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1st  ワイ、転生したん?

愚弟

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「擬人化スキルって言うんは……」

私がダンジョンに潜っている間にいろいろと試したらしい。
そこら辺に落ちている小石に擬人化スキルを使ったら「人」になったみたい。最大で10人まで擬人化できて、11人目を擬人化すると1人目が消えて新しく11人目が生まれる仕組みだそうだ。擬人化した人には簡単な指示を出せて、10人同時に別々のことを行えるらしい。

「もちろん消すことだってできるんよ」

消す際は、ステータス画面に表示されている1から10までの淡く光っている数字を押すと該当の擬人化が解除されて小石に戻るとのこと。

「ふむ、取り込み中に悪いの」

クロと私の話が長引きそうなので、ボーリングさんが会話に割り込んできた。私の方こそ気が利かなくて申し訳ないと思った。

「シロ殿、助かったわい、報酬を渡すから今度東街にきてくれ」
「はい、わかりました」

ボーリングさんがそう言って手を挙げ、東街の方へと消えていった。

「騙されないよう気をつけなあかんよ」
「え?」

クロが、ダンジョンで助けた礼の話やろ、と言い当て、後日渡すなんて甘い話がこの世界にあるのか疑わしいと話す。

「まあ、私も道に迷っていたから助かったし」

ボーリングさんとダンジョンの中で会っていなかったら、今もまだダンジョンでさまよっていたかもしれない。そう考えると、報酬なんてなくても十分だと思う。

クロはまだこの世界に来たばかりだから、むやみに人を信じない方がいいと話した後、先ほどの話に戻った。

クロは小石にかけた擬人化付与がどれくらいで解けるかを試したいらしく、今日は宿屋に泊まっている間に勝手に解除されないか試してみたいと言っている。

この都市508は、マルトゥークの季節以外は市壁の外に魔獣が大量にうろついているため、訪問する人間はほとんどいないそうだ。どちらかというと、家を持たない人が安く滞在するアパートのように利用されているらしい。

「ご兄妹ですか?」
「まあ、そんなもん」
「では、お二人で4マイルです」

魔石を換金したお金で、軽く1週間は宿屋に泊まれそうだが、これからどんな出費があるかわからないので、二人部屋を予約した。

「私が入っている間、絶対に見ないでください」
「なんで? 元同じ人間だから気にしなくていいんちゃう?」
「気・に・し・ま・す!」

夜食と朝食のパン、そして湯浴み用の桶を受付で頼んだ。部屋のタイルの敷かれたところで湯浴みするそうだが、仕切りもなにもない。クロは不思議そうにしながらも、自分のベッドで背を向けた。

私にとってはこれからやるのは未知の領域。女性の体でお風呂に入るという刺激的な体験をしなければならないのだから。

こ、これが女の子の体。柔らかくて肌が白い。自分で体を拭いていると、なんだか変な気分になる。これで元いた世界のように湯舟に入れたら最高なんだけどなー。

「魔法はどやった?」

クロが背を向けたまま、ダンジョンでの出来事を聞いてきた。

「ふーん、雷みたいな魔法やねんな……」

今日、ゴマスからクロが聞いた話には魔法のことが含まれていなかったらしい。あまり一般的ではないのか、それとも魔法は私だけの特権なのかもしれない。

「まあ……明日……調べれば……」

クロの声がだんだんと途切れ、やがて寝息を立て始めた。今日は色々あったから、疲れているのかもしれない。彼を起こさないように静かに湯浴みを終えて、私も明日に備えて寝ることにした。

「1日5マイル、嫌なら帰りな」
「ええよ、それで」

朝になっても擬人化付与の効果は続いていて、宿屋の前には変わらず10人が立っていた。クロの話によると、彼らを使って働かせてお金を稼ぎたいが、使用者が経験を積んで人に説明できるくらいに覚えないと、擬人化された人にうまく指示を出せないらしい。

東街は工場が多く、特にいちばん大きな魔石工場で働かせてほしいと頼みに行った。

魔石工場では、ダンジョンの魔物から採取された魔石から魔素と呼ばれるエネルギーを取り出し、「量光器」というシリンダー状の容器に移し替える作業をしているそうだ。

私たちは、もっとも時間のかかる魔石からエネルギーを抽出する作業を任されることになった。

大きな樽に魔石を入れ、水で浸し、薬剤のようなものを樽の中に垂らして、あとはひたすら混ぜるだけ。

これはかなりの重労働で、精神的にきつそうだ。かき混ぜる棒をゆっくりと動かしているが、早くても遅くてもダメで、一定のリズムを保ちながら、同じ姿勢、同じ動きを何千回、何万回と繰り返さなければならない。

部屋の中には私たち以外にも50名近くの従業員が同じ作業をしていて、みんな真剣に取り組んでいて、誰もおしゃべりをしようとしない。むしろ、何かに怯えているようにも見える。

「アカン、もう無理」

混ぜ始めて半日。クロが限界に達した。手を止めていないが、独り言を口走り始めた。「なんで誰もしゃべらないん? 真面目か」とつぶやいていると、部屋の隅にある小部屋から豚のような醜い顔の男が姿を現した。

「仕事中におしゃべりするなんて、いけませんね~」

男は革袋に何かを詰めたものを持っており、片手で振り回している様子から、それが人を叩くものだと推測できた。

「アカンてこれ、退屈すぎるわ。オッサンやったことあるん?」
「何か雑音が聞こえますね~」

周りの人たちが豚顔の男を見て青ざめている。彼らが恐れていたのはこの男だったのか……。クロが抗議しても、最初から交渉の余地はなかった……。

「おしゃべりくらい許可してあげや、ずっと黙ってかき混ぜるのは地獄やぞ?」
「豚が何か鳴いてるみたいだけど、調教が必要そうね~」
「どのツラで人に豚っていうてんねん! 本物の豚さんに失礼やろ?」


あっ、クロがNGワードを言っちゃったみたい……男が激怒し「そいつをブチ殺すから取り押さえなさい!」と叫んだ。

「なっ、何をするの! いだぁ、ちょっ、やめっ……」
「うっさいわ、ボケ!」

他の人たちが動く前に、クロの命令で擬人化した人たちが男を逆に床に押さえつけた。クロは頭の方から近づいてデコピンを無限に連打した。

デコピンって1回か2回くらいなら耐えられるが、何十回とやられると簡単に心が折れてしまう。

「おしゃべりOKやって。良かったやん、みんな」
「うぉぉぉぉぉおおお~~」

豚顔の男が泣きながら部屋を出て行ったあと、部屋の中は歓声で満ちた。







夕方まで働いて、工場の前でその日の賃金を受け取ろうと待っていると、あの豚顔の男が工場の責任者らしき小柄な男と一緒に工場の奥から現れた。

今日の騒動のせいで日当はゼロ、あの部屋で作業をした全員に対して工場側から報酬を支払わないと告げられた。

「話が違うやん?」
「いいのか? このお方に逆らって、東街のサンプラー様だぞ!」

ゴマスが言っていた各地区のエリア長のひとり。

都市の運営をするためにはこのサンプラーなる人物と対立するのは得策ではない。

「知らんてそんなん、給料をもらうのは労働者の権利やぞ?」

クロの主張はもっともだ。騒ぎを起こした自分たちだけでなく、同じ部屋にいて騒ぎを止めなかったという理由で巻き添えになった他の人たちが気の毒だ。

「ん~~~っ」
「サンプラー様!」

意外と悩んでいる。これはイケるかもしれない。

「おお! シロ殿、こんなところでどうしたんじゃ?」

昨日、ダンジョンで一緒に行動したボーリングさんが工場の前を通りかかり、私を見つけて声をかけてきた。

「に、兄ちゃん!」
「サンプラー、シロ殿と何を話しているんじゃ?」
「こいつら、ワイ達に金を払わないって言うてんねん!」

ボーリングさんって、エリア長のお兄さんなんだ。状況を見て、すかさずクロが告げ口をすると、ボーリングさんが「他の地区に馬鹿にされるぞ、さっさと金を払わんか!」と叱ってくれた。ボーリングさんに叱られた弟は、豚顔の男に命令して、すぐに今日の賃金を走って持ってきた。

「愚弟のせいで迷惑をかけて、すまんかったの」
「いえ、ボーリングさんには助けられました」

ボーリングさんが、サンプラーと豚顔の男に土下座をさせて私たちに謝らせた後、昨日の話を始めた。

「お礼の品ができたんじゃが、工房に寄ってもらえんかの?」

昨日のことを忘れていなかったんだ。今日1日かけてお礼の品を作っていたそうで、完成したから中央街へ私を探しに行こうとしていたそうだ。









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