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2.呪われ剣士
しおりを挟む出て来た奴等に気付いた少女が、膝を付きながり縋り付いていく。
「お願いです!呪いを、呪いを解いてください!!お願いですっ!!」
男の鎧にしがみつき、なおも少女は言い募る。呪い!?
「だあ~か~ら~、俺達ゃ知らねぇって言ってるだろうがよっ!!てめぇが勝手に自分で装備したんだ。てめぇの責任だろうがよっっ!!」
「アンタ達があたしを囲んでそうさせたんじゃないか!あたしは好きこのんでこんなもの装備したくなかったっ!!」
「てっめぇ~~~っ!!潰すぞっっ!!」
鎧姿の男が腰にある剣に手を掛けようとすると、後ろにいた男がそれを止める。
「まぁ、待てよ。お嬢さん、その呪いを解いて欲しいなら、このアイテムを装備してくれないか?そうすれば呪いを解こうじゃないか」
そう言ってローブ姿の優男が、インベントリから何かアイテムを取り出し渡そうとする。
「本当に?呪いを解いてくれるんですか?」
「もちろんだとも。さぁ」
ああ、こいつらあれだ。手に入れたアイテムや武器を検証するのを目的としているアナライザスって馬鹿ギルドだったか。
普通のアイテムなんかは自分達で検証のだが、呪いとかバッドステータス付きのアイテムなんかは見ず知らずのプレイヤーに無理やり装備させるとか噂で聞いたけど、本当だったんだ。
下種だなこいつ等。
彼女がアイテムを受け取ろうとするのを、3人がにやけながら見ている。
下種共が。
これ以上見ていると、オレも下種の仲間入りするので止めることにする。
「あっれ~?呪い解くなんて嘘ついてまた呪いアイテム装備させるって、お前等サイっテ~だな~~ぁ」
大声で奴等に近付くと、周囲の人間の視線がこちらに集中する。
もちろん彼女と奴等3人もだ。
「なぁ、どうせアイテム装備して貰うなら、先に呪いといてやった方がいいんじゃないのか?あんた呪い解けるんだろう~~ぅ?」
「ちっ!行くぞっ!!」
オレの言葉に優男が舌打ちをして立ち去ろうとする。オレはさらに奴等の事について言葉を重ねる。
「あ~~~~っ、アンタ等見ず知らずの人間に呪いアイテム装備させてスペック調べるって、あの”アナライザス”ってギルドだろ?噂になってっぞぉ~~っ」
でかい声でそう言うと、少女は目を丸くした後奴等を睨みつける。
旗色が悪くなったと感じた優男がこちらに向かって反論してくる。
「噂なんかで人を悪く言うのは感心しないな。それに勝手に装備したのは彼女なんだから、こっちが何かを言われる筋合いは無いと思うがね」
へぇ~シラを切る気だ。
「さっきの様子を見た限りじゃ、自主的に装備した様には見えなかったけどな。あまつさえ何か呪いを解くからまた別のを装備しろなんて言ってるし、それ呪い付きなんだろ?なぁ、“アナライザスのプルーテ”さんよぉ~~っ!」
周囲がそのことを聞いてざわつく。優男――――プルーテは慌ててアイテムを仕舞い立ち去ろうとする。
「あ、この事は運営に伝えとくんで、よろ~」
オレの言葉に激昂した鎧男が剣を抜きこちらに吠えてくる。
「てめぇっ!潰すぞっっ!!」
君はそれしか言えんのか、脳筋め。このゲームPKは可能だが、街の中は安全地帯なのでPvPしか出来ない。
オレはどうするのかその様子をニマニマ見ていると、プルーテがそれを止めて小声で鎧男に話しかける。
鎧男は舌打ちをして剣を納め去り際に悪態をついて来る。
「ちっ!覚えてろよっ、てめぇっっ!!」
何てチンピラな台詞だ。思わずぷっと吹き出してしまう。
「%&#%*>△□●っっ!!」
振り返りまた突っかかりそうな鎧男を押し留め、プルーテがこちらに誰何してくる。
「お前、名前はなんだ」
「あははっ、あんたバカか?この後襲われるかも知れないのに名乗るアホウが何処にいるんだよ、おい」
挑発する様にそう言ってやると、眉間に皺を寄せこちらを睨み付けた後、去って行った。
どうせ、こっちを識別してるだろう。ま、こちらは返り討ちにすれば良いだけの話だ。俺の鎧がどこ迄通じるか試すのもいいだろう。
唖然としゃがみ込んでいる少女に話しかける。
「大丈夫か?災難だったな。立てるか?」
「あ、ハイ。すみません。大丈夫です」
オレが声を掛けると慌ててフードを深く被り直し立ち上がる。
「ありがとうございました。でも、あの人達に…………」
「あー、あいつ等呪いなんて解けないと思うよ。武器とかアイテムとか検証するのが趣味だから。そういうものにも執着しねぇんだよね」
「そ、そんな…………」
両手でフードを押さえながら肩を落とす少女。
そこへフレからのチャットが入ってきた。
『ほいほ~い。どうした~?』
いつも最前線にいるヴァイスパーが心配そうな声をして話をして来た。
『ピロ~。おま~何したん?アナラの馬鹿スレ立ち上げて晒してんぞ』
『え、まじ?はえ~なぁ~。実は今こんな事があってさ~』
と今までの経緯を語ると、ヴァルパーは得心したようでこの後のことを聞いてくる。
『で、どうすんピロ。このまま泣き寝入りする性質じゃねぇだろおぉ~?』
『うん、もち。こっちもスレ立てるわ。今撮った動画もあるし、スレタイ何にすっかな』
『【下水】アナライザス【やる事エゲツな】とか?まぁ、街出る時は気ぃつけな』
『お~。あんがとな~、ん~じゃあ~~』
チャットを終えてさっそく掲示板メニューを出してスレに書き込み画像を添付する。後は被害者集まれっと。
次に画像を付けて運営へコール。これで何もしなかったら運営などと言えないだろう。
かくして行動ログを確認した運営は関わったPCを垢バン1歩手前のペナルティーを加した様だが、それはまた後日のことである。
まだ俯き肩を落としただ立っている少女にオレは声を掛ける。
「なぁ、呪いは解けないかもだけど、方法は1つあるぞ」
オレの言葉にこちらを見上げる少女。本当なのかと目を見開く。
「このゲームって3回までキャラメイクし直せるんだよね。新しくキャラメイクすりゃ、呪いも装備リセットされると思うんだけど、どうする?」
まぁ、そうすると今まで持ってるアイテムや装備もリセットされるので、本当に始めたばかりの措置だとは思う。
火傷の痕を見てると、もうこれ一択でしょうと思ったが、拒絶するように首を横に振る。
ん-、何か訳ありってヤツか。
「それがダメなら………後は神殿か、ポーション系か」
思いつくまま口に出して行ってみるが、彼女は再び首をフルフルと振る。
「掲示板を見ていってみたけど………全部ダメでした………」
ゲーム内の神殿は死に戻りと状態異常の時にお世話になるのだが、呪いは別物のようだ。
今さら見捨てるのも寝覚めが良くなかろうし、少し付き合ってみるか。
オレはまず自己紹介をするため、彼女に話しかける。
「オレはピロキシって名乗ってる。盾戦士みたいなのをやってる。あんたの名前教えてもらっていいか?」
オレの問い掛けに少し躊躇してから彼女が名乗ってきた。
「あたしはフィアーナ。剣士をやってます」
オレに向かって話はしてるがフードを深く被り俯いたままである。フード付きマントで上半身が見えないのでよく分からん。
「良かったらでい~んだがフィアーナのステータスを見せて貰えないか?もちろん嫌ならい~からな」
リアルでなら丁寧に話すのだが、ゲームの中なのでオレは年が近そうなPCにはタメ口で通すことにしている。ほとんどは気にせず会話が出来るのだが、まれに怒るPCもいるので人を見ながらにはしてるがな。
フィアーナは俺に言われたとおりにメニューを開きステータスを見せてきた。
………ああー。こうやって話し掛けられて、素直に装備しちゃったんだなぁ~この娘。
この手のゲームは初めてなんだろうか。MMOにしろSNSにしろこの手のものは箍が1段階外れるのはなぜなんだろうか。やっぱ匿名性が高いからかな。
何言っても、やってもいい訳じゃないとオレなんかは思うけどな。
んで、見せて貰ったフィアーナのステータスはこんな感じだった。
【NAME】 フィアーナ
【LEVEL】 25
【FAMILY】 ヒューマン
【SEX】 女性
[HP 46/50]
[MP 14/25]
STR 28
VIT 28
DEX 16
AGI 17
INT 15
WIS 4
LUK 2
〈SUKILL〉 剣 13/盾 12/身体強化 11/鑑定 11/索敵 12
〈EQUIP〉 炎蛇の破砕剣 [呪:火4]/フードマント/革鎧/旅人装束(上・下)/皮のブーツ
【【CAUTION!!】】 状態異常 Burn:15/100
あぎゃ、Burnってことは火傷か。(まんまじゃん)
つーかこんなレベルでよくここ迄これたもんだなと思わず感心してしまう。
最前線ではないとはいえ、この辺りのレベル帯は40~50程だ。
このステでは、この辺の雑魚モンでも1発で殺られるはずだ。
まぁ、間違いなく呪われた装備のお陰なんだろう。
ついでに呪われた武器のステ表示して貰う。
炎蛇の破砕剣:炎蛇の化身エリルレイマルメシンの嫉妬の炎により生まれた剣
嫉妬の炎が収まる迄その勢いは途切れることはない
STR+89 DEX-40 VIT+31 AGI+40
※装備解除不可
呪い: ヤケド(火4)
………何とも馬鹿げたスペックだ。が、その分デミリットが酷すぎる。
ヤケドは分かるが(火4)ってのは一体何なのか。
あとBurn:15/100ってのも気にはなる。使い続けると数値が増えてくってのが常道だよな。
これは聞くしかなよな。嫌だったらしゃーない。
「なー、ヤケドってあるけど、どこかになってるのか?あ、嫌なら言わなくていいからな」
オレはそう言ってのだが、フィアーナは覚悟を決めたのかフードを後ろへ下ろしオレを見つめる。
右目から上の半分が醜く赤黒く爛れていた。
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