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1st  ワイ、転生したん?

隣都市

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ボーリングさんの鍛冶工房に向かう途中、擬人化が解けて小石に戻った。どうやら、擬人化できるのは丸1日が限界のようだ。

「魔法を見るのも、ずいぶんと久しいの」
「魔法って、概念あるん?」
「ふむ、かつてこの都市にも魔法使いがおった」

30年以上前には、この都市にも魔法使いがいたらしい。しかし、資源を巡る争いに負け続け、衰退したこの都市からは有望な人材が他の都市へ流れてしまったそうだ。その中には魔法使いも何人も含まれていたそうだ。

「ここじゃ」

他の建物とは異なり、円柱の形をした構造。中に入ると、手前の部屋は完成品を保管する場所のようで剣や斧などの武器が壁に掛けられていた。さらに、無造作に箱に詰められた武器もたくさんあった。

奥の部屋には鍛冶場があり、ボーリングさんから黒くて丸い球がいくつか入った袋を受け取った。

「そいつはシロ殿専用の爆弾じゃよ」

衝撃や熱に強く、軽いため持ち運びも楽で、通電によって爆発する仕組みだそうだ。ボーリングさんは、目の前で作りたての短剣を鞘に収めて私に渡してくれた。

「短剣の柄に指をかける部分があるじゃろ?」

銃のトリガーのような形をした部分を引くと、麻痺成分の液体が刀身に滲みだすらしい。人間大の小型魔獣なら、一瞬で動けなくなるとのことだ。

「そんな、こんなものをタダでもらうわけには……」
「わっはっはっ……これでも足りないくらいじゃわい」

ダンジョンで助けてもらったことや、弟が迷惑をかけた分を考慮したそうだ。それに……。

「これは営業でもあるんじゃよ」

この都市に久しぶりに現れた魔法を使う者。これからますます活躍するであろう人に自分の道具を売るための宣伝費のようなものでもあるという。

「オッサン、気に入った。武器が必要な時は声かけさせてもらうわ」
「次からは通常価格じゃぞ?」
「わかってるって」

クロもボーリングさんの人柄を気に入ったみたい。意気投合して鍛冶場にある武器などの相場について話を聞いていた。








ボーリングさんの鍛冶工房を出て少し歩いていると、クロが突然後ろを振り向いた。

「どうしたの?」
「誰かに見られている気がしたんよ」

気のせいか、とつぶやき、ふたりは再び前を向くと。

道の真ん中に白装束の格好をした人物が立っていた。さっきまで周りには人がいたのに、いつの間にか白装束の人物とクロと私の3人だけになっていた。

「なんなん?」

クロが相手に問いかけながら、道に落ちている小石を拾い始めた。小石に擬人化付与をするつもりなのかもしれない。

「待て、敵意はない」

女性の声がした。目の前の白装束の人物は顔を布で覆っているため、顔が見えなかったが、どうやら女性のようだ。

「何の用か教えてください」
「一緒にミモリ様を助けに行ってほしい」

私が尋ねると、白装束の女性が話し始めた。ミモリ様は南街を管理しているエリア長で、隣にある都市031に連れ去られたらしい。

「なんでワイ達のことを知ってるん?」
「南街には斥候を生業とする一族が住んでいます」

その一族は情報収集に長けていて、この都市508のあちこちに「草」と呼ばれる者たちが潜んでいるそうだ。エリア長のミモリはその一族の長でもあるという。

「それ、忍者やん」

たしかに忍者っぽい。
服装からやっていることまで、時代劇や漫画、アニメで見覚えがある。

「まあ、ええよ」
「クロ!」
「だって、しゃーないやん? エリア長なんやし」

クロが白装束の女性に返事をしたので、本当にそれでいいのか確認した。しかし、クロの言う通り、相手がエリア長なら自分たちにも関係がある。4人のエリア長を従えなければ都市の管理ができないので、やむを得ない。

「私はヒルヨと申します」
「ワイはクロ、こっちはシロ」

ヒルヨと名乗った白装束の女性から「今すぐ出発したいのですが?」と聞かれ、クロは「金があるなら、ええよ」とあっさりと了承してしまった。

出発する前にボーリングさんの鍛冶工房に引き返す。
クロがボーリングさんに「さっそく上客を連れてきたで」と伝えると、武器や防具を私たちと、再び擬人化した元小石たちの装備品の代金をヒルヨさんに支払ってもらった。





約1日かけて、都市031に到着した。
ヒルヨさんは斥候部隊のリーダーをしているそうで、姿を現さないが、黒装束の斥候たちが散らばっているらしい。私たちが魔獣と遭遇しないように黒装束から何度もヒルヨさんに合図が送られ、安全なルートを選んで進んだため魔獣と遭遇したのは一度だけだった。それも小型の魔獣だったので、擬人化兵がひとり犠牲になっただけで、倒すことができた。まあ犠牲になったとはいえ、クロがすぐに擬人化付与を行って補充したので、戦力の低下にはつながらなかった。

「とまれ!」
「異界人やで」
「──っ!? これは失礼しました。どうぞ、お通りください」

ヒルヨさんがクロと私に依頼した理由は、異界人はこの世界で非常に重宝されているからだと言われた。なぜ彼らが私たちをすぐに異界人と認識できたかというと、それは言語の違いによるもの。言葉が二重になって互いに聞こえるらしく、例えるならTVで海外のスポーツ選手に日本人記者がインタビューする場面に似ている。選手が話す他国の言語と、通訳者が日本語で同時通訳しているのを聞いている感じに近い。

ヒルヨさんは都市031の城壁に近づく前に姿を消した。彼女たちは別の方法で都市031の中に侵入するので、クロと私は正門から堂々と入るように言われていた。

「それで、我が都市にどういった御用でしょうか?」
「都市508の南街エリア長、ミモリはおる?」
「さて、ミモリ殿……ですか? 私は存じませんが」
「そんなんいいて、はよ出して」

ニコニコと応対している男が薄目を開けてクロを見つめる。

「無用な疑いをかけるのはやめてください、都市508の使者殿」
「悪いやつほど、意味なく笑うもんや、な? 化狸!」

この世界に狸がいるとは思えないが、どう訳されているのか興味深い。いやいや、そんなことを考えている場合じゃない。他の都市に来ていきなり喧嘩腰なのはどうかと思う。

「もし、ミモリ殿がいるなら、どうなされるつもりです?」
「そんなん簡単や、都市の中を探させてもらう」

男は、別に都市の中を自由に探しても構わないと答えた。どうやらミモリさんは相当、捜索困難な場所に囚われているらしい。

「んじゃ、探すか!」
「なっ!」

クロが擬人化付与で拾った小石を人に変えて、10人がそれぞれ異なる方向へ早歩きで消えていった。

私とクロが二手に分かれる程度しか想定してなかったのだろう。顔もはっきり見せないまま、擬人化した人たちが姿を消した。そのため、物陰に隠れていた都市031の兵士たちが姿を現し、騒ぎ始める。

「じゃぁ、ワイ達も探しに行くで?」
「はっ、はい!」

展開が早すぎて、ついていくのがやっとだった。

嘘くさい笑顔を浮かべていた男の顔が真っ赤になり、「ちょっと待て、貴様ら!」と後ろで叫んでいたが、無視して立ち去る。兵士に追いかけられても都市508の使者であり、罪を犯してもいない異界人を捕まえることはできないとヒルヨさんから聞いていた。私としては広場で注意を引き付けておけばいいくらいだと思っていた。そのため、今起きている急な展開にまだ頭が追いついていない。

「今頃、必死に擬人化の方を追ってるやろうな?」

でも、一度解除して再びクロが擬人化したら、それこそ相手は手に負えなくなるだろう。031の兵たちを夕方まで振り回して、堂々と正門から出て都市508へと帰還した。






都市508に戻ると、門の近くで南街のヒルヨさんともう一人立っていた。

「助けてくれたことに感謝する」
「ふぁぁぁああ!?」
「どしたんシロ?」
「うっ、ううん、なんでもない」

まるで絵から抜け出してきたような美少年・・・。てっきり、年配のナイスミドルだと思っていたのに、まさかの刺客が私の心を不意に襲った。

どどどっ、どうしよう?
めちゃくちゃ、好みなんだけど?

って、いやいや、私は元男だし、そんな感情を持つはずは……あるかも。もうここは異世界なんだから、自分の新しい性に素直になってもいいんじゃないかな……。でも、クロにバレたら何を言われるかわかったもんじゃない。自分の新たな性癖に気づいてしまったが、今は心の中にこっそりしまっておくことにしよう。

南町エリア長ミモリはヒルヨ達の手によって隣都市031の領主の館から無事救出できたため、自分たちより先に都市508に戻ってこれたようだった。ミモリが捕まった理由は、都市031に向かう途中、クロが質問したが、結局助けた後もはぐらかされたままとなった。






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