いします」
「待ってください。中には兵隊蟻よりも強い隊長蟻や近衛蟻がいますし、複雑な迷路になっています。お一人では危険です」
「大丈夫。ボクひとりなら復活できるので」
目の前の少年がなにを言っているのかが理解できない。かける言葉を失っている間に司祭に祝福を受けて、巣の中に本当にひとりで潜って行った。
魔蟻の巣は、ひとつではない。金なる穴からもっとも近い巣とは別の魔蟻の巣からきた兵隊蟻が時折襲ってくるが、所属する拠点が遠いせいか増援は来ず、個別に撃破するのみだった。
「ここにはいませんでした」
セルが騎士1体とともに戻ってきた。出発する時は騎士はもう1体いて、兵士が4体いたが、ほかはやられてしまったのかもしれない。
セルと騎士の肩には大きな袋を背負われており、袋をひっくり返して中身を地面に零す。大量の魔石とドロップ品で、これだけで1,000ゴルドは軽く超えると思われる。水人族のマーファさんが手をかざすと、彼女の手のひらにそれら全てが吸収されていった。
セルとその仲間たちは、そこからさらに信じられないことを始めた。
同じ魔蟻の巣を見つけては、8割を呼び出してすべて倒し、セルと彼のスキルである兵士や騎士のみ巣に入っては完全にせん滅するのを繰り返す常軌を逸した行為に少女は彼の背中に英雄という影を見た。
最初、セルの他は騎士が1体しか残らなったのにもう1体の騎士、兵士と段々と生還する数が増えていき、4つ目の魔蟻の巣から戻ってきた時には誰ひとり欠けることなく帰ってくるようになった。
物資が尽きそうになると、セルのスキル。飛騎がムンク司祭を抱えて地上まで戻り、換金や物資を補給して帰ってくるのを繰り返し、夜間は危険なので昼間に騎士や兵士を周囲に配置して眠りについた。
シリカ大峡谷の底に降りて、一週間が経った。
潰して回った魔蟻の巣は20を超えて、カノも訪れたことのないシリカ大峡谷の最深部までやってきた。
いつものように外に沸いた兵隊蟻をすべて倒し、ムンク司祭から祝福を受けて、魔蟻の巣に入って行こうとしたセルのカラダが一瞬消えてなくなった。すぐに天から光が降り注ぎ、光線のようなもので、目を瞑ったセルを象っていき、本人が目を開いた。手の甲にいつの間にか刻まれた〝─〟の文字を皆にみせて告げた。
「ゴメン、やられた──」
魔蟻は移動している時に『ギリギリッ』と関節が擦れる音が出るため分かりやすく、また止まっていても『キュキュッツ』と人間には聞き取れないアリ語を話しているので、不意を衝かれることはまずない。
魔蟻の最大の特徴であり、いちばん恐るべきところは、純粋に数が多いこと。
ほどなくして、兵隊蟻と遭遇すると、腹の部分を地面に叩きつけて仲間を呼び始めた。すぐさまセルがグレートソードで吹き飛ばした。
「やっぱり軽いな~。倍以上は重くないとしっくりこない」
並の人間では両手で振り回すのも大変な両手剣を片手で軽々と振り回しつぶやいている。
キュッキュと言葉を発しながら、壁を背にして半円状に囲まれた。数は30体以上はいる。そして口々に「侵入者を●せ、女王を守れ」と口走っている。
やはり夜にこの場所へ来るべきではなかった。心の底から後悔しはじめた。
しかし、こんな窮地にあって、司祭は慌てているものの、セルと水人族の女性は落ち着き払っていた。
「行きます! 【指し手】」
セルの能力が発動する。これまで見たことも聞いたこともない不思議な能力。
彼の背後に無数のひと型の兵士や騎士の恰好をしたものが現れた。よく見ると人間ではなく、動く人形のようなもの。会話はできないのか黙って、主の指示に従い、魔蟻の包囲網に対し、半円の円陣を組んで、身近にいる兵隊蟻を打ち倒していく。
一体一体が恐ろしく手練れで、兵隊蟻の数など、ものともせず数十秒で包囲網を食い散らかした。
「すごい。十倍以上の戦闘を経験したみたい」
「スゴいですなぁ。さすが神プレイヤさまの恩恵」
司祭となにを話しているのか会話の内容が、いまいち読めないが、どうやら新しいチカラを魂の神プレイヤから授かったらしく、そのチカラに浮かれているようだ。
それでもここは〝魔蟻の巣〟──過去に何百人、何千人と冒険者たちが命を落とし、その中には英雄と呼ばれるような人物も何人か含まれている。
浮かれた彼らに蟻の巣窟は容赦しない。次々と仲間を喚び、黒い大波となって獲物を呑み込もうとする。
しかし、絶対的な捕食者である〝魔蟻〟は目の前の獲物であるはずの生き物が、圧倒的なチカラを見せつけ、自分達が狩られる側の立場であることに驚愕を感じたであろう。
1時間近くかけてようやく周囲に動くものがいなくなった。
「近くの巣の7~8割くらいは倒したと思います」
魔蟻の法則で、巣の外に出てくるのは最大で8割くらい。残りの2~3割は巣の中で女王蟻を守る習性がある。
「じゃあ飛騎2体と兵士を4体残して、ボクだけ見てくるので、ここはお願いします」
「待ってください。中には兵隊蟻よりも強い隊長蟻や近衛蟻がいますし、複雑な迷路になっています。お一人では危険です」
「大丈夫。ボクひとりなら復活できるので」
目の前の少年がなにを言っているのかが理解できない。かける言葉を失っている間に司祭に祝福を受けて、巣の中に本当にひとりで潜って行った。
魔蟻の巣は、ひとつではない。金なる穴からもっとも近い巣とは別の魔蟻の巣からきた兵隊蟻が時折襲ってくるが、所属する拠点が遠いせいか増援は来ず、個別に撃破するのみだった。
「ここにはいませんでした」
セルが騎士1体とともに戻ってきた。出発する時は騎士はもう1体いて、兵士が4体いたが、ほかはやられてしまったのかもしれない。
セルと騎士の肩には大きな袋を背負われており、袋をひっくり返して中身を地面に零す。大量の魔石とドロップ品で、これだけで1,000ゴルドは軽く超えると思われる。水人族のマーファさんが手をかざすと、彼女の手のひらにそれら全てが吸収されていった。
セルとその仲間たちは、そこからさらに信じられないことを始めた。
同じ魔蟻の巣を見つけては、8割を呼び出してすべて倒し、セルと彼のスキルである兵士や騎士のみ巣に入っては完全にせん滅するのを繰り返す常軌を逸した行為に少女は彼の背中に英雄という影を見た。
最初、セルの他は騎士が1体しか残らなったのにもう1体の騎士、兵士と段々と生還する数が増えていき、4つ目の魔蟻の巣から戻ってきた時には誰ひとり欠けることなく帰ってくるようになった。
物資が尽きそうになると、セルのスキル。飛騎がムンク司祭を抱えて地上まで戻り、換金や物資を補給して帰ってくるのを繰り返し、夜間は危険なので昼間に騎士や兵士を周囲に配置して眠りについた。
シリカ大峡谷の底に降りて、一週間が経った。
潰して回った魔蟻の巣は20を超えて、カノも訪れたことのないシリカ大峡谷の最深部までやってきた。
いつものように外に沸いた兵隊蟻をすべて倒し、ムンク司祭から祝福を受けて、魔蟻の巣に入って行こうとしたセルのカラダが一瞬消えてなくなった。すぐに天から光が降り注ぎ、光線のようなもので、目を瞑ったセルを象っていき、本人が目を開いた。手の甲にいつの間にか刻まれた〝─〟の文字を皆にみせて告げた。
「ゴメン、やられた──」
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