のろい盾戦士とのろわれ剣士

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35.誕生!焔の剣姫

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 ギルマスにダストシュートを使ってもらおうと思っていたら、その前にファイアーナがしゃしゃり出てきて勝負を受けてしまった。
 
「ふんっ!女が相手か。お前らそれでも男か?情けない」
 
 軽鎧を纏ったバカは、オレ達を蔑むように嗤ってそう言って来る。なんとも前時代的な思考の持主のようだった。
 
[平安かにゃ?]:アイ
[弥生では]:トリ
[元禄推し!]:プレ
[レーワ?]:エビ
 
「いや、昭和じゃね?」
 
 実はホロウィンドウを不可視化 して続けていたチャットに、オレは突っ込みを入れる。
 前に出たフィアーナとバカは相対すると、フィアーナはバカを睨みつけバカはニヤニヤと笑いながらフィアーナへと話掛ける。
 
「なー、こんなギルドとこよか俺等のグランギルドとこの方が何マン倍もいいぜ。とっとと勝負に負けてこっち来いよ」
 
 下卑た笑いを見せながらそんな事を言って来るバカに、フィアーナがバカへ馬鹿にしたように視線を向けて言い放つ。
 
「はんっ!××××××ピ―――――×××××ピ――――しか×××××××ピーーーーーするしか能のない××××ピ―――が何言ってるんです?とっとと××××ピ―――すればいいのです。へっ!」
 
 をいをい、フィアーナきみは一体何を言ってるんだい?と思わず突っ込みそうになった。
 誰だあんな言葉教えたのは。
 
「…………っ、て゛っめえ゛ぇ~~、ただで済むと思うなよ………」

 ニヤけ笑いをしていたバカは、怒りを堪えるように声を低くして三下チンピラな台詞を呟く。
 
「そっちこそタダで済むと思わない事です。食い物の恨みは怖ろしい事をその身に刻み込ませてやるのです。とっとと申請を出すのです」
 
 フィアーナがそう言い捨てて、スタスタと後ろに下がり自然体で構える。
 バカはちっと舌打ちしながら、メニューを開きPvPの申請をフィアーナへと送る。
 フィアーナは何も見ずそのまま申請を受けてしまう。
 バカはそれに対してニヤリとほくそ笑む。あっちゃ~、フィアーナあいつやっちまったか。
 おそらく条件面でなんか仕掛けたんだろう。

 変なとこは策士だな。あるいは知恵者ブレーンがいんのかもしれない。
 ピコンとSEが鳴り、フィアーナとバカの中間地点にホロウィンドウが現れ、そこから光の膜のドームが広がって2人とオレ等を包むと周囲の風景が様変わりする。
 
「………森ステか」

 
 左右を木々に囲まれた1本道のステージ。
 フィアーナとバカはその1本道の中央で対峙しており、オレ達観戦者ギャラリーは、樹々の間から戦いを見る事となる。
 そして中央にホロウィンドウが改めて出現し、【Ready?】の声の後に30からカウントダウンが始める。
 この間にPCプレイヤーが装備を調えるって訳だ。
 
 フィアーナは炎の剣を鞘から抜き、両足を軽く開きたたずむ。
 その傍らには、フーちゃんがバカを睨みつけながら宙に浮かんでいる。
 フィアーナのその姿はまるで熟達した騎士を彷彿させた。フーちゃんはちょっとおっかない。
 
「おおう。フィーちゃん、なんか様になってるねぇ」
 
 ギルマスがフィアーナの姿を見やり、感心の声を上げる。
 
『ぷふぅ、よもや神たるモノが人に従属するとはな。げに怖ろしきは、ちゃーしゅうめんの力よのぉ』 
 
 ………そういうもんか?どっちかって言うと、食い気チャ―チューメンに負けたフーちゃんの方がオレとしては怖ろしいんだが。
 まーそこら辺は個人個人の感じ方の違いという事にしとこう。
 さて、相手方と言えばこちらはいくつもの小剣を履いてる剣帯を腰に巻き、さらにその両手にも小剣を携えその背に両片手剣を装備し、それから傲岸不遜な表情を見せて対峙する。
 
『“PvP!Fight!”』
 
 カウントがゼロになり、そしてPvPが開始される。
 
「おりゃ!はぁっ!」
「っ!?」

 開始早々バカはもってた小剣ショートソードをフィアーナ目掛け投げつける。
 
「ふっ!はっ!」 
 
 フィアーナはそれに慌てる事もなく、いとも容易く小剣を躱していく。
 躱された小剣はそのまま地面に突き刺さる。
 バカはさらに剣帯に履いていた小剣を抜いて次々とフィアーナへと投げつけていく。
 フィアーナは小剣それをあらかじめ知っているかのように、避け躱し剣で弾きながらバカへと突き進む。
 
 全ての小剣を投げ終えたバカは、背に抱えた両片手剣バスタードソードをスラリと抜いてフィアーナの攻撃に相対する。
 その眼は相変わらず人を見下したものだ。
 つーか、逆にオレとしてはこいつ大丈夫なのか?(主に現実での生活)とつい思ってしまう。
 だってそうだろう?ゲームとは言え、いくら奔放に動いたとしても現実が少なからず影響すはいるってオレは思うのだ。
 それこそが人という生物の理性ってものだと思う。
 
 あるいは、現実と仮想VRを使い分けて、行動している場合もあるのかもしれない。
 まぁそれこそ、もしそうであるのならそいつは変態だと思う。
 だけど現実リアルでもここと同じような行動をしているとなれば、また話が違ってくる。
 だとすればそいつはとんだクソ野郎ってヤツだ。
 
 ニヤリと下卑た嗤いを見せながら、バカは剣を振り下ろす。
 その件を炎の剣でガキリと受け止める。
 力任せに両片手剣をギリリと動かすバカに、フィアーナは応じるようにそれに相対する。
 どうやらステータス自体に差異はないようで、剣同士は火花をギャリリと散らし拮抗していた。
 
「ちぃっ!女の癖に何なんだよっ!!」
 
 そう見下し嘲るような物言いをしながらも目は正直にものを言うが如く、歪み弧を描きフィアーナを見ていた。
 そしてぼそりと何事かを呟く。
 
「ふぅ~ん………。魔導武具マジックアームかぁ。性格腐ってるね」
 
 ギルマスが目を眇めつつ侮蔑の視線をバカへと向ける。
 基本PvPってのは、何でもありではあるけどそれは自身のステと装備武器、あとは魔法を使うってのが通常である。
 もちろんメインとサブの武器を使い分けるなんてものある。
 だがそれは互いに了承をする形であってこそだ。
 だが、バカは特に何の了承を得る事もなく申請を送っただけだ。
 
 確かに確認しなかったフィアーナが悪いと言えばそうなのだが、この手のゲームをやってる人間からすればちょっとばかり下衆いと言わざるを得ない。
 
「まー大丈夫じゃね?こっちは2人なんだし………」
「え?なんか言った?」
「ナニモイッテナーイ」
 
 フィアーナこっちは2人で相対してる事を思えば、まぁハンデなしって事でいいかな、と小さく呟く。
 オレの呟きを耳にしたギルマスが、何か言った?と聞き返して来るが適当に返事を返す。
 そう。バカが呟いたと同時に、奴が投げつけた小剣がフワリと浮き上がりその切っ先を一斉にフィアーナの方へと向ける。
 
『ほぅ!アレは何なんじゃ?仮主よ』
「ファン○ネルじゃなくて、魔導武器マジックアームってヤツだな。大罪ダンジョンやリミタイズダンジョンで時々発見されみつかるもんらしい」
『ふふん、興味深いの』
 
 らしいというのは、オレも初見のものだからだ。
 ちなみにこの手の武器防具類はドロップで出る事がなく、そのほとんどはダンジョン内の宝箱からのものだという話だ。
 ナカジィーが以前にそんな事を言ってたんだがな。(鑑定マスターのあいつには、よくそれ関係の鑑定依頼が来るって話だ。)
 その魔導武器は間隔をずらしながら、次々とフィアーナへと襲い掛かっていく。
 
「むはっ!てぃやっ!はいっ、とりゃ!」 
 
 フィアーナは背後から襲い掛かる小剣を、バカから後退しながら避け躱し弾いていく。
 
「っめぇんだよっ!“バスタースラッシュ”!」
「ちぃ、やっ!あっ」
 
 小剣と両片手剣バスタードソードの同時両面攻撃(しかもアーツでの)を何とか躱したものの、どうやらバスタードソードが掠ったようでフィアーナにダメージが入る。
 
「っ!」
「通報しまスタ」
「「「………野郎………」」」
「………こいつ、どこの蔵ギルだっけ?」
「クラフターズユニオンに連絡しとく。こいつ等に物売んなって」
「グログロ。僕っちの方送ったお。薬関係おっけ」
 
 ………えーこの時点でグログロに対する報復?が次々と為されていく。
 使者かんゆうしゃがあまりにもバカなせいで、クラウンギルドの危機にまで及び始めている。
 引き籠もりではあっても、あちこちに繋がりはあるのだ。
 
 なんでこういう事になったかと言えば、本来PvPでは設定されるはずのないDOTけいぞくダメージが入っていたからだ。
 もちろん毒なんかのダメージでもDOTこれつくけど、とてもあのバスタードソードに毒を仕込む暇はなかったはずだ。
 それに毒だったら毒ダメのステ異常の表示アイコンがでてない。という事はバカはPvPの設定にある筈のない仕様プログラムを組み込んでいる事になる。
 どうやったのかは気になるが。
 
「ぎゃははははははああっ!おららららっ!さっきの威勢はどうしたよぉっ!!」
「くっ………」
 
 ダメージを与えたバカが、調子に乗ってさらに攻撃を繰り出す。
 
「「「「「下っ品だなぁ~~~」」」」」
 
 うおっ、思わずハモっちまった。
 今時、ぎゃはははとか言う奴いるとは思わなんだ。
 
「ん~………大丈夫かね?フィーちゃんは」
 
 5本の宙飛ぶ小剣と両片手剣の猛攻に劣勢を強いられているフィアーナを見て、少しだけ心配そうな表情をギルマスが見せる。
 
「ん?あいつ等に従うってやつか?」
 
 よもやあんな口で放ったバカの言葉に唯々諾々と従うのかと思って、オレはつい聞いてしまう。
 
「違うよ~。あんなのあっちが一方的に言ってフィーちゃんが勝手に同意しただけのもん、こっちが従う謂れはないよ。それよりもフィーちゃんだよ。負けたら落ち込んぢゃうだろ?」
「………あ~、そっち」
 
 どうやらバカについてはどうでもいいらしい。
 それにバカあいつがもし勝ったとして、こっちが条件それ反故にしたとしても、不公平なPvP上での事で無効であると言い訳も立つって事だ。
 
「「「「「落ち込んだそんなときは、俺達がなg――………」」」」」
 
 ギルメン達がギルマスの言葉に声を揃え下心を見せ、押し黙る。人気者だなぁフィアーナあいつ
 とりあえずギルメンあいつ等はスルーして、オレはギルマスへと告げる。
 
「まぁ、見てなって」
「なにっ?その意味ありげな自信っ!?」
 
 いや、自信ってか神様もどきとタッグ組んでて負けるとかないと思うだけだが。
 
「「「「それはそれでなんか、むかt…………ああっ!!」」」」
 
 そんなやりとりをオレ達がやってると、バカが声を上げ何かを言ったかと思うと小剣の動きがさらに速くなり、さっきの時間差から同時攻撃へと変化する。
 しかもそれそれが攻撃位置を変えた、何とも厭らしい攻撃だった。
 ギルメン達がそれを見て思わず声を上げてしまうのも無理はない。
 
「っれで、っわりだっっ!“スパイラル・エッジ”!!」
 
 なんとも滑舌の悪い声で、バカがアーツを叫びフィアーナへと襲い掛かる。
 胸の位置、水平に構えた両片手剣が、螺旋のエフェクトを刃に纏わせ一足飛びにフィアーナへと突っ込んでくる。
 その速さに回避は間に合いそうになく、フィアーナは炎剣を横にしてそれに応じる。
 その姿はまるで小剣に対しては何の防備もする必要がないというように。
 
 それを見たバカは、勝利を確信した様に口元を歪める。
 観戦者ギャラリー達が息を呑みその瞬間を待つ。
 
『よいか。其方は愚か者に対峙することに徹しよ。妾があの蚊トンボ共を屠ってくれよう』
「はいっ!りょーかいですっ!」
 
 バカがアーツを出す寸前に聞こえたのが、フィアーナとフーちゃんとの会話。
 それが次の瞬間、結果として現れる。
 
 ギャリリィィィっっ!っと再び火花を散らす剣同士を横目に、小剣の方を見たバカは目を見開き声を上げる。
 樹々の間からもギルメン達の驚きの声が上がった。

「なっ、あっ、にいぃぃぃっっ―――――っっ!?」
「「「「「はぁあ、あああっっ!?」」」」」
 
 バカの叫びとギルメン達の声が重なる。
 フィアーナへと襲い掛かった5本の小剣は、全て火焔に巻かれ塵と消えてしまったのだ。後には光の粒子の残滓ばかりが残りやがて消える。
 
『ふははははっ!妾にかかれば、こんなもの雑作もないわっ!』
 
 小剣5本をあっさり塵にしたフーちゃんは、胸を反らして高らかに笑う。
 
「何何何っ?今のっ!?」
「ぼわって燃えて消えたぁっ!?」
「もしかしてフィアーナちゃんがっ!?」
「………ピロ。知ってたん?」
「イエ、ナニモシリマセンヨ?」
 
 ギルマスがジト目で訊いてくるが、オレはとりあえず知らんぷりをしとく。
 どう説明しても理解してくれるとは思わなかったからだ。
 
『ふむ、あやつ等限定顕現するぞ。よっくと見とけよ仮主よ。一瞬で終わるからな』
「は?」
 
 限定顕現?また訳の分からんことを言い出したさっちんの言葉を小耳に挟みながら、オレはPvPへと視線を向ける。
 
「次はこっちのターンですっ!」
「ちぃいっ!このクソアマあっっ!!」
 
 鍔迫り合いの中フィアーナがボソと呟くのに沸騰しキレたバカが、力任せに剣を振るう。
 それをヒョイと後退して避けると、フィアーナが剣を立てて言葉を発する。いや、言葉というよりは呪文っぽい。
 
『よいか、妾の後に続いて言うのだ。“火顕の発現、現在し来れたし焔食む蛇。焔火顕現”!』
「かけんのはつげん、いましこれたしほむらはむへび」
 
 そこまでフィアーナが唱えたところで、縦が剣に炎が纏わり噴き上がる。そして―――
 
「えんかけんげん!」
 
 フィアーナがその言葉を発したその瞬間、全身が炎に包まれたかと思うとすぐに消え去る。
 そしてそこに現れたのは、緋色に長くたなびく髪と朱鷺色と紅蓮の混じった防具が、炎の様なゆらゆらと揺れるエフェクトを纏ったフィアーナだったのだ。
 
「「「「「「おおっ!かっろぉい~~~~~~っっ!!」」」」」」
 
 ギルメン達が感嘆を露わに声を上げる。
 
「まじかー………」
 
 あ~………あん時よりは控えめではあるが、なかなかにド派手ではある。
 
「な、な、なっ!な、何だよっ!そいつはぁあっ!?」
 
 バカが唖然とした表情でフィアーナを見る。
 その寸の間にフィアーナが動き、瞬息でバカの前に移動する。
 
「動きを止めるです」
 
 ぼそりとフィアーナが呟くと、次の瞬間炎を纏った炎剣が8の字を描き舞い踊る。
 
 緋色と紅蓮が舞踏《ロンド》を舞うように。
 
 互いにリズムを合わせステップを踏むが如く。
 
 美しい軌跡を描き、そして一気に噴き上がる。
 
 そしてフィアーナは後ろを振り向き剣を払うと焔が剣から掻き消える。
 
「ぐがっ、ぎぃあ゛あ゛ぁあああああっっ!?」
「「「「「なぁああっっ?」」」」」
「…………っ!」
 
 ギルメン達もだが、オレも驚いた。
 だってPvPに部分破壊があるなんて思ってもみなかったからだ。
 左右の前腕部そして左右の脛の中程から下が、緋と紅と朱の煌めく焔によって断ち切られると、その腕と足が炎に包まれ光の粒子となって消えて行ったのだ。
 持ち手を失った剣は宙空を漂った後地面に転がり、バカはドサリと背中から倒れ仰臥する。
 
「俺の手、俺の足っ!いってぇええええ――――――っっ!」
 
 このゲーム内での痛覚は、どんなにダメージを負ってもそれこそ軽くデコピンを食らう程度のもんだが、視覚がそれを上まったのか痛みに声を上げるバカ。
 確かに見てるだけで何とも痛そうな状態だから、やられた方はどれ程のもんであるかと想像に難くない。
 そして立つこともままならない四肢の状態で、フィアーナをバカが仰ぎ見る。
 
「覚悟はいいです?」
「ひぃーっ!はぁあああ………!?」
 
 バカを見下ろすフィアーナはその存在自体をを蔑むようにバカへと告げる。
 状況に理解が及ばないバカは、意味のない叫び声を上げる。
 いやぁ………。これまじ、トラウマもんだろ、これ。
 
 フィアーナは炎剣を逆手に握りなおし、バカの額へとそえる。
 
「ひっ、ひっ、ひぃああああぁぁああ~~~~~~~~っっ!!やめろぉおおお~~~~~~っっ!!」 
 
 ようやく状況を理解したバカが叫び声を上げる中、それはあまりにも小さく囁くように紡がれた。
 
「“ジエン Do プロミナイズ”」
 
 ズンと剣がバカの顔を貫くと、朱緋の炎が噴き出し頭部から始まって全身へと広がり、やがてHPがゼロになる。

『WiNNER“フィアーナ”!』

 PvPの勝敗が決し、周囲の風景がギルドホームのそれへと戻る。 
 
 
 その間、周囲は静寂に包まれる。いや、1人だけやたらと騒々しい息使いだけが響いていた。
 
「あたしの勝ちです。とっとと去ねって下さい」
「てっ、めぇええ………。きっ、たねぇぞ。そんなのチートだろうがっ………!」
 
 フィアーナがバカに告げると、元に戻ったバカが息を切らしながらも立ち上がり力なく吠える。
 オレはギルマスへと顔を向けると、それに応じるように頷きを返す。
 
「ああっ!ハイファウトさん。何やってんスか!余計なことしないでって言ったスよねっ!?」
 
 いかにもなローブ姿のPCが、バカに近付いて話かけている。
 バカめっ!時すでに遅しだ。
 後方にはベルバットが手持ち無沙汰に立っていて、キョロキョロとギルメン達を見ている。
 ギルメン達のベルバット達を見る視線は冷たい。不可抗力とは言え、こんなPCバカをギルドホームに入れたのだから仕方ないだろう。
 
「スイマセンッス。つい、知り合いが自分のギルド見たいって言うもんで、入れちゃったんっスけど………不味かったっスか?」
 
 バカの反応がないもので、新参者がギルマスへと弁解を始める。
 それにギルマスは笑顔(こわっ)で応じる。
 
「ふぅ~ん。君が彼をホームに入れたんだね。あっ、君この時点で除名だから」
「へ、ええっ!?何言ってんス?寝惚けてんスかぁ?」
 
 ギルマスの言葉にこちらも惚けて言い返す新参者。この顔のギルマスに対抗するってある意味すげぇな、こいつ。
 つか、この状況でまだシラ切るって、図太ぇなこいつ。
 
「言ったよね、除名って。だって君グローリーグロゥってとこのクラメンなんでしょ?うち掛け持ち許してないから」
 
 ニコリと嗤って言うギルマス。正体を暴かれた新参者は、その瞬間から態度を豹変させて今度は脅しにかかる。………あれ、もう落とさね?
 
「だったら分かってるっスよね?こちらにいるハイファウトさんはグローリーグロゥうちの最強PCプレイヤーの一角って事っス。あんた等じゃ束になっても一蹴されるっスよ」
 
 その嘲るような態度を取りながら言いのける新参………余所者でいいやに、オレを含めたギルメン全員がシラケた雰囲気になる。
 その最強の一角、フィアーナにたった今負けましたが何か?
 
「だから、何?」
 
 ギルマスが返す言葉もにべもない。まーなー。
 
「だから?だからグローリーグロゥうちに入れって事っスよ」
 
「アタマ悪ぃんか?アンタ………」
 
 ………すげーな、こいつ。状況が全然分かっていない。
 
「あ゛あ゛?てめぇ、今何言ったっ!」
 
 余所者がオレを睨みつけて唸るように声を荒げる。(っス忘れてるぞー)
 おや、聞こえてましたか。だってあんまり酷いんでつい口に出ちまった。
 だが余所者の横柄な物言いも、ここで終わる。
 
「ただの三下チンピラが何言ってるです。とっとと去ねなのです!」
 
 業を煮やしたフィアーナが、憤懣やるかたなしって感じで余所者へと言い放つ。
 
「っ!てめっ!誰に物言って―――――」
「バッハ~~~イ!さらばっ!!」
「「「「「サラバっ!!」」」」」
「っ!?あぁああ~~~~~~~~~ぁぁ…………」
 
 余所者が何かを言う前にギルマスが合言葉キーワードを言うと、パカっとそいつの足元に穴が開きそのまま落下していった。もちろんバカも一緒に。くくっ。
 これはダストシュートってヤツで、ギルドホームに不埒な輩が入って来た時にギルマス権限でホームから追い出せるシステムだ。
 
「「「「「ギルマス、GJ!」」」」」
 
 ギルメン達がギルマスに向かって一斉にサムズアップをする。
 この状況に理解が及ばないで残されたベルバットは、何とも言い表せない様な表情でこっちを見ている。
 
「ベル。今回だけだからね。今度困った事になったら僕達に相談すること。いいね」
「………ゴメン、ギルマス」
 
 ベルバットは項垂れながらギルマスに謝る。
 これでこの一件は落着かな。
 
「ピロさんっ!ちゃーしゅーめんのお替わりありますかっ!!」
『そうじゃっ!わらわももっと食べたいのじゃっ!!」
 
 はいはい。こういうオチなのね。
 結局、食材が尽きるまで作らされることになったオレなのだった。

  
 
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