のろい盾戦士とのろわれ剣士

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36.大罪都市(裏)に連れてって♪ by ギルメンツ

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 すいません………遅くなりました<(_ _)>
 
 
**********************
 

   □
 
 
 ウォータースライダーのように足元から滑り落ちる感覚を味わいながら、やがて暗闇から光の中へと跳び込む。
 
「っ!」
 
 直前に地面を察知し、たたらを踏みながらどうにか着地してなんとか転倒を逃れた。
 
「ふぅ………」
「うぉわぁあああああ~~~~~~~っっ!!」
 
 すぐにバカの悲鳴が聞こえ、慌ててその進路上・・・から退避する。
 バカが地面を転がりながらその先にある銅鑼(なんで?)に激突しどわぁあああんと派手な音を立てる。
 なる程。こういう仕掛けだったって訳か。性質たち悪ぃな。
 銅鑼に当たり悶えるバカを見ながら思わず毒づく。
 ちっ!全部こいつのせいだ。
 
 生産系PCプレイヤーは数が少ないうえに表に出てこない(現在の状況で)奴等ばかりなので、それなりの人数のいるギルドは希少な存在だ。
 だからこそ取り込みを出来るだけ慎重にと計画を進めていたのに、バカこいつのせいで全部台無しになっちまった。
 あれだけ余計な事をするなと釘を刺していたのにも拘らず、俺も行くと言い出したバカを止められなかったのを悔やむばかりだ。
 そして結果は見ての通りだ。
 
 ホロウィンドウには、“当PCはギルド【クラフターズナゲット】を除名されました”と、何とも素っ気ない文字だけが書かれてあったちっ。
 
「………ち、ちくしょうっ!!あんなの卑怯じゃねぇかよっ!部分破壊できるとか聞いてねぇっっつぅんだッ!!」
 
 銅鑼に頭をぶつけてしばらく悶絶スタンしていたバカは、起き上がりながら悪罵を吐き始める。
 とは言え、こいつのせいで今までのお膳立てがオシャカだ。
 何と言ってやろうかと考えていると、目の前にホロウィンドウが再び現れる。
 フレンドコール―――だが、これはクラメンからの連絡だ。
 すぐに呼び出しに応じると、それはあまりにも深刻でどうにも対処のしようのない状況であると認識させられてしまった。
 
『クラマス、大変です!グローリィグロゥうちのメンバーに限って売買拒否って、生産PCの奴等に言われたんです!NPCも同様です。一体どうすりゃ、いいんでしょうか?』
「な、マジかっ?それっっ!!」
『マジですよ!皆が皆声を揃えて“あんたん所とは取引しねぇ”って理由を聞いても教えてくれないんですよっ!』
 
 ちぃ………、まじかよ。思わず舌打ちし悪態を吐く。
 バカを見ながら思わず舌打ちする。どう考えてみてもこのタイミングからして、こいつのせいであるのは明白だ。
 あ~あ………。せっかくここまでにしたのに。全てこいつのせいで全く全然金輪際おじゃんだ。いくら何でもこれを立て直すのは骨も折れるし、何より時間がもったいない。
 いやもう無駄でしかない。
 
 本当になんでこんなバカやつ勧誘したのか、あの当時の自分を小1時間程問い詰めたい気分だ。
 別にこのクランに固執する精神は皆無だ。
 物事が自分の計画に有利に進むかもと思い作ったものだ。ここらが引き際なのだろう。
 
「おいっ!クラマスっ!!あいつ等徹底的に潰すぞ!こんな舐められっぱなしで腹の虫が収まらねぇっ!!」
 
 けっ!自業自得の癖に何を言ってるのやらっ!
 はんっ!なる程なる程。そうであるなら、こいつに全部投げ捨てるのも一興か。くくっ。
 
「あぁ分かった、そうだな。なら、これからはお前がクランマスターだ。オレはここらで引退するわ。あとはお前が皆を率いてくれ。ほら」
 
 そう言いながらクランマスター委譲申請をバカへと送る。
 
「っ!おうっ!任せろクラマス!」
 
 バカは申請内容を確認することもなく、申請を受諾する。
 さてさて、色々色々責任を被ったくれよな。
 沈む泥船に残るギルメンやつなんぞいないだろうがな。
 
 クランメンバーを招集しようとホロウィンドウを開き何かを言い募ってるバカを横目に、この場を立ち去る。
 いや、その前にバカは死に戻って行った。
 どうやらバカはPvPで火傷の状態異常のダメを受け、回復もせずにそのままにしていたみたいだった。
 パッシブ状態でも微々たるもののドッドダメを受けていればそうなるのは自明の理だ。
 まぁそんな事をバカに言うつもりは全くなかった。
 これ以上バカに煩わされるのは全くもって御免だったからだ。
 
 これからは神器争奪戦の対策に注力しなきゃだ。
 ………それにしても美味そうだったな。あのラーメン。
 
 
 
   □
 
 
 ………結局ストックしてあった食材群はこの場でほとんどを消費してしまった。
 あの後、材料がなくなったという事で忠良るはずだったのに、食材はまだまだあるんだから作るがいい!とさっちんが強行し、それにフィアーナを筆頭にギルメンが同意を示したことで、改めて作る羽目になったという訳だ。
 
 別に食うなとは言わんが、食い過ぎだとは思う。
 一度ログアウトしてからひたすら作り続けた結果、大罪都市(裏)で購った食材はあらかた消えて行ったって訳だ。
 はぁ………結局5杯分しかストック出来なかった。ちくそう。
 もちろんギルメンの中にも食ったふりしてストックしてる奴等がちらほらいる訳で。
 
 まともに食ってたのは、フィアーナとさっちんふーちゃんくらいだろう。
 ともあれ食材が無くなったのなら、また買いに行けばいいだけの話だ。
 幸い資金かねはたんまりある。ここの後片付けをしてから向かえばいいか。
 
 などとこれからの事を皮算用してると、うっかりさんがうっかりと言っちゃダメな事を“ギルドホームこんなとこ”で喋ってしまう。まさに八兵衛クオリティー。
 
「ピロさん!また大罪都市に食材買いに行きましょっ!今すぐにっ!!」
 
 その瞬間、どこぞの〇ュータイプのようにギルメン達が額からピキューン!と火花をを発した(気がした)。
 そしていったんマイルームへと退避しようとしたオレは、すぐさま包囲される。口元を緩め嗤うギルメン達に。くっ、
 
「ピ・ロ・ぉ~~?ど・ゆ・こ・と・か・な?かな?」
 
 ちぃ、まずいな………。
 
 このゲームにおける生産系PCは数少ないながらも存在する。
 そして奴等は未知のアイテムや素材に関して、とてもとても貪欲な存在でもある。
 つまり目の前に素材こうぶつをぶら下げられて、我慢できる奴なんぞいないって話だ。(もちろんオレも含めて)
 すなわち、あれだけの量の未知のアイテムを放出したオレという人間は、まさに格好の獲物。
 
 しかもフィアーナによって入手先がばらされてしまった訳で、となれば問い質さずにはおられぬ事となる。
 ギルメンに包囲されながら、オレはどうすっかとしばし悩む。
 フィアーナうっかりさんは側で何事かと首を傾げてる。
 
 ちなみにさっちんとふーちゃんは、膨れ上がった腹を叩いて満足そうに宙で横になってる。(あいつ等あの身体で3杯食ってやがった。どこに入ったのやらだ)
 進退窮まったオレは、何から説明すればいいかと思案する。
 一部分を除いてぶっちゃけるしかないかなとも思わなくもないが、それやっちゃうと我が身がアカウント抹消おわるおそれがあるから慎重に小出しにするしかない………だな。はぁ。
 ある程度筋道はなしを頭で整えて、オレは話し始める。
 
「あぁーえっとな、実は大罪都市の中にNPCの街があってな。なんでか知らんが、オレとフィアーナはそこに入る事が出来たんだわ」
 
 【言語理解】のスキルの恩恵というのは絶対話しちゃダメなので、そこら辺はお茶濁しだ。
 あれ?って顔をしたフィアーナを睨みつけ黙らせておく。
 2度目のうっかりさんは御免だからだ。
 
「そんでその中にさっきの食材やら何やらが売ってたって訳なんだな、これが」
 
 こんな説明じゃ納得はしないだろうなぁ~と思いつつ、オレは話を打ち切った。
 
「え?そんだけ?」
「おー、そんだけ~」
「「「「……………」」」」
 
 ………沈黙とジト目が痛い。が、ここでオレは登録抹消されきえる訳にはいかない。
 という訳で、ひたすらだんまりを決め込む。
 ここからギルマスたちが何を言い出すなんて分かり切った事だ。だから聞かれるまではダンマリさんです。
 ようやく事態の状況を察したフィアーナがおろおろとし始める。(おせぇは)
 痺れをきらしたギルメンの1人が口を開く前に、ギルマスがそれを抑えるようにオレへと訊ねる。
 
「できる事なら僕達もそこに案内して貰えないかなぁ?ピロ」
『『『『おなしゃぁあ――――――スッッ!!』』』』
 
 ニコニコしながら提案するギルマスに、ギルメン達が追随して土下座をしてきやがった。
 よくよく思うけど、土下座を強要する人間てのは、半分異常なんじゃないかとオレは思ったりする。
 やられる方がこんなに居た堪れなくなる謝罪とか、正直どんだけなんだと思うのだ。
 だから今のオレはめっちゃ居た堪れない。
 それに加えてフィアーナがギルメンやつらに同情する様にチラッチラッとオレへと視線を向けて来る。はぁ………。
 
「ちょい、フィアーナと話して来る」
 
 オレが半ば諦め気味にギルマスに返事をしながら、顎でくいっと合図してフィアーナを連れてマイルームへと入る。
 
「連れて行ってあげないんですか?ピロさん」
『おーあの都市まちか。いいのぅ!わしも行くのじゃ!』
『うむ!確かに見てるだけでも面白そうであったの。わらわも行くぞ!』
 
 いや君等の意見は聞いてねぇし、ってかふーちゃんは剣の時から自我あったんか………。侮れねぇな。
 2人の事はともかく下手するとアカBAN案件なので、慎重には慎重を来たさにゃならないのだ。
 
「おまー分かってん?下手うってあのスキルの事がバレたら、このゲームプレイできなくなるって覚えてるよな?」
 
 どーか忘れてませんよーにと祈りつつ、オレはフィアーナへと問い掛ける。
 
「…………忘れてました。てへっ」
 
 ちっ、女子だけが許されるテヘペロかまして来やがった。
 これ男がやると絶対殴れる。いや、俺でも殴る。
 
「じゃあ、どうするんです?断るですか?」
「それなんだが………おまーはどうしたい?」
 
 オレはホロウィンドウを出して、例の誓約書を見ながら考える。
 箇条書きにいくつかの条項が記されているんだが、内容はとにかく【言語理解】スキルの事を人に知らせてはダメ(話す事も記す事もだ)というものだ。
 スキルを持たないPCプレイヤーあの・・大罪都市(裏)に連れて行ってはダメとも書かれてはいないし、活動禁止とも記されていないのだ。

 この辺りはある意味罠っぽい気がしないでもない。
 ひとつ秘密を明かしてしまうと、人ってのはその先を先をと追及してしまう。したくなる。
 それが悪いとは思わないが、今回の場合かなり不味い話になってくる。
 オレはこれらの事を簡潔にフィアーナへと説明していく。
 
 これはオレばっかの判断だけではどうにもできない類のものだ。
 オレと同じ立場のフィアーナにも、判断しきめてもらう必要があるのだ。
 ある程度かいつまんで説明したものの、それを聞いたフィアーナは腕を組み眉間に皺を寄せて唸り始める。
 仲良しであるギルメン達の願いは叶えたいと思うものの、それでもしゲームが出来なくなるというのであればフィアーナの目的の事もあるから2つの選択肢の板挟み状態な訳だ。
 
『お主等なに悩んでるんじゃの?こやつに“誓約”させればいーじゃろが。仮にも神なんじゃし』
「「は?」」
 
 
 


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