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26.新たな?パーティーメンバー?
しおりを挟むその杖の見た目はとてもとても禍々しいものだった。
杖本体は光沢のある黒に近い紫色で、質感としては象牙っぽい。
長さは1m程で、どちらかといえばステッキといった方が相応しいかもしれない。
ただ先端についているものが問題だった。
彫刻であればとても精巧に作られたといえるもので、半球状(急を半分に横に切った下部分)の台座の上に結跏趺坐した黒い物体。
黒山羊の頭に、背には黒い翼を生やし蹄の足で胡坐を組んだもの。
バフォメット―――悪魔召喚の際に現れる奴そのものの姿だった。
背景にぐももぉうと暗雲と書き文字が出ていそうなそんな雰囲気を持ったもの。正直触りたくねぇえ―――ってか関わりたくねぇ―………。
「あなたが呪術師さんなんですか?」
″そうじゃ、我が呪術師じゃ!”
「あたしの呪いって解けます?」
フィアーナはそんな俺とは対照的に物怖じすることなく、禍々しい見た目の喋る杖へと話し掛けて訊ねる。
″呪いじゃと?ふむ………”
なんか杖なのにまるで人であるかのように、しばし考えに耽る呪術師。
″なれば我に触れるがいいのじゃ”
オレであったら御免被りたいものだ。特にアンデット系の、倒すとグチャグチャドロドロの奴は。たとえVRだったとしてもオレは遠慮したい部分はある。
ましてやこの杖なんかは触れたとたんに呪われそうだ。ゾンビ出そうだし。
スケルトンはまだしも、ゾンビは嫌ダ なのだ。
そんなオレの思いを払拭するようにフィアーナはあっさりとその杖を掴んでしまった。………すげー。
“そこではないのじゃ。下、下の杖に触るのじゃ”
そう、フィアーナは黒山羊の身体部分を鷲掴みしていた。
黒山羊の焦ったような声が響く。
「あ、ごめんなさい。ここですか?」
“然り。しばし待つのじゃ”
呪術師に注意されて杖部分を掴み直すと、呪術師はしばし沈黙をする。そして―――
“うむ!分からんのじゃ!!”
「なんじゃ、そりゃっ!!」
オレは思わずズッコケル。
“うぬぬっ、仕方がないのじゃっ!我はまだレベルが低いのじゃからなっ!それでは分かるものも分からんというものなのじゃっ!“
オレの態度に呪術師が逆ギレを起こすが、オレとしちゃどうせいちゅうんじゃと言いたくなるものだ。
ん?杖鑑定で見れるか?
そしてオレは鑑定スキルを杖へと使う。
んんっ?何じゃあこりゃ?
呪術師パルエヴォイムの杖:呪術師パルエヴォイムが創りし杖
古からの因果をその身に受け持つ存在
適性のある者によりその力を開放する
事が出来るかも知れない
多分
〒(&%$#’(~~}{`*+`><>_+ Lv.1
++{`P`P==))''&%&¥&'=~)=)
「かも知れない多分ってなんじゃ、そりゃっ!」
つい1人ツッコミしても仕方ないだろう。しかも後半文字化けしてるしよ。それに何よ?Lv.1ってのは!?こんなん突っ込まずにいられんだろうが!
「これってあたしは装備出来るんですか?」
“無理じゃな。魔法師もしくは魔導使いでないと我を装備は出来ぬのじゃ”
ん?なんか変な事言ってるな、この杖。
そのそもこのゲームでは、スキルを取得することによって武器や魔法を使えるようになる。
だがこいつの言ってる事は、職業のようなものでないと装備できないと言ってるみたいだ。
それっておかしくないか?まるでシステムが違うゲームみたいに聞こえてしまう。
何か違うものがあるのだろうか?PCと違う何かが。
オレは首を振り、あまり意味のない思考を中断する。
いや、今はそんな事よりも優先すべきことがあるのだ。
「んで、これからどうすっかって話なんだが………」
結局件の呪術師という存在でも、フィアーナの呪いを解くことが適わないとなれば、また別の方法を模索しなきゃならない訳なのだ。
「例えば魔法師や魔導使いがあんたを使ってレベルを上げれば、フィアーナの呪いを解ける可能性はあるのか?」
オレはこの時点で、オレはこの杖を1つの人格として認識した。いやもうな………。
“ふむ。それはありうるかと思うのじゃ。じゃが今の我ではあまりにもLVが低すぎて、その事すら分からんというとこじゃ”
Lv1だしな。
なんとも役に立たん杖である。
もう置いて行こう。
「あの杖さん。私達と一緒に行きませんか?その、杖さんを装備できる人が見つかるかも知れませんし」
「っ!!」
くっ!フィアーナが先んじて、杖へと提案してきやがった。
あんま面倒事は御免被りたい気分であったんだが………。
“然り、分かったたのじゃ。そなた等に我を託すことにしよう!”
「ピロさん!お願いします!!」
“然り、頼むのじゃ。ピロとやら”
えっ?ちょお~っと待ってぇっっ!?
「いやいや、この流れで行ったらフィアーナが預かるって話じゃねえの?」
「ええっ!?やですよ~。こんな不気味なの」
言っちゃったよっ!?不気味って。本人の前でっ!
”然りじゃ。それこそ我の存在の証なのじゃ!恐れおののけとな!はっはっは―!”
はっはっはーと笑いながら本人が不気味だと認めている。
いいんか?それでっ!?
「さぁさぁ~ビロさんっ!!」
フィアーナが杖をオレに手渡そうと差し出してくる。
”ほぅれ、ほぅれ~”
ぐっ、何なのこいつ等?めっちゃ息合ってんじゃんかっ!!
さぁさぁ~とほぅれほぅれ~の合唱に進退窮まるオレ。
ちっ、しゃーねぇーか………。オレは半ば諦め気味に、その不気味な杖を受け取ることにする。
「………わーったよ。持ってなくてもいーんだな?」
インベントリーに永久保存してやるわっ!
“然り。それで構わんのじゃ。ほぅれ、受け取るのじゃ!”
黒山羊の顔が笑ったように見えたが気のせいだ。うん、気のせいだ。
オレは仕方なくその杖を受け取ると、インベントリーへと収納する。
ピコーン!
[PCピロキシは呪術師パルエヴォイムの杖の仮宿主に認められました]
「ブフォぉおっっ!はああっ!?」
思わず吹いてしまったが、鎧越しなので誰にも見えんだろうが。(いや、フィアーナがなんぞよ?って顔でオレを見ている)
「どしたんです?ピロさん」
「いや~………なんか杖の仮宿主に認められたとかって出た」
「仮………なんですか?」
そっちか―い!そもそもただ(ではないが)のアイテムが収納しただけでこんな反応になるのはおかしいいのだ。
“ふむ、その通りじゃ。こやつは魔法師でも魔導使いでもないのでな、一時的な措置なのじゃ!”
「……………」
つーか、何で収納されてるアイテムが喋ったり出来るのか。
突っ込みどころがあり過ぎて、どこから手を付けていいのかさっぱりだ。
いやいや、この辺は突っ込んでもあまりいい事も無さ気だし、もうスルーしとこう。
半ば投げやり気味にそう結論付けてオレは転移の魔法陣に入ろうとして、はたと考える。
今ダンジョンから転移したらちょっとマズくね?と。
オレとフィアーナがこのリミタイズダンジョンの10階層をクリアしたのは(オレがやったかは知らずとも、フィアーナは知られてると思う)ワールドアナウンスで告知されている。
そして今回の20階層のボス攻略となれば、知りたがりの聞きたがりがこぞって集ってくるのは火を見るより明らかだ。
転移先の場所は決まっているし、きっと奴等はそこで待ち構えてるに違いない。
そういう意味では性質が悪く、賢しい奴等なのだ。あくまで一部の奴だけだがな。
「ピロさん、どうしたんです。戻らないんですか?」
オレが転移陣に入らず黙ってしまったことに、フィアーナが気づき訊ねてくる。
「ああ、ちっとその転移陣で戻ると、ちょい面倒なことになりそうなんで、どうすっか考えてたんだ」
「何かあるです?」
あんまり分かって無さそうな顔のフィアーナに、PCの業というか性質の悪い部分を分かりやすく説明する。
すると理解したフィアーナが腕を組んで、うう~んと唸り声を出し始める。
「でも元の道を戻る訳にも行かないですよね?後はしばらく時間を置いて転移陣で戻るしか無いんじゃないんですか?」
フィアーナがいきなり正論を言ってきた。
確かにそれぐらいしか無いよなぁ~と、オレは半ば諦め気味に同意する。今回は諦めてばっかだなオレ。
この状態でよもやダンジョンを攻略して降りてくる奴等はいないと思うのだ。
中ボスなんざ初見じゃ絶対詰むやつだし。
という訳でしばらくここで落ち着くことに決め本格的に休憩しようとすると、杖が発言をしてきた。………はぁ。
“仮宿主よ。おまいはこの転移陣から戻りたくないのじゃな?”
デミマスと来たか………。まぁ好きに呼びゃあいいんだが、このフリーダムさはどうかならんもんだろうか。
「そうだな………。さっきフィアーナに説明したように、このダンジョンの攻略法を根掘り葉掘り聞き出そうとしてくるだろうし、あまつさえドロップアイテム寄越せなんて言ってくるバカも出て来るかも知れない」
集団で来るといるんだよな。本当に自分の行動を棚上げして、卑怯だズルい!自分等にもその権利はあるはず!だからアイテム寄越せとか馬鹿言ってくる奴等が。
オレは経験ないが、ギルメンの何人かがそんな目にあっていたりする。
酷いのになると、俺の為にお前がいるんだから俺の為に武器や防護を無償で寄こせ!とか素面で言ってくるバカもいたらしい。
うちのギルド、グラフターズナゲットはそいういう生産職PCの駆け込み寺的要素も一部あったりするのだ。
オレにやって来たら逆撃するけどな。
“然りじゃ!ならば我が力を貸してやるのじゃ!”
杖がそう高らかに宣言すると、オレの身体から幾つもの光の玉が飛び出してクルクル回転しながら目の前で集束する。
そしてその光が弾けると、そこには珍妙なものが宙に浮かんていた。
「はぉあっ!?ピ、ピロさん、これなんですかっ!?」
「いやオレが知るわけなかろうに」
「でも、ピロさんの身体から出て来たましたよね?」
フィアーナがそれを指差して聞いてくるが、オレにも答えようがないことだ。
たしかにオレの身体から光が出て来て、これになった訳なんだが………。
『たわけ!これとは何じゃ、これとは!我こそ偉大なる呪術師パオルヴォイムの杖、その分身体じゃ!』
えっへんと胸をを反らすそれは、大きさは30cmで白い肌に紫の瞳、そして腰まで伸ばしたウェーブ状の紫の髪。
ダークパーブルのゴスロリ調のドレスを纏い、背中には皮膜の翼が一対。
そして黒山羊のお面が頭の右横に貼り付いている。
ドレスの下からは黒い体毛に覆われた蹄の脚がチラリと覗かせている。そしてお約束の悪魔の尻尾。
見た目幼女なのにその身にまとう雰囲気は、まるで老獪の域を超えた練達者のそれと言ったちぐはぐなもの。
『では行くのじゃ!これより大罪都市に転移するのじゃ!!』
右人差し指を天にかざし何やら呪文を唱えると、地面に蒼く輝く魔法陣が現れオレとフィアーナはその光に包まれる。
「うおっっ!?」
「うひゃああっ!?」
そして幾ばくかの落下感の後に光が収まると、そこはオレ達がこの前来た大罪都市が目の前に広がっていた。
「はあぁああああっっ!?」
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