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7.オレ―――もとい僕の日常
しおりを挟む呪術師。
ゲーム内掲示板のスレタイに時たま見掛けるものだ。
だたフラグ発動型のイベントなのか、シークレットクエなのか噂の域を出ず、それらしいNPCを見た、とかシティクエクリアで会うことが出来るとか、あまりよく分かっていない。
この呪術師という人物が呪いを解く、もしくは何かしらの方法を知っているのではという話なのだ。
オレも半信半疑といったところではある。
「呪術師さんですか………」
「ああ、いるかいないか分からねぇけど、これだけ呪いのアイテムがあることを考えれば、有りえない話じゃねぇと思うんだ」
さっきあれだけ食ったのにも関わらず、塩むすびをもしゃもしゃ食べながら呟いたの見て、ちょっとだけ呆れる。
「あっ!塩むすびとバゲットサンド売ってください!!」
「……………」
ぶれねぇってすげーなぁと思いながら、オレは注文通りのものをインベントリから出してトレードする。
「ありがとうございましたっ!」
笑顔でホクホクしながらメニューをフィアーナが操作する。
時間も時間なので俺はフィアーナにログアウトすることを告げ、次にログインする時間を確認しておく。
「オレ後はログアウトするからさ、次フィアーナはいつログイン出来るんだ?」
「あ、はい。毎日ログイン出来ます。しばらくは19時から23時の間になると思います」
ホロウィンドウを見てニマニマしていたフィアーナがそう返事する。
「それじゃ、また明日な。ログインしたら連絡するから」
「はい、分かりました」
「フィアーナもギルメンになったんだから、ここもポイントとして使えるからな」
「ポイント?」
フィアーナが不思議そうに首を傾げる。チュートちゃんと受けてるよな?………まぁ、いっか。
「ゲーム内にログインした時に出て来る場所の事だな。いつもログインすると決まった場所に出るだろ?大抵は最後に立ち寄った先の街の広場なんだけど、ギルドホームにも登録できんだよ」
「はえ~、そだったんですか。初めて知りました」
………ぼっちだもんな。そうか………。いや、そうか?何ヶ月かでもやってて知らないっていうのもどうかと思うが。
「ん、………まぁ、だからもし遊べる時はここを選べばすぐに落ち合えるってことだ」
「おおっ!」
胸の前で両拳を握り締めブンブン振って興奮している。
……いや、こんな事でテンション上げられても……というか今までどうしてんたんだ?フィアーナ………。
そんな説明をしてから、このマイルームのワードキーをフィアーナへ送ってオレはログアウトする。
「じゃ、オレは明日も19時頃からログインけど、予定とか都合が悪くなったらメールしてくれればいーから」
「はい、明日は大丈夫だと思います。後あたしもこれでログアウトします」
顔を紅潮させて首をぶんぶん縦に振ってくる。小っさい犬みたいだ。
俺はメニューを出してログアウトを選ぶ。フィアーナが手を振り光りに包まれるのを見てると、俺の周囲が光の粒子に覆われて白に呑み込まれていく。
ログインとログアウト時にオレは目をつぶっている。リアルとPCの身長差がかなりあるので、感覚がおかしくならないようにとしているのだ。
目を開けると4畳半ほどの畳敷きの床に立っていた。さっきの視点からかなりの高さになっている。
畳敷きとは別のスペースには、アスレチック場と言わんばかりの設備が目の前に広がっている。
ここはHMVRDの中にあるVRルームというやつで、各種アプリケーションソフトの保管場所であるとともに現実と仮想現実空間の調整所みたいなところになる。
脳とは何とも器用なもので、誤認された空間でも、しばらくすると仮初めの肉体でもそうだと認識してしまうものらしい。
特に急激な身体の差異になると、現実とVRの切り替えが大変になるとのこと。
ならばある程度の規制をかければいいのでは?との意見もあったのだが、それはエンタメ業界がこぞって反対を表明し、ならば人間の身体変更のみに留めることで同意したとのこと。
ただここでもTSに関してはLGBTの関係と性誤認識問題が巻き起こり、申請が行われない場合は基本本人の性別で利用するとこが決められた。
よって、ネカマ、ネナベプレイはVR物では出来なくなっていた。
僕自身は特に何の関係も影響もないので気にもしていない。
僕は身体の微調整をする為、畳敷きの床から運動ズックを穿いてアスレチック場へと向かう。
広さは容量の関係もあって、10畳ほどのところに木枠でなんちゃってジャングルジムのようになっている。もしくは迷路。
ピロキシの体格に合わせて高さと幅が設定されていて、ピロキシなら余裕で通れるようになっている。
リアルの身長は2m………ちょいで身体も日頃の行いの為か……ちょい筋肉質のせいでガタイがいい感じなので、ここを通り抜けるのはけっこーひと苦労なのだ。
だが、何度も何度もやってれば僕も学習していく。今はタイムアタックなどして余裕で中を通リ抜けれる程なのだ。あいたっ!痛っ。
………こうして身体の齟齬を修正してから現実へとライドシフトする。
目を開け、HMVRDを外して所定の場所へ置いて伸びをん~~とする。
結構な時間動かないでいたので、身体が強張ってる気がする。
僕は斜めになってるリクライニングシートを戻して、明日の予定を確認しておく。
携帯端末を取り出しスケジューラーを呼び出す。
明日は全国的に月曜になっている(当たり前だ)。そういやフィアーナは明日は休みでとか何だとか言ってた気がする。
ということは学生ではないのだろうか。アレで社会人とかはちょっと想像つかないが………。
その思考を一旦棚上げして、僕は明日の時間割を確認し、テキストとノートを鞄にしまっていく。
今現在の学校では、電子化が進みテキストもノートも専用端末や携帯端末で授けるのが実情だが、それをよしとしない人間もある程度存在している。
それに昔からの法律により、紙媒体のテキストは必須ということもあり、生徒は必ずテキストを受け取るようになっている。
ノートも打ち込むより書き込むほうが楽とか覚えることが出来るという声もあり、やはり紙を使ったノートやタブレット型のノートのに書き込む生徒が結構いるのが現状だ。
まぁ、要はどっちでもいいってことだ。
僕はノート派だ。別に指が大きくてキーボードが打ち難いからではない。
「そうか、明日は身体測定があるのか………」
うちの学校は前期と後期に分けられ、4月~9月が前期、10月~翌年3月が後期となっていて、その学期中に1度身体測定を行っているのだ。
そして明日が後期の身体測定の日になる訳だ。
僕は少しだけ不安を飲み込むように唾をコクリと嚥下する。
もう伸びてないよな………身長。
翌日。
僕の通う私立優杏学院は我が家から自転車で30分程の場所にある。車やバスなら10分程の距離だ。
僕はタイヤ幅の広いマイチャリをえっちらおっちら漕ぎながら校内へと到着する。
何故バスを使わないかといえば、もちろん背とかガタイのせいだ。
満員のバスの中で体積が大きいのはそれだけ迷惑の対象となってしまう。
文句を言ってくる奴ならば睨みつけ論破するが、邪魔だなぁと嫌な視線を向けられると、何とも居た堪れない気分になってくる。
お互いの精神衛生上の為にも僕が1歩退いた方が得策と考えたのだ。(集団の視線てのはけっこー精神に来るものがある)
駐輪場に愛車を留めて鍵を掛ける。盗まれはしないのが念の為、前と後ろにロックを掛ける。
鞄を手に持ち、靴を履き替え教室へ。
うちの学校は、上から俯瞰すると校舎が凹の形となっていて、左が教室棟。1学年が上がるごとに階も上がっていき、僕達1年は1階となる。
真ん中が特別教室棟。音楽や特別教室などの授業をする場所になる。あと特待生の教室もここにある。
そして右が教員棟で職員室と教師の個室、クラブの部室が入ってる。
そしてこの学校はとある大学の付属高なので、品行方正を旨とした校風で裕福な人間が多く通うところであり、それ程騒がしいものでもないのが有り難い。変な奴やはっちゃけた奴もいない(面接で弾かれる)。
それに服装にも寛容で僕にとってはその事が1番有難いというか、それがあったのでここにしたようなものだからだ。
教室に向かうすがら思わず耳たぶを擦る。
教室に入ると、催行日にある窓際の自席へ腰を下ろし鞄を上に置いてノートとテキストを机の中へとしまっていく。
背が高いせいで僕の席は最後尾が定位置となっている。たしかに邪魔なんだけど………。
「おはようヴェルスト」
「おはよう黒崎」
僕にそう声を掛けてきたのは、前の席のクラスメートの黒崎だ。
黒縁メガネのサッパリ系イケメンだ。
しかも理系に見えてバスケ部のレギュラーを1年で務めている。
モブから見れば滅びろと言いたくなる奴だ。
「いや、お前モブじゃないから」
「っ!お前エスパーかっ!」
「いや、思いっきり口に出してるぞ」
っ!しまった。くっ、いや、これから気をつければいい。うん。
「……………」
黒崎が何か言いたそうな顔をして僕の顔を見てくるが、諦めたように肩を竦めて前へ向き直る。
「ヴェー!課題見せてくれっっ!」
「あたしもぉ~~~っ」
そこへ女子2人が連れ立って僕のところにやってくる。
クラスメートの沖 涼子と間 叶美だ。
沖は黒髪ショートの黒い瞳でちょいつり目がちの、まぁ美少女と言えなくもない。どちらかというと同性にモテるタイプか。
間はふわふわ茶髪のショートボブで小柄ながら出るとこは出てる。垂れ目がちの茶色の瞳が上目遣いでこちらを見ている。
2人ともサッカー部のレギュラーで活躍しているが、要は脳筋なので、勉強は疎かがちなのだ。
「でも、僕ノートだよ?」
「ぐはっっ!」
「げぼっっ」
▽2人はダメージをうけた!
データをコピべして写すつもりだったのだろう。
「クロっち!」
今度は黒崎へ顔を向けて、懇願するが、黒崎はにべもない。
「お前らに見せるメリットがない」
バッサリ斬り捨てられて、肩をガクリと落とす2人。
「ヴェルスとのノートを撮ってスキャンすればいいんじゃないのか?」
「ナイス!クロっち!!」
「グッジョ!」
そして2人がこっちを見てくる。ハイハイわかった分かった。
僕はノートを取り出し2人に渡す。数学の教師はなかなか厳し―のだ。
「2限前には戻せよな」
「わかってるって、サンク―」
「ありがと~~」
そう言って2人は去って行った。
「相変わらず甘いな」
「しょっぱいよりかはな~」
黒崎の言葉に軽く冗談混じりに返してはぁ~と溜め息を吐く。
「何だ悩み事か?」
「あ~、今日身体測定あるだろ。それがちと憂鬱でなぁ~」
僕が今日の身体測定の事について憂鬱そうに答える、が黒崎は何のことだか分からず首を傾げるのだった。
そこへ担任やって来てHRを始める。
その後2限間際にノートを持ってきた2人を叱りつけ(屁とも思わなかった、ちっ)午前の授業を終え、昼食と取ってから、クラス毎に分かれて身体測定が行われた。
場所は校庭の片隅に留められた測定専用トレーラーの中を通り抜けることで測定される。
▽結果は――――
身長が1.2cm伸びて205cmを越えてしまった。周囲の皆は203も205も同じじゃないかと軽く流されたが、違うのだ!くぅっ。
この痛みはゲームで回復させるしか無い。帰ったらすぐログインだっ!!
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