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情欲と情熱 ※

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 かつては厳しい身分制度をいていた、ここフランメ王国も、世界全体が近代化の波を受けつつある中で、その流れには逆らえなかった。
 貴族院議会と衆議院議会に分かれているとはいえ、王と貴族のものだった政治に一般市民たちが関わるようになり、また、古くから存在した奴隷制度が撤廃されるといった大きな変化が起きている。
 一方で、王族や貴族たちの間では、一族や家の存続の為に世継ぎを作ることが、まだまだ重要な事項であった。
 その為、王族や高位の貴族の家の男子として生まれた者は、当たり前のように閨房術けいぼうじゅつ――つまり男女の営みについての知識と技術を身につけるべく教育される。
 妻を娶る前に閨房術けいぼうじゅつを習得し、円滑に世継ぎを得ることが、彼らの義務なのだ。
 男女の身体の構造から、女性をよろこばせる様々な技巧まで、彼らは学ばされる。
 女性の側のよろこびが大きいほど、世継ぎである男子の生まれる確率が上がると言われており、これは非常に重要なこととされているのだ。
 また、その内容には実践も含まれている。
 もっとも、教育係の監督のもとで相手役の女性たちと行う交わりは、正に「訓練」であり、そこに情愛といった甘いものが介入することはなかった。 
 もう一つ重要なものとして、「避妊薬」の存在がある。
 十五年ほど前にフランメ王国で開発されたもので、男性用と女性用があり、服用すると一時的に生殖能力が停止されるというものだ。
 魔法の技術が用いられているという噂だが、詳しい製法は厳重に秘匿されており、今や他国への輸出品としても、重要な品目の一つとされている。
 服用を中止すれば生殖能力は元に戻り、目立った副作用も無いという優れものである。
 一般人が常用するには高価すぎるものの、政略結婚の多い貴族の間では、跡継ぎが生まれた後は「避妊薬」を常用して、配偶者以外の異性と逢瀬を楽しむのが常識になりつつあった。
 やがて、「避妊薬」の使用を前提とした「社交場」を設ける者が現れ、今では貴族たちの「娯楽」として定着している。
 ユリアンも他の貴族の子弟たちと同様に、年頃になると閨房術けいぼうじゅつを学んだ。
 教育係には優秀だと言われ、近付いてくる女性も数えきれず、それなりに経験も積んでいる。
 もっとも、地位や財産を目当てに近付いてくる女性たちは、ユリアンにとって生理的欲求を解消するための存在以上の意味はなかった。誰と交わっても、彼の中の空虚な部分は埋まることがなかった。
 ――ローゼという少女が、ユリアンの前に現れるまでは。
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