オッサン清掃員の裏稼業

あ・まん@田中子樹

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第37話

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「パーヴェル・ニコラエヴィチ・ザイツェフ、51歳ロシア人」

 飯塚楼は実父の客観的なデータを集めて、一郎へ伝えた。

「このクソ野郎が働いているのが、ミロゾフ研究所という民間研究所」

 表向きは、生体医学やエネルギー、環境に関する技術の研究を行っている民間研究所。だが、裏ではゲノム改造技術に力を入れており、現在、地球上にいる人類に代わる「異人類化計画」を進めており、飯塚楼や双子の兄弟と母親もその計画の犠牲者のほんの一部に過ぎない、と楼は吐き捨てるようにつぶやいた。

「一郎さんが言っていたように俺って本当に実験体だったみたい」

 1体・・で世界をどれほど混乱に導けるかの実験。
 何万回とハッキングを繰り返して「ゲノム改造技術」というキーワードと「異人類化計画」というタイトルまでは潜って見つけられたが、計画の概要を覗き見る前にセキュリティが自己進化・・・・し、飯塚楼が作った電子思考体をはじき出したそうだ。
 
 楼の父親は現在、品川にある水族館にいるが、パーヴェルより早く中国北京を経由して羽田空港へ到着した仲間と思しき一人が品川でレンタカーを10台も予約を入れている。

 予約時間は19時。ちょうど亜理紗の違法ダンジョンとの接触開始時間であり、一郎自身も子役グループの拠点近くで偽装した装甲車両の中で待機しておかなければいけない時間となっている。

 飯塚楼も他の拠点への情報支援を任せられているので、引き続きAIによる情報収集だけは行っておくことになった。

「あとさ、ちょっとしたプレゼントを佐々木ってヤツに送っといたから」

 本部の地下にいる飯塚楼と世田谷支部の分析班に所属している佐々木は面識がないはずだが、一郎のバックアップ担当だというのをどこで知ったのか? 楼なら神籬のメンバー同士でも秘密にしている各個人の本当の情報が保管されているデータベースの奥深くまで潜ることができるかもしれない。

 飯塚楼の連絡が途絶えた後、すぐに佐々木から連絡がきた。

「こちら三七鹿、〇一烏まるいちからすへ連絡です」
「どうした?」

 一郎は、偽装大型車両の中で神籬の他の隊員や警察署員、ダンジョン庁特捜部のメンバーと一緒に待機中のため、堅苦しい連絡形式を取っている。

「六六蝙蝠より共有されたプログラムでダンジョンのハッキングが成功しました」

 なるほど、これが楼の言っていたプレゼントか……。
 私用ではあるが公用として説明もつく内容。なにより先ほどからずっとダンジョン内の状況が気になっていた。

「映像を確認しますか?」
「ダンジョンをハッキング? そんなことができるのか?」
「おい、神籬のエースに聞こえるぞ?」

 車内がざわつくが、一郎は気にせず、佐々木へ映像を見せてほしいと頼んだ。

 画面が眼鏡のディスプレイに映るとさっそく亜理紗を発見した。
 ひとり個室に閉じ込められている。
 友人たちも他の部屋で別々に行動している。どうやら一つの部屋にひとりしか入れない仕様になっているようだ。

 画面を何度か切り替えて、だいたいのルールを把握した。
 亜理紗たちゲストチームは生贄にされる前提で選ばれており、圧倒的に不利なルールが仕組まれている。
 
 相手チームのメンバーはアバターであるため、元の顔がわからない。佐々木に頼んで、雑居ビルへ入る際に撮影された人物の人相を確認した一郎は、すぐさま再度、佐々木へ連絡した。

 やはり……。
 相手チーム5人の犯罪歴を警察庁のデータベースへ照会したら、思った通り逮捕歴のある者たちばかりだった。

 これは、保険を掛けておいて正解だった。

 同級生の男子生徒2人は早々に脱落したが、AI人格『オメガQ7213』が相手チームの2人を行動不能にし、人数を減らした。

 だが、壁で視界を塞がれている分、亜理紗と親友の麗音の動きが遅かった。亜理紗が捕まってしまい、オメガQ7213がデスペナ覚悟で亜理紗を助けてくれた。

 亜理紗に乱暴を働こうとした男を見て、一郎は常に冷静でいられる自分の心のタガが外れそうになっていることに気が付き慌てて感情を抑え込む。

 オメガQ7213はデスペナで本来、現実世界に肉体という入れ物がない以上、存在自体が消え失せるはずだった。だが、AI人格は自分でうまく己のデータを来馬 鬨人くるま ときとへ移行させたのを確認した。不本意ではあるが、消えてなくなるよりはマシだと前向きにとらえることにした。

「半径300メートルの交通の封鎖が完了しました」

 20時になった。
 一斉摘発のため、路地から出てきた偽装車両は遠くからやってきた警察の遊撃車とともに雑居ビルの入り口に計3台停車し、目標のビルとビルの周囲、左右に立っているビルへ突撃した。

 逮捕の対象は8名・・
 子役の男2人に違法ゲームのプレイヤー5人、護衛役と見られる男ひとり。

 小火器を抱えた隊員が、屋内階段と避難用の外階段の両側から同時に駆け上っていく。各フロアには屋上から犯人が逃走した場合に備え、2人ずつ待機していく。

 内階段の3-4階の踊り場部分まで駆け上がった先頭の隊員数名が悲鳴とともに3階へと転げ落ちてきた。

「異能者だ。気をつけろ!」

 この子役グループ摘発部隊の部隊長。ダンジョン庁特捜部から派遣された中年男性が叫ぶ。

 踊り場の先から姿を見せたのは、黒いヘルメットに真っ黒なライダースーツを着た人物。体型から男性だと思われる。

 護衛役の男。
 昨日、このビルの屋上にやってきたのは確認されているが、顔を隠していたため、何者かは判明していない。

「撃て!」

 隊長の指示により麻酔銃が一斉に向けられ、麻酔針が宙に乱れ飛ぶ。
 しかし、そのすべてが、ライダースーツの男の右手に遮られた。

 両腕だけが異常に発達している。麻酔針も皮膚の部分で止まっており、効果がないと予想される。


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