上 下
33 / 47

第33話

しおりを挟む
「あー、君ら中学生?」
「はい」
「うーん、中学生はなぁ、ちょっと……」

 大きな敷地内に無数に並ぶ貨物用コンテナを改良したオフィス。
 室内は白を基調として清潔感があり、怪しい場所には見えなかった。

 20代前半の男性がふたりで店をやっていて、個人ダンジョンを使用した新しいゲームスタイルをベンチャー企業として設立したそうだ。

「誰から紹介してもらったの?」
「玉ノ箱中学3年の伊藤先輩です」
「伊藤……クン、あー、三島の後輩だね。でもね……」

 紹介してもらった人物に心当たりがあったらしいが、中学生はゲームはできないと遠まわしに断る方向で話を進めていた。しかし……。

「あれ、ちょっと待って……君、例のレアダンジョンでバズった子じゃない?」

 4人を順番に眺めていた男が亜理紗に気が付いた。以前、ダンジョン配信アプリで公開設定した時に相当数の視聴者がいて、その後も編集され、Pik PokやMy Tubeなどで拡散されたので一躍時の人となってしまった。

「どうしよっかなー? 特別待遇しちゃおっかなー」
「やった! 亜理紗連れてきて正解じゃん」

 雷汰が喜び、亜理紗に親指を立てグッドサインを送る。亜理紗もまんざらではなく口元が緩んでしまう。

「まずは参加費用とゲームの内容を教えてください」

 麗音はひとりだけ声のトーンが低い。彼らをまだ信用していないようだ。

「参加費は無料。ゲームの内容はダンジョン内での鬼ごっこ」

 すぐに行うのではなく、今度の土曜日の夜に開かれるらしい。1チーム5人で対戦チームと鬼ごっこをして勝ったチームのメンバー全員がAコーデを一式もらえるとのこと。ただし、鬼ごっこの具体的な方法はゲーム開始直前に説明するとの返事があった。

「どうして無料なんです? それじゃ開催しても儲からないじゃないですか?」

 鬨人も疑っているひとりだった。無料って言う響きは、たしかに怖い。

「ダンジョン配信アプリ【Stream Of Dungeon】は知ってるよね?」

 それはもちろん知っている。
 あの配信アプリを巡ってずいぶんと酷い目に遭ったので、いい思い出が無い。

「実は独自で開発した配信アプリがあるんだ」

 アプリの名前は教えてくれなかった。そのアプリは生配信ではなく録画して後日、動画をあげるタイプで視聴者数が多ければ多いほどアプリを制作した人に儲けが出る仕組みだそうだ。

「だから参加料は無料タダ。でも条件があるよ?」

 勝ったチームは、負けたチームのひとりから個人ダンジョンを奪うことができる、という条件付きだそうだ。だからレアダンジョン持ちの亜理紗を見て、レアダンジョンを巡ってより熱狂することを狙っているのだと思う。

「それはマズいんじゃない?」
「割に合わないよな、亜理紗」
「えーっ、大丈夫だって、勝てばいいじゃん」

 麗音に続き、鬨人も条件を聞いて亜理紗を心配してくれている。雷汰はいつも通り何も考えずにしゃべっているので無視するとしても……。

「5人目は私が連れてきていいですか?」
「……別にいいよ」
「亜理紗、本当にいいの?」
「うん、大丈夫」

 5人目をこちらが選べるなら勝機はある。
 むしろ、勝ちが確定してしまいそう。
 鬨人も「亜理紗が良ければ別にいいけど」と納得してくれた。

 それから数日後の土曜日の夜。
 指定された場所は、雑居ビルの屋上にあるペントハウスと呼ばれる屋上家屋に集まった。部屋の中の真ん中をカーテンで仕切られていて、カーテンの向こうにいる対戦相手の顔が見えなかった。

「4人しかいないけどいいの?」
「はい」

 例のベンチャー企業のひとりが亜理紗へ確認したので即答した。

「おい、5人目は?」
「大丈夫、一緒にいるから・・・・・・・

 鬨人がもう一度亜理紗に確認したが、問題ないと説得する。誰よりも頼りになる助っ人は、亜理紗のスマホの中・・・・・で待機している。彼がいるからどんなゲームだろうと問題ない。

「それじゃあ、ゲームの内容を詳しく説明するよ」

 もうひとりの男が、各自のスマホに事前にダウンロードさせていたアプリを起動するよう伝えて、画面のチュートリアルを見ながら説明を始めた。

「まず、くじ引きで鬼チームを決める」

 鬼役のチームを決めたら、次に転送される縦横ともに8マスのダンジョンの最初のマスを決めるように説明があった。

 鬼チームは縦軸にG列、鬼チームではない方はA列の好きなマスをそれぞれ選べば配置されるそう。

 ひとつのマスは5メートル角の正方形で、10メートルの高さの壁で隔ているそう。仲間と合流できないようにできていて、仲間がいるマスの扉は開かないそうだ。

 ただし、壁の上は10メートルの高さはあるが、声をあげれば周囲のマスにも聞こえるため、戦略として使ってもらいたいとのこと。

 次にマスの移動はターン制で、1ターンでひとり1マスずつ移動ができる。鬼チームがそうではないチームのマスに入ったら鬼チームがそのメンバーを捕らえることができ、鬼チームが全員を捕らえたら鬼チームの勝ち。鬼チームではない方は、転移直後にランダムで「ボール」が配布されるため、そのボールを敵陣であるH列のマスへ持ち込めば鬼チームじゃない方の勝利となる。

「じゃあ、丸がついた方を引いた方が鬼チームで……」

 司会の男がカーテンの端に立って、手に持っているアルミ缶に刺さっているアイスの棒みたいなものを向こうとこちらへ順に差し出す。その差し出されたものをじゃんけんで勝った雷汰が引いたら丸印がついていない方の棒を引いた。

「では、鬼チームから先にゲートに入って」

 鬼チームが先にダンジョンゲートに入ると、カーテンが開かれ、誰もいなくなった仕切りの向こうにあるゲートが見えた。

「それじゃ、楽しんで・・・・ね」

 司会の男の声がやけに気になりながら、亜理紗はダンジョンゲートをくぐり抜け自分で選択したA-3へと転移した。










【Dゲームの初期配置図】

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...