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変えられるものなら変えたい運命
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新月の晩から2週間ほど過ぎた頃。
仕事から帰った忠保は部屋の様子がおかしい事に気が付いた。
薄暗い部屋の中、灯りもともっていない。
暗がりの中目を凝らすと、部屋の隅っこで子供が二人震えている。
「どうした?」
静かに駆け寄って二人の子供を引き寄せる。
「父上、兄さまが…」
小さな震える声で三つ子の弟の方が口を開いた。
「なんか、おかあさまと…あっちの部屋の奥…」
女の子の方が震える指で指差した。
「お前たちはここにいなさい」
「うん…」
2人とも身を寄せ合ってペタリと座り込んだ。
「あやめ?」
暗がりに慣れてきたせいか、薄っすらと部屋の様子が分かる。
色々な物が散乱している様子だ。
足元に気を付けながら、そっと部屋の奥に進んでいくと、
倒れた几帳の横に三つ子の兄が仰向けで寝ている。
忠保はかがんで男の子の顔を覗き込んだ。
息はしているが、動く気配は無い。
よく見ると白目をむいている。
忠保は、そのすぐそばに倒れているあやめを認めると、
抱き起こした。
「ここまで…、ある程度は卜占した時と符合している、けれど…」
ひとり呟いて、
「あやめ…」
とあやめの耳元で声かけた。
すると、あやめは薄っすらと目を開いた。
「忠保…様…」
「大丈夫ですか?」
「は…い、なんとか」
「と、とりあえず」
忠保はあやめに袿を着せかける。
「そんなことより、これからが…」
あやめが言い終わるより先に、忠保はあやめを抱きしめた。
「本当は離したくないよ」
「忠保様、こればかりは…」
忠保はあやめの体温を感じながら、
「御魂が違うという事は、こうまで人を鬼にするものなのか…」
と呟いた。
ところ変わって、都の中心部では。
「大変だー」
「火事だー」
人々が逃げ惑う中、どんどん火の手が広がっていっていた。
混乱する人々の中に、法師陰陽師達が数人居た。
「ああ、火が、大変じゃ!」
「?」
「火の中に何かおる…なんじゃ、あれは?」
「ひ、火を吐く、龍、龍がおる!」
「龍ですと!」
驚く法師陰陽師達。
「そういえば…」
1人の法師陰陽師が思い出したように話し出した。
「在御門の小せがれどもが、何かと怪しげな話をしておりましたな、封印の龍とか、なんとか…」
「ではあれは、在御門憲忠が封じた龍か? 先の祟り騒動を起こした、葛白真一の怨霊か?」
黒い雲が広がる天を見ながら別の法師陰陽師が話し出す。
「怪しげな式神が屋敷の中にいる、という噂も聞いております」
空では黒い龍が火を吐き続けていた。
仕事から帰った忠保は部屋の様子がおかしい事に気が付いた。
薄暗い部屋の中、灯りもともっていない。
暗がりの中目を凝らすと、部屋の隅っこで子供が二人震えている。
「どうした?」
静かに駆け寄って二人の子供を引き寄せる。
「父上、兄さまが…」
小さな震える声で三つ子の弟の方が口を開いた。
「なんか、おかあさまと…あっちの部屋の奥…」
女の子の方が震える指で指差した。
「お前たちはここにいなさい」
「うん…」
2人とも身を寄せ合ってペタリと座り込んだ。
「あやめ?」
暗がりに慣れてきたせいか、薄っすらと部屋の様子が分かる。
色々な物が散乱している様子だ。
足元に気を付けながら、そっと部屋の奥に進んでいくと、
倒れた几帳の横に三つ子の兄が仰向けで寝ている。
忠保はかがんで男の子の顔を覗き込んだ。
息はしているが、動く気配は無い。
よく見ると白目をむいている。
忠保は、そのすぐそばに倒れているあやめを認めると、
抱き起こした。
「ここまで…、ある程度は卜占した時と符合している、けれど…」
ひとり呟いて、
「あやめ…」
とあやめの耳元で声かけた。
すると、あやめは薄っすらと目を開いた。
「忠保…様…」
「大丈夫ですか?」
「は…い、なんとか」
「と、とりあえず」
忠保はあやめに袿を着せかける。
「そんなことより、これからが…」
あやめが言い終わるより先に、忠保はあやめを抱きしめた。
「本当は離したくないよ」
「忠保様、こればかりは…」
忠保はあやめの体温を感じながら、
「御魂が違うという事は、こうまで人を鬼にするものなのか…」
と呟いた。
ところ変わって、都の中心部では。
「大変だー」
「火事だー」
人々が逃げ惑う中、どんどん火の手が広がっていっていた。
混乱する人々の中に、法師陰陽師達が数人居た。
「ああ、火が、大変じゃ!」
「?」
「火の中に何かおる…なんじゃ、あれは?」
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「龍ですと!」
驚く法師陰陽師達。
「そういえば…」
1人の法師陰陽師が思い出したように話し出した。
「在御門の小せがれどもが、何かと怪しげな話をしておりましたな、封印の龍とか、なんとか…」
「ではあれは、在御門憲忠が封じた龍か? 先の祟り騒動を起こした、葛白真一の怨霊か?」
黒い雲が広がる天を見ながら別の法師陰陽師が話し出す。
「怪しげな式神が屋敷の中にいる、という噂も聞いております」
空では黒い龍が火を吐き続けていた。
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