のろい盾戦士とのろわれ剣士

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16.スキル求めて大罪都市へ

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 オレは装備を変更して、街道へ向けて脇道を歩き始める。
 リミタイズダンジョンは大罪ダンジョンと違い、ステータスは1/3減少に留まる。(大罪Dは1/2、あと持ち金半減)
 時間が経てば回復するのだが、期間限定のダンジョンだと再トライしたくなる場合があったりする訳だ。
 浅い階層での死に戻りなんかはその顕著が著しい。
 
 10層しかないリミタイズダンジョンだからこそとも言える。
 まぁ、今回はアイテムも使い切り骨ネズの対策も立てなきゃいけないので、こうしてリトライはやめたんだが、フィアーナ自身はどう思っているのか。
 
 オレ的にはある意味目的を達したので充分なのだ。さすがに死に戻るのは久し振りだけどな。
 オレの前をスキップを踏みながら進むフィアーナに気になったことを尋ねる。
 
「何であんな数のモンスターに追っ掛けられたんだ?」
 
 いくら何でもあの数に突っ込む程、フィアーナがおバカさんではないと思ってる。
 フィアーナはこちらに振り向き後ろ歩きしながらしばし考え答えてきた。
 
「あの時、十字の左の先に1匹だけあのモンスターがいたんで、倒そうと近づいて攻撃したんですけど、躱された後甲高く声を上げたと思ったら、奥から大量のモンスターがやって来たんです。正直ビビりました」
 
 ふむ、それで逃げ戻ってそれにオレが巻き込まれた訳か。
 つか、あれば―ティー組んでても無理ゲーだな。
 てことは、1体が危機を察すると特定の音を発生させて、周囲の仲間を呼び寄せるタイプなのかも知れない。
 対策としては#アイテム_あれ__#を使って動きを阻害するって感じかな。
 
「ピロさ~~~ん。どっちですかぁ~~?」
 
 どうやら脇道を通りぬけ街道に出たらしいフィアーナが、方角を聞いてくる。
 右が来る時通った方向で、ギルドホームや街や村なんかがある道になり、左に行くと大罪ダンジョンがある大罪都市へと続く道になる。
 この大罪都市とは、大罪ダンジョンを中心に作られたもので、ありとあらゆるものが売り買いされている。
 もちろんその中にはスキルもあったりする。
 
 ただスキルには他にも入手方法があり、例えば【剣】スキルのLvを上げていくと派生スキルが出てきて、EXPを消費することによって取得出来たりする。
 まぁ今回はスキルを買いに来たわけなんだが、今のところゲーム内で開放されてる大罪ダンジョンは4つだか3つある。
 で、今オレ達が向かってるのは【傲慢】のダンジョンになる。
 
 まーオレもよもや状態異常を回避する術もなく、ダンジョンに入る奴等がいようとは思っても見なかったのだ。
 そんで結局はあんな事になったんだが、思い返せば俺が悪かったんだと思わないこともない。
 このゲームをやっていれば、大罪ダンジョンの状態異常について相手が知悉していると勝手にオレが思って野良パーを組んだ訳だ。
 ところが奴等はしっかり状態異常に掛かり、本人も気づかないままオレを罵倒してきたのだ。
 
 オレもある意味人を見る目がなかったと反省したんだが、奴等はそれを自分のせいでなく他人へと求めた。
 今後会うこともなかろうが………。いや、さっき会ったな。それはまぁ、無視すりゃいーや。
 ダンジョン以外は装備が違えばわからないだろうしな。
 俺達は街道を歩き続けると、ようやく大罪都市の外壁が見えてきた。
 
「ほえ~、でっかいですねぇ~」
「何言ってんだ?オレ達が出会ったとこだぞ、あそこ」
 
 まるで初めて見るもののように目の上に手を翳してフィアーナが言ってるので、来たことがあるだろうと諭すようにフィアーナに話す。
 
「えーと………覚えてません!」
 
 ピシッと挙手をしてそんな事をのたまうフィアーナ。なんじゃそりゃ!
 
「剣を装備してからなんか頭がもやっとかぼやっとしてたんで、よく見てなかったんです」
「……………」
 
 なって不憫な………。ゲームあそびなのに辛い目に会うとか、運営はシステム面もちょっと改善した方がいいと想う。
 で、さっそくクレレームクレーム。オレはメニューを呼び出して運営へ文句を送る。ま、返って来やしねーけど。
 
 たいざい都市に近づくにつれ、その全容が見て取れる。
 木で作られた巨大なアーチ状の門には精緻な彫刻が彫られ、左右に2体の巨大な立像がポーズをとっている。
 いわゆる阿吽のポーズだ。これのどこが傲慢なのかよく分からんが、他の大罪都市も同様に、似たような立像が飾られてるらしい。
 
 俺は行った事がないしな。料理とか生産ばっかやってたしな。
 そしてが壁の前面には、光り輝く金色に彩られていた。
 この壁の色は大罪都市ごとに変わっていて、掲示板なんかでも物議を醸しだしている。
 オレ的にはどうでもいい話だけどな。
 
 門を潜り抜けて、オレ達は大罪都市の中へと入っていく。
 目の前には広々とした大きな通りと、中央部分には街路樹が植えられて天然のアーケードとなっている。
 大罪都市といっても、大罪ダンジョンへ向かう1km程のこの大通りの1本道だけで、他には何もない。
 左右に店がひきしめ合ってはいるが、それだけなのである。
 オレがそう言うとフィアーナはぽつりと呟く。
 
「名前負けしてますね、ここ」

 運営やつらがどういうつもりでこんな作りにしたのかは分からないが、確かに名前負けだわな。
 
「さてそんじゃ、スキルショップに行くか」
「あっ、ちょっと待って下さいピロさん」
 
 オレがフィアーナに声を掛けると、デカイ看板の前に向かって何かを確かめるようにそれを見ていた。
 オレもその看板に近づいて見てみると、どうやら地図………住宅案内図のようで真ん中に1本道がドカンと通っていて、左右にはたくさんの正方形が並んでいる。

 その正方形の中には例の模様にしか見えない文字?が示されているようだ。
 なんだってこんなもんが置いてあるんだ?
 フィアーナは案内図を指でなぞるようにしながら見めている。
 
「分かりました。行きましょうピロさん」
 
 なんだかよく分からんが、まぁいいか。
 俺達は通りを奥に向かって歩き出す。
 【言語理解】のスキルはこれからの攻略には必須な気がするのだ。
 
 
「ない………な」
 
 幾つかあるスキルショップに入ってみたのだが、どのスキルショップにも【言語理解】は売っていなかったのだ。
 
「どういうことだ?派生型ってわけでもないし、クエスト報酬ってのは有り得ない………と思うんだが」
 
 いや、キャラメイクん時、スキル選択の時に見た記憶があるのだ。
 
「何でないんだ?」
 
 店員に聞いても誰も彼もが分からないの一点張りだ。
 通りを眺め見つつちょっとばかり途方に暮れるオレを他所にフィアーナが何やら数えながら通りの向こうを見ている。
 
「どうしたん路地なんか見て。どっちにしろそっちは――――」
 
 路地を見てるフィアーナに説明しようとすると、いきなりフィアーナが通りの向こうへと駆け出した。
 
「ピロさん!こっちです!」
「えっ?あっ、おいっ!!」
 
 フィアーナが声を掛けて来て先を進む。それを追いかけるオレ。
 その先には路地へと続く家と家の間。ばかっ、そっちは行けねぇんだ。通行不可の場所だからぶつかるんだよっ!
 オレが注意しようと口を開いた瞬間、フィアーナは透明な壁にぶつかることなく路地の中を走って行く。
 
「うぇえええっっ!?」
 
 オレはあり得ない光景につい足を止めてしまった。なんでぇ?
 いや、何故フィアーナは路地に入れたんだ?
 オレが首を傾げ立ち止まってると、それに気付いたフィアーナが戻って来た。
 
「ピロさん、何やってるんですか?行きますよ。こっちです」
 
 フィアーナに手を引かれそのまま路地へと入る。っ!が何の抵抗もなく通り抜けてしまった。
 
「なんでぇっっ!?」
 
 そう。オレは以前に脇道というか路地を通ろうとして何度か挑戦したのだが、結果は芳しくなく[Object Zone!Do not Enter!!]と表示されるばかりだったのだ。
 それが何の抵抗もなく通ることが出来たのを見て、やはり俺はこう思わずにはおれない。
 
“運営めっ!”
 
 しばらくの間路地をまっすぐ駆け抜けて行き、そして出口へとたどり着く。
 そこには大通りとは比較にならない程の規模の街並みが広がっていた。
 
「何だこりゃ………」
 
 行き交うNPC達を眺めつつ呟きを漏らす。
 なる程、確かにこれは“都市”だ。
 
 オレ達が出た場所は公園のようで中央には大きな噴水があり、様々な水の文様を噴き出し描いていた。
 後はその周りに4人掛けのベンチが噴水を囲むように幾つか設置されていて、NPCが思い思いの姿で過ごしていた。
 そして公園の端には幾つかの屋台が立ち並んでいた。
 しかも食べ物屋さんがっ!

「ふおおっ!ピロさん、お店がありますよっ!!」
 
 フィアーナがそれらを見てオレの腕を掴んだまま突進する。おととっと。
 揚げ物をするジワァ~という音と油の匂いが耳と鼻に入って来る。
 細長い棒のようなものが、油の中で踊っていた。
 チュロスっぽい何かっていうかチュロスだな。
 
「おねーさん!1つ下さいっ!」
「はい、少々お待ちくださいね」
 
 フィアーナに声を掛けられた女性店員は笑顔で答える。営業スマイルぱねぇ。
 
「お待たせしました。どうぞ」
 
 チュロスを受け取りフィアーナが代金を払う。値段は安くてボリューミー。
 60cm程のチュロスをフィアーナがガシガシかじり食べ始める。
 初めて見た屋台の料理に興味はあったが、それよりもどうやってここに来たのかの方がオレは気になった。
 
「なぁ、どうやってここに来れたんだ?オレは今迄こんなとこに来ることが出来なかったんだけど………」
「うぇ?ほうあんえふあ?」
 
 オレの焦燥感とは裏腹に脳天気に食べながら話すフィアーナに、オレは少し苛つきつい言葉を荒らげてしまう。
 
「食べながら話すんじゃない!行儀悪いな」
「あう………」
 
 オレが窘めると、ちょっと眉尻を下げてからごくりと飲み込む。ちょっと気まずい。想定外のことが起きてオレもいら、動揺してるみたいだ。
 
「すいませんでした。ピロさん」
「オレも言い過ぎた。悪かった」
 
 同時に誤ると、頭がぶつかりノックバックする。
 
「ぐえ」
「ぐぅ」
 
 痛みはないが、その反動に驚き思わず声を出してしまう。
 
「わり………」
「すびばせん……」
 
 寸の間、何ともはなく何故か笑いが込み上げてきた。
 
「ぶ、くっくっくっく………はっはははh~~~~っ」
「ふっふっふ。うふふふふふっっ~~~~っ!!」
 
 一頻り笑い合って落ち着いた頃、フィアーナが話し始める。
 
「ごめんなさいピロさん。全然説明もしないで連れてきてしまって。ほんとごめんなさい!」
「いや、オレもちょい感情的になりすぎた。小心者のたわ言と思って笑ってくれ」
「いえっ!」
 
 さらに言葉を紡ごうとするフィアーなの言を遮ってオレは話す。
 
「とりあえずこの話はこれで終いな。んでここは何なんだ?」
 
 改めてフィアーナに問い掛けると、少し考えるように上を向いてから答え始める。
 
「えーと、街の案内図を見てスキルショップが書いてあった場所の行き方を確認しただけなんですけど……」
 
 ………やっぱりあれは案内図だったわけか。
 おそらく言語理解のスキルがキーになってフラグが立ったってことなんだろう。
 またしても【言語理解】か。何としても手に入れんといかんな、こいつは。
 
「悪いがスキルショップに案内してもらえるか、フィアーナ」
「はいっ!まかせて下さい!」
 
 どんと胸を叩いてヘヘンって風にドヤ顔を見せて歩き始める。いやまぁ、いいけどな。
 
 時計台公園をでて歩道を進むと、程なく目的地―――ースキルショップへと到着した。
 
「ここなのか?」
「はい。看板に”スキルショップ・アトリ”って書いてありますから」
 
 壁にぶら下がってる銅板の謎模様を指差してフィアーナが言ってくる。う~ん、とても文字には見えん。
 
「じゃあ行っきましょう!」
「おう」
 
 俺達はドアを開けカウベルが鳴る音を聞きながら中へと入って行った。
 
 
 
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