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第3章 メイズの村

第7話 帰還

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「キュアさんはどうしてこんなところに?」
「それを聞いてどうする?」
「いえ、ただ気になっただけで、イヤなら別にいいです」
「ふん、別に教えてやらんでもない」

:デレてるw
:なんか初々しいの~婆さんや
:ここにggiがいるぞ

「ワシはここに封印されていたのじゃ」
「いったい誰に?」

 この世界には魔人と呼ばれる種族がいる。人族を筆頭に彼らとの対立の歴史は神話の時代までさかのぼる。昔からこの世界で災いの種を撒き散らす困った種族と数々の伝承が残されている。そんな魔人のなかでも彼女はとりわけ特殊な存在で数奇な運命にあるらしい。

「まあ、魔人のなかにもいろいろとあるのじゃよ」
「いったいいつからここに?」

 いくら魔人とはいえ、寿命があるだろう。彼女は14歳であるボクとそう歳は離れていないようにみえる。


「さてな……さっきまで【時空冷凍刑】で凍らせられてたから、今がいつの時代なのかワシにはわからん」
「なんで溶けたんですか?」
「それもわからん」

:イベント確定
:都合がよすぎw
:何歳なん?
:1,000歳とか?
:やめろ、年齢を詮索すなッ! 萎えるわ

「じゃあ、行きましょうか?」
「わかった。行くぞ」

 どこに行くのか? というボクの疑問はすぐに晴れた。
 ボクの左目のなかに液体のように溶けて流れ込んだ。ものすごく動揺したが、左目から声がした。

「普段は、おぬしの左目のなかにおる」

 キュアさんがボクの左目にいる間は、彼女の能力【月炯眼ザ・ホルス(SSS)】を任意発動できる。発動中は、観察力の細緻化、視力の超強化、動体視力の高補正、幻影破り、能力の開示が可能になるそうだ。

「キュアさんよろしくお願いします」
「ふん、キュアでいい。契約だからしかたなく協力してやる」
「わかったよキュア、よろしくね」
「……」

 素直じゃないけど、これが神々がいう「ツンデレ」なのだろうか? ボクにもなんとなくその考え方がわかってきた気がする。

(じゃあ、そろそろやるべ?)

 え……。

:さすが鬼w
:いちおう空気は読んでる

 忘れてた。そういえば、なにか特訓めいたことをするとか言っていた気が……。


 ──2週間後、メイズの村にて。

「おにいちゃん?」
「フェナ、ただいま」

:うお、なんだこの金髪美人さんはぁぁぁッ?
:妹だってよ、よかった。彼女だったらキャラに殺意が芽生えてたw

「フェナ?」

 胸のなかに飛び込んできた妹の肩をつかみ、引き離す。

「えぐっ、だってお兄ちゃん、森のなかでもう死んだってまわりのひとが……」
「大丈夫。心配かけてゴメン」

:うっ……兄妹愛、泣ける
:彼氏いるのかな?
:水を差すなw

 うーん、神々の声を聞いていると、せっかくの妹との感動の再会のはずなのに冷めた自分がいる。目の前で妹がボクのために泣きじゃくっているのに涙ひとつ出てこない。

 1週間近く神プレイヤの地獄の特訓を受けた。そこからキュアの眼のチカラのおかげで森のなかを迷うことなくメイズの村まで帰ってくることができた。

「フェナ、これは?」
「え、ううんなんでもないよ。さっき転んだだけ」

 よくみるとフェナの着ている服に泥が渇いたあとがついている。左ひざにすり傷。右肩をかばっているので、倒れたときに捻ったとみられる。そしてなにより右頬にうっすらと打ち身のあと……。
 キュアの眼のチカラで、フェナの置かれている状況が把握できて、胸がくるしくなった。ボクがいないばかりに、いじめっ子たちがこぞってフェナをイジメたに違いない。

 ギュッと拳を握るがすぐに手のひらからチカラを抜いた。
 向こうが意地悪してきたからって、ボクが力任せで報復なんてしたら、争いが起きる。ボクら家族は「貧民」階級なので、ここから追い出されてしまったら、行くあてがなくなってしまう。

 フェナに家へ帰ろうと伝え、家路に着くまでの間に、神プレイヤや魔人キュアの話は伏せて、森のなかでのできごとを説明した。フェナは信じられないといった表情をみせるが、現に兄が生きて帰ってきて、誠実でやさしい兄の性格を知っている。説明した内容を少し無理やりだが理解してくれたようだ。

「母さんただいま」

 家のなかで機織りをしていた母は、作業の手をとめ、ボクに駆け寄り強く抱きしめた。
 今回ばかりは、あの軽薄な神々もなにも口に出さずに母との再会を果たした。


 すぐに邪魔がはいった。家の扉を蹴破り、村の男たちが家のなかに入ってきた。

「ウグノはどうしたんだい? あんた、ウグノを見捨ててひとりで逃げ帰ってきたんだね?」
「いえ、ウグノさんや傭兵のふたりはボクの目の前で魔物に殺されたんです」
「お黙りなさいッ! この薄情もの。ウグノに受けた恩を返さないばかりか、仇で返すなんて、あんた極刑はまぬがれないわよ」
「そんな……この子はそんなひどい子ではありません。奥さまどうかご慈悲を」
「おいおいなにやってんの、こんなとこで?」

 ウグノさんの奥方が、怒りがおさまらず、母が懇願しているなか、背の高い男が入ってきた。





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