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22.レッサーベイビィリッチーについて考察す
しおりを挟む19層から20層へ下りる階段はそれなりの長さだった。
罠に注意しながら降りていく。床に辿り着いた時はほっと安堵の息を吐いた。(下手にトラップに引っ掛って階段がスロープ状になったり、階上から岩が転がってくるのを危惧してハラハラしたからだ。(実際そんな目にあったことがあるのだ。運営めっ!)
15層にセーフティエリアがなかったので、行き当たりばったりは否めないのだが、そこら辺はしゃーないと思ってる。
そして長い長い階段の天井にはブラックモアイーからの言葉が記されていた。
“ようこそようこそ。盟主の糧たる者達よ。いよいよ最後の祝宴の幕が上がる。(中略)そして我、レッサーベイビィリッチー・ブラックモアイーの前に跪くがいい。”
「ダジャレかよっ!!」
「?」
オレが思わず突っ込むのも無理はない。しかも強いんだか弱いんだか訳分からん。
なんなんだ!小さいに赤子ってのはっ!
リッチーってのはまぁ有名どころのモンスターだが、このゲームでの位置づけはあんま分かってない。
掲板流し見てもリッチーに関しての情報は見当たらないのだ。
リッチーといえばファンタジーノベルや他のゲームなんかでは強敵と言える部類のモンスターだ。
正直たった2人のパーティーでどうにかこうにか出来るもんでもない。
……ここってリミタイズダンジョンな筈なのにだ いや、本当に。
正直ここには呪術師の情報を求めに来たんだが……、はぁ…、なんともはやだ。
そもそもオレが知ってるリッチならば、レイス、ワイトなんかのアンデッド(こっちはいる)の上位種、もしくはその王たるもの。
そんなもんにエンジョイ勢のオレなんぞが太刀打ちなんか出来ようもないのだ。
ただ、小さいとついてる事もあるいはと考えなくもない。
天井に書かれてあった通りであるのならばだが………、いかん愚痴っぽくなってきた。
まぁそれなりにやれるだけはやっておこう。
「フィアーナ、ちょい待っててな。用意があったからよ」
「はぁ~い、あ、ピロさんゲーム貸して下さい」
「はいよ」
そんなにかからんと思うけど………まぁいいか。
オレはメニューからコントローラーをフィアーナに渡す。フィアーナはいそいそとしながら慣れた手つきでゲームを始める。
さて、リッチーというからにはアンデッドであるのは間違いない。
ならば光属性関係のヤツを全部放出するつもりでやるしか無いだろう。
でも設置型のアイテムはスカルワイバーンにはまるで効かなかったしなぁ………。
ないよりましか。
メニューからあるだけの光属性のものをソートして並べていく。
「う~………ん。素材はあるけど使えるアイテムはあんまり無さげか……」
んんー……、あるいは何か作るか?つってもそれ程レシピもないか。
生産系は色々アイテムを作るにあたって、幾つかのパターンがある。
1つはレシピ―――ダンジョンなんかで手に入る基本的なもの。
1つはレシピを基に試行錯誤していくものだ。
んで最後は適当に組み合わせていくものとなる。
オレなんかはレシピを元に色々やることが多い。
特に料理なんかは、適当にやっても何か出来たりする。(その分失敗も多いけどな)
どう見ても料理の方が難易度が低いとオレなんかは感じてたりする。でもやる奴があんまいないと来る。やれやれだ。
それはともかくとしてだ。さてと、とメニューからレシピ集を出して何かないかなぁと眺めていると、フィアーナがぶつぶつと何かを呟てるのが聞こえて来た。
「ふっふっふー。クソリッチーめっ!聖水を喰らうがいいっ!!」
あーいるいる。ゲームやってると独りごと言うの。
МMОなんかだと(VRじゃないヤツな)マイクフォン使うんであんまりやらないんだけど、コンシューマー系になるとその顕著が著しいとか。
あれ第三者が傍にいるとめっちゃ恥ずいのだ。癖になっているせいでつい出てしまうでしゃーない部分もあるのだけど。
フィアーナの様子をちらと見てみると、ホロウィンドウの画面に集中しているその姿に、ああハマってんなぁと思わず笑みがこぼれる。
画面を見るとどうやら横スクACTのようで、鞭を持ったプレイキャラがピシピシ敵を倒している。
この手のトリッキーな武器のゲームはタイミングが命なとこがあるので、慣れるまでけっこー大変なんだが、フィアーナは器用に操作している。
何気に上手い?もしくは難易度EASYってとこか?
骸骨の黒マントの敵キャラの攻撃を器用に避けながら、いわゆる三角フラスコを相手に投げ付けている。
ホロウィンドウは裏からも見れるので便利ではある。
聖水が当たる度にぐわぁあぁと悶える黒マント。
リッチ-に聖水か………。ふむ、作れるか?
レシピを出して聖水の欄を見てみる。
「えー………水と光晶石か。作ってみるか」
俺は装備を一旦外して、床に座って道具を出していく。
これもまた同じ聖水でも、スキルやレシピによって作り方が変わってくる。
例えば光属性の魔法の1つに【ホーリーローリー】というのがあり、そいつを素材アイテムの水へかけると聖水アイテムへとなる。
あとは錬金術スキルを使い水と光晶石を【合成】するってヤツだ。
幸い水も光晶石もあったりするし、錬金術スキルも持っているというご都合主義展開ではあるが、まぁやれる事はやっとこうと思う。
錬金用の道具を使い容器に水を満たし光晶石をポンと放り入れ、上に手を翳して呪文を唱える。
「【アルウス】」
すると容器の中がピカリと光って次の瞬間には薄蒼色の水が出来上がる。これが錬金術スキルの聖水になる。
【一括作成】で一気に何本かを作ってもいいんだが、1つ1つ作るとそれだけ品質も上がるので丁寧に作り上げていく。
「ぐはっ!てめっ、このぉっ!!」
コントローラーを右に左に動かしながらフィアーナが声を荒らげる。
女子の言葉がこんなに荒れていいんだろうかと思いつつ、次に武器の選択を始める。
レア防具頼りなんで、動きがのろいオレとしては打撃武器しか選びようがない。
もちろんオレにも使える(だけ)の武器は色々とある。
ただ使えるのと使い熟せるとなると話が別になる訳なのだ。
ここまでのダンジョンの傾向を思えば、スケルトン関係はいっぱい出て来るだろうから武器アイテムを眺めながら決めていく。
いわゆるポールウェポンと呼ばれる長柄の武器をチョイスする。
サブ武器にはショートソードと。色々不安はあるももの、これ以上は今は無理だ。
HPMPを回復させて、装備をしなおし準備を整え終わる。
「よしっ!行くぞ、フィアーナ」
「あ、ちょっと待って下さい」
フィアーナはマジな顔をしてゲームをやっていた。
「お~~い、フィアーナ~ぁ」
「はいはい、今いきます………」
と言いつつコントローラーは手放さない。
なんともベタなゲームあるあるではある。
んでこういうこと言う奴に限ってやめねぇんだ。ちなみにこれはオレの友達の経験則だ。
オレ?オレはなかったな、そういうんは。そんな事やってたら殴られるもん。それなりにキビシ~のだオレん家は。
この手のことに関しては、余所様の話には首を突っ込む理由もないとオレなんかは思ってるので、しばらく様子を見ることにする。
待つ間暇なのでドロップアイテムの整理と確認でもしておこう。
「おおぅ………見事に骨ばっかだな」
モンスターを倒せば必ずあるって訳じゃないのがドロップアイテムなんだが、さすがにダンジョン10階層以下となるとそれなりにドロップするみたいだ。
よく考えてみたらこんなに深く潜ったのも初めてかも知れない。
大罪ダンジョンにしても肉が落ちる12、3階層ぐらいまでしか行ってない。
そしてドロップアイテムの中に変なのが幾つかあることに気づく。
【???の欠片】と表示されたそれは、いくら調べてみてもテキスト文にやっぱり???のかけらとしか書かれてない。
しかも実体化して取り出すことも出来ないと来た。
「まぁ、前にもあったけどな。屑アイテムってやつか………?」
そうドロップアイテムには何の利用価値もない(と思われる)ものもあったりする。~の爪の垢とか~の目脂とか。
用途も分からないもので、アイテムボックスの容量を圧迫するので大抵ゴミ箱行きになんてしたりする。
オレやギルメンなんかは、マイルームに保管してあったりするけどもな(笑)。
これもそれと同じやつだと思うが、実体化出来ないってのはちと困るな………。
などとオレが浸りながらホロウィンドウを見てると、フィアーナがおずおずと話し掛けて来た。
どうやらゲームを終えて気づいたみたいだ。
「ピロさん……すみません」
申し訳なさげにコントローラーを返してきたのを受け取り、そのまましまう。
オレは苦笑しながらも、少しだけフォローするように口を開く。
「まぁ気にすんなや。ゲームやってる奴にはよくある話だし、まだACTだからマシだけどRPGだとセーブポイントまでなんてのがあるからもっと酷いしな」
「ふにゅう………すみません。あだっ」
眉をヘニョリと下げたフィアーナに軽くデコピンをして気持ちを切り替えさせる。
「次に気を付けれるようにすりゃいいのさ。そんじゃ行くぞ」
「ててて………分かりましたピロさん」
っとしょんぼりしてるフィアーナを見て、そういやと思い出す。
万が一、億が一もないのは重々承知しているが、もしもという場合に備えて確認しておかないと。
結局は本人がいいといえばそれまでの話のことだ。
「フィアーナ。この前上の階層をクリアした時、放送があったの覚えてるか?」
「……えーと、あたしの名前とパクパクさんがクリアしたとかってやつですか?」
おっ、覚えてんじゃん。これなら説明も簡単に済むことだろう。
「実はあれってゲームをプレイしてるやつ全員に知らせるワールドアナウンスってやつな訳だ。そんでその時呼ばれる名前をワールドネームって言う」
「ふんふん」
オレの説明にフィアーナはなるほどと頷きを返してくる。律儀なこった。
「でだ。何何をやってった功績がPC全員に知らされるってことは、知らない人間がフィアーナのことを知ることになる」
「ほえ?って事は私の名前って誰かに知らされたってことですか?もしかして私の探してる人も………」
そういや、こいつ誰かを探してるって言ってたっけ。
本人が構わないって言うんであれば、放置でもいいんだが言うだけは言っとかんとな。
「あるいはそういう事もある。が、こう言うのはメリットと共にデメリットもあるわけだ。分かるか?」
「もしかして見ず知らずの人に絡まれるってことですか?」
やーっぱ分かってるか。あんだけの目にあってりゃ自ずと理解できるわな。よっぽどのお人好しかバカでもない限り。
「まぁなぁ。この世界ってのは人物の特定が難しいって部分もあるんで、その分自我が強烈に出ちまうってとこがある。昔は人目を気にして抑えこんでたりしてたんだが、個々が特定されないと分かるとそれが顕著に出てしまったりするんだわ。分からなきゃ何やってもいいやなんてな」
それとは別だが特に特権下級と呼ばれる種族には、それが顕著に表れて来たりする。
我がままに我儘が通じてしまう。何とも嫌な社会になってしまうのだ。まぁ一部ではあるのだが。(オレが知ってる範囲ではだ)
閑話休題。話が逸れた。
「嫉み妬みとおこぼれに与ろうなんてもの出て来る。まぁ名前売りたい奴なんかはまんまにしてるしな」
「もしかしてワールドネームって変えられたり出来るってことですか?」
「その通りだ。メニュー開いて設定ってのを選んでみ」
フィアーナはオレの言葉に従いメニューを出して操作を始める。
「えーとこれですか?ワールドネーム設定ってあります」
「そう、そこに現在の名前を変更できるって訳だ」
フィアーナの横に並びながら説明をする。
「名前、名前ぇ~………あ」
フィアーナはぶつぶつと何やら呟いた後、ホロボードへと名前を入力していく。
「…………」
えぇえー、………それでいいんか?いや、オレが言うのも何だけどな。
「ピロさんのワールドネームに合わせてみました!」
「あ~……そう…」
ま、そうそうワールドアナウンスなんてねぇからいっか。
「さて、そんじゃあ行こうか!」
「はいです!ピロさん、行きましょう!!」
互いに武器を手に扉の前に立つ。いやぁ、時間かかっちゃったね。
まぁボス部屋の前でいろいろ準備するのはお約束だしな。
フィアーナが目の前の巨大な扉に扉に手をかけると、いかにもなギギィイイ~という軋む音ともに扉が奥へと開いていく。
「なんか真っ暗ですね」
「警戒しとけ。何が来るか分からんからな」
「はい!りょ~かいですっ!」
オレ達が1歩足を中へと踏み出す。
すると暗闇の中で左右の壁に手前からボッボッボッボッボッと炎が灯されていく。
それと共に中が明るくなっていき、その様子を見る事が出来るようになっていった。
「ふぉわぁ~………」
広さは50mプール程といったところか。縦長で左右の、壁でなく幾重にも並ぶ円柱側面に灯された青白い炎が煌々と燃え周囲を明るく照らしている。
そして左右の壁の上部分には、色とりどりのステンドグラスが炎に照らされてその美しさを際立たせていた。
良くは分からないが、何か偉大なものを描いているみたいだ。
抽象的な言い回しだが、そうとしかオレには言えなかったのだ。(それ程芸術方面に理解がある訳じゃないしな)
次々と炎が灯り最奥までと広がっていくが、端まで来るとそれも止まってしまった。
そして奥の部分にだけスポットライトのように更に明るく照らされる。
そこには精緻な彫刻が施されたやたらと背もたれの長い(2mちょいほど)豪奢な椅子に、漆黒の金糸で彩られたローブを身に纏ったガイコツが座っていた。
『クククククッックッ!!ようこそ、我ぁ~が盟主の糧たる者達よ………。つーか遅えんだよっ!扉の前で何やってんだよっ!!とっとと入ってこいやっ!!お前等はよっ!!』
最初はいかにもボス然とした態度だったのに、突然豹変して怒鳴り始めた。肘掛けをバンバン叩いてる。
え?なんでNPCに怒られてんの?オレ達。
いや、もしかしてモンスターに擬態した運営が入ってるのかも知れない。
「ご、ごめんないさいっ!ゲームしてましたっ!!」
フィアーナが律儀にもペコペコ頭を下げて謝りだす。まぁちょっとばかり夢中になってたけどな。
『げ、げぇむ?だと!?………まぁいい、反省してるようなので許してやろう。我は心の広いリッチーであるのでな。でぇは、へ?………2人しかいないのか?他には誰もおらんのか?』
オレ達の後方見て、訝しげにリッチーは聞いてくる。
「私達だけですよ?他にはいませんけど、何か問題が?」
右人差し指を顎に当てて首を傾げてフィーアナが答える。
『……………。まぁよい。では始めようぞ、我が盟主の為の儀式を!!』
レイサーベイビィリッチー・ブラックモアイーすっくと立ち上がり手を前に翳して高らかに声を上げる。
それに呼応するように、オレ達も武器を構えフィアーナに声を掛けて前進を始める。
「行くぞ!フィアーナ!!」
「はいです!ピロさんっ!!」
こうしてオレ達たった2人のボス戦が始まった。
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