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第10話
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保憲と晴明が鬼を倒してから数日がたち、千尋の腕のケガも治り、千尋は晴明と二人で賀茂家の庭にいた。
「これをお返ししたいと思っておりました」
晴明が手にしているのは千尋の祖父の霊符。
十年前の鞍馬山の時の護符だった。
「この護符に励まされて、ここまで頑張れました。先日師匠である忠行様からも一人前の陰陽師として認めてもらえました。これでやっと賀茂家から巣立つことができます」
千尋が手を伸ばして、護符を受け取った瞬間、晴明がふわりと千尋を抱き寄せた。
保憲とは違う少し辛さのある香りに包まれる。
晴明が幼少の頃に賀茂家に弟子入りしてから、いろいろなことがあったのだろう。
辛さや悲しみ苦しみ…そういった感情が伝わってくるようだった。
「ありがとう」
晴明はこれからこの賀茂邸を出ていく。
そして、陰陽師として一人立ちしていくのだろう。
最後にキュっと抱きしめた後、千尋から体を離すと、踵を返して足早に去って行った。
千尋が最後に感じたものは、『優しさ』だった。
千尋は懐かしい祖父の護符を片手に、しばらく晴明を見送っていたが、聞き覚えのある香りに気が付いて、振り返った。
「保憲様…いつから、そこに?」
「夫が妻を心配しちゃいけない?」
「いえ、なんだか、私、子供を見送る母親の気分なんです」
「?」
「なんていうか…前世では、私と晴明様は、ご縁がある間柄だったのかもしれませんね」
「なら、なおさら、心配かな」
肩をすくめて、口では心配と言っていても、顔では微笑んでいる。
「はい、あなたはね…」
と、いきなり千尋を横抱きにする。
「ちょ、ちょっと、保憲様っっ」
「大切な体なのですから、しばらくは大人しくしていてくださいよ」
「?」
「山吹に聞きました。月のものが遅れていると」
千尋は保憲の腕の中で顔が赤くなるのを感じていた。
「あ、あれは…月の狂いのせいで…」
「いいえ、もう一つの命の伊吹が聞こえませんか?」
「……」
ドキリとする。
まさか、と千尋は保憲に顔を向けると、保憲は嬉しそうに微笑んでいた。
「忙しくなりますよ、あなたも私も」
…私たちのお子は、どんな陰陽師になるのでしょうね…
「これをお返ししたいと思っておりました」
晴明が手にしているのは千尋の祖父の霊符。
十年前の鞍馬山の時の護符だった。
「この護符に励まされて、ここまで頑張れました。先日師匠である忠行様からも一人前の陰陽師として認めてもらえました。これでやっと賀茂家から巣立つことができます」
千尋が手を伸ばして、護符を受け取った瞬間、晴明がふわりと千尋を抱き寄せた。
保憲とは違う少し辛さのある香りに包まれる。
晴明が幼少の頃に賀茂家に弟子入りしてから、いろいろなことがあったのだろう。
辛さや悲しみ苦しみ…そういった感情が伝わってくるようだった。
「ありがとう」
晴明はこれからこの賀茂邸を出ていく。
そして、陰陽師として一人立ちしていくのだろう。
最後にキュっと抱きしめた後、千尋から体を離すと、踵を返して足早に去って行った。
千尋が最後に感じたものは、『優しさ』だった。
千尋は懐かしい祖父の護符を片手に、しばらく晴明を見送っていたが、聞き覚えのある香りに気が付いて、振り返った。
「保憲様…いつから、そこに?」
「夫が妻を心配しちゃいけない?」
「いえ、なんだか、私、子供を見送る母親の気分なんです」
「?」
「なんていうか…前世では、私と晴明様は、ご縁がある間柄だったのかもしれませんね」
「なら、なおさら、心配かな」
肩をすくめて、口では心配と言っていても、顔では微笑んでいる。
「はい、あなたはね…」
と、いきなり千尋を横抱きにする。
「ちょ、ちょっと、保憲様っっ」
「大切な体なのですから、しばらくは大人しくしていてくださいよ」
「?」
「山吹に聞きました。月のものが遅れていると」
千尋は保憲の腕の中で顔が赤くなるのを感じていた。
「あ、あれは…月の狂いのせいで…」
「いいえ、もう一つの命の伊吹が聞こえませんか?」
「……」
ドキリとする。
まさか、と千尋は保憲に顔を向けると、保憲は嬉しそうに微笑んでいた。
「忙しくなりますよ、あなたも私も」
…私たちのお子は、どんな陰陽師になるのでしょうね…
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