陰陽絵巻お伽草子

松本きねか

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守りの龍

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あやめが在御門家に連れられて来て数日がたとうとしていた。

相変わらず野生の動物のような女人である。
部屋の隅で睨み付けながらじっと佇んでいる。
同じ部屋にいる忠保は投げつけられて壊れた器を黙々と拾い歩いていた。

『なんか暴れるわ…いろんな物を壊すわ…光忠はあー言っていたけどもね、雪明の所に戻しちまうかなぁ…こういう女ってのはなんだってこう、めんどくせぇの、あーあ…』

心中では穏やかではない。
元々は光忠が欲しいと言っていた式神だった女人である。
それを自分が管理する立場になるとは思わなかった。

「まだ式神を手懐けるほうが楽だよな…」

ため息と愚痴がこぼれてしまう。

忠保の部屋には色々なものがあった。
占術の道具から香の道具、沢山の書物、唐からの珍しいものまで。
毒薬から良薬まで…薬草の類もあった。
父からこの部屋を譲り受けてからは、守っていかなければならない様々なものに囲まれて、責任感も強くなっていった。

ふと、言う事を聞かせるための禁断の秘薬の作り方を思い浮かべた時、何か否定的な圧力を感じさせる力を感じ頭が痛くなった。

『やはりこの女人とは人として向き合わなきゃダメなのだろうな』

自然にまたため息が出る。

『女人か…』

自分には閨を共にする通う女位はいるが、正室はいない。
ふと十数年前の事を思い浮かべる。

自分が本当に愛した女性…
運命に翻弄されて鬼となってしまい、忠保が命の灯を消した、光忠の母親。

葵…

相変わらずあやめは忠保を睨みつけている。
自分を睨むあやめの目は凛として黒く澄んでいて誰かに似ているなと感じさせた。

『確か覚悟を決めた時の葵の目もあんな感じだったな』

忠保は器の破片を集めて目を伏せた。


今のあやめの姿は髪がボサボサで、まるで鬼のようだった。
何度も逃げ出そうとしたので衣も汚れていた。
忠保も葵の一件があってからこの屋敷の防犯対策を強化している。
つまり、この屋敷から一歩でも外に出たり入ったりすれば、結界に響いて伝わってくるのだ。
ここには外部から狙われるような文献もたくさんある。
結界によって不思議な空間を作り出してあるので、あやめの場合、庭先で迷って戻らされる事になっていた。
あやめにしても、本能的に、自分が敵わない忠保や光忠の式神などに囲まれてしまっては諦めるしかないと感じていた。

忠保は出仕する際、女房を数人呼び、あやめの身支度を整えるように命じておいた。
ここの使用人達はわきまえており、多くは語らず仕事や役割だけはきちんとこなす者たちばかり。
任せておいても、暴れる若い女の着替え位なら難なくこなしてくれる。
最初は抵抗していたあやめの方も敵わないと感じたのか、おとなしくなり数人の女房達にあれやこれやと手をかけられていた。
女房達はあやめの身支度を整え終わると、まるで潮が引くように静かに部屋から出て行った。

いつものように一人ポツンと残されたあやめは、当主の間と言われる忠保の部屋をぐるりと見まわした。
広い部屋である。
周りにはいろいろなものがあった、自分が暴れても物を壊しても、雪明の元には返してくれないあの人の部屋。
これでも式神のはしくれなので、逃げられない結界が張ってあることも分かった。

「飛んで逃げられないのはあの人の結界のせいか…」

あやめは帰りたかった、大好きな雪明の元へ。
自分がどうしてここに連れてこられたのかも分からない。
ただ、今までは式神として用事をこなしてきたときに聞こえていた雪明の声がまったく聞こえなくなってしまった。

最近は雪明と一緒に仕事場まで付いていくこともできるようになった。
しかし、仕事場での雪明に対するあの人の態度が嫌いだった。
雪明は気にしていない様子で、

『仕事だからね、誰に対してもそうだよ。だからあの人は【鬼の忠保】って呼ばれているのだよ』

そう言って片目をつぶって笑っていたっけ。
庭をぼんやりと眺めながら脇息にもたれかかる。

「雪明の所にもいろんな書物があったけど…ここはもっと沢山あるなぁ」

あやめが破いた巻物は丁寧に補修してあった。
よく見ると壊した物も直せるものは修理してある。

『そろそろ堪忍袋の緒が切れて自分を追い出してくれないだろうか』

その日は運ばれた食事を平らげて、いつものように部屋の隅っこで休んだ。
帰宅した忠保は几帳で間仕切ってある別の場所で休んでいるようだった。


翌日―

「え、烏帽子が…」

被ろうとした烏帽子には恐らくかじったのであろう穴が開いていた。
忠保は部屋の隅にいるあやめを睨みつけた。
プイっと横を向くあやめに対して、握りこぶしを作るも、そのまま烏帽子を被った。

『仕方ないな、ここで仕事をするしかないか…』

忠保は仕事の直衣から普段着の狩衣に着替え直して、従者を呼んだ。

「誰かある~」

すぐに従者はやってきた。

「忠保様」

忠保はその従者に巻物や書を手渡していった。

「これを綾乃月殿に、それとこちらを光忠に」

そしてテキパキと指示を出す。
あやめは意表をつかれてしまった。

『こんどこそ追い出されると確信していたのに…あの人はここで仕事をするつもりらしい』

しばらくして言付かった従者が戻り書状を受け取るとまた別の指示を出していた。

『陰陽寮でもこんな感じだったな、この人』

あやめは几帳の影でしばらくそんなやり取りを眺めていたが、奥に下がることにした。

『悪いことをしたとは思っていない、だって雪明の元へ返してくれないあの人が悪いから』

奥の部屋に下がる時になんとなく顔を上げて天井を見つめて思う。

『忠保様のお屋敷は誰もお話しできる人がいないなぁ。雪明と一緒にいた時には他の式神もいたし、楽しかったのにな…今は雪明の声も聞こえてこないし…』

奥の部屋の脇息にもたれかかってため息をついた。


その時…
あやめの耳に鈴の音が響いた。

りぃーん

りぃーん

りぃーん

段々と鈴の音が大きくなっていくと共に、あるイメージが浮かび上がった。
自分が深淵の海の中に沈んでいく…

「怖い…」

あやめはガタガタと震え出し、しくしくと泣き出した。

丁度仕事が終わった忠保は、奥の部屋で泣く声に気が付いた。
今まで逃げ出したり暴れたりしたあやめだが、一度も涙を見せたことは無かったのだ。
驚いてすぐに奥の部屋に向かった。

「あやめ殿、どうしましたか?」

尋常ではない泣き方に恐る恐る話しかけてみる。

「怖い…」

顔を上げたあやめの目はうつろになって焦点が合っていないようだった。

「天つ國が泣くの…もう一つの鈴を求めて…りぃーん、りぃーんって…」

その突如
外が暗くなり土砂降りの雨になった。
雷鳴が轟き…稲妻と共に忠保の目の前に現れたのは…

光の中に陰陽の印、大きな龍。



忠保は体が固まって動けなくなった、まるで金縛りにでもあった感覚に似ている。
やっとのことで口を開く。

「あ、あなたは…もしや…」

『私と同じ御霊を持つ人の子よ…これから先、様々な事が起こるであろう。雪明と共に乗り越える姿を楽しみにしている』

「雪明と?」

『詳しいことは雪明に聞くといい、また会おうね…忠保』

光がだんだん消えていき、忠保ははっと我に帰った。
目の前ではあやめが泣いている。

「ま、まだ泣いておられる…えっと、こういう時は…、た、確か…泣いている女人をなだめたことなど無いからな、突然光忠の泣きじゃくった時と似ているから…あの時は、こう…」

忠保は手を伸ばしてあやめをキュッと抱きしめた。
心中はおだやかではなく一心に願う。

「頼むから、収まってくれよ…」

先刻の龍の配慮なのか、不思議な事に忠保には腕の中で泣くあやめの心の声が聞こえた。
それは式神を介して会話するのに似ているなと感じた。

『どこだろ、ここ…暗い…何も見えない…でも何か温かいなあ、光、雪明の、ひ、か、り、だトクン…トクンって聴こえる…』

「…」

『あったかいなぁ』

「…」

忠保はただただ黙って抱きしめてその声に耳を傾けていた。

「…」

『? ん? あれ? ドキドキが、早くなっているような…? な、なんか…ギューって、強くなってきていない? え? よく考えたら雪明の香じゃないよ、これ! ドナタのでした、っけ?』

「…」

あやめが顔を上げると目の前には忠保の顔があり、しかも目が合ってしまった。

「ーー@#\&%?!〆々〒£?$ーーーーー(*Д*)!!!」

驚愕して声にならぬ声を発してしまう。
忠保はそんなあやめの様子を見るうちに何故だか愛おしい気持ちになってしまった。
しかもあやめの御霊には先刻のあの龍の存在があるのだ。
忠保はまだ濡れそぼっているあやめの頬にそっと手を当てた。

「あなたは式神ではなくて、人間ですよ、わかっておりますか?」

『何を言っているのだろう? この人は…私は式神キャリア歴数年、実績もあるのに』

混乱気味のあやめに畳みかけるように言葉をかける。

「ええ、ちゃんと、今は…人間ですから」

『雪明、お前、どんだけ…』

忠保は自分の式神を通して雪明に声掛けた。

「人?」

あやめは数秒固まってしまった。

『やはり…』

忠保はしばらく待った。

「はっ!」

しばらくしてあやめが我に返った。

「気がつきましたか?」

忠保はあやめを抱きしめたまま離してくれそうな気配も無い。

『ど…どうしたら…ゆ、雪明…?』

とっさにいつもの癖であやめは雪明に話しかけた。

『あなたのお心に従ったら?』

今まで問いかけても聞こえてこなかった雪明の声が頭に響き、雪明があやめと忠保に気が付かれないようにコッソリと付けていた式神が姿を現した。

『で、できれば、逃げたいです、いや、あの…お歌詠まれたら、まずいよね?』

『そりゃ、御返歌するのがルールですから、ね』

『し…進退極まりました!』

『相手が相手ですからね、失礼の無い対応で…それから忠保様には聞こえておりますよ』

『やっぱり、うー、相手に失礼の無いようにって…』

忠保は面白そうにあやめの様子を眺めていた。
もちろん会話は丸聞こえだったから、あやめと雪明のやりとりも楽しんでいた。
忠保は本気で歌でも詠んでやろうかといたずら心を起こした時、
腕の中のあやめが勢いよく飛びのいた。
そのまま部屋の角までザザーっと下がり、正座の姿勢で深々と頭を下げてきた。

「申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳ございません…」

「この状況下で…」

忠保は口元を歪め苦笑いをするも立ち上がり戸口の方に歩いて行った。

「ちょっと出かけてきます…」

『雪明、今から、顔、貸せ!』

『はい…』


暗闇の中、おどろおどろしい六条河原で佇む二人。
まるで決闘でも起こす勢いの表情をしている忠保と雪明。

「雪明、調伏業務、いくぞ!」

「はい!」

「やってくれたな、おい」

「申し訳ございません、どうしても悔しくて…」

地面には骸骨が転がっている。
なにやらうごめいている人でない者たち。
二人はそれらに向けて剣を向けていった。
りーん、りーんと。
剣に付いた鈴が鳴る度に光と共に消えていく亡霊たち。
あらかた静かになった所で忠保はゆっくりと雪明に話しかけた。

「知っていた、だろ?」

「はい、幼少のみぎり、百鬼夜行で出逢った、あの時から」

「だから父上が最近やたらと龍の話をしていたのか…」

「お会いになられて、いかがでしたか?」

「正直、震えたよ…、恐怖ではなくて、小さい頃からずっと憧れて恋い焦がれていた、そんな存在だったから」

「信じられないかもしれませんけど、あやめはね、十数年前にその龍の神様と一緒に作り上げた存在だったのです。私の狐の式神と、ある御霊を合わせて、恐ろしいかもしれませんけど、体は死してすぐの女人のものでした。龍の神様の依り代としての器ともなっております。しばらくは霊体として式神と同じように接していたのですけどね。気が付いたら龍の神様の采配で本当に人間になっていたのですよ。忠保様に縁の深い女人、思い当たる事はございませんか?」

忠保はハッとした。

「まさか…」

あやめの姿が少女のような形だったから気が付かなかったが、誰かに似ているとは思っていたのだ、とくにあの瞳が…。

「あやめにはほとんど記憶は残っていないそうです。本当は…『あなたが本気にならなければいい』と願っておりました」

雪明は少し悔しそうに顔を歪めた。

「ありがとう、雪明…」

「とんでもございません、あ、小耳に入れておいていただきたいことが…」

「?」

「絶対にあやめには刀を持たせてはいけません。刀を持つと何らかの意識が出てきてしまうようなのです」

(ごにょごにょ…)

「一度…あり…その時…目が…表情が…」

「き、気をつけることにしよう…」


忠保が雪明と別れて自分の部屋に戻ったのは明け方近かった。
それからひと眠りして、いつものように出仕していくのだった。
あやめの方もあれから雪明と再び式神を通じて話ができると知って、
少し落ち着いて行動するようになっていた。
それでも忠保とは距離を置いて、何だか気まずい雰囲気で過ごしていた。
あやめの距離を置く姿勢を感じて、忠保の方はと言えば自分の思いの行き場の方に困っていた。

「あ、嫌われているの、だろう、ね…、当然か…」

と、自然とため息が出てしまう毎日なのだった。


数日後、あやめはそれとなく雪明の式神に話しかけた。

『雪明、ほんとに…最近の忠保様が変だよ…ため息ついたり、突然笑ったり…』

『ですよねー、あの、【鬼の忠保】がって…、もっぱらのウワサになっておりますよ』

『うん、大丈夫だろうか…』

『ここぞとばかりに狙われていらっしゃるのにもお気づきになられず…、まあ、どれだけ怨まれているのかが分かりましたけど…』

「あれ?」

忠保の背中から狐の式神が顔を出した。

『はい、ご自身の式神すら出すのも忘れておられるくらいで、めちゃくちゃ危ないので私の式神を忠保様にお付けしているのですよ』

あやめはしばらく几帳越しに忠保を観察していた。

『雪明…なんかさー、忠保様、やっぱりおかしいよ、ずっと…』

『どんな感じですか?』

『うー、いつもの【占い】の仕事しているのだけど…なんか…辛そうだねぇ…』

『あーそれ…【恋占い】ですよ』

『そっかー、ずいぶんと可哀想な人の【お仕事依頼】なんだね、泣いているし…』

『それ…【あなたと】です』

『えーっ? 鬼のような人だったのに…まさか、怨霊に取り憑かれ…』

『いえ、正気です、本気…ですよ…同じ結果が3回も…』


忠保は自分の行き場のない思いに向き合うのに、得意の占術で占いの神様にお伺いを立てていた。

「陰陽道、在御門家、責任、が重い…な、う、うぅ…」

質問:①自分の気持ちを封じてこの先は?
もしくは、
②自分の気持ちに従うと?
【答え:①お家は→断絶 ご自身の仕事も→破滅的でしょう ②ご自身の本当の気持ちに従う→天命となる】

質問:①認めたくない!この恋を諦めたいのです!
もしくは、
②素直に認めて恋に落ちると?
【答え:①お家→断絶 ご自身の仕事→破滅的 ②ご自身の本当の気持ちに従う→天命となる】

質問:①元式神でも嫁にすることは自分の面子が耐えられないから…ずっと現状維持でこのままの関係にしたいのです!
もしくは、
②そういったことを超えることですか?
【答え:①お家→断絶 ご自身の仕事→破滅的 ②それがご自身の本当の気持ちに従うことでしょう?→天命となる】

質問:気持ちの行き場がどうしようも無いから…自害して跡に任せるは?
【答え:まー…それもアリ】

「進退きわまった…うぅ…」

占いを終えた忠保の状態は、背中を丸めて顔色は青く目はうつろになっていた。
何だか重い荷物を一人で背負い込んでいるような感じがした。
あやめはそんな忠保の姿に狼狽してしまった。

『ちょ、ちょっと、なんか…』

次の瞬間、忠保はいきなり顔を上げた。

「と、とりか…ぶと…はどこ…に、あった…っけ…」

『雪明!なんか…忠保様の【光】がだんだん消えてく、よ…とりかぶと?』

『はい! 劇薬です…ね!』

そこへ周りで息を潜めて様子を伺っていた皆の声があやめに聞こえてきた。皆、忠保の事が心配だったらしく、光忠始め、忠保の弟君、そして憲忠まで、いろいろな式神があやめの上に姿を現す。

『伯父上…』

『光忠、私たちで力を合わせていくしかないですね…今後は…』

『うー…私はもう年だしなあ…』

『そーですよねー』

『みんないろいろと、雪明まで…』

あやめは、やばそうな雰囲気の忠保を見つめた。

『そーしき出すの…やだなあ…』

在御門家一同の式神達が声を揃えて言ってきた。

『でしょうねー』

雪明も合わせるように言う。

『……』

その時あやめが無言で動いた。
半ば人生諦め気味の忠保に向かって声をかける。

「忠保様、紙と筆をお貸しください」

やつれた顔の忠保が振り返って、目の前の紙と筆をあやめに渡す。

「ありがとうございます」

あやめは字を書くことはできないので、受け取った紙に筆でサラサラと絵を描いた。

「これを…」

その紙を忠保に渡すと、自分は少し下がって深々とお辞儀をした。

「お願いがございます」

「な、なんですか?」

「こちらにずっと居なければならないことはわかりました、私をあなたの学生としていただくことはできませんか?」

いきなりの展開に忠保は驚いた。

「そのかわり、願いごとをひとつ、こちらから選んでください!」

1→一生困らない金銀財宝
2→一生病気せず長寿 
3→綺麗な女人たちと一生遊ぶ
4→鬼=123全ての願い…ただし刺客に狙われる。人間だけでなくて妖含む(一番のオススメはこちらです)
5→狐=あなたの想いを受け入れる

あやめは一つ一つ絵の説明を加えていく。
渡された紙とあやめを交互に見比べながら、青白かった忠保の顔に色がさす。

「鬼は…無理、だな」

あやめは小首をかしげた。

「何故でしょう? 忠保様ならできますけど…」

忠保は、『何故だろう?』と眉間にしわを寄せているあやめの姿が可愛らしくて、目元が緩んでしまった。

「い、え…体が持ちません…か…ら…」

「ではあとは、三つの中か…ら…」

「!!」

突然忠保はあやめを抱き上げて立ち上がった。

「これが私の答えです…、いいよね?」

誰かにお伺いを立てるようにあやめの耳元で囁く。
あやめはと言うと、もはや忠保には聞こえないであろう雪明の式神と話していた。

『なんで最下位の願いなのだろうな…、絶対に選ばないと思っていたのに、ね、あーあ…』

『あなたのために死まで選んだ方ですから』

その後忠保とあやめは夜の帳の中に消えていった。
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