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20.対スカルワイバーン戦
しおりを挟む識別の結果はスカルワイバーン。
全長4m。翼長8m程のその巨大な姿は、オレ達を威嚇するように骨の翼をカケコケとはためかせる。
その動きの度に風が巻き起こり、オレ達へと吹き襲ってくる。
「にゃ――――っ!?」
「ちぃっ!」
フィアーナがその風に顔を腕かばい、オレは大盾を前に掲げてそれを防ぐ。
そしてスカルワイバーンはそのまま宙へと浮き上がり上空へと舞い上がる。骨が飛ぶのぉ?
いや、これはマズいな。
そもそもオレとフィアーナは近接型のプレイヤーだ。
空を飛ばれてしまうと、本来のオレ達に攻撃手段がないって話になる。
「こらぁ――――っ!おーりーてーこぉ――――ーいっっ!!」
フィアーナが声を上げて、スカルワイバーンへと叫んでいる。
▽スカルワイバーンAの攻撃!
▽スカルワイバーンBの攻撃!
口をバカリと開けて空洞の目が怪しく赤黒く光ると、開いた口の中心に炎が集まり火の玉を形作る。
そしてそれを吐き出した。
「ふなぁ~~~~~~っっ!!」
「どぉわっ!火ぃ吐くんか、こいつ!?」
オレ達はその火線から逃れるように右に左にと回避行動をする。あっぶね。
そして炎の玉は地面に達すると、轟音を上げて破裂する。
「ひぃにゃ~~~~っ!!」
「どっひゃあああっっ!!」
オレ達は避難しながらスカルワイバーンの攻撃を避けていく。そして炸裂した衝撃波によって少しばかり吹き飛ばされる。
そしてダメでHPが減っていく、こなくそっ。
2体のスカルワイバーンが上空―――天井の高さは20m程、室内の広さは学校の体育館ほどの広さの中を右に左に交差しながら飛び回り、オレ達へと攻撃を繰り出してくる。
これってレイド用のボスだよな。ったくぅ。
レイドってのは幾つものパーティーが互いに協力してモンスターと対峙するものだ。(まぁ知ってはいると思うが)
それぞれの役割を担うことにより、戦いをより効率良くするシステムみたいなもんだ。
得手不得手をリーダーが判断して、如何にそれを運用していくか。
社会に出れば嫌と言うほど認識させられる物事だ。
ある意味学校よりも小さな社会構図と言えるかも知れない。
今はオレとフィアーナしかいないから意味ないが。
B29に竹槍で対峙する気分を味わいつつ、オレは反撃に移ることにする。
「フィアーナっ!」
「はいです!とぉりゃああっっ!!」
オレが合図をすると、フィアーナがアイテムを取り出して上空へと思い切り放り投げる。
スカルワイバーンの鼻先に投げられてそれは、ボフンと破裂して、煙幕を吹き出し周囲を煙まみれにして行く。
『カカカカカカッ!?』
『カァァアカカカ!?』
スカルワイバーン達は、煙まみれになって混乱と困惑の声を上げる。
こんな事態に対しても色々想定はしてるし、対策も実はしていたのだ。へへん。【鷹の目】で位置を確認しつつオレは逃げ回りながら、メニューから出したアイテムを地面へと設置していく。
次々と置かれたそれは、30cm程の筒に四角い台座がついたものだ。
見た目市販されてる打ち上げ花火の廉価版って感じだ。
Whoo chair get
her navi:設置した場所から設定した魔法を
1回だけ放つアイテム
装填する魔法によって
威力が異なる
作成者 ピロキシ
なんで訳わかんない英語表示なのかとか見たまんまの名前だとか突っ込みどころはあるものの、使えるのならばオレ達近接組にとってはまたとないアイテムなのだ。
もうふつーに打ち上げ花火でいーじゃんと思わないでもないが、仕様なのでどーしようもない。はぁ………。
今回設置したアイテムは光属性の魔法がセットされている。
アンデットにはやっぱこれっていうお約束のものだ。
最初はホネネズにも効いた状態異常のやつにしようと思ったんだが、あれは設置した場所に乗らないと発動しないタイプなので断念した。
あるいは他に何か手があるのかもしれないが、今のオレのLvとスキルじゃ無理だと悟った次第だ。
こうして設置したアイテムが次々と発動して魔法が上空へと放たれる。
これでダメを受けて落下してくれればしめたもんだ。
が、結果はあまりというか全く芳しくなかった。
『カカカッ?』
『カァカッカ?』
煙が晴れた上空では何のダメも受けずに“何だ?”という感じで滞空している2体のスカルワイバーンの姿があった。
「あちゃあ~………失敗かぁ」
装備と用意をしっかりしたとしても、それが必ずしも功を奏すとは限らない。
もちろんある程度の情報から予測しうる事態には備えていても、こういう事はままある。
「ピロさん。どうします?」
戻って来たフィアーナが眉を八の字にして聞いてくる。
ほーんと、どうしよっかなっ。あとは手持ちの爆弾を投げ込むしか手がないかな。
俺が鎧姿で考えあぐねていると、フィアーナが上空を指差して注意を促してくる。
「ぴ、ピロさんっ!また火を吐こうとしてますっ」
「ちっ、逃げ、らんねぇか。フィアーナ!俺の後ろに隠れろ!!」
「はいっ!」
2体のスカルワイバーンがオレ達に向けて咢を開き、炎の弾を吐き出そうとしている姿が目に入る。
フィアーナがさささとオレの後ろに退避し、オレは大盾を角度を少しずらようにしてスカルワイバーンへと立てかける。
『ガガッッ!』
『ガァガガッッ!』
▽スカルワイバーンA・Bの攻撃!
ボバヘッと吐き出された2つの炎弾がオレ達へと襲い掛かる。
オレ達はその衝撃に備えて、身を屈ませ前を防御に徹する。
鎧の高さよりは低いがかなりの長さと、身体が隠れるほどの幅の大盾は、その左右が緩やかに歪曲している。
あくまでこの大盾は正面から攻撃を阻むのではなく、逸らす往なすように使うことにしているのだ。
よって上手く行けば、魔法なんかにもそんな芸当が出来たりする。
だがあの破壊力をまざまざと見せつけた炎弾にこいつが通じるかは、甚だ疑問と不安があるのだが致し方ない。
かぃんかぃん!ひゅ~~ドガガガガンッッ!!ドガァ――ンッッ!!
「?……?」
けれどその覚悟はあっさりと肩透かしを受けてしまう。
大盾と接触した炎弾は爆発もその威力を発揮することもなく、何とも微妙な音を立てて当たりそのまま弾かれて壁や天井にぶつかって轟音と衝撃波を撒き散らした。
「な、何だぁ?」
「はれぇ?……」
『カカカ………?』
『カァカカカ……?』
思わず首を傾げてしまっても無理はないだろう。
あれ程の炎弾をオレの盾が弾き返したのだから。
………いや、待てよ。まさか、本当にそんな事があるのか?
ゲームの攻略法としては、あまりにもオーソドックスと言えるような方法だ。
分かった時はなぁんでこんな事気づかんかったん!と思わず地団駄を踏みたくなるそんなものだ。
敵の攻撃を打ち返して攻撃するとか。
今は他に打開する手も見当たらない。
であるなら、まずやってみる。実戦あるのみだ。
でも、マジ怖ぃ~んですけど………。
上空で右に左に飛び回リながら炎弾を吐いてくるスカルワイバーンを牽制しつつ、盾で右に左にいなしながら意を意を決する。
「よしっ!」
声を上げて決意を促し事に備える。
まぁ、奴らの放つ炎弾を待つだけなんだが………。
正直めっちゃ怖い。
考えてもみればいい。自分の頭より大きなバランスボール大の炎を纏ったものが、目の前にかなりの速さで向かって来るのだ。
▽スカルワイバーンA・Bの攻撃!
平面のゲームであるならある程度の冷静さと余裕をもってことに当たれると思うんだが、現実と同様の感覚をもってしまうと、それと同様に立ち向かうのはなかなかに厳しいとオレなんかは思う。
だが、これは紛うことなきゲームなのだ。
しょせんは仮想現実なのだ。本当の現実ではない。そうは思う。
まぁ、要は慣れなんだろうけど、オレなんかは未だに慣れることが出来ないでいたりする。
こればっかりは本人の感覚の問題なのでどうしようもない。(戦闘ばっかしてるでなし)
それでもオレにとって今現在は仮想でも現実には違いないのだ。
だがオレの恐れや思惑とは裏腹に、その行動はこうを奏する事となる。
「シールドバッシュ!」
スカルワイバーンへと跳ね返るように角度を調整した盾に当たった炎弾は、それを放った自身へと向かいダメを与える。
ガガァンと轟音と衝撃波がスカルワイバーンを襲う。
『カッカカカカカァ……!!』
『カァカカカカッッ……!!』
よしっ!イケるっ!
「フィアーナ!あの炎弾を打ち返してくれるか?」
「いやいやいやっ!怖いですよっあれぇっっ!」
だよなぁ~……。と言っても今のところ他に策がないしなぁ。
「ダメか?そうか無理かぁ………」
「う、うぅ~~ん……」
その間もオレは盾を操って炎弾を跳ね返して奴等に返し放っている。そしてフィアーナはオレの背中に張り付いて悩んでいる。
このままでも何とかなりそうではあるんだが、攻撃が増えればそれだけ楽にはなるのだ。
「うっおっ!やっべっ!フィアーナ!後ろに下がれっ!」
『カッカカカっ!!』
『カァーカカカカァッ!!』
▽スカルワイバーンAの攻撃!
▽スカルワイバーンBの攻撃!
オレの炎弾返却攻撃に対応するように、左右に別々に移動して炎弾を吐き出してきた。壁に張り付いていれば防げたのだが、今オレ達がいるのは中央部分。
右と左から放って来たその炎弾に対して、オレはフィアーナへと指示しながら、右の奴にはダメを覚悟するしかないと諦め左の奴に対応する。
左の炎弾を弾いた後、躱せばいいのだと無理目な考えをしながらやってくる炎弾に備える。
ボバヘッと吐かれた炎弾をオレは認識しながら前から来るそれを右へと逸らすように弾き、後ろの炎弾に対応しようと行動を起こそうとするが、やっぱり間に合いそうにない。
この鎧ならと覚悟を決めるが、その前にフィアーナがオレの背後に立ってメイスを構え炎弾へとそれを振り抜く。
「で、にゃ~~~~あっっ!!」
かぃんひゅ~~~ん、ドガガガガガンッッ!!
『カッカカカカカカァア――――アッッ!!』
メイスで打ち返した炎弾は、見事にスカルワイバーンの胴体部分へと命中した。おおっ!ナイス!フィアーナ。
そして衝撃波で壁へ激突し、さらにダメを負うスカルワイバーン。効く効くぅ。
「うおっ!目ぇつぶって振ったら当たりましたっ!」
いやいやいや、目ぇつぶってたら危ないがな。そっちの方が怖ぇ~よ!
と思わず突っ込みそうになったけど、ここじゃ音も熱も感じ取れる分ある意味タイミングは取りやすいのかもと思い直し、褒めるだけに留める。
ダメ食らってもすぐ回復させりゃあいいんだ。よもや一撃死はこんなとこじゃないだろうしな。
「よぉーくやった!フィアーナ。その調子で頼むぞっ!」
「はいっ!ピロさん。コツは掴みましたからっ!」
え?一回だけで何ゆえその自信!?
………まぁ本人がそう言うんだったらいいや。うんうん。
ようやく攻略の緒を見出したオレ達は、しばらくの間この方法でスカルワイバーン達にダメを与えることが出来た。
特に味をしめたフィアーナが縦横無尽の活躍を果たす。
「ぬおりゃあぁ~~~っ!とっりぃやぁあ~~~~ッッ!」
かぃんかぃんひゅ~~ドガガガガンッと狙い過たず、2体のスカルワイバーンへとダメを蓄積させていった。しかも本当に目をつぶっていたりする。
見てるこっちが怖ぇよ………。
そしてある程度のダメが溜まったところで、スカルワイバーン達の攻撃がガラリと変化する。
遠距離からの炎弾攻撃から近距離の攻撃へと。
要は体当たりなんだが、この重量物だと骨でもそれなりの攻撃となる。
「おうわっ!ピロさん、あいつ等こっちに来ますよっ!」
調子に乗って炎弾を弾き返していたフィアーナが慌ててオレの方へとやってくる。
「任せろ!フィアーナは後ろで待機な」
「はいっ!わっかりました!ピロさん!!」
奴等の残りHPは1割もしくは3割といったところだろう。
▽スカルワイバーンA・Bの攻撃!
つーかその大きさで同時攻撃って酷くねっ!?
そう毒突きつつ大盾を横に倒して構え、その2体の体当たりをまともにガガガンと受ける。
『カカッカカカカッ!?』
『カァアカカカッッ!?』
必殺の一撃を防がれて歯を鳴らすスカルワイバーン共。
くっくっく。だてに盾戦士何ぞやってねぇんだよ君ぃ。
「シールドバインドっ!!」
『カッ!!?』
『カァア!!?』
オレがスキルを発動させると、スカルワイバーン達は身動きが取れずにさらに歯を打ち鳴らす。
「フィアーナっ!今の内に叩けるだけ叩けっ!タコ殴りだっっ!!」
「了~解ですっ!ピロさんっ!!うぉおりゃああぁ~~~~~~っっ!!」
オレの大盾に接触したまま動けずにいるスカルワイバーンへ、フィアーナがメイスを叩き込んでいく。
スキルが解除されるまでもうちょっと時間がある。
さぁ!今までの鬱憤を晴らさせてもらうとしようか!
▽フィアーナの攻撃!
▽ピロの攻撃!
『カッカッカカカカァァア―――――ッッ………!!』
『カァアカカッカッカァ―――――ッッ………!!』
バキボキバキッという打撃音とともにスカルワイバーンの断末魔がフロア内に響き渡っていった。
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