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第41話

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「いだっ……この、小学生のくせして、あだぁ!」
わんはオ・ト・ナだ、やなわらばー!」

 よく間違えられるので、普段はあまり気にならない。だが、目の前の中学生に言われるとなんだか無性に腹が立つ。だから、デコピン指導に熱が入るのも仕方ないというもの。

「……ごめんなさい」
「あやまっても一生許さんけど、今はそれどころじゃない」

 意外とネチっこいと思われるかもしれないが、人間はそうそう性格を180度矯正することなんて無理な生き物。どんなに反省しているように見えてもヤバい奴は・・・・・一生ヤバい・・・・・。だが性格を変えることはできなくても相手の言動や行動を変えることはできる。要はコイツには逆らわない方がいい、と野生の動物のように本能へ植え付けることができたら、調教は成功。ただし目の前で縛られている女子中学生は、すこしでもこちらが油断したら笑って寝首をかきに来そうなタイプ。けっして信用なんてしちゃいけない。

「あと15秒でトンネルの出口だよ」
「了解、うしろから出るから・・・・わんを轢かんでね!」
「ちょっ、待って、チビ女、そんなことしたら死ぬだろぉぉぉぉっ!」

 凪はジェームスに返事をして、救急車のうしろの扉を蹴り開いた。
 女子中学生をきつく縛っていたロープをナイフで切って、彼女を抱えて後ろのドアから飛び出した。やはりというか人間の性格は変わらない。凪の悪口を言っているのであとでたっぷり教育してやろうと思う。背中についているミニパラシュートを開くと風に煽られてトンネルの天井近くまで浮き上がったが、すぐに勢いを失って路面へゆっくりと足から着地できた。

「あぎじゃびよ……間一髪だったさ」

 トンネルを出た暴走救急車は、休憩所に入るランプの方へ急にハンドルを切り、速度を緩めないまま直進し、ガードレールを数枚突き破った音がした。もしかしたら海へ転落してしまったかもしれない。

「あー、仁科華じゃん! ウケる。こんなところにいたんだ!」

 この声は……。

 華はチビのくせにゴリラのような腕力の女に脇へ抱えられたまま、女のしているヘッドセットを通して聞こえた声に聞き覚えがあった。

「亜理紗と手を組んで私をハメやがった最低野郎!」
「すごっ! 被害者面できるって、おもしろすぎるっ!」

 この男が何者なのかを知りたい。
 だが、男は笑いながら、華のことをこう語った。「自分で投げたブーメランが頭に刺さって、自分で掘った墓穴に足をすくわれて、底に自分で埋めておいた地雷の上に勝手に落ちて盛大に自爆しただけじゃん!」……と華のことを完全にバカにしている。

「お前も亜理紗も絶対に許さない、必ず復讐してやるっ!」
「ぷぷっ……おっと悪い、ってか、それは無理でしょ?」

 また、華をバカにした。
 笑いを堪えているのはワザとなのかはともかく全身が勝手にわななくほど男を拒絶している。

「減刑されても30年は軽いんじゃない?」
「っざけんな! 14歳以下が犯した犯罪でそんなに重くなるわけねーだろ!」
「何もかも残念な華ちゃんに教えてあげる」

 男は華との会話の中では終始、笑いものにするつもりのようだ。かみ砕いて話している感じがより一層勘に触る。

 国家転覆を企てた組織に加担した罪として外患誘致罪や外患援助罪などがある。その刑は「死刑のみ」。たとえ少年法が適用されても無期懲役は免れない。その上で奇跡的に恩赦が出たとしても、あくまで減刑であり、それでも人生の半分は檻の中だと無線の先の男はいう。

「国家転覆……? そんなの聞いてないしっ」
「知らなかったとしても無理。連中に加担した時点で完全に詰んじゃってるから」
「ちくしょぉぉぉぉぉぉっ!」
「ねぇ、このフリムンはどうでもいいよ、それより亜理紗って子は大丈夫なの?」
「さあね? でも、今、日本最強の父親が向かってるから」

 楼が中学生をとことん言葉でいじり倒して悔しがらせている途中で、凪が割って入って楼へ質問した。でも、あの父親ひとならきっと大丈夫だと凪は心の中でそう決めつけた。






 救急車とアルミバンのトンネル内でのカーチェイスから遡ること十数分前。
 楼がネットワーク上にばら撒いておいたAI監視システムの一部である異常な場所が検知された。

 場所は、大田区と川崎市を結ぶ多摩川に架かる橋梁の下。
 大雨などによる洪水時の水位観測カメラに映ったのは謎の黒い飛翔体。

 通常のドローンにしてはあまりにも大きすぎる。
 楼は画像解析を数秒で済ませて、AIによる解像度の自動補正をかけ、画素数をあげていく。すると棺桶のような形をした有人ドローンが4機、東京湾へ向かって低空飛行していたのを確認した。

「一郎さん、たぶんコッチが本命」

 救急車はダミー。
 おそらくこの有人ドローンに田中亜理紗は乗っている。ただ、救急車の方に乗っている可能性もゼロではないため、両方とも押さえる必要がある。

 一郎はすでに救急車の方向へ向かって飛んでいたが、途中で針路を変え、ドローンを追って東京湾へと向かった。

 夜の海というだけあって探すのが非常に困難だった。
 東京のネオンに照らされて海面はもっと明るいかと思っていたが、想像よりずっと暗かった。

 だが、そこまで数は多くないが、夜間でも航行している船がチラホラとあり、ある貨物船の光に一瞬、横切ったものを一郎は見逃さなかった。

 一般にプロペラ音と呼ばれているブレードスラップ特有の音が聞こえる。一郎はジェットボードを加速させてその方向へ向かうと4機の大型ドローンを発見した。

 東京ベイライン上にある人工島「海ランタン」への針路を取っていることに気づいた一郎はすぐに本部へと連絡を取った。

 しかし、完全に今回敷いた警戒網の外。応援が駆け付けるのは少なくても10分は掛かるという。
 



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