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第27話

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 沖縄、か……。
 一郎はマンション屋上にある秘密の通信部屋で飯塚楼から送られてきたメールを開いて眺めていた。

 飯塚楼は神籬に迷惑が掛からないように独自の回線から監視カメラをハッキングして全国くまなく監視の手を伸ばしていたそうだ。だが、沖縄だけは多くの米軍基地が駐留している関係でハッキングの難易度が他の地方よりも高く、かなり時間を要したと書かれている。

 髭面の男、ジャマル・ハニアが沖縄にいたのは意外だったと飯塚楼のメールには書かれているが一郎はそうは思わない。

 これは警察筋からの情報だが、日本国内で重大事件が発生した場合、まず国内の海外への渡航する飛行機の国際線や旅客船に捜査網を敷く。その次に動くのは、沖縄県内に潜伏していないかを徹底的に捜査すること。一郎個人の見解としては、南の島に飛べば見つからないのでは? という犯罪者の心理が働くからだと見ているが真相はわからない。ひとつはっきりしているのは、本当に沖縄で逮捕される犯罪者が後を絶たないという事実のみ。

 あと沖縄は海外の観光客だけでなく、米軍基地関係の外国人が非常に多い。日本で外国人が潜むには最適な場所なのかもしれない。

「一郎さん、メールを見てくれた?」
「見たよ。目的は何だと思う?」
「まだ調査中なんだけど……」

 不確定な情報なので、神籬内部にもまだ知らせていないそうだ。楼が監視カメラを使って今日1日の行動を探ったところ、午前中はうるま市勝連半島にある米軍基地ホワイトビーチの近くで不審な動きを見せた。その後、移動して瀬長島という観光施設が集まる島で食事をしたり、買い物をしたりと一般の観光客のように振る舞い、同島にあるホテルへと入っていったとのこと。

「それで、今までの情報のどこに不確定な部分が?」
「ホワイトビーチってどんなところか知ってる?」
「まあ、多少は」

 沖縄県うるま市にあるホワイトビーチ。
 内湾の地形に水深があるのが特徴で神奈川県横須賀基地、長崎県佐世保基地とともに日本国内で原子力潜水艦や原子力軍艦が寄港できる米軍港である。

「つまり?」
「連中の本当の目的が『核』である可能性があるんじゃないかってこと」
「まさか!?」

 さすがにこれは話が飛躍しすぎている。
 そんなものを狙っていったいどうするというのだ?
 いかにロシアに対する抵抗勢力や米巨大軍需企業でもそのリスクは一般人よりも重々承知しているはずだ。第3次世界大戦が起きるトリガーは、どちらか一方が、核を超える技術を開発した時のみ。しかし、人類はその段階には至っていない。

「ダンジョンが絡めば?」
「それは……」

 そうであれば、なんとも言えない。
 どこかの国で核を超える技術が生まれたのか? 
 いやそれはない。
 誕生したのであれば、とっくにこの世界は終焉に向かっているはず。

 これは「不確定の情報」というよりは荒唐無稽な噂話レベル。とても神籬の上層部に報告するような内容ではないと判断した一郎は、楼にしばらくジャマルの動向を探ってから組織内に共有しようという話をした。
 
 ジャマルの件は、神籬上層部より一任されている。
 あの男が国内にいる限りはダンジョン法を行使して逮捕することも可能なので、より大規模な犯罪を企んでいないか、裏にいる組織を含めて洗いざらい白状させることが国益に繋がると判断している。

 家に戻って、出張の準備を始めていると亜理紗が寝室の扉をノックした。
 妻の百合子は例のごとく夜勤で家を空けている。

「お父さん、また例のお仕事?」
「うん、そうだね」

 亜理紗には、すでにある程度バレているが、家庭や学校といった今の幸せに満ちた私生活が崩壊を招く危険があるから口外しないよう口止めしている。娘は母親に似て口は堅いので信用している。

「じゃあさ!」

 すこし表情が明るくなったのを一郎は見逃さなかった。これから父親が出かけるのに喜ぶのはお土産が目的? それとも……。

「AIキャラを?」
「うん、船で私を助けてくれた人」

 という言葉が気になったが、亜理紗にとっては恩人のようなものだろう。AI人格『オメガQ7213』を出張に行っている間に亜理紗の個人ダンジョンでサポートして欲しいとの申し出だった。

 それは別に問題ない。
 腕時計タイプの高性能PCからAI人格を一時的に切り離すことは可能。数日くらいならPCから切り離しておける。それ以上はアップデートが必要であるため、推奨できない。

「明後日までならいいよ」
「ホント? やったー」

 それにしても亜理紗らしくない。
 個人ダンジョンを自分の力で攻略するだろうと亜理紗の性格を分析していたのにサポートしてもらうことに嬉々としている。一郎にはどうにも腑に落ちなかった。

 あと、亜理紗にはけっしてAI人格……NPCを配信しないように釘を刺した。いつぞやは大衆の目に触れた挙句、今は神籬の一員となった飯塚楼に自分の身元まで特定されてしまった経緯がある。あと、一郎の偽装アバターはひとつだけでは危険だと前回の事件で学習した。
 例に挙げるなら、何かしらの理由で腕時計PCを使ってアバターを切り離さざる得ない状況に陥った場合が発生したとする。その状態で、もし更に別のトラップダンジョンに放り込まれたら、一郎は初期アバターで戦ったり、探索しなければならない。そのため、分析班の佐々木にお願いして、他に別のアバター2体用意してもらった。

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